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ハインツの回顧


ハインツとフローレンスが婚約した日から約半年後、サフィノワ伯爵家はシシリー辺境伯のお屋敷にいた。もちろんクリス侯爵家も同じだ。


この日はシシリー辺境伯の領地は、朝から上へ下へと大賑わいだ。それもそのはず、この領地を治めている領主様の跡取り息子の結婚式だからだ。


アンリエッタがとうとう式を挙げる。フローレンスは自分のドレスを着付けて貰うとアンリエッタと少し話をした。


「――――凄く綺麗よアンリエッタ。他のお客様が霞んでしまうわ。貴方は私の誇りよ。」とアンリエッタに微笑んでいた。


「お姉様こそ今日のドレスとても素敵です。ハインツ様のお色がバッチリです。愛されてますね。お姉様。」と揶揄ってくる。


「ふふ、馬鹿ね、今日の主役が何言ってるのよ。」


「実はね、お姉様。最初はこのシシリー辺境伯のお屋敷に行きたくなかったのです。でもお母様と一緒にお父様に追い出されてしまいました。お姉様の離れに酷い事した後からは、お父様はもう私を見て下さいませんでした。」


「・・・・今から思うと私にもっと視野を広げて欲しかったんでしょうね。あの時は・・本当にすいませんでした。」と申し訳無さそうに話している。


「もう良いわアンリエッタ。そう思うなら必ず幸せになるのよ。それが私の願いなのだから。」と涙ぐむアンリエッタを抱きしめた。


「――――花嫁様お時間です。」と家令が声をかけて来た。これから皆で教会へ移動だ。


フローレンスを始めとする参加者達が教会へ移動すると、近くにハインツ様が見えた。ハインツ様はフローレンスを見つけるとにっこりと笑い、人を避けながら近寄って来た。


傍へ来るとすかさず腰を抱き「――――私が贈ったドレスとても似合っている。・・綺麗だフローレンス。」と耳元で囁きフローレンスの頬にキスをした。このハインツ様のスキンシップは中々慣れないわ。と思いつつもう半分諦めている。


滞りなく挙式が済み、この後ハインツ様とグラナダへ向かう事になっている。


一度でいいから一緒に壁画を見て欲しかったのだ。そしてサンダース家の箱庭も気になっている。ここからだと割とグラナダへは近い。


前日からの疲れが出たのか、フローレンスは馬車に乗るとすぐにうとうとし始めた。ハインツは自分の肩にフローレンスを持たれさせ、その可愛らしい寝顔をジッと眺めていた。


「・・・・フローレンスさん、私は貴女が死ぬまで放しませんよ。覚悟して置いて下さいね。」と話すと今までの事を思い出していた。


以前馬車でフローレンスにはっきりと断られてから、ハインツは全然諦めてなどいなかったのだ。


諦めようがなかったと言った方が正しいのか?もうあの段階で好きと言うレベルで言い表せない程、フローレンスにはまっていたのだから。




元々ハインツは恋愛方面においては淡白な方だと自覚していた。


隣国の孤児院で生活していた所に、こちらの侯爵家へ養子に入り侯爵家の期待に添えるべく、がむしゃらにやって来たのだ。


孤児院ではクリス侯爵引き取られる15歳まで、年上の子供たちに毎日の様にいじめられ、シスターに泣きつき慰められていた。


そんな時に丁度「命を繋いだリンゴの木」の初版が出た。最初は単なる絵本と言った認識だったが、何度か子供たちの前でシスターが読んでくれると、じわじわとその良さが伝わって来た。


――――一体どんな人が書いているのだろう?と思うとだんだんスーザン先生が気になった。プロフィールには70代女性と書かれている。一度機会があればお会いしてみたいと考えるようになった。


スーザン先生は年に1~2冊は執筆されていたので、お体はお元気なんだと思っていた。


ハインツはクリス侯爵夫妻の希望に応え、難関の医療系学校にトップの成績で現役合格した。


それからはクリス侯爵に、ハインツ宛ての縁談が降るように持ち込まれた。父親のどうしても断れない縁談の時だけ顔合わせをしたが、紹介される女性に食指はわかなかった。なのでサフィノワ伯爵家へお邪魔した時は本当に偶然だったのだ。


初めてフローレンスを見た時は衝撃が走った。


自分の容姿には自信があったが、その自分と目を決して合わそうとせず、目を反らし自分を見ないで欲しい。と全身で言っていたフローレンス。


この世の中にこんな女性が居るのか!と心の中で衝撃すら起こった。


決定的だったのは箱庭の図面だ。どこかと言えないがどこかで見たことがある。あぁスーザン先生だ。ここに居たのかスーザン先生。先にカーチス編集長に話を伺っておいて本当に良かった。


確認するとやはり即否定された。当たり前だな。でもここで引くわけには行かない。今まで生きてきた中で、こんなに熱を持って女性と話した事はない。それぐらい目の前にいたフローレンスを詰めた。正直自分でも引いた。


先に父親であるサフィノワ伯爵が折れた。どうやら観念したようだったが、フローレンスはそうではなかった。自分のサイン入りの本を手渡し、これで手打ちと言わんばかりに話を終わらそうとして来たのだ。


――――嫌だ、そうはいかない。


この時にフローレンスを手に入れると決めた。私は逃げられると追いかけたくなる性分だったと初めて知った。


デートの申し込みは初対面がああだったので何度か断られるのは想定内だった。


ただひたすら自分に会ってくれるのを待っていた。OKをもらった時はワクワクしながらその時を待った。


その様子を見た両親に「――――お前がそこまでほれ込むとはな。正直私たちも驚いているよ。」と冷やかされてもどこ吹く風と全然気にならなかった。


今だから言うが仕事など全く手に着かなかった。「――――おいハインツ。のぼせ上がるのもいい加減にしろ!」とリーダーであるリンダ医師長に注意される程だった。




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