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第38話:わざと痕跡を残す犯人にご注意

 扉を開け、押し入ったトカゲの第一声。


「うっわ、ナニコレ。キモチワルー」


 トカゲは誰が見ても『ふざけている』としか言いようのない声を出すが、本来そんな余裕はない。ガッツが何も言わず、体を慣らすために大きく深呼吸をしているのが何よりの証拠。


 二人を出迎えたのは、重たい黒色の霊力の残滓だった。トカゲの霊力も黒いが、それとも違う。これはどうにも人間の五感では表現し切れない。単純に『黒』とは言い難かった。それでも敢えて形容するならば、この残滓は何百、何千もの色が重なった末の、全てを呑み込むような漆黒、となるだろう。


 やがて体を慣らし終わったか、ガッツが小さく足音を鳴らして動き出す。トカゲは視界の端に映った彼に倣い、支部の中を進み始めた。


 普段ならば話し声や移動音に掻き消されて聞こえなくなるはずの音が、やけに鮮明に耳に届く。それが支部の異常事態を分かりやすく物語っている。

 支部に入って左方向の掲示板も、手続き用窓口も、照明も、何一つ変わっていない。だが、人が視界に映らないというだけで、途端に『建物』というのは天寿を全うし切った廃墟同然に見えてしまう。


 支部に突撃してからしばらく経過すると、トカゲに向けたガッツの声がホール内に響いた。


「体調はどうだ? 違和感があれば今のうちに引き返すぞ」


 話に聞いていた頭痛や腹痛を、トカゲは感じていなかった。一応確認するかのように肩を回したり、首を傾げたり、と体の色々な部分を稼働させてみるも、特に異常はない。残滓の重さは感じるものの、怠さの類いの症状は見られなかった。


「全然、へーきよ。問題ナッシング」

「異常がないのはいいことだ。だがこの先どう変化するかは読めん。奥に進む程、残滓は強まっているからな。体調が悪くなったらすぐに報告しろよ」


 ガッツが釘を刺す頃には、二人は地下牢に続く道の前に着いていた。トカゲは黙り、迷う素振りを見せることなく突き進む。ガッツもその背を追って階段を一段ずつ下りていった。



   ♢  ♢  ♢



 異常な程強い霊力を放つモノが何なのかを推測しながら、二人は気付けば目的地である地下牢に到着していた。地下というだけあって薄暗く、照明がなければ周りが見えない。普段ならば蝋燭(ろうそく)の灯を管理する職員がいるため問題ないのだが、今は人がいないため放置されて暗闇のまま。残滓が光を吸収する黒であることも災いして、視界は読んで字の如く『最悪』そのものである。


 薄暗い通路を通り抜け、二人は独房の鍵の安置されている部屋に向かった。


「こりゃ独房の鍵見つけんの大変そー」


 鍵の管理部屋に戸を開けたトカゲは悪態をついた。常闇に包まれ、何も見えない。戸が一枚挟まっていることもあり、今までの通路よりも更に暗さが際立っている。視界が役に立たぬままガチャガチャと鍵を漁るが、触ったところでどれがお目当てのものかなど分かるはずもない。

 トカゲは軽く溜息を吐いた。


「はあ。ガッツ、蝋燭(ろうそく)探し――」


 言い切るより早く、視界が明るくなった。横を見ればガッツが剣に炎を(まと)わせている。剣とアニムを松明の代用品として使ったようだ。


「さっすがガッツ。分かってんじゃん」

「お前が騒ぐからだろう。ほら、早く見つけて早いところ終わらせるぞ」

「りょーかい。やっぱ《インフェルノ》って便利よね」


 光さえあれば目的物を見つけるのは容易い。棚をガサゴソと漁り、トカゲたちは一分も経たないうちにメギラナの独房の鍵を見つけると、そのまま独房へと足を運んだ。


 分厚い金属の裏に隠された、罪人の生活空間。トカゲは鍵穴に鍵を差し込むと、時計回りに捻った。


 ――ガチャン。


 扉の内部で何かの仕掛けが作動し、扉が動くようになる。力には自信のあるガッツが先導して重たい金属製の扉の開閉を行った。

 扉と壁の間にできた隙間に僅かな光が差し込む。ガッツの視界を支配したのは、想像を絶する惨状。目の当たりにした彼は言葉を失い、立ち尽くした。


「……うーん、こーなると生きてる見込みは限りなくゼロだね」


 トカゲがガッツの後ろから覗き、声を出す。彼は場数を踏んでいるせいか、至って冷静だった。


 二人の男の視線の先には、無惨にも食い荒らされたような死体。

 ベッドの上に腰掛けていたであろうメギラナが、顔から床に突き刺さるように倒れている。胸の中央から左にかけてに直径約十センチメートル程の孔が空いていた。貫通しているため、床まで透視出来る状態。心臓を抉り取るために空けられたような孔からは、支部を満たしていた霊力が漏れていた。


 トカゲは現場の状況を崩さぬように慎重に死体に近づき屈むと、ガッツに問いかけた。


「ガッツ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「ん? ……ああ、何だ?」


 強い衝撃を受けて放心していたガッツが、一言で現実に引き戻される。


「霊力って壁をすり抜けさせることは出来る?」

「出来んな」

「だよね。でなきゃ堕魂(だこん)も壁をすり抜けられるだろうし」


 トカゲの脳内には、かつてメギラナがアヤメ目掛けて霊力を放出してきた記憶が蘇っていた。あの時地面が抉れたことを考慮すれば、今回だって壁に穴が開くはず。

 しかし壁どれだけ壁を観察しても穴のようなものはない。辛うじて見つかったのは過去の囚人か、或いはメギラナかが脱出を試みて付けたであろう、引っ掻き傷だけ。


「じゃあさ、アニムを使う場合、壁を無視することは?」

「それは一概にこう、とは断定出来ん。距離さえ詰めたら実行可能なものもあれば、直接対面でないと使えないものもあるからな」


 ガッツは話しながら、視線を部屋中に滑らせた。


「しかしだ。アニムを行使して殺害したと仮定するのであれば、それなりに近づく必要はあるだろうな。だとしたら、足跡の形状をした残滓が残っているはずだが」

「だよねー。けど、それがないと」


 彼らの辿って来た階段にも、現在立っている独房にも、足の形をした残滓は見られなかった。残滓は時間経過で弱まってしまうことを考慮したとしても、支部を満たす程の強さを誇った霊力の発生源が消えているとは考え難い。そもそも足跡の残滓から霊力が発されるのが一般常識であるため、やはり今回の犯人を特定するには至らない。


「困ったねー。これじゃ何も分からず終いだ」


 トカゲは肩をすくめながら続ける。


「仕方ないけど、一旦地上に持って帰ろっか。検査とかしてもらえるといいんだけど」

「それは……この状態ならば、間違いなく()()()だろうな」


 ガッツは『どけ』と短く言うと、メギラナの死体に手を伸ばした。死体を背負い、扉の奥へと出ていく。トカゲも後に続き、地上へ向けて移動を開始した。

今日の一言:支部の地下が広くないか? と思った読者の皆様。作者も同じくそう思います。役所と刑務所と警察署が合わさったような施設なのでとにかく広くなってしまいました。面積は何坪なのか、作者もあまり把握していません。

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