十二話
レイセルを伴い、下級寮への道を歩む。
基本的に貴族は手荷物を持たず、従者に持たせるのが慣習だが、今日は何も持ち込んでいないので手ぶらである。
王立学園は、王城を囲む第一城壁に隣接されており、立地的には第二城壁で囲まれた貴族街に設立されている。王家直営である為、その敷地面積は広大で、校舎を始めとする建造物は内外共に最新のデザインや技術を更新反映しており、王家の権勢を如実に呈しているようだ。
というか事実、諸侯の子息子女に見せ付ける事で印象付け、親元にそれを知らせる役目を負わせているんだろうからなー。
所謂カルチャーショックみたいなものかね? 微妙に違う気もするけど。
「まあ、屋台骨がしっかりしてくれていると、地方領主としては安心だよな。」
「そうですね。……ですが、歴史が長い分、腐敗の根も深い物かと。」
「ん? ああ……あれな。」
俺たちの視線の先、複数の男子生徒が、二人組の女子生徒を囲んで何やら騒いでいた。
話の内容は、まあ言葉遣いだけは丁寧に見せかけた慇懃無礼で、集団で相手を威圧し、自分たちの意に沿う様に相手を誘導するもの。
具体的に言うと、下卑た笑みと下劣な感情を滲ませたしたり顔で、身分を嵩に自分たちの派閥への勧誘しつつ、寄って集って女生徒の身体にセクハラ三昧の真っ最中である。
既に泣きが入った二人の令嬢は、怯え竦み震えながら身を寄せ合って、それに耐え続けている状況だなー。
入学初日からようやるわ。
だがこんな光景も行為も、王国貴族としてみれば立派な『社交』に成るらしいよ。
貴族の社交って、ぶっちゃけて言うと派閥の構成員を最大にした物が勝ち、っていうもんだからね。乱暴な言い方すればさ。
多数が大きな声を上げれば、場の流れを支配出来る。一見すれば民主主義の多数決に似ているようで、実際はもっと醜悪なものだ。
貴族が行うそれは、貴族であるが故に平民の事などまったく考えず、派閥の最大権力者の利益と欲望を満たす為の意見しか上がらないのだから。取り巻きがそのおこぼれを頂戴するまでがセットでな。
前世の政治も、衆愚政治なんて言葉があったくらいに腐敗も不正も在ったが、世間にばれれば大衆に叩かれて失脚するという自浄作用が一応機能していた。だが、封建社会の王侯貴族の前では、平民がどれだけ不満の声を挙げようと貴族が没落することはまず無い。
権力を嵩に来た武力で、一方的に鎮圧されて終わりだ。そしてそれは、俺の故郷であるライハウント領も例外ではない。
先代である父上は善政を敷いていたらしいが、代を遡れば暴政で領民を苦しめた当主も相応に居たと聞いているし。母上や家臣たちからな。
まあ、それは今はいい。問題は目先のあの光景を如何しようか、だ。
モブ志望の凡才としてはスルーして歩き去りたい所であるが、このままだと令嬢二人は、どこぞに連れ込まれて確実に憫れ純潔を散らすことに成るだろうし。
貴族流の社交術で言えば『身体』で繋がる『友誼』も、立派な成果として見られるんだよなぁ……。例え無理矢理だったとしてもな。
身分が下の者は、上の者に何をされても泣き寝入るしかないのが現実なのだ。ホントろくでもねぇわ。
「取敢えず、子爵家嫡男の道を遮る莫迦は蹴飛ばしてもいいだろ。」
「はい、坊ちゃま。」




