表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お嬢様は何度でも死亡フラグを折る  作者: 蓮葉
お嬢様は舞踏会で巻き込まれる
25/81

お嬢様は自分など知りたくない

すぐにリューネ姫の私室に連れて行かれるのかと思っていたが、通されたのは、宿泊に使うようにと言われた一室であり、とりあえずは待機するようにとのことだった。

 エリーゼは拍子抜けした。

 もう夜も深くなってきている。気疲れのせいか、眠気がエリーゼを襲う。しかしここで寝てしまっては、リューネ姫から呼び出しがあったときに応対できない。それでは困るーー。


 と思ったのは覚えている。


 ベッドに横になっては寝てしまうと、椅子に座ったのは覚えている。どうやらうつらうつらと居眠りをしてしまったらしく、時間の感覚がわからない。

 時間はどのくらい経ったのだろうか? もしかしてリューネ姫からの呼び出しが既にあったのではないか?

 (……なんだか、考えるのが、疲れた……)

 今まで、自分の行き先も決まったものとして捉え、今の状況も、ただ、漫然と流して生きてきただけで、こんなに不安定な気持ちになったことはなかったような気がする。

 この国が二派に分かれているのも、自分が、その一方の派閥の象徴であるリューネ姫の近くにいることも勿論わかっていたが、だからといって政治的に野心のある家でもないし、エリーゼ自身もそのつもりはなかった。だから……これが正しいことかはわからないが……あまり深く、考えたことなどなかったのだ。


 ーー身体を張って、王子のために無茶をするアリィシア。何が彼女をあんなに突き動かしているのか。

 ーーただの魔導具オタクだと思っていた幼なじみのディール。あんな、汚れ仕事をしていたなんて知らなかった。何一つ動じないところを見ると、慣れてしまっているのだろう……知らない人みたいだった。

 ーーリューネ姫。傲慢さと我が儘さと賢さは人の上に立つ器量だと思っていたが、彼女にも苦悩があるのだろうと、思い至ったことがあっただろうか。


 自分は、自分を取り巻く世界の、一体何を見ていたのだろう。


 そう考えると、さっき、ディールに対して八つ当たりをしたのが恥ずかしく思えてきた。もともと、まるで自分だけが蚊帳の外のような気がして腹が立ったのだが、そもそも自分は蚊帳の外の人間なのだ。そして、それを『良し』としていたはずだ。

 今の状況だって、たまたまアリィシアの仕事に巻き込まれ、知ってしまった秘密に王子の牽制として巻き込まれただけで、もともとは迷惑だと思っていたはずではないか。関わらなくて済むならば、関わらないのが一番ではないかーー。

 そうだ。そもそもエリーゼ自身の最大の役割は、実家に迷惑をかける存在であってはならない、ということだ。それに比べたら、リューネ姫に対するご奉公すら二の次のはずだ。

 自分の好奇心、自分の感情……そんなものは、不要だ。


 「本当にあなたはそれを望んでいるのか?」

 「……ヴァイス」

 現れるような、気がしていた。

 目の前、部屋の中に突然姿を表したのは、黒猫ヴァイスだった。実体なのか、夢なのか、意識に呼びかけられているのか、幻覚なのか、わからないが、彼はそこにいた。

 まるで、心を読んだかのように。

 「そんな問いに答える必要があるかしら」

 「あなたを知りたいんだ」

 「またそれ? ……むしろ聞きたいのは私の方よ。あなたは、一体何者なの。私に何をさせたいの?」

 「お嬢様、俺はあなたの使い魔で、あなたの命を助けたい、そう言ったはずだ」

 「答えになっていないわ。正体を明かさないつもりだってことだけはわかったけど、本当にうさんくさいわね、あなた」

 「いや、それが答えなのさ。そして……あなたを助けるためには、あなたを知る必要がある」

 「"未来"から来たのに?」

 魔法で、過去は変えられない。でも、未来を変えるために来たのだと、そう言ったのはヴァイスだった。揶揄するように言ったエリーゼの言葉に、ヴァイスはまったく反応しない。

