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13-5:「衝撃の鼓動」

「……」


 衛狼隊長、バンクスは地面に空いた穴に身を潜めている。そして彼は今、外の様子をうかがうために、穴の縁から顔を出そうとしていた。


「――ッ!」


 彼の目線が穴の外縁まで上がった瞬間、それを待ち伏せていたかのように、すぐ近くで爆炎が上がった。


「隊長、危険です!」


 バンクスは副官の傭兵パスズの手によって、穴に再び引きずり込まれた。


「糞!頭を上げることもままならねぇ!」


 地面にできた穴の中には、衛狼隊長バンクスを含む数名の傭兵が身を隠していた。

 ――親狼隊を救出すべく進撃した彼ら衛狼隊は、谷の半ばまで差し掛かった所で爆炎攻撃に襲われた。最初の一撃を皮切りに、爆炎や鏃が執拗に彼らの頭上に降り注ぎ、ごく短時間の間に彼らは大きな損害を被る事となった。かろうじてそれらの攻撃を逃れる事のできた者達は、爆炎攻撃によって各所にできた穴に、散会して身を隠した。皮肉にも彼らを襲った攻撃によりできた穴が、今の彼らの砦となっていた。


「魔法防御が効力を成してねぇ……親狼隊はこれにやられたのかッ!」


 彼らの頭上には、先の戦闘で親狼隊が用いた物と同様の、ドーム状の魔法結界が展開されている。だが敵の放つ爆炎魔攻撃はドームを悠々と素通りし、彼らに牙を剥き続けている。


「こっちからの攻撃はどうなってんだ!?スティアレイナは!?」


 バンクスは、穴の中央で魔導書を広げている術師達に問いかける。


「発動は続けています!しかしこの状況です……連携も取らず、補助魔法も無しに降らせるスティアレイナなど、効力はたかが知れています!」

「ああ、糞……ッ!」


 攻撃魔法スティアレイナは複数の術師の連携をもってすれば、強力な制圧魔法となる。しかし絶え間なく続く攻撃によって、再編成もままならず釘付けとなっている今の彼らに、連携しての攻撃など土台無理な話だった。


「剣狼隊への伝令は!?」

「さっき二度目を行かせました!しかし、この状況下で到達できたかどうか……!」

「糞ッ!どうする……どうすりゃここを突破できる!?」


 焦燥に駆られながらも、考えを巡らすバンクス。しかしその瞬間、穴の近くでまたしても爆炎が上がる。


「ヅッ!?」


 その爆風により飛散した破片の一つが、穴の中へと飛び込み、バンクスのこめかみ付近に直撃した。弱くはない打撃にバンクスは頭を揺さぶられる、血が流れる。


「……の野郎ォッ!舐めやがって糞がァッ!」


 焦燥に追われていた所に突如襲い掛かった痛みは、バンクスの頭に血を登らせた。その次の瞬間、彼は抜剣。己の剣を片手に、怒号を上げながら爆炎渦巻く穴の外へ飛び出そうとした。


「な!?隊長ッ!」


 真っ先にそれを見止めたパスズが、バンクスの腰に抱き着いてそれを止めにかかった。


「糞がァッ!ふざけやがってッ!俺の仲間どんだけ殺す気だぁッ!」


 降り注ぎ続ける一方的で理不尽な暴力を前に、バンクスは目を血走らせて凄まじい剣幕で叫ぶ。そのまま敵に向けて突貫せんとする勢いだったが、傭兵達が数人がかりで抑え込み、バンクスは再び穴へと引きずり込まれた。


「糞がァッ!降りてこい、ぶっ殺してやらァッ!」

「隊長……ッ!落ち着いて下さい!」

「押さえろ、傷が確認できない……!」


 興奮さめ止まぬバンクスは、怒号を吐き散らし続ける。傭兵達はそんな彼を抑え込みながら、彼への応急処置に取り掛かる。


(……ひどい)


 副官の傭兵パスズは、悲観に染まった顔で、横からその様子を眺めていた。


(こんな状態で突破なんて、ましてや親狼隊の救出なんて到底無理よ……そもそも、この状況じゃ親狼隊は恐らく既に……)


 立て続けに巻き起こる惨劇に、彼女の頭は悲観的な考えで埋め尽くされてゆく。


(撤退しようにも、味方が散らばり過ぎてそのための連携すら取れない……どうすれば――!)


