14-3:「選択の余地」
制刻のチェーンソーとクラレティエの機械剣がぶつかり合ったのと同じ頃。
「うぁぁぁッ!」
「フーゥッ!まるでスクランブルだぁ!」
上昇する鉱石柱から飛び降りた鳳藤等は、飛び移った先の鉱石柱を利用し、地上に向けて滑り降りていた。
「いでッ!?」
「だッ――ぶぺ!?」
地上への到達にはものの十数秒もかからず、鳳藤等は先の追加鉱石柱による埋め潰しを間逃れていた、比較的開けた場所へと着地。その際、受け身を取り致命傷は避けたものの、竹泉は尻を打ち、鳳藤はバランスを崩して再び地面に顔を擦り付けた。
「フゥッ!」
最後に降り立った多気投だけは、その巨体に似合わぬ身軽さでかろやかに着地してみせた。
「ぷぇ……クソ、こんなのばっかりだ!」
鳳藤は口許に着いた泥を拭いながら、渋い表情で愚痴を吐く。
「おい剱、へばってんな!とっととこのトゲ林を抜けちまうぞ」
「分かっている……行くぞ!」
竹泉に急かされて鳳藤は起き上がる。そして彼女等は鉱石柱林の出口を目指して駆け出した。着地地点は出口に近い場所だったようで、少し進んだ所で鉱石柱の林は終わり、元の開けた場所へと抜けた。
「竹泉、多気投、周囲を警戒しろ!」
林を抜けた所で、鳳藤は竹泉と多気投に指示を出し、自身も小銃を構えて付近を見渡す。
「自由と脅威存在はどこに……うぁッ!?」
その時、微かな地響きと同時に、開けた視界の向こうに、鉱石柱のシルエットが突き出るのが目に映った。鉱石柱は今までのように、多数が一斉に生えるのではなく、一本一本が一定の感覚を空けて、道筋を描くように生え連なってゆく。
「よぉ見ろ、奴だ!」
竹泉が、均等に並んだ鉱石柱群の上空を指し示して叫ぶ。そこに、鉱石柱の頭頂部を飛び移りながら、後方へ跳躍してゆく脅威存在の姿が見えた。
「あれは、後退しているのか……自由は!?」
「まさかぶった切られたかぁ?」
敵の姿だけが確認でき、制刻の姿が見当たらない事から、鳳藤等は制刻が脅威存在に撃退された可能性を疑い、顔に焦りの色を浮かべる。
しかしその次の瞬間、ズダンと、まるで隕石でも落ちて来たかのような衝撃が鳳藤等の目の前で巻き起こった。
「わぁ!?」
「ぼへッ!」
突然の衝撃と、巻き上がり降りかかる湿った土砂に、各々声を上げる鳳藤等。そんな彼等の前に現れたのは、他でもない制刻だった。
「健在だ、残念だったな」
豪快な着地によって帰還した制刻は、竹泉に向けて皮肉を発しながら、若干ひしゃげたチェーンソーを担ぎ直した。
「べっ……あぁ、まったくだ。程よくスライスされてスマートになった方が良かったんじゃねぇの?でぇ、奴は逃げてったみてぇだが?」
「少しビビらせて、調子を狂わせた。どうやら体制を立て直しに後退したらしい」
「逆を言えば、そう長くねぇ内に立て直して、戻って来る可能性大って事だろ?」
竹泉はクラレティエが後退していった方向を顎でしゃくりながら言う。
「そんな隙はやらねぇ。追いかけて、立て直す前にさらに殴ってガタガタにするんだ」
「一々簡単に言ってくれる……」
制刻の発案に、竹泉はウンザリした表情を浮かべる。
「ヘイ、なんか見えるぜ!」
その時、多気投が声を上げた。
「あ?」
竹泉は暗視眼鏡で、多気投が指し示した方角を確認する。すると夜空を背景に、跳躍しながらこちらへと迫る複数の敵影が見えた。
「チッ、取り巻き共だ!ノミみたいにピョンピョン跳ねながらこっちへ向かって来やがる!」
「目的は一体……彼女の救援か、それとも観測壕への再攻撃か……?」
同じく暗視眼鏡を覗く鳳藤が、敵の目的を推察しながら呟く。
