124.桃源郷8
アイリーンが『桃源郷』と名付けたケンタウルス座アルファ星にある地球人の移民先になっている人工惑星C2はおうし座イプシロン星ヒアデス星団のアイン星人が管理している。
そこの最高指揮官シュタイン総括支配人とエリダヌス座アケルナル星ウッディ族妖精エントリーはC2表層にある受入れ初期生活ドームのコントロールルーム監視モニターで眠りに落ちた二人がテレポートで生活ドーム内に現れた時から見ていた。
「思っていた以上に倒れるのが早かったですね」
全身が薄緑色をしたエントリーが残念そうに言う。
「もう少し頑張ってくれると期待したのにな」
プロレスラーみたいな体躯をしてるのが特徴のアイン星人シュタインがそれに答えた。
彼らは地球の重力より高い環境下で生活しているために体の構造が頑丈になっている。
「私はこんなもんだと思ってました。オビス司令官の評価が高すぎたのではないかと思います。実質共にまだ子供みたいじゃないですか」
エントリーが付け加えた。
「結果的にはそうだったんだろうけどさ、オビスが優秀な子供たちだからって言ったんだよ」
「今いない人に責任を押し付けるのは悪い癖ですよ、そうやって今の地位までのし上ってきたのでしょうけど」
「嫌なことを平気な顔して言うなあ、僕はちゃんと経験と実績を積んで誰からも後ろ指を指されることなくここまでまっとうに昇進して上がって来れたんですよ」
「それはそれは大変だったんですね、でも普通の人には与えられない強運の恩恵はあったんですよね」
「これはまた恩着せがましいことを言うようになったねえ昔は本当にしおらしくて可愛かったのに、分かってるよエンちゃんが側にいてくれたお陰だってことは……そう毎日感謝してるって」
「私もですよ、あの時あなたに助けてもらわなかったら宇宙の藻屑になっていたでしょうから、それとその呼び方はやめてって言ってるでしょう」
「わかったよエントリー、僕はあだ名で呼ばれても大して気にしないのになあ」
「そうでしょうけど名前には大きな意味があって大切なものなのですよ、あなたの言い方だとポチやタマと同じように呼ばれているのではないかと思ってしまって怖いの」
中央管制塔のコントロールルームでシュタインとエントリーが話し始めて30分が経過した頃になって二人が無事に救助され今はメディカルルームで眠っていると連絡が入ってきた。
「あの二人は無事に回収できた様だね起きたらびっくりしてくれるかなあ、楽しみだなあ女の子はアイリーンで男の子が豊福昴くんか彼はアイリーンのことを愛鈴と呼んでるみたいだけど特別な意味があるのだろうか」
「二人のプライベートにはあまり踏み込まないってオビスと約束したでしょう」
「約束はしたさ、でも必ず守るとは言ってないし大したことをしないなら大丈夫だよ」
「そんな屁理屈は私が居ないところで言って下さい。私は許しませんから」
「だって生きのいい男女ペアの子供だよ、それも二人ともイノマン絡みの曰く付きときているスーパーレアじゃないかこっちも相応のリスクを負ってるんだから少し位なら許してくれるさ」
シュタインはあんなことやこんなことを想像してウキウキしだす。
「・・・」
もう少しで踊り出すんじゃないかと思われた時エントリーの無言の圧に押されて静かになった。
「思い留まってくれて私も安心しました」
コントロールルームに静寂が訪れた頃、扉の陰からイノマンが現れる。
イノマンが部屋に入ろうとしたら二人の会話が最高潮に達していたので最後の一歩を踏み出せずに扉の陰で待っていた。
「おやおやイノマン先生じゃないですか何時から居らっしてたんですか」
シュタインはバツが悪そうにして聞く。
「君が『約束は破るためにあるものだ』とか言った辺りかな」
「嫌だなあ僕はそんなこと言ってませんよ……言うわけないし」
「それは良かった。どうやら私の聞き間違いだったらしい」
「あの子たちどうだった、無事に回復出来るかしら」
アイリーンと昴くんの様子をメディカルルームまで見に行って戻ってきたイノマンにエントリーが尋ねる。
「大丈夫だ今はサロメが面倒を見ている。あの子らにはいい勉強になったと思う」
「厳しいのね」
「何回か忠告したんだがな『跳ぶ時には回りの空気も一緒に持って行け』とね、全く今回は初期化が激しかったなまあこんな状態の中でも昴くんが無事なのは褒めてやらなくてはな、あとシュタイン君あの二人は私の子供たちだから手を付けられるのは困るんだよ」
「本当ですか、確かイノマン博士って独身でしたよね」
シュタインはイノマンと付き合えるほどの包容力がある女性が存在したのかと驚く。
「何かがあるとは思ってましたけどそこまで深い繋がりがあるとは思いませんでしたよ」
シュタインが続けて言う。
「お子さんと言いましても遺伝子学上のですよね、イノマン博士の得意分野ですものでもアイリーンさんはそうでしょうけど昴くんは違いますのでしょう、まあ子供みたいなものだと言われればそうでしょうけど」
