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此花母娘、大企業ニコマートに抵抗する!

それから、数日後、此花家では、並子と美子が二人で夕食を食べていた。勿論、こういう時間が二人の作戦会議に使われている。

「並子、その後、帳簿の方はどうなの?」美子は、好きなビールを飲みながら、娘に聞いた。美子は大人しそうな外見によらず、大変なビール党なのだ。並子は、母にお付き合いで半分ほどのビールをコップに入れ、ほろ酔い気分だった。

「税理士さんから今期の会計情報を貰うまでは、ハッキリしたことは言えないけど、どうも、花山さんとお母さんに対する配当処理をごっちゃにして、使途不明金を作っているみたいなのよ。特に現金決済勘定に不審点があるわ。」

「それどういうこと?」美子は、ビールを飲む手を止め、緊張した声音になった。

「つまり、まだ疑いだけど、花山さんが使ってことにして現金支出をし、それを配当を払ったことにしているみたいなのよ。きっと、花山さんはこのことに気づいてもいないわ。認知症の人の病気をいいことにして、会社のお金を横領している可能性があるわ。」

「横領?それって大変なことじゃないの?」

「そうよ。だから、今期の会計帳簿も調べてみないといけないわ。早く戻してもらえないかなあ?」

「そうね。でも、花山のお父さんがまだ代表取締役だし、私達は診断書ももらえないから、いくら私達が言っても、あの先生が言う通りにしてくれるか、分からないわ。」

「確かに、そうよね。こんな複雑な会計処理を素人ができるわけないわ。その先生が関与している可能性が高いわよ。だとしたら、簡単には渡さないわよね。」

「そうよね。信子が言ってたけど、花山のお父さんは王さんたちにお金をばら撒いているみたいよ。誰も止める人もいないみたい。」

「まず、花山さんに給料を修正する株主総会議事録を作ってもらいましょう。それだけの住民税や社会保険料を支払い続けるのは問題だし、会社としても、勝手に会社の財産を花山さんに移動させるのは問題だわ。しかも、それを認知症の花山さんがばら撒いているのを放っておくわけにはいかないわ。」

「そうよね。花山のお父さんのところにあんたも一緒に行ってくれる?書類を作って。」

「わかったわ。今度の金曜日なら有給取れるわ。」

「それなら、そういう段取りにしましょう。」

美子は、娘を頼もしく感じた。一人だったら、こんな知識もなく、途方に暮れていただろう。ふと、お年寄りセンターの相田との話を思い出した。ついでに、娘に頼んでしまおう。

「それとね。お年寄りセンターの相田さんに信子が海外で成年後見人の申立てが難しいとご相談したら、行政で申立てをしてくれるように手続を考えてくれるっていうのよ。」

「それは、よかったわね。」並子は最後のご飯にお茶づけのりとお茶をかけた。

「それでね。私達の方からも板橋区の特別支援係という所にお電話をして依頼してほしいと言われているの。」美子は並子に頼むわっという視線を送った。

「私に電話しろって言うの?」並子は明らかに面倒だという表情だった。

「頼むわよ。私、苦手なのよ。そういうこと。」

「お母さん、バイト代弾んでよね。」並子は仕方ないというように言った。

美子はニコニコしながら、頷いた。


その日は、美子と並子のお茶の間会議から2週間ほど経っていた。その間に並子と美子は花山金太郎の自宅に何度か足を運び、様々な打合せを繰り返していた。認知症であっても、意思能力の否定が難しい以上、成年後見人が決まるまでは、根気よく、金太郎の意思を確認するしかないというのが、二人の結論だった。そうしなくては、事が全く進まないのだ。しかし、信子が帰国が難しい状況を踏まえ、行政が成年後見人の申立てと金太郎の金銭の管理をすることにもなり、少しづつ状況は改善に向かっていた。そこで、美子と並子は吉田税理士に金太郎の役員報酬の修正申告を依頼することにした。それには、会社の資産を勝手に金太郎に移されたことに対する問題もあったが、それより、住民税や社会保険料が高くることで、金太郎の介護保険の負担金が余りにも高くなることの問題もあった。花山家はT駅にほど近いUR賃貸の一室を社宅として借りていた。昔は金太郎もマンションを賃貸したのだが、更新料や礼金のないUR賃貸が気に入り、借りることにいたのだ。

