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男飯食堂、神代亭へようこそ!  作者: 一之瀬 葵翔
第二章:おっさんと異世界

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闇。病み→Yummy!

ギリギリ月1更新は達成できたぜ……

病みからちょっと抜け出せてきたので一気に書き上げ。

「キミと創るミライ~♪」


 神代亭営業後、最後の客が使った皿を洗うのは乃亜。

 鼻歌交じりに数枚の皿や茶碗、コップを洗う横で悟志はペットボトルと計量カップを手になにやら作業中。

 瑠実はゴン太と散歩に向かい、桃叶は朝から大学へ。


「悟志さん終わりました~」


「ありがと~。じゃ、家の方の冷蔵庫にごはん置いてあるから食べてね~」


「はーい!」


 サンダルを脱いで、座敷に上がって神代家に。

 いそいそと冷蔵庫の扉を開けるとそこにはバゲットサンドが。

 二枚ある皿のうち、手書きで「のあ」と書かれた紙が乗っている方を手に取ると座敷へ戻る。

 

「いただきます」


 桃叶が高校を卒業して、大学に通うようになってから、少し変わったこと。

 それは営業後にごはんが出るようになったこと。

 日によって変わるが、十八時ごろに最後の授業か、少し本格的になった巫女の修業を終えて、帰宅すると家に着くのがだいたい十九時。

 そこから風呂に入っている間に悟志が夕食の準備をして、二十時ごろに夕食となる。

 夜営業の時は二十一時には客を追い出して、夕食を摂る。

 そんな生活になったため、遅い昼食でもよくなったのだ。


「切れ目の入ったロールパンに、マヨネーズであえた玉ねぎとハム挟んだやつも簡単なのに美味しかったからなぁ。またお弁当に作ってくれないかなぁ。あ、作ってみるのもいいかも?」


 もぐもぐ食べながらそう独り言つ乃亜。

 思い出したのは、プラム様の呼び出しに応えて居城へ向かう時に悟志が持たせてくれたお弁当。

 プラム様含めて何人かで食べれるように、と多めに作って持たせてくれたロールサンド。

 悟志が過去に資格取得のために通っていた施設の近くにあったスーパー。

 そこで売っていたパンを真似て作ってみたもの。

 三人娘も食べやすさを気に入った、月一で誰かしらが食べたがる一品。

 プラム様と、傍付きの特級神。みんなでうまいうまいと笑顔で食べたそれ。

 またねだってみようか? なんて想いを馳せていると裏口の方から声が聞こえた。


「ただいま~。悟志くん、今日のお昼はな~に?」


『悟志~、もうちょっとしたら雨が降るぞ! 買い物行くなら早めにな!』


「ああ、おかえり瑠実ちゃん。今日はバゲットサンド。そんで、ゴン太もおかえり。ありがとな、でも買い物は朝終わらせたから大丈夫だぞ。喉乾いたろ、水飲みな」


 帰ってきた瑠実とゴン太にそれぞれ声をかけると、お椀を出して、中に水を注ぐ悟志。

 ゴン太の目の前に置くと勢いよくがふがふ飲み始めた。

 いつもの昼下がり。悟志たちが穏やかに過ごしているころ、桃叶はというと……。


「……なんで、私がここに呼ばれてるんですか~!」


「今日はアマツキオオカミ様がいらっしゃる。その時に君がいるかいないかでかなり機嫌が変わるからね。少し気分を害されるだけで我々には厳しい圧がかかってしまう。君がいればそんなこともないから。人助けだと思って、この通りだ!」

 

 たまに呼ばれる集まりで、上座にいるちゃんと話したこともない偉い人。

 そんな人に頭を下げられていた。

 授業終わり。いつもの修業場へ向かい、今日は瞑想をしてから力の練り上げの訓練かぁ。

 とこの後の予定を確認しながら校門を出ると、目の前には高級車。

 運転手らしき人物が後部座席の前に立っているのを見て、誰かのお迎えかな?

