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13-4:「落下した一人、捕らわれた一人」

「冗談だろ……」


 誉が声を漏らす。鉱石群の隆起現象は、塹壕陣地にも牙を向いた。塹壕直下から突き出した鉱石柱によって塹壕は潰され、塹壕に残っていた誉と鈴暮は分断された。誉はかろうじて脅威を巻逃れていたが、直後に彼の目に飛び込んだのは、向こうで鉱石の先端に貫かれた美斗知の姿であった。


《――先輩!誉先輩、無事ですか!?》


 驚愕し言葉を失っていた彼を、インカムから響いた鈴暮の声が現実に引き戻す。


「鈴暮か!?お前生きてるか!?」

《俺はなんとか……そっちは大丈夫なんですか!?」

「俺は無事だが、美斗知がやられた……崖胃三曹の姿は岩に阻まれて、確認できん」

「そんな……」


 突然の超常現象、そして度重なる隊員の死。いよいよもって彼らの心は、危機感と焦燥に染まってゆく。


「あら、取り損ね?」

「!」


 そこへ声がした。誉が見上げると、目の前にできた鉱石柱の頭頂部に、ロイミの姿があった。


「鬱陶しいわね、おとなしく駆除されていればいいものを」


 言葉道理、彼女は害虫に対する愚痴でも言うかのような調子で発する。


「震える子犬を教え躾よ。従属の掟に歯向かいし罰を――」


 そして相手を冷めた目で見ながら、魔法詠唱を開始する。カラウ・ミリィと呼ばれる、対象の首に霧状の首輪を生成し、首を切断する魔法。先の祝詞を死に至らしめた現象は、この魔法によるものだった。


「鈴暮――お前は隙見て逃げろ」

《え?》


 誉はインカムの向こうの鈴暮に向けて言う。そしてサスペンダーから手榴弾を掴み取り、ピンとレバーを抜いた。


《ちょっと!?先ぱ――》


 鈴暮の言葉の続きを聞く前に、通信を切る。そして頭上の敵に向けて、手榴弾を投げ放った。先の崖胃を真似て、時間調節をして投げ放った手榴弾は、鉱石柱の頭頂部近くで炸裂。しかしロイミは炸裂よりも早く頭頂部から離れていた。


「しつこいわね」


 悠々と炸裂を回避し、軽い身のこなしで地上へ着地。そして詠唱を再開しようとするロイミ。

 その彼女の目前に、誉の姿と、彼が着き出した銃剣の切っ先が飛び込んだ。


「――ッ!?」


 誉はロイミの回避軌道を予測し、着地地点へ先回りしていた。炸裂と詠唱に注意の向いていたロイミは反応が遅れる。ほんの一瞬の差だったが、それが大きな隙となった。銃剣の切っ先がロイミに向けて突き進む。


