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白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第一部 生き延びる

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第5話「単語が世界をつなぐ」

 ガルと出会って三日が過ぎた。


 二人の関係は、まだ言葉という土台を持たない、ひどく不安定なものだった。それでも、湊はこの三日間で確信したことがある。ガルは危険な人間ではない。むしろ、この世界を生き抜く知恵において、湊よりずっと優れていた。


 ガルは石斧の扱いに長け、木の実の毒の有無を見分け、風の匂いから天候の変化を読んだ。湊が持っているのは、現代の知識という別種の武器だけだ。二人は互いに、相手にしかないものを持っていた。


 問題は、それを分かち合う手段がないことだった。


 朝、湊は野営地の地面に木の枝で図を描いていた。太陽、水滴、炎――簡単な絵を並べ、それぞれを指さしながら、自分の知っている単語を口にする。


「太陽」


 ガルはその絵と発音を交互に見ていたが、やがて自分の言葉で何かを発した。湊にはまるで聞き取れない音の連なりだったが、繰り返し発音されるうちに、ある単語だけが浮かび上がってくるのがわかった。


「……タヤ、みたいな感じか?」


 湊はその音を真似て発音してみた。ガルは首を振り、もう一度、少しゆっくりと同じ単語を口にした。湊は何度も繰り返し、ようやくガルが小さく頷くところまでたどり着いた。


 これが、二人が最初に共有した「単語」だった。


 湊はレポート用紙の余白に、太陽の絵を描き、その下にガルの発音をカタカナで書き留めた。


『太陽=タヤ(仮)』


 この作業を、湊は一日中続けた。水、火、木、石、魚――目に見えるものから始め、次第に「食べる」「歩く」「痛い」といった動作や状態にまで広げていく。ガルもまた、湊の発する日本語の単語に興味を示し、真似て発音するようになっていった。


 夕方になる頃には、レポート用紙は絵と単語の羅列で埋め尽くされていた。湊はそれを見返しながら、あることに気づいた。


 ――これ、辞書だ。俺、辞書を作ってる。


 もちろん、まだ数十語にも満たない、ごく簡単なものだ。それでも、この一枚の紙が、湊とガルという二つの異なる世界を繋ぐ最初の橋になっていることは、確かだった。


 ガルもまた、この作業に興味を持ち始めていた様子だった。時折、自分から地面に絵を描き、湊に単語を尋ねることさえあった。互いに教え、教えられる関係――それは、単なる主従でも、庇護でもない、対等な協力の始まりだった。


 その夜、火を囲みながら、湊はふと気になっていたことを、身振り手振りで尋ねてみた。両手を左右に大きく広げ、「他に人はいるか」という意味を伝えようとする。


 ガルはしばらく湊の仕草を見つめていたが、やがて理解したように頷き、川の上流の方角を指さした。それから指を何本か立てて見せる。正確な数はわからないが、複数人――おそらく家族か、小さな集団がそこにいることを示しているようだった。


 湊の胸に、期待と不安が同時に湧き上がった。ガルという一人との信頼関係を築くだけでも簡単ではなかった。それが集団となれば、話はまるで違ってくる。


 だが同時に、湊はこうも考えていた。


 一人で生き延びるには、この世界は厳しすぎる。だが、集団になれば――知恵と力を持ち寄れば、できることは何倍にも広がるはずだ。


 湊はレポート用紙の新しいページに、その日学んだ単語をすべて清書し直した。絵と発音、そして意味。誰かに見せるためではなく、自分自身の頭の中を整理するための作業だった。だが同時に、いつかこれが誰かの役に立つかもしれない、という予感もあった。


『共通の言葉を作る。まずは目に見えるものから。絵と音を結びつける』

『ガルの部族は川の上流にいる模様。人数は不明だが複数人』


 書き終えた湊は、火の向こうで丸くなって眠るガルの姿を見た。三日前まで、赤の他人だった――いや、時代さえ違う存在だったかもしれない相手が、今はこうして同じ火を囲んで眠っている。


 言葉はまだ、ほんの片言だ。それでも、確かに何かが繋がり始めていた。


 湊は火に薪をくべ、空を見上げた。見慣れない星座が広がっていたが、不思議と、四日前の夜ほどの絶望感はなかった。


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【第5話 時点 文明発展状況】

人口:2人/漂着後 7日

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01 生存・サバイバル ★★☆☆☆ 二人体制での生活が安定化

02 食料・農業    ☆☆☆☆☆ 未着手

03 畜産・動物    ☆☆☆☆☆ 未着手

04 漁業・水産    ★☆☆☆☆ 継続的な釣りで食料を補完

05 狩猟・採集    ★☆☆☆☆ ガルの石斧による採集知識に着目

06 水・衛生     ★☆☆☆☆ 煮沸消毒を継続中

07 医療・薬学    ☆☆☆☆☆ 未着手

08 住居・建築    ★☆☆☆☆ 倒木の窪みを継続利用

09 土木・インフラ  ☆☆☆☆☆ 未着手

10 火・エネルギー  ★★☆☆☆ 火の管理を共同で実施

11 鉱業・金属    ☆☆☆☆☆ 未着手

12 製造・工業    ★☆☆☆☆ 骨製釣り針、貝殻容器を継続使用

13 科学・技術    ☆☆☆☆☆ 未着手

14 言語・文字・出版 ★★☆☆☆ 絵と発音による初期辞書の作成開始

15 教育・研究    ☆☆☆☆☆ 未着手

16 経済・商業    ☆☆☆☆☆ 未着手

17 政治・法律・行政 ☆☆☆☆☆ 未着手

18 外交・交通・情報 ★☆☆☆☆ ガルの部族(川上流)の存在を把握

19 軍事・防災・治安 ☆☆☆☆☆ 未着手

20 文化・娯楽・思想 ☆☆☆☆☆ 未着手

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【新規記述書物】『言葉の芽・第一葉』(絵と発音による初期単語帳)

【次なる課題】ガルの部族との接触、言語の拡充

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