176.アシュラもアイリーン?
ドライアイスメテオが投下されてから2年が過ぎた地球では極地の氷が溶けて海水面が上昇したことにより平地だった所は全て水没していた。
陸地に棲む生き物は高山に追いやられ生き延びた人々も例外ではなく想像もできない程の過酷な生活をして生きている。
アイリーンはそんな想像を絶する悲惨な光景は見たくないと思ったし、また飛行しているスターキッドを見られたら救助に来たと勘違いされるのではないかと期待されるのを怖れた。
だから南極大陸でリバイアサンを回収した後は口数少なく逃げ出すように地球から離れていっている。
「あの地球にはもう誰も居ないんじゃないかなあ」
昴くんがアイリーンから流れてくる悲しい波動を感じ取って慰めるようにして言う。
「人類はゴキブリ並の生命力を持っているって他星人から言われてたでしょう」
アイリーンが速攻で返す。
「酷いことを言うね……レヴィのお父さんもそのくらいの生命力があると良いのにって思うよ」
スターキッドは当初の目的地だったルナ・ターミナルの病院には行かないことになっていた。
リバイアサンに輸血している最中に海王族は他星人の治療を受けられない決まりがあるとレヴィが言い出したからだ。
「まあ確かにコバちゃんがリバイアサンの体内に入っている状態で医者に診せたら大騒ぎになるかも知れないわね」
アイリーンが言う。
だから今は全速力で海王星へと向かうことにしている。
全速力と言ってもアステロイドを抜けきる迄はスターキッドAIが言うところの徐行運転をしなくてはいけない。
アイリーンと昴くんは何とも言えない歯がゆい思いの中にいた。
「ルナ・ターミナルでお医者様に診てもらわなくても補給は必要よね」
「やめておいた方が無難だと思いますよ」
アシュラが外部環境モニターを見ながら話しに入ってきた。
「まだ敵の残党がどこにいるのかわからないからなんですよね」
昴くんは副操縦席に座っている。
「このまま真っ直ぐ基地へ飛んで補給をしませんか」
アシュラが提案してきた。
「そうよね6時間もあれば着くのよね」
「まだ火星をバイパスするコスモトンネルが不通ですよ。来る時もそうだったでしょう」
スターキッドAIの外部端末ロボット『ロボちゃん』が操縦席と副操縦席の間にはまり込む様にして言う。
どうやらその場所をお気に入りの定位置にしたみたい。
「そうだったかしら、調査とかの目的があったから通常航路を選んだのだと思い込んでしまってたわ、オホホ」
「愛鈴しっかりしてよね、あの時基地から地球まで30時間掛かるって言っていたよね」
「でもあのトンネルは自然回復するって話じゃなかったかしら」
「あと何年も先のことだって聞いたよ」
「そうねうちも思い出したわ、でももう少しは短縮できるわよね、Aちゃん聞いてるでしょう」
「現在ルート検索中です。最速で行けるコース上に障害物が無くて脇目も振らずに飛べば秒速1万Kmまで加速できますので15時間後、あえて地球時間で表しますと2024年2月21日12時に到着しますね」
「なんかさ計った様な時間だね別にいいんだけどさ」
(でもそれはスターキッド内の時間経過だから実際のカレンダーとは時差があるんだよね、翔兄さんに今は何年何月って聞いてみたいなあ)
昴くんは時々水縄移民船に乗っている兄のことを思い出していた。
「着いたらまずはリバイアサンを見てもらえるお医者さんが居ないか探しましょうね」
「お昼ごはんが先じゃないんだ」
昴くんが気を取り直して聞く。
「ご飯を美味しく戴くためには憂いを先に片付けないといけないわ、お医者さんが居なければさっさと補給を済ませて海王星に行くだけのことよ」
「途中で戦艦母船のラス・アゲルティを追い越してしまうね」
「いいえ障害物を避けて少し遠回りをして飛びますからかなり距離が離れます」
ロボくんが言う。
(バイパス道路をぶっ飛ばすみたいなものなのかなあ)
「うち達は基地に15時間で着くのにヘラクレス艦長は3ヶ月も掛かるのよね」
「捕虜にした戦艦を連れてるからもっと掛かると思うよ」
「それもそうかもね、こういったことは全部レヴィにも話しておかないといけないわよね」
レヴィは倉庫のカプセルベッドで療養しているお父さんのリバイアサンとピエロを見守っている。
