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男飯食堂、神代亭へようこそ!  作者: 一之瀬 葵翔
第二章:おっさんと異世界

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39/40

ももかちゃんぱわーあっぷ!なのです!(前編)

長くなりそうなので瑠実ぶりのがっつりシリアス前後編編成。

どうしても書かないといけない理由ができたのでね。

「……おいしくない」


 静かな部屋に桃叶の呟きが響く。

 神代家にやってきてから、一年と少し。

 慣れていたはずの一人での食事がこんなに味気ないものだとは思わなかった。

 少しの間の山籠もり。

 桃叶の家、雪村家は神主や巫女、いわゆる神道の家系と陰陽師、陰陽道の家系が合わさった非常に珍しい家系である。神道と陰陽道を掛け合わせた祓いの力は、日ノ元で妖祓いを生業とする人間の中でも一目置かれていた。

 悟志には私ガチの巫女さんなんですよ~、としか言っていないが。

 そんな家に生まれ、悟志を守る役目を与えられた桃叶も、山籠もりは欠かせない。

 散々ごねた。駄々をこねた。それはもう幼稚園児かと言わんばかりに。

 五日も家を離れるなんてと。

 しかし、桃叶の未来のためにも大事なことだと頭では理解している。

 悩みに悩んだ末、桃叶は一度神代家を出て、山籠もり修行に向かうことした。

 そうして初日、修業の場で食事を摂っていたわけだが。

 寂しさが勝った。そして、美味しいは美味しいのだがどこか物足りない味と量。

 悟志の料理は男飯、ガツンとくる濃い目の味とドカッと腹に溜まる量だった。

 もう帰りたい。すぐにべそかいて神代家の玄関に立ってただいまって言いたい。

 きっと笑いながら迎えて、あったかいごはんを作ってくれるから。

 思えば神代家に来てすぐは、なんであんなことをしていたのかというほどクソガキムーブだった。

 どこか冷めていた、大人びたような自分と。みんなでいることが楽しくって、子供に戻った自分と。

 そんな自分が混ざって、結果生まれたクソガキムーブ。


「そだちざかりだからえいよーがいるのです!」


 キャラ付けのつもりで言った言葉が、自分の代名詞のようなセリフになるとは。

 そんなこと言わなくても悟志や瑠実は自分を見て、気にかけてくれたから。

 えいよー、で満たしてくれたから。

 そのあとすぐにやってきた乃亜も、いつの間にか打ち解けて「もものおねえちゃん」になっていた。

 だから、言わなくなっていた。

 こんなに満たされてるのにわがまま言ってもいいのかな?

 なんて迷いもあった。

 でも悟志はいいんだよって言ってくれた。

 それがすごく嬉しかった。もっと甘えなさいって言ってくれて。


「それでもお腹は減るもんですからねぇ」


 神代家に想いを馳せながら食事を腹に入れると、ふすまを開けて膳を玄関に置く。

 今回の修業は人と関わらない、離れに一人で籠って力を借りる神を見つけることだった。

 オオガミの力は強すぎる。オオガミは桃叶が望めば十分以上に力を貸してくれる。

 しかし、それは桃叶を日ノ元の妖祓いを導く存在にしてしまう。

 桃叶の幸せを願うオオガミは、普段はメインの神がいて、その神が力を貸す。

 それでもダメなら私が行くというスタンスで行くことにした。

 同様に神代亭に出入りする神も基本は日ノ元の神の中でも上位存在。

 可愛い桃叶の手助けはするが、メインの神にはならないと決めている。

 神と話し、力を借りることができれば離れを出て、神と共に本殿に向かい誓いの儀式を行う。

 時間は問わない。この五日間は高位の神主などが儀式のために絶えず本殿に詰めていた。


「神様~、神様~。もものところに早くいらしてくださいね」


 離れにあるのは神様と対峙する部屋と、エアコンがついた居室と風呂とトイレ。

 洗面台も兼ねた簡素なシンクに、電気ケトル。あとは棚に調味料、茶葉。

 そして冷蔵庫。

 居室にはテレビとラジオ。スマホも持ち込んでいいが、外部と連絡を取ることは緊急時を除いて禁止。

 どう過ごしてもいいが、神様に見られていると思いなさい。

 この離れに入る際に説明されたこと。

 

 なにいっとんねん、わしかみさまとしょっちゅうめしくってんねんぞ!

 かみさまにめっちゃみられとるわい!


 そう言いたかったが、神妙に頷いておいた。


「……勉強しよ」


 何か考え始めると寂しさがにじむ。

 桃叶は授業に遅れないように勉強をすることにした。

 そして、その様子を覗いていたモノがいたことを桃叶は気付けなかった。





 見つけた! 見つけた見つけた! あの子だ!!

 少し昔、一緒に遊んだあの子!

 大きくなったらまた会おうね、って約束した子!

 嬉しいな、嬉しいな! ずっと待ってた!!

 他の神様はどうやらまだ来てないみたい。

 だったらいいよね、うん!


