一路グラナダへ。
あの馬車の中での出来事から3ヶ月たった。
あれからハインツ様からの手紙も届く事は無く、フローレンスの日常が戻って来た。
ただ1つだけ日常から離れた事があった。
「ふぅ。」とため息をつくフローレンス。
机の前で頬杖をついている。仕事用の原稿を目の前にしているが真っ白である。
ダメね。私。
自分で引導渡したんじゃ無い。でも思い出も印象も強過ぎた。忘れるには少し時間が掛かるだろう。
「お嬢様、お嬢様。」とマリーが話しかけている。はっ、ぼんやりしてた。
「マリーどうかした?」
「お嬢様、酷い顔色ですよ。最近夜休んでらっしゃいますか?」と聞かれた。
「ちょっと眠れなくて。そんなに酷い?」あまり自覚は無いんだけどね。
「酷いなんて物じゃ無いですよ。もう子供じゃ無いんですからきちんと休まれないと。」
フローレンスは力なく笑うと「そうね。気をつけるわね。」とだけ言った。
マリーはこうして1日の中で何度かアトリエまで様子を見に来てくれている。ちょっと片付けをしたり、ゴミを処分してくれたりと色々助かっている。たまに街まで文房具を買いにも行って貰っている。
そんなある日の事。
「そう言えばお嬢様こんな話ご存じですか?先ほどうちに出入りしている業者が配っていた物なんですがね?」とマリーが手に持っているチラシをフローレンスに渡した。
【求む!ボランティア!】
この度グラナダに新しく教会が建立されます。そこで壁画を描いてくださるボランティアを若干名募集します。
基本的には通って下さる方が優先ですが、近くの民家に間借りしながら(費用別途)通う事も可能。絵心のある方望む。
期間は作業進度にもよるがおよそ3ヶ月間。
「グラナダならここからそんなに遠く無いですし、たまには教会のボランティアも良いんじゃないですか?」マリーが私の心配してくれているのがとてもよく分かるわね。
「そうね。良いアイデアだわ。私もこのままでは情け無いわ。この話お父様に一度相談して見ます。マリーありがとう。」
この日の夕食後思い切ってお父様に声をかけた。
「お父様ちょっと宜しいですか?」
「何だねフローレンス?」
「実はちょっとこれを見て頂けますか?」とチラシを渡した。
「うーん、これに参加したいと?」
「はい、そのように思っています。ちょうどこの週末からですし。」
「お前も色々あったのは私でも分かる。いいよ。許可しよう。でも行くのは構わないがせめて週に1度でも手紙を書く様に。それが守れない様なら無理矢理にでも連れ戻す。」
「ありがとうございます。お父様。」
「今のお前は見るに耐えん。しっかりと自分に向き合っておいで。」と優しく笑って送り出してくれました。
当たり前ですがボランティアなので筆などの道具はこちらから持って行かないと行けません。
フローレンスはマリーと相談しながら荷造りを進めました。服装は平民の方と同じ様な物を。お金の方もあちらで贅沢さえしなければ自分の貯金で何とかなりそうです。
引き続きこの箱庭の手入れを庭師とマリーに頼んでおいた。
ちょうど仕事の方も一区切りついた所だったのも幸いでした。編集者の方に今の原稿は3ヶ月後で良いかと話した所OKを貰えました。
お父様が馬車を用意して下さり、従者の方が送りついでに住まいと作業現場をチェックして戻るそうです。
3ヶ月はちょっと長いので荷物は多いのですが泣き言なんて言ってられません。
それに、こうして色々と大変な状態だとハインツ様の事を考えずに済みます。自分で言った以上もう吹っ切らなければ。
さぁ、グラナダに向けて出発です。上手く行けばここへ帰ってくるのは春先になる。
私自身もひと回り大きく成長すると良いな。