 だがその時、その思考を断ち切るように、彼女の耳が音を捉える。風を切るような薄気味悪い音。この短い時間の間に、耳にこびりついた死の音色。この音の後に続くのは、人の体を容易に引き裂く炸裂の暴力だ。


「伏せて!また来るッ!」


 パスズは声を張り上げ、傭兵達は身を屈める。その直後、炸裂音が響き渡った。


「………?」


 パスズは妙な感覚を覚えた。耳に届いた炸裂音は控えめで、身を裂くような衝撃も無い。 そして顔を上げると、周囲に白い煙が立ち上がり出していた。




 数分前。

 制刻等の第2攻撃壕側では苛烈な戦闘が続いていた。塹壕の周辺には、ツララ状の鉱石がそこかしこに突き刺さっている。先の第1攻撃壕での戦闘で敵の傭兵隊が用いた物と同様の、魔法攻撃の跡だ。さらに、火炎弾による攻撃も加わり、周囲の芝生は焼け焦げている。

 しかし、こちら側の損害はまだ軽微な方だった。


「……酷い」


 眼下に視線を向けた鳳藤が、言葉を漏らす。

 崖の下では阿鼻叫喚の絵図が広がっていた。

 そこかしこが迫撃砲弾の着弾により掘り返され、砲弾や機関銃弾の餌食となった傭兵の亡骸が、無数に散らばっている。惨劇を目の当たりにした彼女の顔は、青く染まっていた。


「おぉい!奴さんズしつけぇぞ、いつまで続くんだよ!?」


 鳳藤の心情をよそに、脇で竹泉が声を荒げながら、12.7mm重機関銃の銃身を交換している。

 敵は砲撃と制圧射撃により、組織だった反抗こそして来てはいないが、弓撃や魔法による散発的な抵抗は依然として続いていた。


「ヘイヨォ、よろしくねぇ雲行きなんじゃねぇかぁ?こっちの敵ちゃんズもしつけぇし、何よりも向こうの施設大隊や武器の面子がピンチなんだろぉ?」

「嫌ぁな予感がプンプンしやがる」


 つい先ほど無線に飛び込んで来た、対岸の第21観測壕からの救援要請。第21観測壕の危機を耳にし、多気投等は焦燥に駆られていた。


《L2応答しろ、L1長沼だ。そちらの状況知らせ》


 そんな彼らの元へ、今度は長沼からの無線通信が飛び込んで来た。


「河義です、L2は未だ交戦中。先ほど迫撃砲支援の第7派が着弾、現在も壕からの攻撃は継続中、しかし敵の抵抗止まず――長沼二曹、第21観測壕の状況はどうなってるんです?」


 こちらの現状を報告した河義は、それに続けて第21観測壕の状況を尋ねる。


《落ち着け、順を追って説明する。まず、そちらの敵の状態を詳しく教えろ。戦闘継続能力は?まだ進行可能な程の余力を残しているのか?》

「いえ、砲撃により相当痛手を与えています。抵抗こそ続いていますが、少なくとも作戦継続能力は削いだはずです」


 河義は手鏡を塹壕と偽装シートの隙間から外に突き出し、崖下を観察しながら伝える。


《よし、L2よく聞け。今から迫撃砲隊が、そちらの周辺にスモークを混ぜた阻止砲撃を行う。L2はその間に第2攻撃壕を放棄、A1攻撃線まで後退しろ》

「は、後退!?今このタイミングでですか?」


 長沼の唐突な後退指示に、河義は表情を怪訝なものにし、疑問の声を上げる。


《河義三曹、落ち着いて聞け。第21観測壕のスナップ21だが、先の救援要請を最後に交信が途絶した》

「何ですって!?」

(!)


