179.別れの予感3
「そんな大事なことをスターキッドAIが片手間にやっていて大丈夫なんですか『間違えちゃった……テヘ』では済まされないんじゃないかと思うよ」
「皆そう言うんですよね悲しいです。それでアシュラが基地へ行ったら専従でそういったことを行うそうですよ」
ロボちゃんが言う。
「そういう意味で人手不足なのね分かったわ、だったら仕事がなくなったら戻ってくるわね」
アイリーンは一人で納得した。
(戻ってくるかどうかその時にならないと分からないと思うけど今は話を合わせといたほうが良いみたいだよな)
「そうだよね、それと今日はここに泊まっていくんだよね、イ……九論さんが泊まってくって言えばアシュラさんとピエロさんも一緒に泊まれたのにね」
昴くんが言う。
「あっちにはあっちの事情ってもんがあるのよ、基地へ戻るシャトルは1隻だけだったでしょう往復させるわけにもいかなかったんじゃないかしら」
「それもそうだね(スターキッドが英雄になっちゃって目立ち過ぎるので基地には行かない方が良いって、とてもおかしな話なんだけどさ)でもそのお陰と言っちゃ悪いんだけどさレヴィとリバイヤサンがこの部屋で寝れる様になったんだから良かったよ」
「ツインのスリーベッドルームだって言い回っちゃったものね、本当はゲストルームが他にもあるんだから別々の部屋に泊まっても良かったのよね」
「愛鈴がジャングル風呂もあるんだって自慢するからだよレヴィがすごく楽しみにしてたよ、(アシュラは何だかすごく悲しそうな顔をして九論に付いて行ってたなあ)でももし別々のゲストルームで寝てたりしたらレヴィのお父さんが夜中に具合が悪くなってないかって君は心配しだすんじゃないかなあ」
「心配する時はたとえ隣に寝ていたとしても心配するわ、それこそ一晩中でも顔を見てないと落ち着かなくなるわよ」
「そんな……寝顔を見られてたら気配を感じて起きてしまうよ」
(あら、あなたは熟睡してたじゃない)
「それにしてもレヴィたち遅いわね~迷子にでもなってるんじゃないかしら」
「医務室で包帯を仕入れてくるって言ったけど他にも色々やってるんじゃないかなあ、案内人が付いてたから迷子になる心配はないと思うよ……寄り道はするかもしれないけどね」
「やっぱり隣のゲストルームに入ってもらえば良かったかしら」
「そうですよね、そうすれば久しぶりに二人っきりの夜を過ごせた筈なのにですね」
リビングテーブルの上に置かれたロボちゃんが言ってくる。
「そうよね~桃源郷から帰ってきてから(あの時だったわね最後に昴くんの寝顔をまじまじ見れたのは)何だかんだで三人きりにはなってないわね」
アイリーンが軽く受け流す。
「僕たちの傍には必ずスターキッドAIが居るからねロボちゃんやロボ君も同一AIだしね」
「いつもじゃなかったですよ、桃源郷にジャンプした時と最初にこの艦へ来た時とか度々置いてけぼりにされましたよ~プンプン」
ロボちゃんは拗ねる態度を取りたかったけど手も足も動かせない抱っこちゃん人形なので口だけてしか表現できないもどかしさを感じている。
(アシュラは僕を羨ましいって言ったけど、僕はやっぱり人の身体を持っているアシュラが羨ましいや)
「そういえばそうだったかしらね謝っておくわ、ごめんなさい」
「まあ良いでしょう不可抗力ってのもありますからね、あとお休みになる前に僕をコンピューター端末に接続してくださいねデータ共有をしときますので」
「そうなのね分かったわ、ご飯は食べたしレヴィたちは帰ってこないからもうシャワーを浴びて寝ることにするわ」
「ジャングル風呂には入らないんだ」
「今日は色々疲れたわ今ジャングル風呂に入ったら沈んでしまうと思うのよ、ア~フ……じゃあそういうことで先に休むからレヴィが帰ってくるまで待ってるのよね……それとうちが寝てる隣のベッドで休むのよね隣のゲストルームに行ったりしないでよ人手が余計に掛かっちゃうでしょう、そうね……うちと一緒に寝ればベッドメイクの人が楽をするかもだわよ!」
「愛鈴、君は思いのほか疲れてるみたいだから、もう何も考えずにお休みなさい」
「そうね、グッナイトベイビーだわ」
そう言ってロボちゃんを抱え、手を振りながらベッドルームへと去っていくアイリーンを首を横に振りながら見送った。
リビングルームからベッドルームへ向かうアイリーンを一人で見送った昴くんがレヴィとリバイヤサンが今にも入ってくるんじゃないかと思われる扉をじっと見詰めていると封じ込めていた思いが浮かび上がってしまう。
それはピエロが言ったクローン体としての寿命が尽きた発言についてだった。
