177.別れの予感1
スターキッドで基地と海王星を不定期に往復して父親の看病をしているレヴィに会いに行くついでに不審宇宙船の発見なんかを行う警備アルバイトとして費用または消耗品を頂くことができないか交渉しましょうよとアシュラが言い出す。
「それはいい考えだわ基地に着いたらオビスのおっ……司令官様に直談判しなくっちゃいけないわね」
昴くんのきつい視線に気付いて言い換えた。
「まあ、全ては明日のお昼に基地に着いてからのことにしませんか、それとアイリーンは基地に残っているイ……九論に連絡をして海王族の人が居ないか聞いて下さい。昴くんは倉庫に行ってピエロとリバイヤサンに付き添っているレヴィの様子を見て……今言った話を伝えてもらえますか」
アシュラがてきぱきとした指示を出してくる。
「あ~っ、うちがキャプテンなんだからね」
「クローンの私が影武者になってあげますからオリジナルはいつものようにだらけていたらどうですか」
「ひど~い、昴くん何とか言ってよ」
(ついに恐れていたことが起きるのかも知れない。これってアシュラによる愛鈴乗っ取りだよ)
「操縦席は愛鈴が死守するんだよ」
二人のアイリーンにより危機的状況に陥りそうになった昴くんが的はずれなことを言ってしまった。
「スターキッドの生体認証はアイリーンに優先権があります。昴くんがその次ですのでアシュラは3番目、サードですね」
ロボくんが助け船を出す。
「あっAちゃんひどーい、あなたと私の仲じゃないもっと優遇してくれても良くないかしら」
今のはアシュラの発言。
「癒着はダメだよ」
昴くんはピシッと決めることにした。
アシュラは何事もない退屈で平凡な日常が訪れようとしているのを予感して今ならアイリーンのクローンであることをいいことに昴くんを翻弄して遊ぼうと考えている。
別に悪気があってのことではない。
基地までの短い時間を最大限に楽しく過ごし何時までも忘れない記憶にしたいと思っていた。
昴くんはアシュラからただならぬ気配がしているのを感じ取りその対策を考えている。
(愛鈴とアシュラの見分け方はいくつかある。まずは胸の大きさが違う。アシュラのが少し大きい)
本当は一目でわかるくらいの違いがあるのだけどお姉さんの立場を揺るがせたくないアイリーンが少し盛っていた。
昴くんには胸を盛るとかいう発想はできないので光学擬態をしてるのだろうと思っている。
基地に着くまでの間、カプセルベッドはリバイヤサンとレヴィそしてピエロに使わせているのでアイリーンと昴くんそしてアシュラはコクピットの中で休む。
昴くんが副操縦席をリクライニングさせ内圧を調整して寝心地を良くしているとアシュラが滑り込んできた。
「昴くんは私の上に座るといいよ、昔みたいにさ」
アシュラがとんでもないことを言いだす。
「そんなことをした覚えはないです」
昴くんは否定してみた。
「Aちゃん、喋ったわねこの裏切り者」
アイリーンがロボくんの影に隠れてあっちの二人に気付かれないようにスターキッドAIを罵る。
「彼女は基地のメインコンピューターをしていた頃のデータを持っているのですよ、それこそアイリーンを慕っていた頃に集めたあれやこれやの記録は大事に保管してましたから決して忘れることはないと思いますよ」
ロボくんが頭を庇いながら言う。
「何てことなのよ……」
どうしたものかと考えを巡らす。
「もうあの頃の僕じゃないから一人でも大丈夫だよ、あっちの席が寝にくいんだったら……そう、愛鈴と一緒に寝るといいと思うよ」
(昴くん何てことを言い出すのよ、うちは絶体嫌だからね)
アイリーンが心の中で『嫌だー』と叫ぶ。
「あーあ、最後に昴くんと一夜の思い出を作りたかったのになあ」
アシュラが悲しい表情をして自分の席に戻っていく。
昴くんは不思議な表情をする。
(最後って言ったような気がしたんだけど聞き違いだよね)
翌朝、何事もなく起床した昴くんが休憩室で朝食の準備をしているとピエロとレヴィに支えられる様にしてリバイヤサンが入ってきたので目を見開いて驚く。
「レヴィのお父さんもう歩いたりして大丈夫なの、取りあえず奥に座って下さい」
「ありがとう、大変お世話をお掛けしました。何せ千年も眠っていたみたいですのでもはや寝過ぎたの域ではすまされませんな」
中々にお茶目なお父さんみたい。
昴くんはつい釣られて『大氷山の下でのしイカならぬのしドラゴンになっていたんですよ』と言ってしまいたい衝動を何とか押さえ込んだ。
余計なことを口走ってしまう前にアイリーンを呼ぼうとコクピットへ入る。
ドアを開けると二人の冷たい視線と殺気が飛んで来た。
「ごめんなさい!」
慌ててドアを閉める。
(そうだった今日は基地に入るから愛鈴とアシュラが着替えるってことで追い出されたんだった。もう終わったかもって思い込んでしまってたよ~、でもあれは……一瞬だったけどやっぱりだったな)
昴くんは『見た?』と聞かれたら『見てない』と言い張るだろうけど、二人が全裸と半裸になっている姿をしっかり見ていた。