 とちらり視線をやってバス停へ向かおうとすると


「雪村桃叶様、お迎えに上がりました。予定が変わりまして、本日は本山へお越しください」


 そう声を掛けられる。

 何事?! 誘拐?! 警邏官を呼ぼうとスマホを手にすると通知に浮かんだ母からのメッセージ。


『大学終わった? 桃叶が本山に呼ばれたから今日の修業はなしだって。大学の校門前に停まってる、迎えの車に乗って行ってきて。車のナンバーはXO-XX』


 恐る恐る車のナンバーを見ると、メッセージと同じ番号。

 自分の身に危険が迫ったらこの札に力を籠めるんだ。

 すぐに私が飛んでいくからね、とオオガミ様から頂戴した護身札もあるし。

 そう思って促されるまま、車に乗り込んだ桃叶は本山へ。

 本山といっても、いわゆる神社みたいな建物ではなく十階建てのビル。

 子供のころ、季節のイベントで親に連れられて一回来たことがあるなぁ。

 今もだけど、あの頃もなかなか人に話しかけられなくて、世話役のお姉さんに引っ付いてたっけ。

 なんて思いながら自動ドアをくぐると、受付横に書いてあった本日の予定に驚く。


『全国総合戦略会議』


 年に一度行われるとされる、その日上層部以外は会議が行われる最上階に入ることすら許されない重要な会議。

 他の予定は一切入らない、この会議のためだけにある一日。

 先日成人を迎えた、祓いの一族の者への祝いの席の前。朝から行われた研修で説明を受けた会議の名前だった。

 いや、きっと何かの間違いだよね?


「雪村様、これより最上階へお向かいください。エレベーターを出たら本部長と一緒に会議室へお願いします」


 あっ、これマジなやつだ。

 恐る恐るエレベーターに乗り込み、最上階へ向かうと目の前にはおっさん。

 その後ろには『全国総合戦略会議は第一大会議室です』の立て札。

 思わず桃叶は叫んでしまったし、本部長も頭を下げた。

 




「まったくも~! ほんと大人ってば!」


 会議自体の内容は今の桃叶にはどうすることもできないことばかり。

 説明される言葉もちんぷんかんぷん。のはずだった。

 しかし、桃叶の隣に座ったオオガミが何言ってるかわからない、といった表情を浮かべる桃叶に説明をしてくれた。

 自分が目をかけている娘の世話を焼いている事実、それがオオガミの機嫌を良くしたようで。

 普段「引き続き励め」としか言わないのに「いつもご苦労、無辜の民を守るためにこれからも頼む」との言葉。

 それに感極まる大人たち。

 会議が終わって、涙目になりながら桃叶にそれぞれが「ありがとう……ありがとう……」と声をかけに来た。

 のにも関わらずだ。


「飲みに行こう! ってみんなでどっか行っちゃって! ももここからどう帰ればいいの!!」


 ビルから出た桃叶が足踏みをして、憤懣やるかたない気持ちを吐き出す。

 そう、過去も今も誰かに連れられて、やってきた桃叶。

 交通手段になにがあるかわからない。

 スマホは圏外、タクシーアプリも使えない。

 検索エンジンも使えない、ほとほと困り果てたその時だった。


「どうかしたの?」


 若い女性の声。振り向くとそこには女性二人。


「実は……」


 藁にもすがる思いで事情を話すと、声をかけてきた方の女性が笑ってこう言った。


「桃叶ちゃんのおうち、たぶん通り道。私、車で来てるから送ってあげるよ!」


「ありがとうございます~!!」


 こうしてなんとか本山を脱出することに成功した桃叶だった。


「それにしても大変だったね~、桃叶ちゃん。アマツキオオカミ様の接待役なんて」


 車の後部座席に座る桃叶へと声をかけながら車を走らせる女性。

 名前を日葵蒼(ひまりあお)という。


「私にやれって言っても無理かな、絶対」


 助手席に座るのは蒼の妹の萌笑(もえ)

 二人がなぜ本山にいたのか。

 それは萌笑の治療のためだった。

 祓いの仕事を始めてから十ヶ月。急に現れた自分よりも格上の相手。

 なんとか祓ったのはいいが、その代償として萌笑の世界は闇に閉ざされた。

 相手の思念が萌笑の瞳にこびりつき、身体を蝕む。

 見た目通り華奢で、儚げな萌笑。

 霊水で濡らしたタオルで瞼を拭くとしばらくは楽になるため、その霊水を取りに本山に来ていたというわけだ。

 その話を聞いた桃叶はなんとかしてあげたいとスマホを取り出し、悟志に連絡する。


 さとしさん

 おみずわけてください


 すぐに既読がつくと悟志からの返信。


 何リットル?

 沸かしたやつなら好きなだけ持ってっていいけど

 それより今どこ?