 「結果がわかっているからといって、そのまま原因がわかるわけではない。あなたを助けるために、俺がどうすべきなのか、俺は知りたい。だから、あなたが何を思い、何を望んでいるのか、あなたのことを知りたいのだ。俺はあなたのことを……きっと何も知らなかった・・・・・・のだから」

 エリーゼは、ふう、と息を吐いた。

 「今更、何とも頼りないことを言うのね。本当にあなたは私の命を助けられるの? あなたの言うことを聞くべきか、不安になってきたわ」

 「それはすまないな。だが、言ったはずだ。選ぶのはあなただと。俺の言うことが信じられないというのならば、別に構わない……とまでは言わないが、仕方がない」

 相変わらずの言葉に、エリーゼはため息をついた。ヴァイスは、この件についてはこれ以上のことは言わないのだろう。


 ーーお嬢様、あなたは死ぬ


 質に取っているものが重すぎる。情報が足りない。ヴァイスの取引の仕方は、本当に卑怯だ、とエリーゼは思った。

 「……何が、聞きたいの」

 黒猫は、ゆっくりと首を横に振った。

 「すべてだ。でも、それでは答えにくいだろうな」

 「そうね」

 「ならば、今日のことを話そうか。あなたが何を思って今日を過ごしたのか、聞きたい」

 「抽象的ね」

 「そうだな。では、何故、アリィシアを追いかけたんだ?」

 「あなたが、導いたんじゃない」

 「そうだな。でも、俺が導く前から、あなたはアリィシアを追いかけようとしたな。俺は背中を押しただけだ。何故だ?」

 「何故って……」

 何故だろう? ディールに聞かれたときには、好奇心だと彼は理解した。ならば好奇心だったのだろうか?

 あの時の衝動を、エリーゼは、自分の行動ながら、確かにうまく説明できそうになかった。

 「アリィシアの仕事場に踏み込もうとしたのは何故だ?」

 浅はかだ、とディールに怒られた。そのとおりだ、とエリーゼも思う。あれは、エリーゼにあるまじき、考えなしの行動だった。

 「彼らの仕事に踏み込もうとしたのは何故だ? 役に立ちたかったのか?」

 「役に……たとうなんて、それは私の役割ではないわ」

 「あなたの考えは、どうなんだ? 俺が知りたいのは、あなたの『役割』ではない。あなたの考え、あなたの思い、そういうことを、知りたいんだ」

 「……」

 「あなたはアリィシアを心配していたのではないか。ディールやリューネ姫に頼られたかったのではないか、自分の力を貸したかったのではないか」

 「わかったようなことを言うのね。もしそうだとしても、私には何もできないわ」

 「何かをしたいと、そうは思うか」

 「私に何ができるというの」

 「何ができるか、ではない、何をしたいか、ということなんだが……」

 ヴァイスは、地面に伏せ、丸まった。

 「お嬢様、あなたは、やりたいことはないのか?」

 「しつこいわ」


 ーー昔、夢見たことはあった。


 まだ首都に来る前のことだ。もう戻れない故郷。広い広い緑の大地、美しい田畑、斜面に広がるブドウ畑。その向こうには南の古王国連合に通じる山々の稜線。

 あの向こうに行ってみたいとーーそう思ったことはあった。

 でも、それはかなわない。

 だから、自分が行けないからと頼んだのだ。別の国へ行って、その国のことを、遠くの私が行けない場所のことを、教えて欲しいとーー。

 昔の約束だった。軽い気持ちで言ったことだった。最近は思い出すことも、なかった。


 「何もないわ。私の望みは、私の能力が誰かの迷惑にならず、ただ、静かに人生を終えることができるということだけ」

 「……そうか」

 ヴァイスは、金色の瞳を閉じ、再度開けた。

 「ここから先についてだが、俺はあなたに助言はするが、なるべく自分で考えてほしいとも思う」

 「随分な言い分ね。まるで私があなたに頼りきっているみたいじゃない!」

 エリーゼは声を荒げた。……どこか図星だったのかもしれない。

 「そうは言っていないが……考えて欲しいんだ。あなたが、何をしたいと思っているのか。何か望みはないのか。それを、考えて欲しい」

 「……」

 そう言いおくと、黒猫は、部屋の扉を開けた。

 そして、そのまま、姿を消した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