172.ヘラクレスの雲孫3
「ヘラクレスさんは八百長した上に睡眠薬を使ったことで罪悪感を感じてずーっとリバイヤサン一家を探してたんでしょうか」
昴くんはそう感じている。
(それが本当の事だったら、誰か他の人に脅かされて遣ったんじゃないかと思うな)
根拠のない考えなので口にはしない。
「この船のヘラクレス艦長は8代目だと言ってましたわ」
「8代目って言ったら子、孫、曾孫、玄孫、来孫、昆孫、仍孫の次だから雲孫だよね、雲孫が最後でその次の呼称はなかったんだよギリギリで見つかって良かったね」
衒学者ぶってみたかったので声に出して言う。
でも誰からも相手にされず話しは逸れず元のまま続いていく。
昴くんは少し赤面した。
(まあ話が再度の脱線をしなくて良かったよ)
「あと身内のかたは全員ヘラクレスを名乗ってるそうなのですよ、当時の事を知っている人に気づいてもらえたら声が掛かってくるのではないかと期待されてたみたいですわ、それは途方もない計画だと思いませんこと、昴くんは今の艦長が雲孫に当ると仰ったでしょう、まさに雲を掴むようなお話ですわね」
レヴィがしょんぼりしている昴くんを持ち上げた。
「そうよね、ムー大陸とアトランティスが1万年前に海に沈んだっておとぎ話なら地球にいた頃から知っていたわ、でもそれが本当の事で過去へタイムトラベルしたリバイヤサンがやったんだってのは宇宙船に乗ってる時の勉強で習ったことだし、濡れ衣を着せられてたってのはつい最近になってレヴィから聞かされて初めてわかったことだわ、決勝で闘った相手がヘラクレスだったってことも学習内容にあったけど優勝したリバイヤサンが過去へ行って暴挙を働いて冷凍監獄に入れられたで終わっているのよね、大会が終わった後で準優勝したヘラクレスがどうなったのかは誰も知らないんじゃないかしら」
「ヘラクレスさんは家族の方を人質にされていたそうなのです」
レヴィは続けて話す。
「やっぱり脅迫されていたんだ」
昴くんが相づちを入れる。
「そうです、大会が終わった後で見知らない土地へと跳ばされてそこで奥様と息子さんに再会できたそうですわ」
「見知らない土地って、そこからよく戻って来れたわね」
「ええ、『只では帰してくれないはずだろうから何か仕掛けてくる』と考えて準備していたらその通りになりましたのでその場でアドウェルを捕まえて公にしない条件でお金で解決させたとお聞きしましたのよ」
「わかったわ、それで今でてきたアドウェルって誰のことかしら」
「今回起きた一連の悪巧みの首謀者ですわ、それこそアトランティスを海に沈めた張本人でもあります」
「ムー大陸は沈めてなかったのかしら」
「それはまた別の長いお話しになりましてよ」
「そうなのね長くなるのなら別の日に聞くわ、公にしてリバイヤサンの汚名を晴らそうとは考えなかったのかしら」
「それはヘラクレスさんのお考えで政治的駆け引きだったらしいですわ」
「そうだよねムー大陸とアトランティスが沈められたのが1万年前、レヴィさんが冷凍監獄に入れられたのが千年前、ヘラクレスさんが真犯人を捕まえたのも千年前、真相が判明したところで世の中はとっくに既成事実で固まってしまっているんだよね、だから全てを覆すのは難しいと考えたんじゃないかなあ」
(勝負が付いてしまった盤面であの時の手はイカサマだったんじゃないかと言ってるのと同じなのかもしれない)
「昴くんの仰る通りですわ、アドウェルを捕まえたヘラクレスさんはカシオペア座イプシロン星に居城をお持ちになっているアドウェル家のことを知ってらっしゃったんです。そう、この銀河で一、二を争う大富豪として名を馳せていらっしゃる方だと言うことを」
「銀河の大富豪ってだけでは想像も付かないのだけど」
「そうですわね、私もアドウェル家のことは聞いたことがあるのですけど、例えるならこの太陽系をポンとお買いになるくらいの資産はお持ちらしいですわよ」
「た、太陽系って水金地火木土天海冥王星よね」
「そうですわ太陽も入りましてよ」
「一体全体幾らなのよ」
「わかりませんわ、ですけどそれ程のお金持ちには違いありませんわね、だからなのですわヘラクレスが公にせずアドウェル家当主の前に貝のように口を閉ざした四男坊を突き出して直談判なさったとお聞きいたしました。私としても正しい判断だと思いましてよ」
「一体全体幾ら貰ったのよ」
「そのようなことを聞けると思いまして、だけど確かなのはヘラクレスさんが今お持ちの艦隊はアドウェル家から頂いたものだと言うこと、それとは別に私たちに対する慰謝料分も頂いているというお話でしたわ」
「だったら必死で探し出すよね、でも内密にしてるのなら公には探せないだろから大変だったろうね」
「うちもドロンパ号に乗っていた時にヘラクレスさんと会っていたけれどそんな話しは微塵も聞いたことがないわ」