エントリーは冷静に分析しながら落ち着いて答えた。
「エンちゃ……エントリーにはアイリーンはイノマンの子供だけど昴くんは違うんだって分かるんだ」
「そうよ私たちがイノマン博士に人の生気をどれ程まで読めるのか試されているのよ」
「へえ~、あの二人の生気の違いが読めるのかい」
「完全に読めなくてもね情報を集めているとアイリーンって子供はイノマンの実子だって事になるのよ、昴くんについては情報がなさすぎるのよねだからイノマンとの関りはないと想定したの、だけどアイリーンと同じ波動の生気を感じるのよね」
「まあまあの及第点だな」
「まあまあってのは厳しすぎるんじゃないですか、プンプン」
エントリーは拗ねて見せる。
「その通りだが、お前も妖精族なら情報がとか言わずにだなもう少し自分の能力に頼ってもいいのではないかな、その通りアイリーンは私の直系の実子だな昴くんについては……説明が長くなるので結論だけ言うとアイリーンが体内に入れて守っていた『幽体』の転生者だ。二人ともに実年齢は16歳だ」
イノマンは面倒なのでアイリーンの歳を誤魔化した。
「え~っ、生まれてから16年しか経ってないのにあの行動力ですか、特に女の子の外見は成人してる様に見えますけど地球人が短命なのを考えても早熟すぎませんか」
(しかし無鉄砲なところなんかはイノマンに似てるのかもな)
シュタインはそう思った。
(アイリーンのバーナード星までのテレポートが本当ならその秘められた力は計り知れないものがあるわ、何とか手助けしてもらえないかしら)
エントリーは仲間にできないだろうかと考え込む。
「あなたねもっと別に驚くところがあるでしょう」
エントリーの目が『言ってごらんなさいよ』と催促している。
「『魂』ではなくて『幽体』って言った意味を解釈すると昴くんは二重人格者だと言うことで良いのですよね、別に驚くほどの事ではないでしょう。一瞬クローンなのかなとも思ったんですけどそれ程似てませんからね」
エントリーはその説明でほぼ納得した。
「まあ何だその辺の経緯も含めてエントリーには相談したいことがあるので宜しく頼む」
イノマンが神妙になっている。
会話が途切れたタイミングを見計らったかのように館内通話の呼び出し音が鳴った。
いま現在このコントロールルームには三人だけなのでシュタインがインターカムを取って話す。
「サロメからだけどアイリーンが目覚めそうなのでイノマンにもう一度戻って来て欲しいだってよ」
「わかった、直ぐに行くと返事してくれないか」
イノマンはそう言うと手を振りながら出て行く。
「イノマンは私に相談したいことがあるって言いながら何だか逃げる様に出て行ったと思わない」
「そうだと思うよ、僕は君が破天荒な見返りを要求する前に逃げ出したんだと思う。賢明な判断だよ」
(そうか、しまったなあ見返りを要求できるんだ。今からでも遅くないはずたから何か考えておこうっと)
シュタインは余計な入れ知恵をしてしまったかもしれないな不味いことにならなければいいのだけどと思う。
イノマンがメディカルルームに入ると一つのベッドに並んで寝かせられているアイリーンと昴くんの側へ行く。
「直ぐに来てくれて良かったよ、アイリーンが先に目覚めたら不愉快な思いをするだろうからね」
サロメが安堵の吐息を漏らす。
イノマンは他にも空いてるベッドがあるのに何故一緒に寝かせられてるんだと聞かれた時の事を考える。
「そうだな、これは起きたら一悶着ありそうだな」
サロメが危惧している事とは内容がずれているのに気付いてはいたのだけどあえて説明せずにそのまま言う。
「私は出て行ったほうが良さそうだから後は任せる」
サロメがそう言って部屋を出て行きかける。
「う~ん、起きなきゃ……誰が来たんだって」
人声に反応するようにして昴くんが目を覚ます。
「昴くん、意識ははっきりしてるかな」
イノマンが声を掛ける。
「あれ、九論さん久しぶりここは天国……じゃなくて地球人の移民星で間違いないよねどうして九論さんが居るの?」
「その前にアイリーンを起こしてくれないか、信じられないほど良く寝てる」
そう言われて横を見る。
(本当だ愛鈴が寝息をたててよく寝てるよ)
「愛鈴、起きて……愛鈴起きて、九論さんが来てるよ」
昴くんは優しく声を掛ける。
「起きないなあ~、愛鈴起きてねえ起きなよー」
今度は肩に手を掛け体を揺すった。
「う~ん、おはよう昴くん、うち達いつベッドで寝たの」
アイリーンは昴くんに助けられながらベッドの上で上体だけ起こす。
昴くんが気恥ずかしそうに見詰めている。
「おはようアイリーン気分はどうかな」
横合いからイノマンの声が降り掛かる。
イノマンの出現にアイリーンは目を見開いた。
「九論が居るよ~、ここは天国なのかなあ」
メディカルルームにアイリーンの寝ぼけ眼の声が染み渡っていく。




