122.桃源郷6
仲間のバイオロイドを引き取りに行っただけにしてはおおごと過ぎないかと納得がいかない。
「それがどうして指名手配になったのですか、いつもの愛鈴だったら『こいつはうちの仲間だから連れて帰るわ』とか普通に言ってるでしょう」
〈バイオロイドは目覚めさせられてなかったのですよそれに陰謀の匂いがしてましてね、だから移民船ごとぶんどったんです〉
「ぶんどったって? あの大きな宇宙船を!」
昴くんは呆れて何も言えなくなってしまう。
「乗組員を全員追い出してから乗っ取ったわ、そして証拠を残さないように工作したから直ぐにはうちの仕業だと分からなかったはずだけど指名手配の張り紙がルナ・ターミナルにあったってことは気付かれてたみたいね」
「あの時は基地を破壊したからだって言ってなかった?」
(あれぇ~、僕の記憶違いだろうかでも移民船乗っ取りの話は初耳だけどなあ)
「あらそうだったかしら、もしかしたら地球防衛基地の日本支部を壊滅させたのもうちの仕業になってるのかも知れないわね、あっ、だから地球人のスパイだっていわれなき濡れ衣を着せられていたのね」
(愛鈴のことだからいわれのない事でもないと思うけど、色々なことをやってるみたいだし)
昴くんは自分と会う前のアイリーンが如何に短い時間で波瀾万丈な生き方をしていたか垣間見た気がしてきた。
「うんそれで移民船エム08だったかな結局は破壊しちゃったの」
(きっと壊しちゃったんだろうな)
「そんなことをしたら弁償し終わるまで強制労働させられるわよ今頃うちはルナ・ターミナルの花街で花魁をやっていたでしょうね」
「あっ愛鈴、言ってる意味が分かってるかなあ花街とか花魁とかどこで覚えたの?」
〈アイリーンが地球防衛基地でコンパートメントを与えられた頃に大人たちが日本のアニメや殿様劇とかのメディアを多量に渡して見るように勧めていたことをその当時に同居していた僕の外部端末バイオロイドキッドの情報として記憶してます。教育の一環と言ってましたけど当時のアイリーンがどこにでも出没して各部署から業務に支障が出ると苦情が相次いでましたから部屋に閉じ込めるのが最大の目的だったと思いますよ〉
スターキッドAIが声を忍ばせて昴くんだけに聞こえるように話す。
「そうねバイオキッドがうちの所に初めてやって来た頃だったわ、うちが7才だったからもう10年も昔のことよ、うちも年を取って涙もろくなって仕方がないわ」
地獄耳のアイリーンに聞こえないわけがない。
(そう言えばあれかしらAちゃんはうちのことを16才って言ってるのだけど、うちとしては17才なんじゃないかと思うのよね)
〈アイリーンが泣き虫なのは昔からだったとは記憶してますけど〉
「スターキッドAIに取っては記録ではないんだ」
昴くんが言葉をわざと間違えたのかなと思い改めて聞く。
〈感情豊かなAIですから〉
「そうだったね」
(間違えてはなかったみたいだね、深読みしすぎたのかも知れないな)
昴くんは納得した。
「感情豊かなのはいいけどさあ、保護者みたいに小言をねちねち言うのはやめてもらいたいわ」
アイリーンはそう簡単には納得したくない。
「僕たちはまだ日本の法律で言うところの未成年なんだしさ教育的指導は必要だと思うよ」
(愛鈴と付き合うには根気が必要だなあ)
昴くんは頑張っている。
「何さ自分だけ分かった風なことを言っちゃって詰まんないわね、うちだっていろんな事を考えてるんだからエム08だってあのあと自動操縦で冥王星を目指すようにセットしてたんだからさ、シユーウォッシュ・ナビをしていなければどこかで追い越していたかも知れないのよ」
アイリーンは少し上の空になって昴くんに話ながらスターキッドAIのスピーカーを見つめていた。
「ねえAちゃん、エム08ってもしかしたらもう冥王星に着いていても良かったんじゃないかしら」
〈やっと思い出しましたね、実は2年前に冥王星に着いてアンバ隊長が回収しているのですよ、あまり表沙汰にすると僕たちの悪事まで出てきますからねアイリーンにも黙っていました〉
「無事に着いていたのなら良かったわ時々は思い出していたのよ事故に遭ったりしてないか心配してたの何せ無人でしょう、何かあったとしても緊急救難信号なんて出さないと思うのよねそしたらうちらがアルファ星でぶんどってるのがバレてる訳だし『アイリーンが破壊した』とか言われても弁解の余地がないじゃない、そんなことになったらさっきも言った通りルナ・ターミナルで花街に売られてタダ働きする羽目になっちゃうでしょう、うちはタダ働きなんて真っ平御免なんだからね」
アイリーンの中でエム08について教えてもらえなかったことに対する憤りがだんだんと膨らんでいく。
「愛鈴、ルナ・ターミナルに花街ってなかったと思うよそれに人身売買なんかしたのがバレたら一発で関係者全員死刑になってしまうんじゃなかったかなあ、だから公の機関はそんなことしないと思うよ」
