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馬車での会談


「今日はありがとう、フローレンス嬢。」馬車が走り出すと、ハインツ様からすぐさまお礼を言われた。


「こちらこそ変わったお料理でしたがお食事も美味しかったですし、もちろん展示会も楽しかったです。ありがとうございました。」と笑いながらお礼を伝えた。


「また、お誘いしても良いですか?」と聞いて来られたので「また仕事の都合が付けば。。。」と曖昧に答えて置いた。私自身が心の奥底でもう彼とこれ以上会うのは良くない。と感じ初めていたからだ。


突然、隣の席にハインツ様が移動して来られた。狭い馬車の中を移動してくるとは思わなかったので少々驚いてしまった。


「フローレンスさん、今、貴女は何を考えていらっしゃるのですか?」と真正面からハインツ様に聞かれていた。


「・・・・どうしてですか?特には何も。」と答えたが自分の考えを見透かされているようでドキドキした。


「・・・・もうご存じのはずだ、なのにその様な答えをおっしゃるのか?」と彼からの真剣な眼差しから目が離せなかった。


「えっ、何がでしょうか?ハインツ様、お願いです。もうよして下さい。これ以上言わないで下さい。」

私に強く真実を伝えようとしてくるハインツ様の目が怖い。


「私の気持ちです。フローレンス嬢、初めて見た時からお慕いしています。どうか私の物になって貰えませんか?」と言うと私の手を取り指先に口づけを落とした。


・・・・逃げたい。逃げたいけど馬車の中で逃げ場が無い。


「そんな焦った顔もただ私を煽っているだけだとお気づきですか?」とハインツ様はうっすらと笑っているのに怖い。何か分からない恐怖がある。


「辞めて下さい!ハインツ様。もうこれ以上は私に構わないで下さい。そう最初の時にもお話したではありませんか!」と答えた瞬間彼の目の色が変わった。


「んっ、んん!」


彼は体を素早く寄せると後頭部に手を回し、口づけをして来た。角度を変え執拗に口を攻められる。


苦しくて口を開けると彼の舌が入り込んできた。初めての口づけで生き物のように動き回る舌に驚き「いっ、嫌!」と彼を払い退けると

「もう今更無理です。私は貴女を思う事をやめられない。」と視線を合わせ彼は静かに私に告げた。





◇◇◇◇◇◇◇






「すいません、急ぎ過ぎました。貴女を泣かせるつもりは無かった。」


彼に言われるまで自分が泣いている事に気が付かないほど気が動転していた。


彼はポケットからハンカチを取り出し私の涙を拭き始めた。「お願いです。私を拒絶しないで下さい。貴女の世界から私を締め出さないで下さい。」と縋る様な目でフローレンスを見つめた。


「私は貴女の描き出す世界が大好きなのです。初めての作品の時からです。辛かった時、出来れば作品の絵本の中に入りたいと何度思った事か。」と目を伏せて話し出した。


「初めてあなたの作品を読んだ時は驚きました。こんな感性の持ち主がこの世に存在するなんて。(命を繋いだリンゴの木)は今でも大切な一冊です。」と言うと彼は目を伏せ黙り込んでしまった。




馬車の中の沈黙を破ったのはフローレンスの言葉だった。


「ハインツ様は今年24歳になられるんですね。」と急に話し出した私にびっくりされたようだ。


「私の事を少しお話ししますね。あの(命を繋いだリンゴの木)は私自身と言ってもいい話なのです。」気が付くと馬車は道の片隅に寄せられていた。


「今ではこうしてお出かけしたり庭をしたり出来るようになりましたが、ほんの数年前までは体も丈夫ではなくしょっちゅうベッドの住人でした。」


「祖母が箱庭を作ったのも直ぐに寝たきりになる私の為だったとも聞いています。生死の境をさ迷ったのも一度や二度ではありません。」


「ここまでお話したらもうお分かり頂けると思いますが、知識も教養も無い私は元より結婚は無いものと思っておりますし、子供だって産めるかどうか。そして何より祖母の残してくれた箱庭から離れるのがつらいのです。」


「ハインツ様の事は決して嫌いではありません。ですが想いあった所で未来がどうしても見えてこないのです。」


「お願いします。今ならまだ引き返せます。ハインツ様は素敵な方なのでこれからいくらでもご縁があると思います。もう私との事はここまでにして下さい。これ以上想いが深くならないうちに。」と思いを吐き出すかの様に話した。



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