ランチと庭園と図書館と。
フローレンスがリンダ医師に向い「今日はありがとうございました。」と礼をしながら診察室を後にすると、廊下の壁にもたれて待っていたハインツ様が、フローレンスの方へ近寄るとその表情を眺めながら
「フローレンス嬢、お疲れ様でした。もしよろしければこの後昼食に行きませんか?リンダ医師のお勧めの通り、ここのレストランのランチは秀逸ですよ。」と誘ってくれた。
「あと、ここの庭園を眺めながらランチが頂けるんです。」と小声でフローレンスに大変良く効く言葉のボディーブローを放った。
「――うっ。ご一緒させて下さい。」とハインツ様を見上げながら承諾の返事をすると、ハインツ様が破顔し「了解しました。」と再びエスコートされレストランへ向かった。
少し歩いたが、ハインツ様が普段の勤務の話やここの図書館の話などをして下さり、あっという間にレストランの前へ着いた。何でも結構お値打ちで美味しいランチが頂けるらしい。
レストランに入店すると奥の方からウェイターの方が出迎えて下さり「お2人様で宜しいでしょうか?」と訊ねられ、確認すると「では窓際のお席へご案内します。こちらへどうぞ。」と案内されたのは奥まった窓際の個室の席だった。確かにここから見る庭園は、普通のレストランでは味わえない景色が見る事が出来た。
ウェイターは2人が席に座ったのを確認すると、「後ほど注文をお伺いに参ります。ごゆっくりどうぞ。」と言いながら、メニューと水を目の前に置いて去っていった。
「あの、私は今日ここに来るのが初めてなので、オーダーをお任せしても良いですか?特に食べられない物もありませんので。」とハインツ様にオーダーをお任せした。
「わかりましたよ、フローレンスさん。」と言いながら頷くと先ほどのウェイターを呼び、ランチセットを2つチョイスするとオーダーを伝えた。
ハインツ様がオーダーしたのは肉がメインのランチと魚がメインのランチだった。食後のデザートと飲み物まで付いてどちらも美味しそうだ。
運ばれて来て直ぐに思ったが彩りも凝っていてとても綺麗。もちろんだけどセンスも良い。
「――――わあ~、きれいですね。」とハインツ様の方を見ると
「ここのレストランは王宮のスタッフだけで無く、この国に来られる来賓のスタッフを始め、旅行で来られる外国の方も良く利用されるので割安になってるんですよ。」と説明した。
「私もたまにですが気分転換したい時などに利用します。」いつもは食堂ですがね。と教えて下さいました。
結局ハインツ様が肉のランチを、フローレンスが魚のランチを取った。ハインツ様がメインを少し交換して、とおっしゃったのでお互いのメインを少しずつ交換した。
食事が済みセットの飲み物とデザートが運ばれて来た。
ハインツ様はコーヒー、フローレンスはハーブティーだ。
フローレンスはデザートを食べ終わり、ハーブティーの入ったカップをソーサーに置くと
「――――あの、ハインツ様。少しお願いがあるのですか。」と話し出した。
「今日は本当にありがとうございました。ハインツ様が居なかったらこんなレベルの高い健康診断は受けられなかったと思います。」
「ここからはもう馬車を拾って自分で帰る事が出来ると思いますので、後ほど図書館の場所を教えて貰えませんか?」とお願いした。
その瞬間フローレンスのテーブルの上にあった両手をハインツ様がグッと握りしめ「・・ダメだ。」と言いました。
「この前みたいになったら困るからね。」とひと言った。
「この前?」
「もう忘れたのですか?ほら、園芸用品店で男性に手首を掴まれて絡まれてたでしょ?」と言い出した。
「でもここは王宮ですし、それにハインツ様はお仕事ではありませんか?」と話すと「今日はお休みを頂いています。大丈夫ですよ。」と言われてしまいました。
「それにここの庭園見たくないですか?今日は特別に許可を得ていますので案内出来ますよ。」とフローレンスの心をくすぐる提案までされてしまいました。
「――うっ、見たいです。」と降参とばかりにハインツ様を見つめました。
ハインツ様は優しい笑顔で微笑み「了解しました。フローレンスさん。」と言いながらウェイターに声をかけてさっさと会計を済ませると、フローレンスをエスコートしてレストランを出ました。
歩きながらここの庭園は世界的に有名な建築家が設計から参加しており、ガーデナー達と力を合わせて作り上げた。と説明をしてくれました。なので植物を植える配置が独特な感性で、見ていてとても面白かった。また野菜を使ってガーデニングしたコーナーもあり、そこで外国の貴族の子供さん達が、思い出作りに収穫体験をされたりする事もあるとか。
あとフローレンスが1番興味深かかったのは、この辺りにはない東洋の庭園を模した庭園があり、全く見た事ない木がたくさん植えられていた事だ。
川が有り山がある。そんな言葉がぴったりだ。
我々の庭園は足し算の庭園だとすれば、この東洋の庭園は引き算の美しさがあった。潔いシンプルな美しさが心地よく感じ、しばらくここから目が離せなかった。
この東洋の庭園はハッキリと「ここには余計な物は要らないよ。」と言っていた。
「そろそろ次へ行きましょうか?」とハインツ様に声をかけられるまで動けなかった。それぐらい心を奪われてしまっていた。
「今の所が気になりましたか?」と歩きながらハインツ様が聞いて来られました。
「ええ、あの庭園は私たちに無駄な物は要らないって言っている様でした。私の考え方と正反対で衝撃的でしたね。」とポツリと話した。
フローレンスがそう話すと、ハインツ様は腕を組みながらしばらくジッと考え込んでました。
お互いがしばらく無言のまま歩き続けて、気が付けば図書館の前まで来ていた。「ハインツ様、ちょっとここで時間を取りたいのですが良いですか?」と話すと
「あぁ構いませんよ。ごゆっくりどうぞ。私の方は気にしないで下さい。」とヒラヒラと手を振り奥の方へと入って行かれた。