「もう直ぐ就寝時間になるんですよね、だから続きは明日の朝にしませんか、色々なすり合わせも必要ですよね。まず基地に着いたら海王族のお医者様を探すんだとか、でも居ないと思いますよそれにもし居たとしても出てこれないでしょう。だって海王族は鎖国をしていて海王星から一人も出ていないことになってますもんね、まあスパイは居るでしょうけど」
(アシュラさんの口調がとうとう愛鈴と区別がつかなくなっちゃったよ~、今喋ってるのはアシュラさんで良いんだよね~)
「そうだねー、でもねえ……ねえロボくん時間の絡み具合ってどうなるのかなあ」
アイリーンが聞く。
「まあ、寄り道具合が大きく影響しますけど、基地から海王星までの40億Kmを惑星間最高速度の秒速4万Kmまで加速して飛べば36時間で到着します。
あっちで1日過ごして戻っても4日です。基地に戻ってから見舞品を渡すと言っているヘラクレス艦長を3ヶ月は待つことになりますね」
「3ヶ月は長いわよね~、かといってリバイアサンだけを海王星の病院に入院させて戻っては来れないしね」
アイリーンが『何か良い知恵はないかしら』ってな表情で昴くんを見る。
「ねえロボ君、スターキッドの次に早い高速艇ってどのくらいのスピードが出るのかなぁ」
「今あるデータでは高速艇の最高速度はどんなに頑張っても秒速1000Km出せるか出せないか位ですね、でもその高速艇は太陽系内には1台も無いです。まあ仮にその高速艇があったとしたら冥王星から基地まで46日、1ヶ月半で到着します。現在太陽系にある最速の高速小型艇は冥王星アンバ隊長の所に配置されているのが秒速300Km出せます。それだと冥王星から基地まて150日、3ヶ月で到着しますね、これが高速戦艦マリンだと秒速100Kmだから1年3ヶ月掛かります。アイリーンがその昔エム78で冥王星から地球へ向かう時は5年の予定でしたでしょう」
ロボ君がカタカタと電卓を叩く擬音を出しながら喋っている。
「本当にウサギとカメの世界だね」
昴くんが納得しがたいなって表情をして、それでも頷きながら言う。
「宇宙一早い光速スターキッドがいかに速いかってのが良くわかる話だったわ」
アイリーンも昴くんを真似てウンウンとしている。
アシュラがロボ君の後ろへ来てロボ君の頭をパンパンと叩く。
「あっ、人の……いやロボットの頭を叩かないで下さいよ~」
ロボットアームで頭をなでながら言う。
「そもそもが大怪我をしているリバイアサンをお医者様に見せるってのが課題だったんですよね、レヴィさんはお父さまの看病で離れることはないでしょう、基地ではさっきの理由で診てもらうことができないと思いますから補給が終わり次第海王星へ行くのですよね、そこから私達と一緒に基地へ再び戻ることはないと思います。そういう事ですからヘラクレス艦長が捕虜にしたカシオペア戦艦を基地へ引き渡した後で海王星へ向かってもらえばいいんじゃないですか」
アシュラがもっともなことを言った。
「えっ、レヴィと別れるの?」
昴くんが突然の提案に目を丸めて少し驚く様に言う。
アイリーンはそんな昴くんをちょっとだけ睨む。
「そうよ、別れるなんてイヤよ……だけど最初の約束はレヴィのお父さんを迎えに行くだったものね、その後のことをあまり考えてなかったわ」
「レヴィは海王星でリバイアサンの看護をしながらヘラクレスさんの到着を待てば良いんじゃないかしら」
アシュラが再度言い自分の考えを強調した。
「レヴィ達はどのくらい待てばいいのかしら」
アイリーンはその気になってロボ君に尋ねている。
「ラス・アゲルティはカシオペア艦だと言ってましたでしょう。正確なデータがないのですよ、でもざっと精査した感じではマリンより少し遅い程度だと思いますので基地から1年6ヶ月から2年の間に到着すると考えられますね」
「ファジーな答えねAちゃんはロボ君を通して喋るようになってからいい加減さに磨きをかけたんじゃないかしら」
「・・・」
スターキッドAIはロボ君をフリーズさせることで意思表示をした。
「無言の抵抗ってやつだね」
昴くんがイノマンのポーズを取っている。
「2年ってのも長いわね、スターキッドだったら何回往復できるかしら」
アイリーンが何気に言う。
「そうだよその通りで良いんだよ、スターキッドで往復すれば何の問題もないんじゃないかなあ」
昴くんが目を丸くして提案してくる。
「辺境惑星航路の巡回警戒をしてるってことでアルバイト代が貰えないでしょうかね」
(もう、アシュラの言葉遣いだけでなく思考までアイリーン化してきてるんじゃないだろうか)
昴くんがそんなことになったら大変だと危惧するように天井を仰ぐ。