 疑問の声に対して返って来た長沼からの知らせに、河義は驚愕する。そして、無線でのやり取りを横で聞いていた、策頼の顔が強張る。


「通信が途絶?むこうで何が起こってるんです!?」

《皆目不明だ。だがこちらでは最悪の事態を想定している、第21観測壕はおそらくは壊滅に近い状態にあると思われる。ここまで言えば分かるな?第21観測壕の壊滅を前提とした場合、同攻撃線上にある君らの第2攻撃壕も危険だ。L2はただちに第2攻撃壕を放棄し、A1攻撃線まで後退。第11観測壕のスナップ11と合流し、体制を再構築しろ》

「……了解。第21観測壕への救援は?」


 長沼の説明を聞き、河義は了解の返事と、続け尋ねる言葉を返す。


《すでにこちらで進めている。現在、第21観測壕への増援分隊を編成中。ペンデュラムにもヘリコプターの支援を要請した。準備が整い次第、こちらから第21観測壕の救援――》

「そりゃ、よろしくねぇ」


 続け聞こえ来る長沼の言葉。しかしその途中で、それを遮るように別の声が割って入った。

 声の主は他でもない制刻だ。制刻は河義が持っていた無線のマイクを、横から引っ手繰る。


「ちょ、おい!」


 その行為を河義は咎めるが、制刻は構わず話し始めた。


「長沼二曹、ヘリは待機させてください」

《何?》


 突然の進言に、長沼の怪訝な声が聞こえてくる。


「さっきの救援要請で、敵は超人的な動きをしてると言ってた。そいつぁ、勇者の類かもしれません」

「!」


 勇者というワードに、隣にいた鳳藤が目を見開く。


《勇者……君達が何度か接触した、人間離れした能力を持つ存在だな?そんな存在がスナップ21を襲っているなら、なおさら強力な支援が必要じゃないのか?》

「強力な支援が必要なのは確かです、だがヘリは適切じゃない。奴等はふざけた跳躍力を持ってます。ヘリの飛行高度なら、ジャンプ一つで優に飛びあがるでしょう」

《何だと?》

「ふざけてるのは攻撃力もです。剣の一振りで、家屋や岩くらいなら悠々とぶっ潰します。おまけに他にも、得体の知れない気色悪い能力を持ってるかもしれません」

《………少なくとも今の環境で、ヘリコプターとの相性は最悪だという事か》

「そういう事です」


 制刻からの説明を受け、少し苦い色でしかし納得の言葉を返す長沼。制刻はそれに端的に答えた。


《了解、仕方がない。ヘリコプターの支援はキャンセルする。こちらは施設作業車を表に立てて、第21観測壕の救援に向かう。何にせよ、そちらはただちにその場から退避しろ》

