出張神代亭! お代は無料!
月初に更新して月末に更新。
本当に申し訳ない……。
マジでバタバタ、メンタルゴリ削りの状況で執筆まで手が回らず……。
「ふぅ、ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした!」
ブリトーを食べ終わったシェラタンたちは、乃亜に念押しされたとおりに手を合わせて感謝を述べる。
「いい? 食べる前には手を合わせていただきます。食べ終わったら手を合わせてごちそうさまって言うんだよ?」
普段笑顔の乃亜が滅多に見せない真顔。
否応なしに絶対に大事なことだと理解したアリーリャとシェラタンは大人しく従ったのだ。
その様子を見た悟志はとても穏やかな気持ちで食後のデザートをふるまう。
「ちゃんとごちそうさまが言えてえらい! これ、デザートね」
悟志がリアカーのクーラーボックスから取り出したのはスーパーで買ったロールケーキ。
あらかじめ五切れに切られたそれをアリーリャ、シェラタン、三人娘に渡すと自分はコーヒーで一服。
「あら? 悟志さまの分はございませんの?」
「ああ、俺は生クリーム好きなんだけど、食べるとちょっと体調悪くなるからさ。外ではあまり食べないようにしてるんだ」
そう、乳製品を摂ると体調を崩す悟志。
なのに製菓をこなしたり、乳製品を材料に取り入れるのは三人娘への愛なのか、料理人としての意地なのか。
「そうなんですのね。それにしても悟志さまの作ったごはんは本当に美味しいですわね。胡椒やソースをふんだんに使われて私驚きましたわ」
自分たちのせいで悟志が食べられなかったわけではないと安心したアリーリャは、悟志の料理について感想を述べる。すると乃亜が得意げに話に入る。
「悟志さんはね、すごいんだよ! 私たちにね、色んなごはんを毎日お腹いっぱい食べさせてくれるの!」
「悟志くんのね、うどんはすっごくあったかいんだよ! 私悟志くんのうどんだーいすき!」
「私はですね~、昔お夜食に作ってくれた煮込みラーメンが好きですね~」
瑠実や桃叶も思い入れのある料理をアリーリャに話すと心底うらやましそうな様子。
「以前ウナベエさんにいただいたウナジューもですけど、異世界のごはんってこちらの食事とはかなり違いますのよね。こちらであの量の香辛料やらソースを使った料理となると王家の晩餐会でもできるかどうか……」
いかんともしがたい食糧事情。
しょぼんとするアリーリャに三人娘は顔を見合わせる。
そして、アリーリャに背を向けてひそひそ話。
「ねぇ、悟志さんに頼んで調味料一式置いてく?」
乃亜がそういうと意外に否定的なのが桃叶。
「でも、なくなったら元の生活に逆戻りですよ? なくなる度に追加ですぐ持っていけるとも限りませんし」
「あとさ、作れそうなものはレシピ渡してあげた方がいいんじゃない?」
あーでもないこーでもないとひそひそ話をしている三人娘をよそに、アリーリャはいつの間にかレジャーシートへ戻り、ゴン太にもたれかかった悟志の元へと向かう。
「あの……悟志さま。お願いがあるんですの」
「ん? どうしたアリーリャさん」
身体を起こした悟志に、アリーリャが告げたお願い。
それはアリーリャらしいものだった。
『ここが、アリーリャ殿の家だぞ!』
「へぇ~……、これが貴族のお屋敷かぁ」
「なんかアニメとかに出てきそうだね。君が! 謝るまで! このパンチを止めない!」
「ちょっと、るーみん。それなんかちょっと違くない?」
「でも、ギリギリその年代にもありそうなお屋敷ですよ?」
神代家の面々はアリーリャの屋敷の玄関前にいた。
アリーリャのお願い、それは家にいる家族や使用人にも悟志の料理を食べさせたいとのこと。
クーラーボックスにはまだ食材が残ってる。
なぜなら山の天気は変わりやすい。
最悪、安全なところで一泊しなければならないことも考えて持ってきたからだ。