(そういえばドロンパ号のヘラクレスさんはお兄ちゃんと一緒の時に会ったきりだわね、その後どうしてるのかしらね)
「そうですわよねそのお話は機会があれば直接お聞きになると宜しいのではないでしょうか、でも私と8代目ヘラクレスさんは奇跡の確率で出会ってしまいましたわ」
(然しながら出会うべくして出会ったという感じもするのですわ)
レヴィの中の第六感がそうささやいている。
「そうね、宇宙って結構狭かったのよねー」
アイリーンが湯船の中で感じていたことをやっと口に出せた。
「それでレヴィはその慰謝料ってものをを貰ったんだよね」
アイリーンが憚って聞けなかったことをアシュラがすらりと聞いてしまう。
「アシュラあなたもう少しオブラードに包んだ聞き方をしなさいよねー、身も蓋もないわよ」
「こういうことを聞くときにはストレートに聞かなくっちゃいけないのよ、そうしないと却ってぎこちなくなるんじゃないのかしら」
「そういうことならそれで良いわ、それでレヴィはこれからどうするのよヘラクレス艦長と一緒に行かないとお金は貰えないんでしょう」
「今は少しでも早く父に会いたいですわ、艦長は拿捕したカシオペア戦艦を基地へ輸送されますでしょう、どんなに急いでも3ヶ月は掛かりますわよね、私たちが地球に行って父を助けて基地に向かっても全然間に合いますでしょう」
「それもそうね、今貰っても置場所がないわよね」
「あのですわ、私たち親子が貰えるのはお金ではないのです、お金は場所によって種類と価値が違ってきますわよね、だから価値の変動が少ない商品とそれを積み込んでいる宇宙船を地球からの帰りに基地で授与して頂くようになりましたの。帰りに寄っていただけますわよね」
「わかったわそうする、それでさあ、価値が変化しない品物ってうちにはお酒しか思い付かないんだけど、そうよねカシオペアのお酒なのよね、ねえお酒なんでしょう?」
「愛鈴、よだれが出てるよ恥ずかしいからもうやめようよ」
「えっ、よだれが……?」
「うちとしたことが欲望で我を忘れるところだったわ」
「そうだね常に理性を持って行動しますって言ってなかったかなあ。あと、単位体積当たりの金額が高くて価格変動が少ない安全な物だったら宇宙でも希少なプラチナとかも考えられるからね、最初から自分中心で期待すると外れた時のダメージが大きいからね……ダメだよ」
「プラチナかあ、うちの欲しい物リストには入らないな~、あっ、コバルトってさプラチナに似てるって言ってなかった」
「ダメだよ、そんなことを思ったりしてたら顔に出てしまうからね」
「わかってるわよそんなこと、それにまだ何も言ってないじゃないどうしていつもそうなのよ」
「できるだけ早く言っとかないと機嫌がものすごく悪くなるでしょう」
「レヴィも晩ご飯は食べたのね」
アイリーンは話を誤魔化した。
「晩ご飯と仰りましたか」
「あとは寝るだけじゃない、だから晩ご飯よ」
(どこかで同じセリフを聞いたよな少しは違う表現ができないのかなあ)
「そうですわね食事はヘラクレス艦長と共に致しましたわ」
「じゃあ、キッドに戻りましょうか」
「戻るの? 今から」
昴くんが少し慌てている。
「そうよ、ここでの用事は済んだんじゃないかしら、ピエロの状態も心配だしね、それに早く地球に向けて出発もしたいでしょう、どっちみち長居は無用だと思うのよね」
「いいの? お風呂にもっと浸かりたかったとか、ふかふかベッドで眠りたかったとか、明日の朝食ぐらい食べて帰りたかったわとか後になってから言わないよね」
「絶対に言うわよ、でもその時はあなたが何時もみたいに宥めてくれるのよね、期待してるわよ」
(ごねるの前提ですか先が思いやられるよ~)
「それはそうとレヴィもこういった豪華な部屋がある船を貰えばいいのにね、海王星の居心地が悪い時は良い逃げ場所になるわ」
考えもなしに言ってしまう。
アイリーン達はヘラクレス艦長にお別れの挨拶と地球防衛基地で再び会う約束をして別れた。
スターキッドに戻って地球に向けた航路を選びそれぞれが休憩に入る。
アイリーンと昴くんはそのままコクピットの席をリクライニングさせて潜り込むことにした。
レヴィとアシュラは倉庫のカプセルベッドで休むために向かう。
倉庫で眠るピエロの様子を二人に見てもらうようにお願いしている。
「Aちゃん、地球まであとどれくらいかしら」
(何だかAちゃんに話し掛けるのが久し振りな気がするわね)
「目的地まであと3億4千万Kmですね、最初の予定速度で行くと6時間ですね」
「丁度良いんじゃないかしら、これから寝るところだしね」
「愛鈴、ルナ・ターミナルに寄って換金するんじゃなかったかなあ」
「これ以上寄り道はしたくないわよそれに考えたんだけどさ、帰りにヘラクレス艦長と商談したほうが高く買い取ってもらえるかしら」
アイリーンは捕らぬ狸の皮算用を始めた。