 深夜、桃叶が眠る部屋の横、神が御座す場所に降り立つは白き狐。

 その毛色は雪のように美しく、足音もまた雪のよう。

 くわ~とあくびを一つたてると、口の中の桃色の舌がはっきり見える。

 桃叶を迎えるべく、部屋の真ん中に置かれた座布団に座るとそのまま丸くなって眠りにつく。

 すぅすぅと静かな寝息が二つ、離れに響いていた。





「おはようございます、朝食をお持ちしました」


 翌朝、桃叶が目を覚ましてシャワーを浴びたら食事が届いた。

 この声掛けも部屋から出て鉢合わせないためのもので、返事もしてはならないし、離れの玄関の戸が閉まるまでは動いてはいけない。

 少し待つとガラガラガチャンと戸が閉まる音が聞こえる。


「ごはん~、ごはん~」


 玄関に向かうと膳が置かれている。

 朝食のメニューはなんと洋食。

 ハムエッグにトースト、それにコーンスープとサラダ。

 居室に運ぶと、棚と冷蔵庫から調味料を持ち出す。

 トーストにバターを塗り。そう、マーガリンではなくバター。

 ハムエッグには、塩コショウと醤油をちょろり。

 悟志の真似をしていただけだったのに、いつの間にか自分もこれがしっくりくるようになった味付け。

 昔はケチャップにマヨネーズだった。


「いただきます」


 手を合わせて食前の挨拶。

 神代家に来てからしっかり習慣付いたそれ。

 一人の食事ではやったりやらなかったり。

 神代家では毎日みんなと一緒か、誰かと一緒。

 だから忘れようったって忘れられない。

 テレビをつけると朝のニュースが。

 今頃悟志も朝食なのだろうか。今日のメニューはなんなんだろう。

 朝からたっけぇ肉で肉吸い作って、たまごかけごはんと一緒にいただいてたら……。

 それは激おこ案件。そんなことはないのに、ずるいずるいと抗議する自分に平謝りの悟志。

 呆れたようにそれを見ている瑠実と乃亜、なだめようとするゴン太。

 そんな想像が浮かんで、あっという間に朝食を終えてしまった。





「雪村の娘……、お前に怨みはないが我が宿願のための犠牲となれ」


 桃叶が朝食を摂っているころ、遠くから離れを見つめるスーツ姿の男が一人。

 その男は雪村家を怨んでいた。

 ほんの些細なことを大きくし、自分の家を取り潰した家。

 誰かが離れを使うたび、術を使って雪村のものか式神を使って覗き、復讐の機会を待っていた。

 九字を切ると、結界が桃叶のいる離れを囲む。


「忌み場封じの結界。穢れがあると知らしめるもの。これで神々はここに近寄らない。雪村の家に神がつかぬものがいればそれは大きな失点。取り潰しとはいかぬまでもせめて……。もし、何か付きそうならばその時は……呼び出すしかないか邪なる神を」


 そう言って男は立ち去る。

 それを見ていたのは一匹の犬だけだった。





「さて、じゃあ朝のお祈りをしますかね」


 食後、少しの休憩を終えると桃叶は、神様を呼ぶための祈りを捧げようと隣の部屋に入る。

 すると、目の前にいたのは白い狐。

 目を閉じて穏やかな寝息を立てていた。

 間違いない、神だ。

 どうしたもんかと、考えていると狐の目がぱちりと開く。

 そして、勢いよく桃叶に向かって駆け出し、飛びついた。


『ももか! ひさしぶり! あたしもね、修業頑張ったんだよ!』


「えっ? えっ?」


『覚えてないの? 昔お山の広場で一緒に遊んだ、コンだよ!』


 そう言われて思い出したのは、幼いころに親に連れられてやってきた小さな山。

 狐霊(これい)信仰がされている集落の社で狐と人との話し合いが行われていた。

 もちろん子供の桃叶は話に入れず、すぐ終わるから外で待ってなさいと言われ待っていた時。

 やってきた小さな狐。追いかけっこをしたり、抱き着いたり一緒に遊んだ思い出がよみがえる。

 そうだ、その時にその狐を確かにコンと呼んだ。


「コン?! コンちゃんは茶色い毛でしたよ?」


『修業したら毛が白くなってね、尻尾も八本に増えたんだ! ほら!』


 自らをコンと名乗った狐は、一度桃叶から離れるとくるりと一回転。

 すると白いふかふかの尻尾が八本に増えた。


「わー! すごいです! コンちゃん頑張ったんですね!」


『そうだよ~! だからね、またももかに会えるようにって。今度はずっと一緒にいられますようにって近くで待ってたの! ここで待ってたら桃叶がきっとやってくるからってアマツキオオカミ様が言ってたから!』


「じゃあ、コンちゃん! 私と誓いの儀式をしてくれますか?」


『うん!』


「じゃあ、お外に行きましょう!」


 やった、やった! これでうまいこといったら明日には帰れるぞ!

 そう思って、コンと一緒に玄関を出た瞬間。

 悪しきものの気配がする。おかしい、護られた領域のはずなのに。

 周りを見渡すと、スーツ姿の怪しい男が向かってくるのが見えた。


「そう簡単に見つけられちゃあ困るんだよ……。そこの神格狐霊には悪いが消えてもらうよ」


 男が懐から札を取り出すと、桃叶たちに投げつける。

 その札に書かれた文字が変化すると、黒い炎のような蛇になって桃叶たちを襲う。


「コンちゃん!」


『うん!』


 桃叶も札を取り出し、力を籠めると、水色の盾が生まれ、蛇の攻撃を防ぐ。

 コンは尻尾を振るとお返しと言わんばかりに火の玉を男に向かって放つ。

 それを軽々と弾く男。おかしい、これだけ派手に術を使っても本殿は何も騒がない。


「おかしい、と思ったかね? 忌み地封じの結界と、認識疎外の結界を張らせてもらった。私が結界を解くまで、神も本殿の連中も何が起こっているか気付きやしない! さあ、復讐のための犠牲となれ雪村の娘!」

このあとすぐに後編も書き上げて、投稿します。

そこの前書きなり、後書きで理由はお話ししますね。

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