悟志、異世界に立つ!
お久しぶりになってしまった……。
めっちゃ本業副業でてんやわんやしてます。
9月まで更新ペースが乱れるかもです。
すいません。
『やった! やったぞ! さーとしー!!』
朝もはよからワンワンキャンキャン。
ゴン太が庭をぐるぐる駆け回る。
朝食を摂っていたところに聞こえたゴン太の声に驚き、どうしたどうしたとゴン太の元に集まる悟志、瑠実、桃叶。
「ゴン太、どうした」
「ゴン太ちゃん、なにかいいことあった?」
「ものすごくはしゃいでますね」
ひとしきり駆け回ると悟志の下に走り、頭を悟志の脚にこすりつけるゴン太。
そこに遅れてやってきたのは乃亜だった。
「ゴン太さま、おめでとうございます! これでやっと行けますね!」
『おう、やっとだな!』
「ん? 乃亜ちゃんどういうこと?」
乃亜はどうやら事情を知っているみたい。
乃亜に説明を求めると、ゴン太の位階が上がったらしい。
これまで、基本的に自身より弱い人間しか連れていけなかった異世界に、悟志を連れていくことができるようになったという。
乃亜は自分の神力を対価に、ゴン太の作った道を通っているだけだから強さは関係ないとのこと。
神であるゴン太よりも強かったのか、と驚いたが、悟志が強いわけではなく。
悟志にかけられたプラム様の加護がゴン太よりも少し強く、この状態で異世界に行くには不都合が起きかねないということみたいだ。
『でもな、俺が強くなったからもう大丈夫だ! 座敷の紙、べりってしてから一回も行ってないから行けるぞ!』
「おおー、そうかそうか。ゴン太はすごいな~」
『な、これから行こう!』
わしゃわしゃとゴン太の身体を撫でまわしながら褒める悟志。
座敷の紙、というのはカレンダーのこと。
そういえばいつもは月が替わってすぐくらいに乃亜を連れて行ったり、一匹だけで行ったりしていた気がする。
その際には必ず、これでもかというくらいに身体を悟志にこすりつけてから行くため、悟志も覚えている。
今月はもう終わり掛けなのにその記憶がない。
異世界かぁ~。ちょっと怖いなぁ。
ゴン太の誘いに少し気が引けていた悟志だったが、ゴン太の次の言葉に迷いが消える。
『悟志の好きなタケノコとわらび、いっぱい生えてるぞ!』
「はい、全員準備! 今から山菜取りに行くよ!」
こうして、悟志の初めての異世界行きが決まったのであった。
一方その頃、プラム様はその様子をしっかりと居城の水鏡から見守っていた。
「悟志がどうしておるか覗いてみたら、ゴン太が最後の修業に行った世界へ行くのか。わっちの加護を越える力を得たことは喜ばしいがの。ちぃと悟志の身体に負担がかかる。どれ、自分に魔法を使われた時の負担を逃がすように加護を少し変えてやろう。ほんの少し加護は強まるが、今のゴン太なら大丈夫じゃろ」
人差し指を水鏡に映る悟志に向けると、ぴかっと一瞬光る。
これでよし、と言わんばかりに頷くと、プラム様は水鏡から離れてどこかへと去っていった。
『ついたぞ! ここが俺が修業してた世界だ!』
「私のお友達もいるんですよ!」
ゴン太と乃亜がはしゃぎながら悟志に声をかけた。
ゴン太が庭先に開いた穴をくぐるとそこには山が。
すぐ近くに川があるのか、水が流れる音が聞こえる。
深呼吸すると、清浄な空気が肺を満たす。
「異世界って聞いたから、身構えてたけど。こうしてみると昔の山みたいな感じで落ち着くな」
「ね、川の近くにテント張ろうよ!」
「おー、いいですね! いきましょ、悟志さん」
リアカーにテントやコンロ、調理器具やらクーラーボックスやらを詰め込んで持ってきていた悟志。
それを押して、早く行こうと急かす瑠実と桃叶。
さながら気分はデイキャンプ。
「こらこら、そんなに強く押すんじゃないよ。腰に当たって痛いんだから」
なんて言いつつも、こうやってみんなと身体を動かす機会はあまりないだろうから、今日は思いっきり楽しもう。
そう思って笑顔で悟志は歩みを進める。
『悟志、俺の後ろちゃんとついてくるんだぞ』
「迷ってもすぐ見つけるから大丈夫ですけどね!」
