さよならグラナダ
マリアンナ教会の玄関でカーネルさん達と別れ、そのまま馬車をサンダース家への玄関に回してもらった。
「お父様、突然行ったらびっくりされると思います。すいませんが私が先に降りてサンダース家の皆様に挨拶をします。声を掛けたらお父様もこちらへおいで下さい。」とフローレンスが提案した。
「ああ、わかったよ。それで良い。」と頷いていた。取り敢えず馬車から降りてサンダース家の玄関に立った。玄関のドアをノックして「すいません、フローレンスです。只今戻りました。」と声をかけると、リディア奥様が奥から出てきた。
「良かったフローレンスさん戻ってこれて。ちょっと心配したのよ。」と笑っていた。
「すいません、先に教会へ入って壁画を完成させてたんです。今日はこちらをお暇させて戴こうと思ってきました。」と言いながら、玄関に止めてある馬車へと戻りお父様に声をかけた。
お父様は馬車を降りると、玄関にいたリディア奥様に向かい
「こんにちは。娘のフローレンスがお世話になりました。私はトリニティのストーク・サフィノワと言うもの。ご挨拶が遅れ申し訳ない。」とリディア奥様にお辞儀をした。
「まぁ、サフィノワ伯爵様ですね。ようこそグラナダへいらっしゃいました。ただ今主人を呼んで参ります。」と言いながら中へ戻って行った。
しばらくすると旦那様が出て来られた。何だかびっくりしていらっしゃる。
「初めまして、ルーベンス・サンダースです。わざわざご丁寧なご挨拶をありがとうございます。」と畏まって一礼をした。
「いえいえこちらこそ。改めまして、ストーク・サフィノワです。この度娘が大変お世話になりました。これはうちの領地で取れるワインです。宜しかったらどうぞ。」と旦那様に手土産を渡した。
「すいません、早速で申し訳ないのですが、これから荷物を撤収させて貰えますかな?」と話すと玄関からマリーが入って来た。
「サフィノワ伯爵家のマリーと言います。フローレンスお嬢様のお手伝いで、こちらへ少し入らせて貰います。お時間かかりませんが宜しくお願いします。」と旦那様に挨拶をしていた。
マリーを離れへ案内する。そうすると歩きながら
「お嬢様、このお屋敷にも箱庭があるんですねぇ。」と目の前に現れた箱庭を見ながらマリーが話し出した。
「ええ、手の空いた時にお世話を買って出てたの。楽しかったわよ?」と話した。「まぁここにも離れが。うちとよく似てますねぇ。」とマリーも感心している。
離れに着くと2人で手際よく荷物を詰めて行く。重たい物はお父様が運んでくれた。
「旦那様、リディア奥様、大変お世話になりました。リックさんにも宜しくお伝えください。」と挨拶を済ませると、早々に馬車に乗り込んだ。
何とか自宅へ戻って来た。この日は荷解きもほどほどに早めに就寝した。
次の日、フローレンスはサンダース家へ手紙を書いていた。そう箱庭の件だ。
簡単なお手入れで庭が維持出来るように植物を選んであるので、是非とも引き続き頑張って欲しい。
時間が出来れば見に行きたい。その他お世話になった事も改めてサンダース家の皆さんにお礼を書いておいた。
それから2~3週間ほどたったある日の事、ずっと屋敷とアトリエの往復ばかりなので、フローレンスは箱庭を久しぶりに触りたくなっていた。ちょっと気温が暖かくなって来たので身体も軽いのだ。
箱庭に使う腐葉土と地面を程よく覆う、ほふく性植物が欲しくて久しぶりに外出をした。
もちろん1人では不用心なのでマリーと一緒だ。それでもお父様には渋られたが、「すぐに帰ってまいりますので。」と外出を決めた。
園芸用品を扱うお店に着くと、早速店内でかがみ込み、苗や園芸用土を眺めていた。
ああ、このお花可愛いわ。あの角に植えたらどうかしら?などと考えていると、後ろから「スーザン先生!!」と若い男性に声を掛けられた。
フローレンスは外ではペンネームで呼ばれても、絶対に答えないと決めているので無視を決め込んでいた。
次の瞬間、ぐいっと右手首を引っ張られ、立ち上がざる得なかった。右手首にずきりと痛みが走った。
強い力で引っ張られているので、なかなか振りほどけない。「違います、人違いです。」と言っているのに「先生でしょ?無視しないで下さいよ~。」と再度言われ、恐ろしくて相手の顔を見ることも出来ず、俯き涙ぐみながら震えていた。