昴くんはアイリーンを宥めようとする。
「昴くんはおねんねさんだから知らないでしょうけど、どこの世界にも暗黒街ってものが存在するのよ、そこに一歩でも踏み込んだら二度とお天道様の下に出られないと言うわ。当然ルナ・ターミナルにもあるはずよ」
アイリーンは昴くんを脅しに掛かった。
(愛鈴はサスペンスドラマの見すぎだと思うな、でもそんなことを言うと火に油を注ぐようなものだし余計なこと言っちゃったなあ)
「Aちゃんは何で教えてくれなかったのよ守秘義務があったとかは言わせないからね」
〈あの時あそこで言ってしまったらアイリーンが冥王星に引き返すって言い出すのではないかと危惧したのです。昴くんに会うために地球に向けて木星辺りを飛んでたでしょう、行程の3分の2を消化してましたからね戻りたくなかったのですよ〉
「そうなのね確かに否定できないわね2年前ってたらスーちゃんに出会う前、もしかしたら直前になるのかも知れないよね」
〈そうですよ、昴くんはハントザETに連れていかれて地球へのドライアイスメテオ作戦は大成功に終わり陸地は無くなってたでしょう。更に地球防衛基地はヘンナ副司令官に乗っ取られて太陽系はどうなっていたでしょうね〉
「あのタイミングでうちらが地球へ行ったのと行かなかったのでは宇宙の歴史が大きく変わっていたのね、これで良かったのかしら」
「愛鈴が来なかったら僕たちはおそらく多分いいや絶対に死んでいたと思うよ、君が来てくれたお陰で僕やその他大勢の地球人の命が救われたと信じているよ」
「そうかもね、もし昴くんが死んでたりしたらうちは全てを犠牲にしてでも過去へ跳んでいたと思うわ、誰が何を言ったとしてもよ」
アイリーンが涙を流さんばかりに言う。
「フレアホースが言いたいことがあるらしい」
フレアホースを頭に乗せたままのロースさんがアイリーンの側へやって来て小声で話す。
「カシオペア座カフ星人のヘンナ副司令官が計画していた悪巧みによって呼び寄せた同じ北方星域のアシード星人リースフィンとフィードが引き連れて来た艦隊から隙を見て逃げ出したフレアホースは、そこに残っていたスターキッドの軌跡からアイリーンの波動を感じ取りそれを頼りに過去へとジャンプしてスターキッドの中で力を使い果たしていた」
ロースさんはフレアホースの言いたかったことを大幅に補足して話しをした。
「えっ、スーちゃん偶然の奇跡的にスターキッドへ入ったんじゃなかったの、知らなかったわー」
アイリーンにとっては今更のことだけど驚きを隠せない。
「うち達がUターンしてたらどうなってたのかしら」
「たとえスターキッドがUターンしていてもフレアホースはアイリーンの元へたどり着けたと思う。アイリーンの波動がとても心地よく宇宙空間に伸びていたと言っているから、そして地球へ行くように仕向けたと思う」
(うちの心の波動が心地いいって何か小っ恥ずかしいわ)
アイリーンは頬を染め上げて昴くんを見た。
「良かったじゃない。愛鈴がどこに居ても歴史は変わらなかったって事になるよね」
〈惑星C2の管理者に、この際いっそ謝ってしまえばどうでしょうか〉
「人工惑星の管理者とは関わりたくないのよ、これから来る妖精さんたちはアンバ隊長の頼みってことになってるから、うちが関わってるって思われたくないの」
「やっぱり過去の事が障害になってるの?」
「そうね、全くないとは言えないわね、それもあってあちらの管理者とは会いたくはないわね、そういうことだからAちゃん宜しく頼むわ」
〈分かりました。そのように努力します〉
「あと何時間で着くのですか?」
昴くんが今後の予定を立てるために聞く。
〈恒星の方から回り込みますからね、特に問題が発生しなければ72時間後には衛星軌道を隕石のフリして回っていますよ〉
「3日間かあ長いようで短いかもしれないなあ、今の内に十分休んでいた方がいいみたいだね」
「うちはもう十分休んだわよ」
〈じゃあアイリーンはあの惑星についての歴史を学びましょうか〉
スターキッドAIが提案する。
昴くんはカプセルベッドとして使われだしたコールドスリープ装置で休む事にした。
ロースさんは膨らませた宇宙服の中で寛いでいるみたい。
フレアホースはコクピットの中をあちこち飛び回っているけど最後はロースさんの頭の上を定位置にと思っている。
アイリーンは操縦席でAIによる学習を始めた。
静かになったコクピットの中をスターキッドAIの音声が静かに流れ出す。
〈ケンタウルス座アルファ星の恒星Cの公転軌道上に建造された人工惑星C2について地球人類の強制移民先になっているにも関わらず『人類最後の楽園』と言われ出した経緯は・・・〉
「ぐう~、すう~、『お腹が空いたわ… 』」
静かになったコクピットの中でアイリーンの寝言が安らかな寝息と共に聞こえてくる。




