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白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第一部 生き延びる

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29/106

第29話「東からの使者」

 貨幣という新たな仕組みが、村の暮らしに定着し始めた頃、これまでとは違う種類の来訪者が、村の門――かつての木柵は、今や立派な門構えを持つまでに発展していた――に姿を現した。


 最初にその一団に気づいたのは、見張り役についていた若者だった。丸太太鼓が打ち鳴らされ、村中に緊張が走った。だが、これまでの恐竜の襲来を告げる合図とは、どこか違う響きだった。


 湊が急いで門へと向かうと、そこには、これまで見たことのない服装をした一団が立っていた。ガルたちの部族とも、村の誰とも違う、独特の織物をまとい、荷を背負った、十人ほどの集団だった。


 彼らの先頭に立つ、壮年の男が、湊たちに向かって、両手を広げる仕草をした。武器を持っていないことを示す、明確な意思表示だった。


 湊は、ガルと共に、慎重に前へ出た。かつて自分がガルと出会ったときと、よく似た緊張感が、その場に漂っていた。


 男は、たどたどしいながらも、村の共通語に近い言葉を口にした。完全ではないが、意味は伝わる。「交易」「布」「塩」といった単語が、途切れ途切れに聞き取れた。


 湊は、驚きを隠せなかった。これまで村は、周辺のいくつかの小さな集団としか接触してこなかった。だが、この一団は、明らかにもっと遠方から、しかも交易を目的として、意図的に村を訪れているようだった。


 男は自分の名を名乗った。「ヤズ」。東の方角――村がまだ足を踏み入れたことのない土地から来たのだと、身振りを交えながら説明した。


 湊は、ヤズたちを村の中へと迎え入れることにした。もちろん、警戒を完全に解いたわけではない。ガルをはじめ、村の若者たちが、それとなく周囲を固めながら、一行を集会所へと案内していった。


 集会所で、ヤズが荷を解くと、そこには、村ではまだ手に入れていない、様々な品々があった。特に湊の目を引いたのが、塩だった。これまで村では、保存食作りに塩を使うことができず、燻製や乾燥という手段に頼らざるを得なかった。もし安定して塩が手に入るなら、保存食の質と種類は、飛躍的に向上するはずだった。


 他にも、村では見たことのない色合いの染料や、特殊な織り方をした布、そして、村の周辺では採れない種類の鉱石なども、ヤズの荷の中に見受けられた。


 湊は、これは単なる偶然の来訪ではなく、村にとって大きな転機になり得ると直感した。これまで村は、自分たちの土地の中だけで、知恵と技術を積み重ねてきた。だが、外部との交流が生まれれば、村にないものを手に入れ、また村が持つものを、外に届けることもできる。


 湊は、ヤズとの交渉に、慎重に臨んだ。まず、村で作られた「輪」――貨幣を見せ、それがどのような仕組みで機能しているかを説明しようと試みた。だが、ヤズの集団は、独自の交換の仕組み――どうやら、彼らもまた、何らかの形の貨幣、あるいはそれに準ずるものを持っているようだった。


 言葉の壁は、まだ厚かった。だが、湊はここでも、絵を使った意思疎通を試みた。地面に、塩の絵と、村で余っている作物や工芸品の絵を描き、その間に等価の記号を置く。この単純な図解を通じて、少しずつ、双方が納得できる交換条件が、形作られていった。


 最初の取引は、決して大規模なものではなかった。だが、村が持つ余剰の穀物や、イワが作った装飾陶器と、ヤズが持ち込んだ塩や染料を交換するという、初めての「外部との交易」が、確かに成立した。


 この日の夜、湊はヤズと、集会所で共に食事を囲みながら、さらに多くの情報交換を試みた。ヤズの一団が、東の方角に、村よりもさらに大きな集落――もしかすると、すでに「国」と呼べるほどの規模の集団を持っているらしいことも、断片的な会話の中から見えてきた。


 湊の胸に、期待と同時に、新たな緊張感が湧き上がった。この世界には、まだ湊の知らない、様々な文明の萌芽が、それぞれの場所で育ちつつあるのかもしれない。それは、村にとって、貴重な学びと交流の機会になると同時に、いずれは、より大きな力を持つ勢力との接触――時に対立をも意味するかもしれなかった。


 湊はレポート用紙に、この日の出来事を書き記した。


『東方より、交易商人ヤズの一団が来訪。塩、染料、布などを持ち込み、初の外部交易が成立』

『ヤズの話から、東方により大きな集落、あるいは国家的な集団が存在する可能性が示唆される』

『交易は村に大きな利益をもたらすが、同時に、外部との関係構築という新たな課題も生まれる』


 書きながら、湊は、これまでとは異なる種類の「発展」の局面に、村が差し掛かりつつあることを、強く実感していた。内側を耕し、育てる段階から、外側と繋がり、比較され、時に競い合う段階へ。


 夜が更け、ヤズの一団は、村が用意した宿泊場所で休むことになった。湊は、集会所の外に出て、夜空を見上げた。東の方角――ヤズたちが来たという方向に、湊はしばらくの間、視線を向け続けていた。


 この道の先に、どんな世界が広がっているのか。湊の胸には、これまでにない種類の好奇心と、確かな緊張感が、静かに交錯していた。


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【第29話 時点 文明発展状況】

人口:45人/漂着後 480日

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01 生存・サバイバル ★★★★★ 継続中

02 食料・農業    ★★★★☆ 継続中

03 畜産・動物    ★★★☆☆ 継続中

04 漁業・水産    ★★★★☆ 継続中

05 狩猟・採集    ★★☆☆☆ 継続中

06 水・衛生     ★★★★☆ 継続中

07 医療・薬学    ★★★☆☆ 継続中

08 住居・建築    ★★★★★ 継続中

09 土木・インフラ  ★★★★★ 継続中

10 火・エネルギー  ★★★★★ 継続中

11 鉱業・金属    ★★★★☆ 継続中

12 製造・工業    ★★★★★ 継続中

13 科学・技術    ★★★★☆ 継続中

14 言語・文字・出版 ★★★★★ 継続中

15 教育・研究    ★★★★★ 継続中

16 経済・商業    ★★★★☆ 初の外部交易が成立、塩の入手が実現

17 政治・法律・行政 ★★★★☆ 継続中

18 外交・交通・情報 ★★★★☆ 東方の交易商人ヤズと接触、外部世界の存在を認識

19 軍事・防災・治安 ★★★★☆ 継続中

20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 継続中

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【新規記述書物】『東方交易記・第一葉』(ヤズとの初接触と交易の記録)

【次なる課題】塩の活用法の確立、東方勢力の実態把握、継続的な交易関係の構築

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