 そろそろ晩ごはんの時間だけど


 少し不安だった桃叶の顔がぱっと明るくなる。

 すぐに返信すると、運転席の蒼に声をかけた。


「蒼さん! お礼にご飯食べてってください!」





「……ここってもしかして」


「お姉ちゃん、知ってるの?」


「あの神代亭だよ、ここ。すごい安いのに量が多いって噂の」


 車を走らせること一時間。

 今の桃叶の家である神代家に到着した三人。

 のれんも看板もないが、店の明かりはついていた。

 桃叶がお願いをし、特別に神代亭を開けてもらっていたのだ。

 桃叶ちゃんを送ってくれたお礼だからなぁ、と悟志も快く受け付けてくれた。


「ここがもものおうちなのです! さあ、どうぞ!」


 店の扉を開けると、二人を中に入るように促す桃叶。

 すると瑠実の慌てた声が聞こえる。


「ちょっと~、あんたそれここに入れたらやばいやつじゃん!」


 慌てて萌笑に駆け寄る瑠実が、萌笑の瞼に指で触れると拭うように横に動かす。

 すると、萌笑の瞳にこびりついた闇が祓われる。

 その闇が最後の力を振り絞って瑠実に襲い掛かるも、それを防いだのは乃亜の白線。


「ねーえー! ここごはん屋さんなんだからこういうのダメなんだよ? わかってるの、もも!」


「わーん、ごめんなさいー」


『こいつ悪いやつだ! 俺が噛みついてやる!』


 奥からわんわん吠えるゴン太もやってくると


「ゴン太ちゃんありがとね~。で~も、私はじーにあすなのでね~。これくらい余裕なんですよっ」


 と瑠実がとどめを刺す。

 蒼たちは何が何だかわかっていなかった。

 しかし、助けてくれた。それだけはわかった。


「……お姉ちゃん、見える。見えるよ! お姉ちゃんが!」


「……嘘、ホントに!?」


「うん! ここ、ごはん屋さんだよね。桃叶ちゃんと女の人とおじさんと……わんちゃんもいる!」


 茫然としていると萌笑が涙を浮かべながら笑っている。

 蒼も涙をこらえることができなかった。

 そんな感動的な雰囲気をぶっ壊すのが我らのおっさん。


「ああ、お姉さん? うちの桃叶ちゃんを送ってくれてどうもありがとう。お礼にご飯食べてってよ。今日のお代は無料だから」


「わっ! ばんごはんだー!」


「早く食べよ! ほら、もも! お客さんにお箸もってって!」


「はーい! あ、蒼さんたちお座敷にどうぞ」


 まるでなんでもないようにあっさりと話しかけられて、戸惑いを隠せない蒼たちだったが、桃叶以外の女の子から出ているオーラを、犬から出ているオーラを感じると納得する。

 命からがら倒したあいつなんて目じゃないほどの強さ。

 気を抜いたらやられてしまいそうなほどのそれ。でも、嫌じゃない。

 暖かいオーラだった。ふっと笑って、案内された座敷に座るとすぐに出てきたのは


「お待たせ、豆乳担々麺です。辛いの大丈夫かわからなかったんで、ラー油を少しだけにしておきました」


 悟志が手ずから運んだそれは、最近ハマった料理。

 鶏がらスープに少しの醤油と酒を混ぜて沸かしたあとに豆乳を入れる。

 弱火でゆっくり温め直したら、少しぷくぷく言い出したタイミングでニラを。

 麺を茹でて器に盛りつけたら、そこに豆乳スープ。

 肉味噌と、味玉を乗せたら完成だ。


「「いただきます!」」


 久しぶりに箸を持つ萌笑。

 心なしか震える手。少し緊張しながら一口。


「……あつっ! でも、おいしい! お姉ちゃんも食べてみて」


 申し訳なさそうではない、心からの笑顔で言ったおいしい。

 その言葉に再び涙が溢れそうになる蒼。

 ぐっとこらえて麺をすする。

 身体に染みる温かさ、ラー油のピリッとした辛さがちょうどよく。

 笑みが浮かぶ。


「ほんと、おいしい」


「あ、おみずどーぞ。すっごくおいしいおみずなんですよ」


 身体が温まり、ほてってくると桃叶が水を差し出す。

 受け取って一口。身体中に染み渡って、何もかもが癒されていく感覚。

 ちらりとテーブル席に座る桃叶を見ると、お姉さんらしき二人と笑いながら同じ食事。

 おっさんは犬にエサをやり、夢中で食べてる犬の頭を優しく撫でている。

 姉妹は顔を見合わせると笑って、食事に戻る。

 久しぶりに「あったかい」食事を摂った気がした。

来月は三連休に更新したい願望はあるんです……。

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