夜遅くなったら屋敷に泊まればいい、とのことで神代亭の遠征だなぁと悟志はその願いを叶えることに。
テントを畳み、テーブルなども片付けてリアカーに積み直すと早速アリーリャの家へと戻るのだった。
『乃亜殿、こいつをソンがフレースの背中に乗せるから白線でくっつけてほしいんだ』
でっかくなったゴン太が悟志を乗せ、三人娘はアリーリャやソンと一緒にゴルに乗る。
最後にルプスがシェラタンを乗せて、一同は山を後にした。
「ちょっ、ちょっと! ゴン太! はええ!」
ご機嫌で駆けるゴン太の速さに身体がついていかない悟志。
今のゴン太は推定時速百二十キロ。バイクのような風防もなく、風を叩き付けられるのはかなり厳しい。
『あ、悪い!』
それに気付いたゴン太がわんと鳴くと悟志の身体が光る。
同時に悟志の身体に叩き付けられていた風が和らぐ。
「ねぇ、お客さん来るよ~って言わなくていいの?」
シェラタンの一言にアリーリャが
「あっ、先触れをしておく必要がありましたわ! やっちまいましたの!」
と慌てるとゴルの背に立ち上がり、高く跳ぶ。
それを読んでいたフレースがアリーリャを拾うとスピードを上げて飛んでいく。
「私が先に戻って支度をしておきますわ~」
そう言い残して。
そんなちょっとしたハプニングがありつつも、割とすぐにアリーリャの家、ベラヤリーニヤ領主邸へと到着した。
シェラタンは別のところに家があるらしく、乃亜たちを降ろすとまたねー!と手を振り去っていった。
「皆様、よくおいでくださいました。私が厨房へとご案内いたします。荷車はすでに厨房裏に運んでありますわ」
先ほどまでのズボン姿から打って変わってドレス姿のアリーリャが出迎えると、そのまま厨房へ向かう廊下を歩き始める。さすがご令嬢、といった気品あふれる姿に悟志は少し見惚れてしまう。
それが面白くないのが瑠実だった。
「ちょっと~、悟志くん?」
そう言って悟志の肩をぱちんと叩く。
その衝撃で我に返った悟志は慌ててアリーリャの後を追う。
ふん、と鼻を鳴らすと瑠実はその後ろを、乃亜と桃叶もそれに続いて厨房へと歩いて行った。
「さてさて、ほんじゃ何作りますかね?」
厨房に着くと、裏口から早速持ち込んだクーラーボックスをしゃがみこんでごそごそ漁る悟志。
尻尾を振って一緒に中を覗き込むゴン太がクーラーボックス内の変化に気付く。。
『あ、上のほれーざいがやらかくなってるから凍らせとくな』
ゴン太がわんと軽く鳴く。するとすぐにクーラーボックスその底に敷かれていた板型の保冷剤、食材の上に置かれていた袋タイプの保冷剤が再び固さを取り戻す。
「うおー! マジで凍ってんじゃん! ゴン太はこんな魔法も使えるんだな、すごいな~」
『俺たちの世界だとれーぞ―ことかあるからやらないし、あんまり力使っても変だからな。火も雷も出せるし、土もちょっとならいじれるぞ』
「俺、なんかゴン太の魔法で初めて異世界に来たって気がしたわ」
わしわしとゴン太の頭を撫でる悟志。
それを気持ちよさそうに受け入れるゴン太。
ひとしきり撫でると、手を床に向ける。
それで全て察したゴン太は、再びわんと鳴いて、悟志の手の前に今度は水の球を作った。
慣れた様子でその球に手を突っ込むとじゃぶじゃぶと洗う。
球から手を抜けば、ぱっと水球が消え、濡れた手も何もしてないかのように乾いていた。
「ほんとゴン太ちゃんはえらい子だね~」
感心したように瑠実がつぶやくと、それが聞こえたのか悟志は瑠実の方をむいてこう言った。
「すごいだろ~。ゴン太はホントにえらいんだぞ。俺がちっちゃかった頃から」
『悟志はな~、昔は朝起きれなくてな~。ごはんの前に俺がいっつも起こしてたんだ』
「へぇ~、今はとっても早起きなのにね」
「ま、その話はまたいつかするとして。メニューも決まったし、作っていこうか」
クーラーボックスから材料を取り出した悟志が作業台に向かうと、三人娘の空気も変わる。
さあ、仕事の時間だ。