吉田税理士は、先日、此花親子に王らへの株式の譲渡を断られ、その後、花山金太郎の住民税や社会保険料の滞納のことで納付書を預かっていたのに、何の対応もしなかったことを指摘されていた。あまり、此花親子に会いたくはなかった。しかし、今後のことを考えると拒否することも難しかった。だから、約束の時間より少し遅れて花山家の呼び鈴を鳴らしたのだ。

「どうぞ。」ドアはすぐ開けられ、此花並子が出迎えた。

「お邪魔します。」吉田が入ると、リビングには金太郎が小さな椅子に座っていた。自分は大きなソファーを勧められた。金太郎は吉田を大変に立ててくれた。それは、何よりニコマートの紹介であり、自分をニコマートの代理人という風に誤認しているからなのだが、吉田はそれを敢えて否定しなかった。それの方がコントロールが簡単だからだ。しかし、此花並子と目が合うと、それが簡単にはいかないということが予想された。彼女の目には吉田を不安にさせるものがあった。

「どうぞ。」美子が金太郎と吉田にお茶とお菓子をだした。

「ありがとうございます。」

吉田がお茶に口をつけると、美子が口をきった。

「吉田先生、いつもご苦労様です。実は先生もご存じとは思いますが、花山金太郎さんが今年、1月に認知症の診断を受けました。それで、私も不安になりまして、先日来、娘に会社の帳簿を調べさせていたのです。」

「母に言われて、調査しましたところ、去年、花山さんの給料が40万円から75万円に上がっているのを発見しました。花山さんは役員なので、報酬に関しては株主の同意が必要です。しかし、母に聞きましたら、唯一の株主である母の同意を得ていないということです。更に、税務署に問い合わせましたところ、定期同額給料は現実に支出しなくてはならないのに、遡って計上されています。これも不適切な処理です。即刻、修正していただきたいと思います。」

「できません。」吉田は強く言った。

「なぜですか?」並子も負けていなかった。

「会社の黒字を軽減する目的でやった、節税対策です。会社が税金を払ってもいいのですか?それに、花山さんは代表取締役です。花山さんが自分で給料を決めたのです。問題はないはずです。」吉田は更に強く言った。

「もともと、法人にしたのは、花山さんの個人の節税対策です。それに、それは法律違反ですよ。」並子も大声で言い放った。

暫く、二人はにらみ合っていた。金太郎は二人を不思議そうに見ていた。美子はびっくりして、吉田を見ていた。税理士がクライアントの意向を無視するという。しかも、認知症の老人に多額の現金を持たせることの危険を普通の倫理観をもった人間ならしないものだ。ましてや、信子から金太郎は現金をばら撒いていると聞いている。ニコマートはもしかしたら、犯罪組織なのかしら?こんな税理士を紹介するなんて。

「書面で依頼があれば、やります。」やや間をあって吉田は言った。

並子と美子は待ってましたとばかり、先日、金太郎と美子のサインと印鑑をもらった株主総会議事録を出した。

「お願いします。」並子は言った。

吉田は、書面をスマホで写真に撮ると言い出し、何やらスマホを操作した。

「わかりました。」吉田は言った。

その時、玄関の呼び鈴が鳴った。美子と並子が向かうと誰もいなかった。

二人が席を外した間に吉田は金太郎に言った。

「花山さん、これしなくてもいいですよね?」

金太郎は意味が分からなかった。

「ニコマートの意向なんですよ。」

ニコマートと言われて、金太郎には否応はなかった。

「はい」金太郎は言った。

暫くして、美子と並子が戻ってくると、吉田はいたずらだったんですね。と言い、お茶を飲み干すと次の予定があるからと、帰っていった。


吉田は花山家を出て、すぐ、同じUR賃貸の別の棟に向かった。その棟は、丁度花山家の向かい側にあった。その7階の一室に向かうと、ドアの呼び鈴を押した。中から、若い女性が出てきた。