「死ねェェッ!」


 殺意と叫び声と共に、銃剣を突き出す誉。

 しかし直後。ガキッ――と、肉を突き刺す音ではなく、物体同士の接触音が響いた。


「な!?」


 突き出された銃剣は、何者かに堰き止められた。誉とロイミ、両者の間に何者かが割って入っている。ロイミの使役魔であるリルだった。


「やぁっ!」


 彼はおもいっきり剣を振り、誉の銃剣を退ける。


「ロイミ!大丈夫!?」


 敵を振り払うと、リルは振り返り、主の身を案ずる。


「それより前を見なさい」


 しかし、リルンの気遣いの言葉にロイミは端的な言葉で返し、前を指し示して見せる。


「え?――うぐッ!?」


 リルンの腹部に鈍痛が走った。

 すぐさま立て直した誉が、リル目がけて打撃を撃ち込んだのだ。


「――野郎ッ!」


 誉はそのままさらに踏み込み、怯んだリル共々、ロイミを突き崩しにかかる。


「ふん!」

「ヅッ!?」


 だが突如、真横からの衝撃が誉を襲った。誉の横に現れたのは壮年の傭兵。その屈強な体から放たれた拳骨が誉を襲ったのだ。崖縁の方向へ、大きく吹き飛ばされる誉。


「ッ――畜生――」


 どうにか踏みとどまり、持ち直そうとする誉。しかし追い打ちをかけるように、強烈な衝撃が襲った。


「ヅゥッ!?」


 落雷だ。崖縁にまるで狙いすましたかのように、落雷が落ちた。


「……ぁ」


 ふらついた誉は、足を崖縁から踏み外した。そして彼の体は、薄暗い谷間へと落下していった。


「よし……!ロイミさん!」


 小柄な少女、ミルラがその場に現れる。先の落雷は自然現象ではなく、彼女の魔法による攻撃。本当に誉を狙って落とされたものだった。


「ロイミ嬢、ご無事で!」


 ミルラや壮年の傭兵始め、ロイミ配下の傭兵達がロイミの周囲へ駆け付ける。


「小僧!甘いぞ!あやうくロイミ嬢の身に何かある所だったではないか!」

「けほっ……す、すみません……」


 リルンを叱責する壮年の傭兵。


「……別にいいわよ、無事だったし。次からは気をつけなさい、私の使役魔としてはまだまだ未熟よ」

「う、うん……ごめん」


 ロイミの言葉に、リルンは謝罪しながら引き下がった。


「ロイミ、そちらも落ち着いたようだな」


 タイミングを見計らったかのように、クラレティエが配下の傭兵達と共に歩いて来る。


「ざんね~ん。いいとこもってかれちゃったみたいね~」


 クラレティエの横には副隊長格の一人であるセフィアの姿もあり、緊張感の無い声色を上げる。


「周囲にはセフィアの猟犬達が回ってくれたそうだ。とりあえずこの場はなんとかなったと見ていいだろう」

「ちっぽけな場所に、思ったよりも手間を取られたわね」


 やや機嫌悪そうにロイミは呟く。


「準備運動にはちょうど良かったな。しかし、異質な武器や道具を使う者達だった。逃げ帰ってきた翔狼隊の者達の言葉……あながち妄言でもなさそうだ」


 考えを巡らせながら、クラレティエは戦闘によって乱れた服装を直す。


「んっ……やはり少しきついな」


 装具を直すために身をよじるクラレティエ。


「うわ……」


 皮服によってラインの強調された体が艶めかしく動く様子は、傭兵達の目を引き付けた。


「なんか……やばい気持ちになってくるな……」

「すごいよね。あれだけの強さを持つ人なのに、あんなに……その、艶やかな……」


 ランスやヨウヤを始め、傭兵達は顔を赤くしながら視線を奪われている。ある者はそのまま見惚れ、ある者は目のやり場に困り視線を泳がせる。


「こらぁ、男共!やらしい目で隊長を見るなッ!」


 クリスが声を上げ、傭兵達は赤らめた顔を慌ててそむけた。


「隊長」


 服装を整え終えたクラレティエの元へ、若い傭兵の一人のルカが駆け寄る。


「ルカか、我が方の被害状況は?」

「数名負傷がでましたが、治癒魔法で治療中です。我々の行動には影響ありません」

「そうか。では整い次第、次の行動に移るとしよう」




(嘘だろ、先輩……!)


 周囲を制圧し終えて集結し、余裕すら見せるやり取りをしている傭兵達を、鈴暮は影から観察していた。遠くには鉱石に貫かれた美斗知の体が見える、そして立った今、誉が落雷に打たれ、崖下へ落下してゆくのが見えた。


(ッ……俺だけじゃ無理だ)


 残された彼一人での事態の打開は困難を極める。鈴暮は苦渋の思いで撤退を決断した。


「せめて先輩を……」


 撤退に際し、崖下に落下した誉だけでも回収すべく、思考を巡らす。


(少し行けば、崖が比較的なだらかになってる所があった。そこから降りれるはず……よし!)


 鈴暮は意を決して、鉱石柱の影から飛び出す。


(大丈夫、すぐに着く――!)


 崖の縁を目指して全力で走る。


「あ!?――ッぅ!」


 しかし瞬間、鈴暮は何かに蹴躓き転倒した。濡れた地面へ体を打ち付け、痛みに体を声を上げる。


「くすくす」


 悶える鈴暮の背後から、人の気配と笑い声がする。そこに、ロイミ配下のセミショートの女の姿があった。鈴暮は蹴躓いたのではない。この女に足を引っかけられたのだ。


「何逃げようとしてんだよー?」

「ぐぅッ!?」


 セミショートの女は倒れた鈴暮へと近づくと、ふざけた口調で言いながら、彼の背中を踏みつけた。


「仲間を置いて逃げるなんて薄情な子ね」


 さらに脇から、長身で髪の長い女が近づいて来る。現れた二人の女は、どちらも嘲笑うような笑みを浮かべていた。


「おら、こいっ」


 鈴暮はセミショートの女に襟首を掴まれ、引きずられてゆく。


「ロイミ、クラレティエ隊長?何か怯えて逃げ出そうとしてた、子犬ちゃんを見つけたんだけど?」

「つぅッ!」


 鈴暮は体を引きずり出され、傭兵達の前へと地面へ投げ出された。


「あら、まだ生き残りがいたの?」


 傭兵達の視線が、一斉に鈴暮へと集中する。


「ほう」


 その傭兵達をかき分けて、クラレティエが鈴暮の前に立った。


(ッ!コイツ……大剣を振り回してたバケモノ……!)


