14-2:「真剣勝負Ⅱ」
変な区切り方になりました、申し訳ありません。
魔法詠唱の上乗せにより、眼下の鉱石の林は密度を増し、剣山のごとき光景が広がる。そして伸びあがって来た鉱石柱の頭頂部に人の体が見え、クラレティエはほくそ笑む。鋭利な鉱石柱の先端が愚かな敵を貫き、己の目の前に獲物を献上しに来たのだと、彼女は疑わなかった。しかしその直後、クラレティエの表情から笑みが消えた。
「何――?」
頭頂部に見えた人の体が、敵の物であること自体は間違いではない。しかしそれは、クラレティエが望んだ亡骸としての形などではなかった。
彼女に向かってくるそれは、敵意と悪意と失礼を溢れんばかりに抱えた、恐怖の批判者一行だった――
制刻等を乗せた鉱石柱はみるみる成長し、頭頂部は夜空へ向けて突き上がってゆく。
「――っべぇッ!あやうくペッシャンコになっちまうトコだったッ!」
鉱石柱にしがみ付く竹泉が、眼下に視線を向けて言葉を漏らす。先程までいた地上は鉱石のトゲで埋め尽くされ、さらに密度が増したせいで鉱石柱同士のぶつかり合いが起き、所々で崩壊する模様が見えた。上空へ飛び出すのがあと一歩遅ければ、串刺になっていたかもしれない。あるいは鉱石柱同士に圧迫されるか、崩落した鉱石柱に巻き込まれて、押しつぶされていただろう。
「あぁ、けどコイツもあんまし賢い選択じゃなかった気がするなぁ――おい自由!飛び出したはいいけど、どーすんだコレ!」
眼下の修羅場から逃れるために、制刻に続いて飛び出す羽目になった竹泉等だったが、切羽詰まった状況下にある事は変わっていなかった。竹泉は視線を上へと移し、上昇する不安定な鉱石柱の上で、堂々と立ち構える制刻に向けて叫ぶ。
「お前らは適当なタイミングで退避しろ。他のトゲに飛び移って滑り降りて行け、ラぺリングの要領だ」
「お前ッ!自分ができるからって無茶ぶりばっかりして――ッ!」
シレっと言った制刻に対して、鳳藤が再び口調を荒げて泣き叫ぶ。彼女は制刻に首根っこを掴まれ、ほとんど中空にぶら下がっている状態だった。
「剱。串刺しにならねぇよう、うまくやれ」
「え――?」
制刻はそんな鳳藤に対して忠告を発する。そして次の瞬間、制刻は彼女を空中へと放り出した。
「――ひぎゃぁぁぁッ!?」
突然放り出された鳳藤は、悲鳴を上げながら落下して行く。そして近くにあった別の鉱石柱の側面に、べちりと張り付くのが見えた。
「よぉし。お前らも行け」
「カンベンしてくれ……!」
竹泉と多気投も鋼鉄柱の上から退避、近くの鉱石柱へと飛び移ってゆく。それを見届けた制刻は、不敵な笑みを上空へと向ける。鉱石柱は限界まで伸び切ったのか上昇を停止。その瞬間、まだ残る慣性を利用して、制刻は飛んだ。
「馬鹿な」
鉱石柱に飛び乗り上空へと飛び出した敵の姿を目にし、クラレティエの口から微かな困惑の言葉が漏れる。鉱石柱には複数の人影が取りついていたが、その中でも鉱石柱の頭頂部に見える人影は、そこに堂々と立ち構えていた。自分の鉱石柱を利用された事の不快感、そして何より敵の挑発的なその姿に、クラレティエは表情を歪めた。
「ッ、不愉快な真似をしてくれる。どうやら厳しい仕置き気が必要なようだ!」
機械剣に備わるブーメランを放って、鉱石柱の上に立ち構える敵を打ち落とすべく、クラレティエは愛用の大剣を振りかぶる。しかし、鉱石柱の頭頂部にいたはずの人影は、突如としてその姿を消した。
(何!?逃走――いや、違――)
一瞬、敵の落下もしくは逃走を疑ったクラレティエ。しかし、即座にその考えを切り捨て、構えを変えるべく体を動かそうとする。
「よーぉ」
だがそれよりも速く、クラレティエの視界は占拠された。彼女の視界いっぱいに、謎の襲撃者の姿が映り込んだのだ。
(な――)
そしてクラレティエは絶句した。
それは一瞬で目の前まで肉薄された事に対する驚きもあったが、それ以上に彼女を驚愕させたのは、目の前に出現した襲撃者の外見だ。異質な衣服を纏うその者の顔は、この世の存在なのかも疑わしい程に醜悪。左右で全く形の違う、不気味な造形の眼は、薄気味悪く笑いクラレティエを見下ろしている。
身の毛のよだつ襲撃者の正体は、他でもない制刻だ。鉱石柱を足場に跳躍した制刻が、クラレティエの目の前へとその姿を現したのだ。
「わざわざ案内してくれて、感謝するぜぇ」
制刻の生理的嫌悪を煽る歪な唇から、皮肉気な台詞が投げかけられる。その内容はもとより、台詞を発した際に垣間見えた、その者の気味悪く蠢く口内と、そこから流れ出る形容し難い不気味な声色は、クラレティエの前進の肌を酷く逆撫でした。驚きと、体験した事のない嫌悪感に、これまで端麗さを保ってきたクラレティエの顔が強張り、彼女の首筋に一筋の冷や汗が流れた。
(ッ!)
しかし、その程度で戦場での姿勢が鈍るクラレティエではない。ブーメランを放つべく振りかぶっていた大剣を、手首を巧みに操り持ち直す。そして目の前の醜悪な存在を断ち切るべく、肩に構えていた大剣を振り下ろした。目のも留まらぬ速さで行われた一連の動作の末に、目の前の醜悪な存在は、大剣により真っ二つに切り裂かれる――
「――ッ!?」
――事はなかった。
金属がぶつかり合う音と感触が、クラレティエの体に伝わる。クラレティエの振り下ろした大剣は、標的を切り裂く前に、彼女の頭上で〝何か〟に阻まれた。
そして――
「――ッ!?なぁ……ッ!?」
間髪入れずに、得体の知れない振動と、気味の悪い金切り音が彼女を襲った。
「ッゥ……!?これはぁ……!?」
想定外の現象に襲われ、さすがのクラレティエも思わず苦悶の声を漏らす。頭上に目を向ければ、彼女の握る愛用の大剣は、目の前の醜悪な存在が掲げる、奇妙な武器に阻まれていた。
チェーンソーだ。
制刻が片手で振り上げたチェーンソーが、エンジンを唸らせながら刃を回し、クラレティエの大剣を引っ掻いて火花を上げていた。
「どうした。見降ろされて、責められんのは初めてか?」
常識外れの鍔迫り合いの最中、クラレティエより若干目線の高い位置にいる制刻は、その醜悪な笑みで彼女を見下ろし、挑発の言葉を投げかける。
「――ッ!はぁッ!」
不快感に奥歯を噛み締めるクラレティエ。彼女は大剣を握る手に力を込め直し、チェーンソーを振り払った。そして制刻を鋭い目つきで睨みつけながら、クラレティエは跳躍。足場にしていた鉱石柱を離れると、背後に群立していた他の鉱石柱を伝って、後方へと引いて行った。
ほんの一瞬だったが、強烈な空中でのチェーンソーデュエルを終え、制刻は重力に引かれて落下してゆく。
「地に脚つけねぇと、やりずれぇな」
その最中、冷静な口調で呟く制刻であった。