「こんにちは、呂さん、皆さん来てるの?」吉田は挨拶をした。若い女性は王店長の妻、呂の姪だった。呂は、頷いて、吉田を部屋に入れた。

「お疲れ様です。」新土手2丁目店店長巧が言った。その隣には王店長と妻の呂がいた。呂美麗は呂の義理の姉の甥につい最近嫁ぎ、新居をこのUR賃貸に構えたのだった。

「メールミタヨ。」王はスマホを吉田に見せた。

「助かりましたよ。チャイム鳴らしてくれて。早速ですが、これを見て下さい。」吉田はスマホの画像を見せた。

「コレ何?」

「花山オーナーの給料を昔の金額に戻すという内容の書類です。」

「エエッ⁈ソンナ事デキルノカ?オーナーダゾ。」王は大声で叫んだ。

「できますよ。」

「帳簿のことをそこまで調べたのか?じゃあ、これ以上見せるのはまずいな。」巧が言った。王と呂、吉田も頷いた。

「今のところは、無視します。それよりこれ以上どうやって、見せないようにするかですよ。」吉田は話した。彼が顧問料をもらっているのは王ではない。ホットハートコーポレーションだ。しかし、彼の顧問料を決めているのは実質、判子を押印している王だった。吉田は王が権限がないことは分かっていたが、王は吉田が自分に便宜を図る度に顧問料を上げていた。株式の譲渡についても、安く買いたたくことで手数料を貰うことになっていた。

「それより、聞きましたか?花山オーナーの息子のこと?」巧が口をはさんだ。

「ええ、でも、此花親子より、その息子の方が扱いやすいかもしれませんよ。条件次第では味方につけるかもしれません。離婚した前の奥さんとの間の息子なんですから。」吉田は石田を通じて、息子と連絡を取ることを勧めた。

「ソウダヨ。上手クコチラノ味方ニスル方ガイイヨ。」呂が言った。

呂が言うと、王は肯いた。彼は妻の言葉には常に従順なのだ。それから、何時間も彼らはどうやって、此花親子の調査を妨害するか、話し合った。吉田は自分がニコマートの紹介であることを利用し、ニコマートの権威によって、此花親子をけん制できることを理解していた。大抵のフランチャイジーは、ニコマートの紹介である者に盾を突くと、意地悪をされることを恐れている。例えば、返品処理や廃棄補填やらの恩恵を担当の匙加減でいくらでも操作できるのだ。契約更新や良い立地の店舗の割当を受けるなどもいくらでも意地悪ができる。なので、少々の無理も我慢するのだ。それ故、自分を店舗の方から切るのは難しいということを吉田は分かっていた。


その頃、ニコマートの石田と竹山は、新宿のニコマートのフランチャイジーの店舗の事務室にいた。

少し白髪の混じった疲れた顔の男がストコンの前に座っていた。

「初めまして、板橋営業所の責任者をしています竹山と申します。これは石田です。」竹山は名刺を出しながら挨拶をした。男は不愛想に会釈した。

「店長の花山実です。父のことですか?」

「はい、そうです。お父様の経営されています新土手1丁目店と2丁目店のことです。」

「大熊専務にはハッキリ父とは関係ないとお答えしています。」花山は面倒くさそうに答えた。

「しかし、そうも言ってられない事態になっています。お父様がお年で弱られていて、共同経営者の親子が乗っ取りを企てているようなのです。」

その途端、一瞬花山の目が光った。

「父が弱っているのなら、父の全てのハンコと通帳をニコマートで取り上げてください。」

「はあ?」竹山は実の豹変ぶりに一瞬呆気にとられた。自分の父親の心配はなく、金の心配か?

「判子と通帳を取り上げたら乗っ取りもできないでしょう。」実は相手の態度を見て、不味いと感じたのか言葉を補った。

「それは、お父様にお伝えしますが、この件でご協力いただけないでしょうか?」竹山は大熊専務が立派な息子だと言っていたのだ。そう思いなおして答えた。

「ニコマートへの協力でしたら、致し方ないでしょう。」

「石田を窓口に致します。よろしくお願い致します。」竹山は話した。

「わかりました。」花山実は肯いた。


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