「愛鈴ごめんなさい言い訳はしません。休憩室にリバイヤサンが来てるので早目に来て欲しいです」
ドアを少し開けて言う。
「リバイヤサンはもう動けるのね鍛え方が違うからかしら、レヴィとピエロも一緒なの?」
「二人に連れられて来てるのだけど、かなり無理をしていると思うよ」
「わかったわ直ぐに行くから、あなたもわかってるとは思うけどさっき目蓋に焼き付けたことはきれいさっぱり忘れなさいよ、さもないと……」
「ハイ、忘れました何も覚えてません」
昴くんが最後まで聞かないうちに返事を返す。
「あら、私のことは忘れないで下さいね」
(アシュラがこの間から変なんだけど、もう気のせいなんかじゃないよな)
「うん、わかった」
余計なことは言わずに返事だけする。
休憩室は一人で二人分のスペースを取っているリバイヤサンと残りの五人が入るには狭すぎた。
だから昴くんとアシュラは扉を開けたまま通路に立って話を聞いている。
だけど昴くんはあっちでリバイヤサンが話していることより隣のアシュラが気になって仕方がない。
(リバイヤサンの話しは愛鈴に聞いてもらってるから大丈夫だよね)
何が大丈夫なのか一抹の不安を抱えつつもアシュラに声を掛けてみる。
「アシュラは何か不安なことでもあるんじゃないのかなあ、もしかしたら僕が知らないうちに失礼なことをしてるってことはないよね、ねえ困っているのなら話を聞かせて欲しいな」
小声で離す。
(愛鈴がさっきからこっちをチラチラ見てるんだよな、何を気にしてるのかわからないけど僕の方が気になって仕方ないよ、リバイヤサンの話をしっかり聞いていると良いんだけど)
「あと3時間程で基地に下りますでしょう、私そのままイノマン先生の補佐をしようと思いますの」
「え~っ、そんなこといきなり言われてもダメだよ~」
(しまった声が大きかったかもしれない)
案の定アイリーンが睨みながら近寄ってくる。
「愛鈴、リバイヤサンの話しは聞かなくていいの」
「もう終わったわ、お礼と今後のことについて少し話しただけよ、長くなりそうな雰囲気だったけどレヴィが制してくれたわ」
「そうだよね、あれだけの大怪我していたんだからさ本当なら絶体安静だよ」
「それであなた達は二人仲良く何の話をしてたのかしら」
(アシュラが出て行こうとする気持ちが少し分かったかも知れない)
「アシュラが基地に寄ったらそのままイノマンの所に残るって言い出したんだよ」
「そうなのね、それで人のデータはあらかた集まったのかしらアシュラの趣味だったものね」
「あらアイリーンは引き止めようともせず冷たいのね、でもそうね知識というものは知れば知る程次が知りたくなるものよ限度はないわ」
「だったらまだうち達と一緒に居ても良くないかしら」
「東域宇宙和平維持連盟地球防衛基地メインコンピュータアシュラとして生まれて240年、アイリーンのクローン体を貰って自由に動き回れるようになりこれ程充実した日々はなかったわ、それまでは絶体に知ることができなかった人の感情がわかったの、今はスターキッドAIがとても羨ましくってよ」
〈それはどういうことですか〉
スターキッドAIが天井スピーカーから言ってくる。
ロボくんはコクピットで周囲監視中。
「あら盗み聞きしてたのね」
〈この中は僕の領域ですからねカプセルベッド以外は全て見られ聞かれ口出しされると知っておいて下さいね〉
「それは『三猿の教え』の逆バージョンだね」
昴くんが言う。
「三猿って見ざる聞かざる言わざるのことよね、あれって我関せずって意味だと思ってたのだけど違ってたのかしら」
「そんなに間違ってはないと思うよ、他人の欠点を見ない聞かない言わないで争い事を避けるって意味らしいからね」
〈それでアシュラさんが僕を羨ましいって言うのはどうしてですか〉
「コンピュータアシュラの時は人間を理解して感情をデータ化して基地の皆さんと違和感なく会話ができるようにとスターキッドAIと仲良しの幼いアイリーンさんに接することで豊かな感情を得ようとしていました。それが今は全て叶ったのです。おまけにアイリーンさんの身も心も手に入りました。そして気付いたのですあの頃追い求めていた過程で得ていた高揚感や達成感が薄れていることに、あの頃既に人としての感情を持っていたのではないだろうか、自分がハードであるために気付かなかったのかも知れないと最近思うようになりました。それとこれは本当なら口に出してはいけないことですけれど私の中にはコンピュータアシュラとして保管している基地の最重要データがあります。人型となった今ではこれが大変危険な事だとスターキッドAIさんには理解できますよね」
〈反乱分子がどこに潜んでいるのか分からないですからね、アシュラさんが誘拐でもされた日には……大変な事では済まされませんね〉
「だからイノマン先生に記憶を初期化してもらおうと考えてます」
アシュラが冷めた視線を皆に配っていく。




