フローレンスのスケッチ
馬車はゆっくりと侯爵家の玄関口までたどり着いた。余程心待ちにしていたのかクリス侯爵は玄関まで出迎えてくれていた。
「やぁ、よく来てくれたね。フローレンス嬢。」
「お招きに預かり光栄です。本日はお迎えも寄越して下さりありがとうございます。こちら、父から預かって来ました。領地で取れたワインだそうです。」と手土産のワインを手渡した。
「私は家内のポリアンナよ。宜しくね。」とクリス侯爵様の隣にいる女性から手を差し出されました。私はその手を握り「フローレンス・サフィノワと申します。宜しくお願いします。」と握手を交わした。
「フローレンス嬢、本来なら昼食をここで食べて貰おうと思ってたんだが。。。
コイツが貴女と外で食べてくるから。と聞かなくてな。」と隣にいたハインツ様を肘で突いていた。
「とりあえずお茶でもいかが?フローレンスさん。家のパティシエは中々センスが良いのよ?」とにこやかに奥様がおっしゃられた。
「そうなんですね。楽しみです。甘い物には目が無いので。」と話すと
「そうよね。人生には甘いお菓子は重要よ!」と奥様がパチンっとウインクされた。
侯爵家夫婦とハインツ様と私でティールームでの時間は和やかに進んだ。
侯爵家のパティシエは確かに腕が良く、今はクリスマスを模したお菓子をたくさん並べてくれていた。これは目にも楽しいわ。
出されたお茶の品質も良く香りがとても豊かで、幸せな気持ちにさせられた。良い香りを嗅いだ時ってどうして時間の流れがゆっくりに感じるのでしょうね。
あと箱庭の話になり、作ったのが祖母だと話すと奥様はとても驚かれていた。
「フローレンスさん、そろそろ庭園へ行こうか?」と侯爵様がそわそわと待ち切れない様子。「はい、楽しみです。」と返事をするとハインツ様が「俺が案内するよ。」と言い出した。
「はは、これには参ったね。」と侯爵様が苦笑いしていた。
ハインツ様が手を差し出したのでその手を取り、庭園へと案内されました。私たちの後ろを侯爵家夫妻が着いて来ます。
「ここだよ。この部分が空いててどうしようかって悩んでたんだ。」と庭園の隅の一角を示されました。
周りとのバランスも見たかったので、他に植わっている植物もじっくりと見た。当たり前かもだけどここの庭園は男性の目線なのね。デザインがシンプルで大胆。でも私なら。。。。もう少し柔らかさが欲しいかなぁ。アイビーやヘデラなどを増やし曲線を増やすかな?
ここにチューリップが植わってるみたいだけど、春には桜草も咲くとより一層綺麗ね。咲く時期を少しずらして小手毬も入れておくと良いかも。
せっかくここまでエスコートしてもらったが、来た道を戻り、手荷物を取りに行った。ハインツ様や侯爵家夫妻は唖然として見ているが気にならない。
カバンからスケッチ帳と色鉛筆を出して元に戻った。そして庭を観ながら立ったままスケッチを始めた。
頭の中で考えるのと、実際に紙に落とし込み俯瞰で眺めるのは全然違う。
細かい所も描き続けて、この庭園の全体図から空いた部分の補充をどう入れるかを描いていった。
はっ、と気がつくと皆さんが不思議な表情で私を見ていた。
「すっ、すみません。私ったら描き出すと周りが見えなくなってしまって。」とひたすら謝った。
「凄いね、フローレンスさん。」とクリス侯爵様が目を輝かせていた。
「お粗末ですが。何かの参考になれれば幸いです。」とスケッチ帳から庭園を描いた部分を破り取り侯爵様に渡した。じっくりとご覧になられ、奥様もそのあと手に取って眺めていた。
「凄い!何て上手なの?」と奥様も感動していました。2人でしばらく紙を見ながらあーでもない、こーでもない。と言い続けてました。
「・・・・もう陽が落ちて居ますので、すみません。そろそろお暇させて頂きたいのですが宜しいですか?」と聞いてみた。
「あぁ、そうだね。そろそろお送りするとしよう。気がつかなかった。すまない。」とお詫びを受けました。
「いえいえ、お気になさらず。大丈夫です。」と返事をすると、横から「俺が送っていくよ。」とハインツ様がおっしゃったので「宜しくお願いします。」と頼みました。
「フローレンスさん、今日はハインツに振り回されただろう?今度からはもう少しゆっくり時間をとろう。」と笑いながらクリス侯爵様がおっしゃいました。
えっ、今度があるの?と思ったが「はい、わかりました。」とだけ答えておいた。
「行きましょうか?フローレンス嬢。」と手を取られ馬車までエスコートされた。
見送って下さった侯爵夫婦に改めてお礼を述べて馬車に乗り込んだ。