最初に聞いた時は地球までアイリーンに付いて行って助けになれば良いとイノマンに嘆願して延命させてもらったと言っている。
地球から戻ってきてB99の立食パーティーが終わった後でピエロは黙って居なくなっていた。
最後に聞いた言葉はパーティーの最中に言ってきた『コバルト妖精のお陰でここまで元気に戻って来ることができた、お礼を言うよありがとう。ちょっと帰りにイノマンいや九論の所に寄ってくるから後でまた会おう』だ。
二人はピエロが言った『後でまた会おう』は『さようなら』の同義語だと思ってしまう。
アイリーンは『もう元気になったんだし今さら九論の所に行かなくても良いんじゃないかしら』と言いたかったのだろうけど最初から涙声で何て言っているのかわからなくなってしまっている。
昴くんも何か言わなくてはと口を開きかけたけど泣き出しそうになったので黙ってしまう。
でも心の中では『次に会うピエロさんはもう僕たちが知らない新田さんなんだよね』と言った。
ピエロの最後を看取るのはイノマンただ一人だけだろうとも思っている。
今までの経緯を知るスターキッドの面々で納得しているのは遠い未来で自分もピエロと同じ運命を送るであろうことを覚悟しているアシュラだけ、昴くんは納得しがたい気持ちを隠せない。
(だいたい九論が以前に言ってたよねクローンを鯛焼きに例えてい.たけど『同時に何体誕生しようと次の瞬間には別々の経験をする訳だから同一のクローンは存在しない』って、ピエロを抹消する理由って寿命が来たから新しく出来たクローン体に記憶と幽体をコピーして死に直面しているオリジナルは抹消するっていうのは九論の考え方だよね、今はもう元気になったんだから僕たちと一緒に居れば同じ過去の記憶を持つクローンの二重存在は回避できるんじゃないかなあ)
昴くんがブツブツと怒った風にして思っていると扉が開きお父さんを支えるようにしてレヴィが入ってきた。
「リバイヤサンは一人で歩けない程疲れているみたいですけど大丈夫ですか」
「ちょっと歩き回り過ぎたのです、大自然のコールドスリープから千年ぶりに目覚めて少し元気になったら見るもの全てが驚きの連続で興奮したみたいです。私も同じ経験をしましたので良くわかります」
昴くんはレヴィの話を聞きながら近付いていきリバイヤサンを支えるのを手伝う。
(お、重い……重すぎるよ~)
「このままベッドルームに連れていって良いよね」
本当は自分たちの隣にあるベッドルームで寝てもらう予定だったのだけどそこまで運ぶのが無理だと判断して一番近い部屋の扉を開けている。
昴くんは直ぐに自分の判断ミスに気付く。
そこは初めて入る部屋だったけどダブルベッドが1つしかなかった。
取りあえずそこへ寝かす。
(ぼ、僕たちが居ない間に改装とかしてるんじゃあないのかなあ、他は大丈夫だろうか……)
「レヴィごめんねツインのスリーベッドルームだと聞いてたんだけど違ってたみたいだよ、隣の部屋は確かにシングルベットが2つあったからそこまで動かそうか?」
でもリバイヤサンが既にイビキをかいて寝ているのを見ると再び起こすのが気の毒になってしまう。
「このままで構わないと思います。このダブルベッドは良く見るとシングルベッド2台をくっつけてありますよ、父の体の大きさではシングルベッドからはみ出してしまうと思っての措置だと思われます」
(本当だシーツに覆われていたからちょっと見ただけじゃわからなかったよ、一体誰が……ってベッドメイクの人しかいないよな、でもこれじゃレヴィさんはどこで寝るのだろう)
昴くんは他に寝れる場所を探すけど壁際にあるソファーしか思い当たらなかった。
「アイリーンが仰っていたジャングル風呂に入ってみたいのですけど」
レヴィは自分の寝場所に頓着してないみたいだ。
それより今は今しかできないことをやらなければといった使命感みたいなオーラを醸し出している。
「ジャングル風呂ですね楽しみにしてたみたいですけど、は……入りたいですか?」
昴くんはイヤな予感が沸き上がってくるのを抑えきれない。
(レヴィさんは愛鈴やアシュラさんよりも礼儀正しいだろうから僕を困らせて楽しんだりはしないと思うけど天然が入ってるんだよなあ)
「とても入りたいです。案内して頂けないでしょうか」
「じゃあ案内するけどお父さんは一人にして大丈夫かなあ」
「さっきまで一人で騒いでいましたし今はぐっすり眠っていますので朝になっても起きないと思います」
「愛鈴も寝ちゃってるからね……一人で入れるよね」
「一緒には入ってもらえないのですか」
昴くんは立ちくらみに襲われた。