「なんにせよ、跳ね返さねぇとなんねぇ。二手に分かれるぞ。竹泉、多気投、お前ぇ等はこの辺に陣取って、奴らを迎え撃て」
「いやヲイ、カンベンしろよ!何押し付けさらしてくれてんだ!」
制刻の指示に、竹泉は目を暗視眼鏡から外して見開き、抗議の声を上げた。
「じゃあ、逆がいいか?俺がここで奴らと遊んで、お前らがゲリ女を追っかけて潰す」
「……あー、分かった分かった。ここで奴らの足を引っかけりゃいいんだろ……」
制刻に提示された二つの案を天秤にかけ、竹泉は非常に面倒くさそうな表情で、この場での足止めを承諾する。
「……つまり私とお前だけで、脅威存在の彼女と戦わなきゃならないのか……」
そして傍らで会話を聞いていた鳳藤が、気が重そうにつぶやいた。
「所でよぉ、もしこっちの取り巻き連中の方に、やべぇのが混じってた時はどうしてくれんだ?」
「そんときゃしゃあねぇ、お前らは逃げろ。細かい判断は任せるが、とにかくやべぇに真正面からぶつかるのは避けろ」
「あぁ、言われなくても、そうさせてもらわぁ」
竹泉は吐き捨てるように言った。
「剱、行くぞ」
「はぁ……分かったよ」
竹泉に指示を伝えると、制刻は鳳藤を連れて、北へと逃げた驚異存在を追いかけていった。
「――ったく。さぁて、急ぐぞ多気投」
「へいよぉ」
それを見送った竹泉と多気投は、傭兵を迎え撃つため、少し行った所にある岩場へと駆け込んだ。
周辺は剥き出しの岩が連なり、背後は小さな崖となっている。大きな岩の一つを乗り越えてその岩の反対側の影に身を隠すと、竹泉と多気投はまず、小銃の弾倉入れの連なるサスペンダーや雑嚢、無反動砲の予備弾の入った背嚢等、かさばる物を全て降ろし、地面にひっくり返した。荷物を降ろすと、竹泉はまず自分の小銃へ弾を装填し直す。続いて84㎜無反動砲にも砲弾を装填して、遮蔽物とした大きな岩に立てかけておく。弾は、降ろした弾倉の中から必要最低限の数だけを取って弾帯に着け直し、残りの弾倉と無反動砲弾はすぐに取れるようにして地面に並べておく。
そこまで終えると、竹泉は雑嚢を開いて中身を漁りだした。そこから出て来たのは、スタンガンや催涙スプレー、警棒型懐中電灯等の防犯用品の類だった。これらは正式な装備ではなく、竹泉が私物として密かに隠し持っていたものだ。そして当然のことながら、これ等の危険物を隊内に持ち込む行為は、本来禁止されていた。
「ウェヒヒ!ビビりの持ち物ラインナップだなぁ」
「やかましい!お前も使えそうなモンあったら出しとけ!」
多気投のからかう声を一喝しつつ、竹泉は取り出した各種物品をポケットや弾帯を利用して身に着けていく。
「はぁ、こんなモンだろ。多気投、お前は?」
「あらまかオーケーだぜぇ」
多気投はMINIMI軽機をバシバシと叩きながら、ウヒヒと笑う。竹泉は多気投の準備が整っている事を確認すると、暗視眼鏡を構えて先を覗く。人間離れした跳躍を続ける傭兵隊は、竹泉等の隠れる岩場のすぐ近くまで迫っていた。
「数は一個分隊とちょいぐれぇか――よぉし多気投、お前はとりあえず奴らに向けて軽機をぶっ放してろ、細かくばらけた奴は俺が殺る」
言うと竹泉は暗視眼鏡を降ろし、自分の小銃を手繰り寄せて構える。
「よぉし、ぶっぱなせ!」
「イェーーーッ!!」
竹泉の合図で、多気投がMINIMIの引き金を絞り、戦端が開いた。
銃撃を受けた傭兵達は、跳躍を止めて地上へと降りる。そして身を低くし、地面を這うように走り、こちらへと迫って来た。
「飛ぶのを止めたな、地面を這うように来やがる!左右にばら撒け!」
「大放出だぁッ!フゥーーッ!」
夜闇の中で、陽気な声と景気の良い音が響き始めた。




