178.別れの予感2
アイリーンのクローンになることでそれまでの大切な記録を持ち続けることができたアシュラだったけどその中には地球防衛基地存続に影響するようなマテリアルデータも含まれていた。
「ダメだよ!!」
黙って聞いていた昴くんが大声を上げた。
「うちも同じことを言うわ、ダメだからね」
アイリーンは既に泣き出している。
「久しぶりの泣き虫アイリーンですね」
(何でそんな昔の呼び方を知っているのよ)
アイリーンの不思議そうにしている顔を見てアシュラが言う。
「そう、私にはクローンになってアイリーンに初めて出会う遥か以前からの記録もあるのです」
「いらないところだけイノマンに言って消してもらえばいいじゃないの」
「記憶のつじつまが合わなくなりますし、それにそれは先生でも難しいと思いますよ」
「今のままで問題ないんじゃないですか」
「昴くんはさっきの話を聞いていらっしゃらなかったんですか」
「わかるよ愛鈴の幼い頃って誰も知らないことだし、基地の秘密については僕にどうこう言える資格なんかないけれどさ、そんなの人間なら誰でも抱えている問題だよ、かくいう僕も誰にも言えない秘密を持っているよ、だからその事については思い出さないようにして封印してるんだよ、やり方はアシュラの方が詳しい筈なんだけどさ、最後の誘拐についてだけどスターキッドの中が世界中で一番安全だと思うよ当然イノマンの所よりもだよ」
「そうですねわかりました。それでも私はイノマン先生の所へ行きます」
(私はアイリーンのクローンなのよ最近どんどんオリジナルに感化されていくの……昴くんにはわからないでしょうね、このままだとどうしようもない程あなたを好きになってしまう。それをアイリーンに悟られたくないのよ)
「あなただけズルイわ」
レヴィの声がした。
いつの間にか休憩室の出入り口付近にレヴィを始めとする中で椅子に座っていたはずの面々が集まり立ち聞きしている。
「ごめんなさい」
アシュラは何も弁明せずに言葉少なく告げた。
「他に何かいい方法がないか皆で考えようよ」
昴くんも涙声になってきている。
「もういいわ基地と海王星を往復するんでしょう、その度に会いに行けばいいのだわ、だからあなた達はうちにご馳走を用意して待ってるといいのよ、それでいいわね」
(いいわねってほぼほぼ強制じゃないのかなあ)
アイリーンの一言で全ては決定されたように思う。
さては南京玉すだれ……純白の恋心を抱くアシュラとレヴィを乗せたスターキッドが地球防衛基地の管制官と連絡を取り合っているところへ割り込み通信が入ってきた。
「こちらB99艦橋通信士タナカです艦長へお繋ぎしますのでお話し下さい」
「やあキャプテンアイリーン、地球よりの無事なご帰還お疲れ様でございました。これより基地へ入港される手筈のご様子ですけどこちらへ立ち寄って頂いた方が何かと便利ですし基地に比べるとかなり安全だと思われますのでご一考願えますでしょうか」
「そうね中々にいい考えだと思うわ、それにしてもすごくいいタイミングで連絡をしてきたんじゃないかしら、いつから何処で見たり聞いたりしてたのかしら」
「まあ話せば長くなりますしこういった一言間違えば誤解を招くような事柄に関しては直接の対面でお話ししたいと思いますので……お待ちいたしております」
「強引ね、これじゃあ基地への入港を断ってそっちに行くしかないじゃないの……ところでご馳走は用意してくれてるのよね」
「はい勿論十分承知致しております」
石橋艦長の清々しいまでに心地よい返事だった。
「わかったわ着艦は前回と同じ場所で良いのよね、それであなたの艦は今どこにいるのかしら」
「あなた方スターキッドの丁度真上千メートルのポイントに位置しています」
「何てこと! うちが気付かずに背後をとられたってことじゃないAちゃんどういうことよ」
「び……B99のステルス性能が高いってことで許してもらえませんか」
ロボくんがビクビク声で弁明する。
「そうですね、あとポラリスもグルになって誤魔化しに協力しているみたいです」
アシュラが言う。
少し元気を取り戻したみたい。
「ポラリスがB99を索敵センサーに引っ掛からないようにしてるのかなあ」
昴くんがどんな風にしているのだろうかと考え込む。
「いいえスターキッドAIに誤った信号を送っていますね、でも悪気あってのことではないですよ」
「悪気があってされたんじゃ堪らないわ、ねえアシュラどういうことなのか説明できるかしら」
「以前はスターキッドAIと私、いえ基地のメインコンピュータアシュラの仲が恋人みたいに親密でしたでしょう」
(『恋人みたいって』知らないわよそんなこと! そもそもAIに性別なんてある筈ないじゃない……でもAちゃんは最初から『僕』って言ってたかしら)
アイリーンは小首を傾げた。