ゴン太と乃亜の異世界常連コンビが先導すると、神代家は山の中へと入っていく。
それを空から見つめていたのは大きな鳥。
くるりと向きを変えると、悟志たちとは反対方向へと飛び去って行った。
『ここ! ここわらびたくさん!』
鼻をひくひくさせたゴン太がわんと吠えると、ほんの少し急な斜面。
よく見ると食べごろのわらびがたくさん。
「ホントだ~。すごいね、ゴン太ちゃん!」
「……待った。そういえばここって誰かのものじゃない? 許可取らずに採取したら怒られるだろ」
異世界に浮かれていた悟志がはっと我に返る。
どういう治世をしているかはわからないが、異世界にありがちな中世西洋の体制であるとするならここは誰かの領地。現代日ノ元と同じであるならば、国や自治体、もしくは法人、個人の所有地。
領民や許可を取った人間、所有者ならともかく、他の人間が勝手に取っていいわけがない。
そんな悟志の気持ちとは裏腹に、ゴン太は空を見上げて遠吠えをする。
わん、わん、わおーん! という遠吠えに込められた意味はこうだ。
『おい、俺が来たぞ! 悟志たちと一緒に山菜取るからな! 会いたいやつはこい!』
それは音とゴン太の神の力で空気を伝わり、獣たちの頭に届く。
『むっ、行かねば』
『あの子はどうする? 久しぶりのあの方だ。きっと会いたがるだろう』
とある屋敷の庭。大きな狼と猿が日向ぼっこ。
うとうとしながら温かさをかみしめていると響くゴン太の声。
二匹で話していると、ぞろぞろとやってくる獣。
『あの方が主を連れて山に入られた。みんなで行かないか?』
先ほど悟志たちを見つめていた大きな鳥が空から降り立ちそう言うと。
『お嬢さんが支度をしていましたからね。まもなく来ると思いますよ。ああ、今日は急な予定ですから急いで帰る必要があります。あの子だけ君が乗せて、他の子は私が乗せましょう』
と、大きな馬が狼を見つめながら言う。
うん、と頷く狼を見て満足そうに目を細める馬。
すると子供の声が庭に響く。
「みんな、山に行くよ!」
「……まぁこんなもんでしょ」
家族四人の分ということで、スーパーの大きなレジ袋一つ分のわらびと、少し大ぶりのタケノコを四本。
川の近くにあったちょうどよく広まったところ。
そこにテントを立てたり、コンロの用意をしたり。
三人娘はゴン太の教えてくれた場所でわらびを採り、悟志はゴン太と一緒にタケノコ掘りへ。
ある程度時間が経ったところでテントに戻ると、ちょうど三人娘も帰ってきたところ。
お互いの成果を見せあって、もう十分だよね~。
なんて話していると突然襲ってくる眠気。
時間を見ると昼少し前。焚火台を立てて、そこに拾ってきた枯れ木を置くとマッチで火をつける。
同じくうとうとしている三人娘を見て、テントで寝るように促す。
最初は遠慮していたのだが、眠さには勝てず、みんなで一時間ほど仮眠をとることに。
山の奥に入ると少し肌寒い。動いている時ならともかく、休んでいると身体が冷える。
風のないテントの中でゆっくり休めばいい。
女の子は身体冷やすと大変、そういう思惑もあるのだが。
悟志だけの特権もあった。
『悟志、準備できたか?』
「できた」
大きなレジャーシートを敷くと、その真ん中にさらに低反発のマットを敷いた悟志。
その傍らにはブランケット。
ゴン太の脚を拭いて、迎え入れるとゴン太は悟志の背中へ。
「じゃあ、おっきくなるな」
伏せて丸くなったあとみるみるうちに大きくなるゴン太。
年末にたっけぇ肉を買いに行った時は小さくなったが、今回は大きくなった。
二メートル四方のレジャーシート。その一辺とほぼ同じくらいの大きさになると大きくなるのをやめる。
『よし、もういいぞ』
顔を上げて悟志を迎え入れるゴン太。
悟志はゴン太の腹にもたれかかる。
伏せた状態でも悟志の肩くらいまでの高さがあるゴン太の身体。
それが悟志の上半身を柔らかく包む。
普段もたまにゴン太を枕に眠ることがあるが、今回はそれを凌駕する寝心地。
前日一緒に風呂に入ったばかりで、シャンプーのいい匂い。
