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銭将軍秀忠、金庫番からの成り上がり  作者: エピファネス
第2章 小田原征伐編

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第9話 聚楽第の宴と、人質たちの群像

天正十七年(一五八九年)十一月――京都・聚楽第。

黄金の瓦が秋日に輝く豊臣の権勢の象徴にて、大名やその子弟を一堂に集めた絢爛豪華な宴が催されていた。


色とりどりの着物を纏った幼き人質たちが身を小さくしている中で、十一歳となった徳川秀忠(長丸)は、無邪気な笑みを湛えて盃を口に運んでいた。

(――実に見事な見せ金だ。これだけの金を天下に見せつけることで、諸大名に『豊臣に刃向かうは愚か』と思わせている)


秀忠の背後では、本多正純と土井利勝が影のように控え、周囲の様子を鋭く観察している。


「……秀忠様、あちらにおられるのが、関白様の側近・石田治部少輔(三成)殿にございます」


正純の囁きに、秀忠は視線を巡らせた。

黄金の調度品に囲まれながら、一人だけ几帳面に帳面をめくり、給仕や兵糧の配分に目を光らせている男――石田三成。その顔には一切の余裕がなく、カリカリと神経をすり減らしているのが見て取れた。


さらに離れた座敷では、加藤清正や福島正則ら子飼いの武闘派たちが、豪快に酒を煽りながら三成の背中に不満げな視線を向けている。

(ほう……。三成は完璧な仕事中毒だが、現場の武功派の気持ちを解しておらぬな。豊臣の内部は、秀吉一人の威光でギリギリ保たれているに過ぎぬ。秀吉が死ねば、この歪みは一気に破裂する)


秀忠は算盤を頭の中で弾き、豊臣家崩壊のタイムリミットを静かに計算した。


「……おや、可愛らしいお客様がおいでだ」


声の方を振り返ると、そこには不気味なほどの静寂を纏った親子の姿があった。

鷲のような鋭い眼光を持つ初老の男と、その背後で若木のように凛と立つ十六歳の少年。真田安房守昌幸と、その次男・真田弁丸(のちの信繁/幸村)である。


「これは真田殿。秀忠にございます」


秀忠が可愛らしく深々と頭を下げる。

昌幸は細い目をさらに細め、爬虫類のように冷たい視線で秀忠をじろじろと見回した。


「徳川の若き跡取り……いやはや、なんとも愛くるしいお姿。されど……その瞳の奥には、随分と冷ややかなものがお宿りだ」


昌幸の言葉に、控えの土井利勝の手が瞬時に脇差の柄へ伸びかけた。だが、秀忠はふっと柔らかく笑い、昌幸の言葉を軽やかに受け流した。


「滅相もございません。真田殿の『表裏比興』の冴え渡るお働き、かねてより父(家康)より伺っております。先年の上田城の戦いにて、我が徳川が大敗を喫したこと……父は今も悔しがっておりますよ」


「……ククッ、これは手厳しい」


昌幸の笑みが深まる。

一見、他愛のない挨拶の応酬。だが、秀忠の背中にはヒリヒリとした毒のような圧力が巻きついていた。

(真田昌幸……! 秀吉のような力でねじ伏せる男ではない。他人の隙を見逃さず、暗部に毒を仕込む本物の曲者だ。この男は将来、必ず我が徳川の喉元に刺さる毒針となる……!)


その時、大広間の奥から「関白様のお成りー!」と大声が響き渡った。


「ぬははは! 皆のもの、楽しんでおるか!」


絢爛豪華な羽織を羽織った秀吉が、満足気に大広間へ練り歩いてくる。

諸大名が一斉にひれ伏す中、秀忠の目がスッと細くなった。

(――さて、仕込みの時だ。小田原の最前線へ行くための、な)


秀吉が上座に腰を下ろすと、秀忠はちょこちょことその膝元へ駆け寄り、無邪気な顔で袖を引っ張った。


「関白様! 関白様!」


「おお、秀忠か! どうした、酒が美味しくなかったか?」


秀吉が好々爺の顔で抱き上げようとすると、秀忠は目を輝かせながら、一心不乱にこう訴えた。


「関白様、噂に聞く『北条征伐』……お願いでございます! 私も関白様のお供として、小田原へ連れて行ってくださいませ!」


大広間がざわついた。十一歳の子供が戦場へ行きたいと申し出たのだ。秀吉も驚いたように目を丸くする。


「ほう……? お前が戦場へ? 人質の身で何を申すか」


「人質などではございません! 関白様が天下を一つに束ねられる歴史的な大事業……この秀忠、その勇姿をぜひこの目で焼き付けたいのです! 関白様のような偉大な英雄が天下を平定されたら、もう二度とこのような大戦など見られなくなってしまうではありませんか!」


秀忠の可憐な「おねだり」と、秀吉の承認欲求を完璧に満たす言葉に、秀吉の顔がみるみる破顔した。


「ぬははははは! 聞いたか皆の衆! 二度と見られぬ大戦だと! わしの勇姿を見たい申すか!」


秀吉は大爆笑しながら秀忠の肩を抱き寄せ、ポンと叩いた。


「ええ子じゃ! お前は本当に可愛いやつじゃ! よし、許す! わしの本陣(石垣山)におることを条件に、小田原へ連れて行ってやるぞ!」


「ありがとうございます、関白様!」


秀忠は心底嬉しそうに頭を下げた。

(――よし。秀吉の最高司令部(本陣)の特等席を確保した)


ひれ伏す大名たちの中で、真田昌幸だけがじっと秀忠の背中を見つめていた。その瞳には、薄気味悪い警戒の色が濃く浮かんでいた。

数ある作品の中から今話も閲覧してくださり、ありがとうございました。


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真田の腹黒親父は上手いこと味方に付けておきたいけど、それやるとタイトル回収出来ない…?
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