「そうなのね知らなかったわ、それでもしかしたらメインコンピュータアシュラが居なくなったんでポラリスに恋代わりしたって言うのかしら……この浮気者!」
(浮気者って愛鈴……言葉の言い方変えようよ)
「だって基地のメインコンピュータのハードが入れ代わっただけだと思っていたのですよ中身はほぼほぼアシュラのままだって言ってたじゃないですか、あと『恋人みたい』ってのは表現だけで実情はないですからね、お互いが何も疑うことなくリンクしてたってことです」
(それって恋人以上だと思うよ)
昴くんは口に出すことなく騙される筈だよと思った。
「だからポラリスからの警鐘だったと思います」
「他人? を信じて楽をするんじゃないってね、Aちゃんわかりましたか」
「せちがらい世の中になりましたね」
「それじゃあAちゃん後は任せたわ、うまいことBちゃんに着艦してよね」
(愛鈴に掛かったらアイン星製造新造戦艦B99もBちゃんなんだね、こんなんでいいのかなあー)
「アイリーンは僕におんぶに抱っこされていいですね」
ロボくんが言う。
「うちはあなたなしじゃあやっていけないわ」
アイリーンが話を合わせてくる。
「それで補給はどうするのですか、はあ~」
ロボくんが溜め息? を漏らす。
(スターキッドAIの人真似も際立ってきたね、まあオイルをヘッドグローブから滲ませて泣き真似するAIなのだからベントを利用して溜め息くらい簡単に吐けるのかもしれないなー)
「それをこれから石橋艦長に会って決めるのよ」
アイリーンも溜め息を吐きたいと思っている。
東域宇宙和平維持連盟地球防衛基地の爆破された宇宙港の復旧工事が急ピッチで進んでいる様子をB99の気密窓から眺めながらアイリーンと昴くんは物思いに耽っていた。
「石橋艦長にはやられたわね」
「愛鈴が好きなパーティーだったじゃない。立食だったけどね」
「そうねでも関係者全員を既に呼んでるとは思わなかったわ、ホントいつから準備してたのかしらね」
「オビス司令官とかはかなり忙しかったんでしょうにね」
「丁度良い休憩になったと思うよ、あの人は真面目だからこうでもしないと休まないだろうしね」
「大体Aちゃんも知ってたんなら教えてくれても良かったんじゃないかしら」
「僕は現在位置が知られていることしか知りませんでしたよ~、まあ知っていても喋らなかったですけどね、基地の人たちにとってはまたとない娯楽の一環になってましたでしょうから」
今はロボちゃんがアイリーンの左肩上で喋っている。
「サプライズで僕たちの驚く顔を見て楽しむのは悪質なんじゃないかなあ」
「日本でかなり昔に放送していた『ドッキリ』って番組が高視聴率だったって記録が残ってますよ」
「だから何だってのよ見てる方は面白いかもしれないけど嵌められるほうは堪ったもんじゃないわ」
「まあ番組は仕組まれたものが多い筈だけどね」
「うちは疲れただけよ、例によって皆の前で挨拶はさせられるし……」
「今回は歌い出さなくて良かったじゃない」
「・・・、アシュラは九論にくっ着いて基地へ行っちゃうし」
「そうだね九論さんが説得してくれると思ったのに『人手不足なので助かる』何て言うんだもんね、本当にもう僕たちの気も知らないでさ勝手だよ」
「基地は宇宙港の復旧作業で猫の手も借りたいみたいですよ、そう言って僕のほうにもアルバイトの依頼が来ますので時々やってますけど」
「Aちゃんがアルバイトって報酬は一体何を貰ってるのかしら」
「僕達AIにとっての報酬って言ったら情報に決まってますよ、それこそ難易度や量によって機密情報なんかも取引してもらえますよ」
「何かヤバイ薬の密売人みたいなことをやってないでしょうね、あんたがしょっぴかれて行って初期化なんかされたら大変だーでは済まされないのよ分かってるでしょうね」
「そんなにヤバイことはしてませんって、それに相手はポラリスだし大丈夫ですよ」
(大丈夫そうに見えないから心配してるんだけどなあ~)
「それでその情報ってやつはうち達には教えてくれないのよね、機密なんでしょう」
「嫌だなあ僕はキャプテンのしもべですよ、本当に言えないこと以外は聞かれたら何でも喋りますって」
「そして僕たちは共犯者になるんだね、愛鈴今すぐ僕の手でスターキッドAIを初期化して良いかなあ」
「辞めてくださいよ昴くんが言うと冗談に聞こえないです」
「それで今のうち達にとって有意義な情報って何かあったかしら」
「飛びっきりのが1つありましてね前回の基地を巻き込んだ戦いの時に『簡易うずしお』を使ったじゃないですか、その影響で本来の『うずしお』が固定化されてしまっているのですよ」
「1回限りで閉じてしまう『うずしお』が固定されているって今ならどちら側からでも使い放題ってことなんですか」
「そうなんですけど何時まで使えるか不明なのでデータ採取と分析をこまめにやっているんです。その分析を僕がアルバイトで隙間時間にやってるんですよ」
ロボくんが言ってくる。




