121.桃源郷5
アイリーンが怖い顔をする。
「何よ、一緒に行っちゃまずいっての、あなたが作業をしてる時にロースさんの相手をしてあげるわよ」
「仕方ないなあそれなら一緒に行こうね」
昴くんは素直に諦めた。
できるだけ距離を取って行動していれば大丈夫だろうと思うことにする。
「仕方ないじゃないでしょ感謝しなさいよね『ありがとう』は」
「ありがとうございます」
「そうね『ありがとう』って言われるのは気持ちがいいものよね」
(君が強引に言わせたんじゃないか)
二人はあーだこーだと言いながらも倉庫へ着く。
(さてと、これからどうしたものか)
昴くんはしばし考え込む。
「ロースさんは何かこんなのが良いとかの希望はありませんか」
取りあえず本人の希望を聞くことにした。
「戻ってもいいか?」
ロースさんが今通ってきた通路の方を向いて指差しする。
「えっ? いいけど」
(一体何なのだろう)
昴くんは訳が分からなかったけどロースさんの好きにさせて後を付いて行く。
スターキッドの昇降口横にある宇宙服格納ロッカーの前で立ち止まり昴くんを見上げ扉をパンパンする。
(そこは僕のロッカーだよ、もしかしたら開けてって事かな)
扉には鍵とか掛かってないので誰でも簡単に開けれるけどロースさんは取っ手を掴むには身長が足りなかった。
「開けたよ」
昴くんはロースさんの後ろに控えてるアイリーンをチラッと見る。
(見られて困るものは入ってないはず……だよな)
「これがいい」
ロースさんは昴くんが愛用している宇宙服の裾を掴んでいた。
「えーっ、どういう事よ!」
声を上げたのはアイリーンの方が早い。
(えーっ、どういうこと)
昴くんは心の中だけで思うことにした。
「我らが精霊獣フレアホースの気配が残っている。だからこの中に入っていれば落ち着けると思う」
アイリーンが昴くんの首の辺りに目を向ける、
結局フレアホースは昴くんの体内に戻っていっていた。
「今は昴くんの中で眠っているスーちゃんの残り香でも残っているのかも知れないわね、だから気配を感じるのよそれでその宇宙服に包まれていると安心するのかしら」
アイリーンが自分を納得させるように言う。
昴くんがハンガーから宇宙服を取り出す。
裸のロースさんに着せてヘッドグローブを展開し内圧を上げると宇宙服が膨らんでいく。
(うっ、何なんだこれ急に身体が熱くなった。スーちゃんが目覚めたのかな)
フレアホースは元気な時などは昴くんの回りを飛び回ったり肩に乗ったりするのだけど休む時には昴くんの体内に溶け込んでいる。
そのフレアホースの存在を熱く感じた。
「やはり我らが精霊獣フレアホースを感じる。これを私にくれないか」
(まあ予備はあるからいいけど、炎の精霊獣と繋がることが出来る宇宙服って凄くレアじゃないかなあ)
「僕は構わないけど動けるの?」
宇宙服を着たままのロースさんが昴くんとアイリーンの回りを八の字で歩いて十分動き回れることをアピールする。
「ガルメニ人の外甲殻に入っていた時も身軽に動いていたよね」
(中はスカスカの状態になってるはずなのにどうやって動いてるのだろう)
昴くんはこれも超能力の一種だろうと思うことにした。
さっき身体の中が熱くなったと感じたのがなくなったのに気付く。
(あれれ身体の中からスーちゃんの気配が消えてる)
昴くんがフレアホースを探すと、ロースさんのヘッドグローブに乗っているのを見つけた。
滑り落ちるんじゃないかなあとか余計な心配をしながらもピンク色のモヒカンみたいだなと一人で思ってみる。
「こうして見るとロースさんがモヒカンのガキ大将に見えてきたわ、例えが悪いんだけど構わないわよね」
少しも悪びれた様子を見せずアイリーンが感想を漏らす。
(やっぱり愛鈴にもモヒカンに見えるんだ)
「スーちゃんはロースさんの元へと行ってしまったから元気になったみたいだね、もう戻っては来ないかも知れないな」
(僕の宇宙服を着たロースさんにスーちゃんがくっ付いて離れない、そんな気がする)
昴くんが少し悲しそうな表情を見せている。
「昴くんは何て可哀想な人なのかしらね、寂しくなったんなら言いなさいねいつでもうちが慰めてあげるわ」
アイリーンが昴くんの腕を取り自分の方に引き寄せニンマリした。
「いえ大丈夫だよスーちゃんが戻ってこないんだったらブレインのスイッチを入れて再起動させないといけないなと思っただけだよ」
何気にあっさりとアイリーンの誘いを交わす。
「まあ、何て薄情な人なのかしら」
「いやしかし、やっぱりスーちゃんは今まで一緒に居たのだからこれからも一緒に居ようねって呼び戻してみようかなあ」
人差し指をこめかみに当ててみる。
「昴くんって意外に強情な人だったのね」
(愛鈴はやっぱり可愛いかも)
返事一つでいろいろな表情を見せてくるアイリーンのことを多感な少女だなあと思って見ていると、アイリーンに強く抱きしめられた。