犬特有の高めの体温が、少し冷える山間にちょうどいい。
ブランケットを脚にかけると、その上からぽすんとゴン太の尻尾。
川の音と風、ゴン太の呼吸に合わせて揺れる身体。
安心感に身を委ね、悟志は眠りについた。
「あら? 随分とおっきくなりましたわね、ゴン太さま」
『それよりも……、この人間。ゴン太さんを枕にするとは何事だ』
一人と一匹が眠りについて少し経った頃、悟志たちの傍にやってきた獣たち。
一人の少女、狼、馬、猿、鷹、それと幼子。
いつもと違うゴン太の姿を見て、首をかしげる少女と眠る悟志に怒りを覚えた狼。
とっくに気配に気付いていたが、敵ではないと目を開けずに様子を窺っていたゴン太。
少女はいい。しかし、狼の態度は腹に据えかねる。
『悟志は俺の主だ。腹にもたれかかって寝るのは当たり前だろ、ルプス』
片目だけ開けてそう言うゴン太に、ルプスと呼ばれた狼は驚く。
『ご、ゴン太さん! 起きてたんですか?!』
『獣の気配がたくさんあれば嫌でも起きるぞ』
「ゴン太、久しぶり!」
幼子がゴン太に声をかけると、狼に向けた態度とは対照的に朗らかに挨拶をした。
『おー、シェラタン。久しぶりだな! 今日はな、俺のいる群れみんなで来たぞ!』
「そうなんだ~!」
なんてやり取りをするとテントから出てきた三人娘。
どうやら少し機嫌が悪そうで。
「ちょっとゴン太ちゃんうるさい!」
「ゴン太さま~、久しぶりに山歩きして私もねむちぃなんですよ~」
「初めてテントで寝るから、もうちょっと寝たかったです」
寝ぼけ眼の瑠実、乃亜、桃叶の順に口を開くと、少女たちと目が合う。
一瞬の沈黙。それを破ったのは少女だった。
「乃亜さま! お久しぶりですわ!」
「えっ、リーリャがなんでここに? リーリャの家の領地とはいえ、リーリャのおうちから遠いでしょ」
「ええ、ですから神馬スレイプニルのゴルさんが乗せてきてくださいましたのよ?」
リーリャと呼ばれた少女がちらりと視線を向けると、察して自ら乃亜たちの下に向かうゴルと呼ばれた馬。
『はじめまして、異界の神よ。私はシェラタンに仕えるスレイプニル、名はゴル』
「はじめまして、私は管理神プラム・ウィータの眷属ノアール・シロップサワー。プラム様の愛し子たる神代悟志の守護のために世界を渡りました」
神と神に近しい獣の挨拶、それを見つめていると悟志が目を覚ました。
「あ~、めっちゃ寝た気がする。ゴン太ありがとな。……ってなに?」
伸びをしてパッと目を開けた悟志の眼前には大きな獣と幼子と少女。
それに三人娘。悟志は何が起きたのかさっぱりわからなかった。
『お、悟志。こいつらな、俺の兄弟分なんだ。お前ら、挨拶!』
ゴン太の声にさっと整列する獣たち。
狼は神狼フェンリルのルプス、猿が神猿セイテンのソン、馬が神馬スレイプニルのゴル、鷹が神鷹ヴェズルフェルニルのフレースという。
そして、何故か一緒に挨拶をした幼子、シェラタン・フォン・アリエス。この山がある場所を治めている国の第三王子。
その侍女で、国からこの山を含めた領地を預けられたベラヤリーニヤ家の長女、アリーリャ。
アリーリャは話に聞いていた乃亜の友人らしい。
「これはどうも、俺は神代悟志。悟志が名前で、神代が家名だ」
こうして互いに名乗ったところで、親睦を深めるための食事会が開かれることに。
もちろん作るのは悟志だ。
ところが料理する様子を興味深そうに見ていたシェラタンが自分もやりたいとわがままを言う。
ダメですわよ、とたしなめても聞きやしない。
そんな様子を見て悟志はメニューを変更して、みんなで作るメニューにしてしまった。
それはトルティーヤを使ったブリトー。具材を巻くだけという手軽さなら、子供でも楽しめる。
これには三人娘にアリーリャも大喜び。
わいわいがやがや、賑やかな昼食だった。
今回登場したリーリャやシェラタンは神代亭のおまけ、とある子爵令嬢の大逆転に登場したキャラです。
本編にも登場させてみました。
次回も異世界編です。
GW中、もう一回は更新かけたいなぁ。