「お待たせしました、こちら本日の夕飯になります」
食堂に集まった子爵家一同の元へ料理を運んだのは、アリーリャと三人娘。
使用人たちが恐縮しきった様子でそれを見ているが、アリーリャの父で主たる子爵、フィリコ・ベラヤリーニヤ本人は何も言わない。
むしろ笑顔でアリーリャが給仕をする様子を見守っていた。
きっとシェラタンにもこのように仕えているのであろうと想像して。
「さ、みなさん。召し上がってくださいませ。本日は特別に異界の神の愛し子様が作ってくださいましたのよ。みなさんに異世界の料理を食べてほしくって、私お願いしましたの」
「リーリャがこう言ってるんだ、ありがたくいただこう」
アリーリャが笑顔でそういうと、フィリコがカトラリーを手に取って食べるように促す。
それに従って、使用人たちも食事に手を付けようとした瞬間だった。
「あっ、みなさん。食べる前にはいただきます、食べた後にはごちそうさま、とおっしゃってくださいね。異世界のお食事の作法ですの」
乃亜に言われていたことを思い出したアリーリャは、全員に声をかけると自らも席について手を合わせた。
「いただきます」
その様子を見たフィリコたちも手を合わせて口々に言うと食事を始めていく。
「こ、これは……」
「お父様、すごいでしょう? これが異世界の料理なんですの」
悟志が作ったのはパスタとスープ。
トマトジュースと生クリームを使ったパスタと、いつものコンソメスープだった。
それでも普段アリーリャたちが食べているものとは違う特別な味になっていた。
アリーリャたちの住む世界は例えるなら中世の外国。
塩以外の調味料があまりない中、悟志がいつも通り作った料理は現代日ノ元の調味料の豊富さで、味に広がりが起きている。
おいしい、おいしい、と料理をたたえる言葉で神代亭の遠征は無事終えることができた。
お代は……、と心配そうに尋ねてきたアリーリャに今日は無料でいいよ、と返すとほっとするアリーリャと乃亜。
やっぱりな~って顔をする瑠実と桃叶。
片付けを済ませ、アリーリャに見送られながら家に帰る。
もう安心だ、ふっと気を抜いて庭にある裏口から家に入ると少し暑い。
最近はもう夏に近付いてきているせいか、日中も窓を開けるだけでは過ごしにくい。
エアコンのスイッチを入れて、室内を冷やす。
そして使わなかった食材を厨房の冷蔵庫に。
それが終われば風呂を沸かす。
その間に三人娘はゴン太と一緒にアウトドアテーブルや椅子を片付ける。
そろそろ戻ってくるだろうから、冷たい麦茶でも。
なんて思った時だった。ドン、と店の出入り口から聞こえてくる音。
その音にゴン太が駆け寄ってくる。
『どうした!』
「いや、入口の方から物音がしたんだ。……人が座り込んでる?」
恐る恐るゴン太と出入り口へ向かい、鍵を開けて確認するとそこには久しぶりの顔があった。
「……どうしたの、観月さん」
悟志が声をかけると、ゆっくりと顔を上げて悟志を見つめる観月。
口を開くと、そこから出てきた言葉は
「お腹がすいて力が出ないんですぅ~……」
という何とも気の抜けるものだった。
「今日は休みだからもう適当に作るね」
「すいません……」
観月を店の座敷に座らせて、悟志はサクッとごはんの準備。
鍋でお湯を沸かして、玉ねぎを刻んで入れる。
顆粒だしとわかめを適当にぶち込んで、味噌を溶かせば味噌汁が。
朝の残りのごはんに削り節と醤油を混ぜて、梅干を入れた梅おかかおにぎり。
最後はちょっといい肉を炒めて、嫌がらせのにんにく醤油。
「ほら、できたよ!」
「ごはん~……」
今にも泣きそうな観月の声に思わず笑ってしまう悟志だった。
公募に出してる状況で更新頻度が落ちるのは避けたかったけど、体調やメンタル大事なんでしゃーないね。
って気持ちでゆるっと更新していきます。
書籍化うまいこといかないかぁ。
たぶん9月いっぱいまでペースが怪しいので、ご容赦ください……。