「待った」


 そこで通信を終えようとした長沼だったが、制刻が再び待ったをかけた。


《何だ?》


 状況が状況なだけに、呼び止められた長沼からは若干イラついた声を返されるが、制刻は構わず続けた。


「いきなり奴らに、正面からぶつかるのはリスクがでかい。付け焼刃でよけりゃ、一クッション挟めるプランがあります」

《……言ってみろ》

「こっちから一組が第21観測壕に先行。居座ってる脅威存在を煽って釣り上げ、そのまま引きずり回します。主力増援分隊はその間に、スナップ21を回収して下さい」

「ちょ、をい!冗談だろッ!?」


 制刻の進言を端で聞いていた、竹泉が声を上げる。


《危険だ》

「えぇ、でしょう。だが、いきなり主力をぶち込むよりゃ、ソフトに行くはずです」

《誰が指揮する?》

「構わねぇようなら、自分が」

《……脅威存在を引き離し、引きずり回すと言ったがその後は?勝算はあるのか?》

「えぇ」


 長沼の問いかけに、制刻はなんの躊躇も無く端的に言って見せた。


《……いいだろう。制刻士長、任せる。先行班の無線識別は、〝エピック〟。いいな》

「了ぉ解――河義三曹、失礼しました」


 やり取りが終わると、制刻は無線のマイクを押し付けるように河義に返した。


「おぉし、聞いたな?剱、竹泉、投。俺と行くぞ、準備しろ」


 そして制刻は、三名を名指し。


「んな!?」

「おうぇッ。なこったろうと思ったぜ……!」

「ファーオ!マぁジかい!?」


 制刻からピックアップされた三名は、それぞれの反応を返す。鳳藤と竹泉に関しては、顔をおもいっきり歪めていた。


「オォイ、気は確かかぁ?その勇者だかなんだか知らねぇが、そいつはべらぼうに洒落にならねぇ存在なんだろ!?」


 危険な作戦に付き合わされることになった竹泉は、制刻に食って掛かる。


「全体像は未だ未知数だが、飛んだり跳ねたり弾けたりと、危険な存在なのは確かだ。今までは味方だったが、とうとう敵に現れやがった。まぁ、時間の問題だったようだがな」

「他人事のようにシレっと言ってんなよ!?そのやべぇ奴が暴れ腐ってる所に、足を踏み入れようってんだぞ!?どんだけの博打打とうとしてんのか、ちゃんとビジョンとして頭に浮かんでんだろうな!?」

「浮かんでるさ。どんなヤバさかは、ここまでで見て来たからな」


 捲し立てた竹泉に対して、制刻は端的にそう答えた。


「言ったろ、プランなら有る。第一、向こうの面子をみすみす見捨てるつもりか?」

「そうは言ってねぇけどよ……!」

「気は済んだか?グズグズしてる暇はねぇ、準備しろ」

「……最悪だッ!」


 選択肢が無い事を察した竹泉は、議論を止めて吐き捨てた。


(本当にな……)


 そして竹泉の吐き捨てた言葉に、鳳藤は内心で同意した。


「河義三曹、そういうわけです。俺が数人伴い第21観測壕に行きます。三曹はこっちの放棄撤退の指揮を」

「お前……本当に大丈夫なんだろうな!?」


 何食わぬ顔で言ってのけた制刻に対して、河義は険しい顔で問いかける。


「考えはあります。まぁ、こんな事態ですから、どうだろうと、やるしかねぇようです」

「……はぁ。策頼、超保、出蔵、我々は撤収準備だ」


 制刻の言葉に、河義は観念したかのように、ため息を吐いた。そして、残りの隊員に指示を出し始める。


「弾薬を最優先に持ち出せ。重機は本体のみで、三脚類は置いて――」

「待った。待ってください」


 だがそこで、河義の指示を遮り、策頼が声を上げた。


「自由さん、俺も同行します」

「オメェは残れ、撤収にもいくらか人手が要る」


 先行班への同行を名乗り出た策頼だったが、制刻はそれを拒否する。


「向こうには俺のダチや後輩がいるんですッ。強引にでも――」

「落ち着け」


 拒否されても険しい顔で食って掛かる策頼を、制刻は淡々とした口調で宥める。


「俺等がやるのは、敵の引きずり回しだ。第21観測壕の面子を実際に拾うのは、向こうの増援本隊がやる。ダチを救いたいってんなら、撤退作業を完了してから増援本体の方に合流しろ」

「…………」

「オメェの気持ちは理解できる、だが冷静になれ。俺等が、敵を引き剥がすまで様子を見ろ」

「……了」


 策頼は焦燥感を振り切れない様子だったが、制刻の言葉を承諾した。


「おぉし。オメェ等、準備いいか?」


 制刻は鳳藤等に聞きながら、塹壕陣地の隅に積載された工具類を漁りだす。

 そしてそこから、一つの機械工具を取り出した。


「……なんのために?」


 制刻が持ち出したそれに、鳳藤は顔を顰めながら聞く。


「コケ脅しさ」


 制刻は手にしたチェーンソーを一瞥し、そして一言答えた。

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