昴くんの実年齢は14才、身長差はアイリーンと殆んど変わらない。
「今だけだからね明日になったらできないわ、だから出血大サービスよ」
「くっ、苦しい~」
いきなりの事で喘ぎ声を漏らす。
(でも、愛鈴に抱きしめられるって本当に心地良いかも知れない、たとえおっぱいが大きくなくても……絶対にそう思うよ)
『大きい方がいい』というのが本心なんだろうけどそれは認めようとしない昴くんだった。
アイリーンの抱擁は始まったばかりなのに深淵の宇宙の中で永遠の時を過ごしてる気分に陥って行く。
二人が抱き合って静寂に包まれていたコクピットはスターキッドAIの咳払いによって破られる。
〈えーっ、ごほん、えほん、えろほん……ねえそれでこれからどうするのですか?〉
スターキッドAIが昴くんに抱き付いているアイリーンを言葉で引き剥がす。
ロースさんとその頭に乗っかったままのフレアホースさんは無言で見つめているのだけど、その瞳は慈愛に満ちている様に思う。
「まあAちゃんったら覗いてたのねイケズなAIは嫌われますわよ、それにエロではないから絶対に間違わないでよねそれより外部監視は大丈夫なの?」
〈僕はいろいろな事をいつも同時進行で行なっていますから問題ないです〉
「今は完全停止状態なんだよね」
昴くんが服のシワを伸ばしながら誤魔化すように聞く。
アイリーンはコクピット側の外部昇降口まで行って宇宙服に着替えて来るのかと思って目で追い掛けてみたけどそうではなくてパジャマの上から着込んでる。
首の所からはみ出ているパジャマの襟を今、内側から引っ込めた。
「まだ、ちょっと遠いわねステルスモードにしてもっと近づけなかったの」
アイリーンが何事もない様子を装って言う。
〈現在プロキシマケンタウリの惑星C2まであと3千万Kmの地点にある小惑星の陰に隠れています。小惑星の静止軌道に乗ってますので推進装置は停止してますね。近付いてくる艦船はいませんというか、この宙域を航行している艦船は索敵範囲内にはいませんね〉
スターキッドAIが小声で答えた。
「キッドの索敵限界は1AUだったわよね」
〈その通りです。1AUは約1億5千万Km、太陽から地球までの平均距離で光速8分程度イノマン博士が『こんなもんだろう』と言いながら設定してました〉
(うちのオヤジって昔からいい加減な性格だったのね)
「惑星C2の管理者は宇宙船で惑星宙域を巡回警備してないのかしら」
〈そこの管理責任者はアイン星の人達で巡回警備よりも索敵警戒に重点を置いてる様です。エム型母船のステルス性能からも分かるようにかなり高い索敵能力を持っていそうですね。それでも行きますか?〉
「見つかってとやかく言われるのは嫌よ、この星でもうち達は前科者になってると思うの絶対よ、事務所の壁にキッドの写真が貼ってあって赤マジックでWANTED!! って書かれてあるはずよ」
アイリーンが御免被りたいと言いたげな表情をしている。
「でも行かないといけないんだよね、こんなことならやっぱりアンバ隊長に頼めば良かったんだよ」
昴くんは最初から冥王星に駐屯しているアイン星人のアンバ隊長へ橋渡しを頼もうと言っていた。
「前回の事はオビス司令官が有耶無耶にしてくれてるのよね、だから、あまり表には出たくないのよ『その節は大変ご迷惑をお掛け致しました』とか挨拶したくないわ」
(結局のところ愛鈴は謝りたくないんだ)
昴くんは意地なのか矜持なのかは分からないが多分前者だろうと思う。
「前回の事って言ったら何だったのかな一杯あり過ぎて、どれが何だか分からなくなったよ」
昴くんが適当に鎌を掛けてみる。
「あら、そういえば昴くんにちゃんと話した覚えがないような気がするわ、あれはもう6年前の事になるのかしらね、うちとスターキッドでここに来てるのよ、その時は地球防衛基地からの不定期移民船エム08に乗せられていた……キッドを助けるために来たの……」
アイリーンが泣き出しそうな表情をしたのでスターキッドAIが代わりに話し出す。
〈今は九論が作ってくれたオールインワンカメラ型ロボちゃんが居ますけど、その当時はアイリーンと同じ年格好の自立型外部端末バイオロイドが居たんですよ、アシュラと僕とで防衛基地の科学者に少し鼻薬を嗅がせて即席で作らせたんです。だけどあまりにも性能が良すぎて自我を持つようになってからは僕の言うことを聞かなくなりましてね、日本支部が宇宙人狩りにあって壊滅した時に支部長と一緒に逃げていたんですけどその後コールドスリープさせられてこの人工惑星C2に送られてしまったんです。それで移民船からなんとか助け出したんですけど瀕死の状態だったんでイノマンに延命をお願いしたのですけど無理だと言われまして記憶と魂をイノマンクローンにコピーしたんです。しばらくしてから九論って名前を正式に付けたんですよ、まさかそのあとでイノマンに成り代わってたなんて思いもしませんでしたね〉
スターキッドAIの長い説明話が終わった。