 今し方自分等をほとんど壊滅に追いやった脅威的な存在を目の前にして、鈴暮の体は強張る。


「聞こう、お前たちは何者だ?」


 傭兵達の中央にいるクラレティエは、鈴暮に問いかける。


「お前らッ!先輩達を――痛ッ!?」

「今、隊長が質問してんの。勝手に吠えてんじゃないわよ」


 セミショートの女が、声を上げようとした鈴暮の髪を掴み上げる。


「少し待て」


 だが、クラレティエがセミショートの女を差し止めた。彼女は鈴暮の前へ近寄ると、身を屈ませ、彼の顔を覗き込む。


「ふむ……この状況下でなお、目には闘志が灯っている。よい精神だ、育てれば良い猟犬となるやもな」


 言いながらクラレティエは鈴暮の顎に指先を伸ばす。


「失うには惜しい素質だ……どうだ?もし望むのであれば、君を猟犬として迎え入れよう」


 クラレティエは端麗な表情に笑みを浮かべ、凛とした瞳で鈴暮の目を見つめて言った。


「……くくく」

「?」


 しばらくの沈黙の後に、鈴暮が漏らしたのは小さな笑い声。


「……お姉さん、見た目は綺麗だけど脳味噌はかなり小っちゃいみたいだね?そんなんで人の心が動くと思ったの?」


 そして鈴暮は口角を上げ、クラレティエに対しての煽り文句を紡ぎ出した。


「普通、他人を犬だの何だの好き放題言うような奴に靡くわけないでしょ?ちょっと考えれば分かんない?……あぁー!ひょっとして後ろのお仲間さん達のせい?その人達、その見てくれに欲情して、コロッと靡いちゃったのかな?「ふぁぁ、あなたこそボクちんのご主人様にふさわしい人ですぅ」とかなんとか言って。そんな下半身忠犬ばっかり相手にしてきたから、お姉さんのちっちゃい脳味噌は勘違いしちゃったんだねぇ?くく……かわいそぉ」


 煽り言葉の締めくくりに、鈴暮はクラレティエを憐れむような目で見つめ、嘲笑ってみせた。


「ぐぅッ!?」


 直後、鈴暮の体に鈍痛が走る。


「貴様、隊長に向かってなんて事を!」

「調子に乗ってんじゃねーぞ!」


 周囲の傭兵達の敵意が、一斉に鈴暮へと向いた。傭兵達が寄ってたかり、鈴暮の体を蹴りつけ出す。


「お前達、品の無い真似はよせ」


 そこへ、傭兵達の手で、一度鈴暮から遠ざけられていたクラレティエが、傭兵達を制する言葉を発する。


「しかし、私の目もまだまだのようだな。猟犬となるには、少々気性が荒すぎる野犬のようだ」


 暴行を加えていた傭兵達を下がらせ、再度鈴暮の姿を見下ろすクラレティエ。

 そして次の瞬間、鈴暮の顔面すれすれに、彼女の手にしていた大剣が突き立てられた。


「ッ……!?」

「では、不本意ではあるがそれ相応の躾をせねばならんな」


 クラレティエは顔から笑みを消し、冷酷な声で言い放った。


「うわ、隊長怒ってるよ……」

「当然。隊長が温情を与えてくれたってのに、あんな態度を取ったんだもの」

「バカな奴だ」


 その様子を遠巻きに見ていた若い傭兵達が、ひそひそと会話を交わす。


「隊長」

「ルカか、どうした?」

「報告です。衛狼隊が向こうで苦戦しているようです」

「ふむ、予定ではこのまま崖に沿って進撃するつもりだったが……手を貸してやる必要がありそうだな。剣狼隊集合!」


 報告を受け、クラレティエが号令をかける。


「私とセフィアの隊で衛狼隊を助けに行くぞ。ロイミの隊はここで待機、別方向からの動きを警戒しろ。それと、この野犬の躾を任せよう。なにか聞き出せると良いな」

「分かったわ」


 クラレティエの指示にロイミはうなずく。


「私が猟犬達を率いて、衛狼隊を攻撃している敵を叩く。セフィア、お前は衛狼隊の援護に回ってくれ」

「うーん、クラレティエちゃん。私達だけで、衛狼隊をちょっときびしいかも~」


 セフィアは緊張感の無い声で、指示に難色を示す。


「それなら、私の猟犬を貸すわ」

「え~?うれしいけど、ロイミちゃんの所の人数が減っちゃうわよ、大丈夫~?」

「ふん。おかしな武器を使うけど、どうせこの程度の実力の敵よ。私と数人でなんとかなるわ」


 ロイミは地面に押さえつけられている鈴暮を一瞥し、ぶっきらぼうに言い放つ。


「ふむ、分かった。だが油断はするなよ」


 クラレティエは突き立てた大剣を引き抜き、背中に構える。


「よし!聞いていたな猟犬達よ、衛狼隊を援護に向かう。羊に突き立てる牙の準備はいいか!?」


 クラレティエの号令で傭兵達は再び沸き立つ。


「行くぞ!」


 そしてクラレティエを筆頭に、剣狼隊の傭兵達は跳躍。かろやかに崖を飛び降り、対岸を目指す。

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