169.カシオペアの残敵5
ピエロは竪琴を持ったレヴィとアシュラを伴って敵戦艦の艦橋へテレポートすることになった。
「二人ともレヴィのウロコを持ってるわよね、間違えても歌声を聞いてはダメよ分かってるわよね」
アイリーンが心配そうに言う。
「そうだよ僕が行ってたらレヴィの歌声で機能停止していたかもしれないのですよ、昴くんは反省して下さいね」
ロボくんが現金な奴になっている。
「すみませんでした。ごめんなさい。でもこれでみんなの前に立って命乞いをするロボくんの大演技が披露できたじゃないですか。これからは誰もロボくんに命を賭けろとは言わなくなったでしょうから良かったですね」
昴くんが思い出し笑いを堪えながら言う。
「それじゃあ行ってきます」
ピエロは右腕にレヴィを左腕でアシュラを抱き両手に花状態で敵戦艦の艦橋へテレポートした。
スターキッドは少し前から敵戦艦をグルグルと回って艦橋乗組員を手玉に取っている。
ピエロ達はその混乱している中にテレポートで現れ更に拍車をかけた。
スターキッドは今、敵戦艦の真正面で対峙して艦橋内部の様子を正面モニターに映し出して見ている。
昴くんはピエロがテレポートで消え行く直前に『10秒だからね』と念押しをした。
「大丈夫かしら」
休憩室で栄養補給を済ませているアイリーンが言う。
「あっ、着きましたよ」
ロボくんが言った、というよりはスターキッドのコクピットから見守っているアイリーンと昴くんも異口同音に口に出していた。
その後もそれぞれが応援の言葉を口にしている。
テレポートした三人は直ぐにバラバラになって行動を起こす。
まず、アシュラが飛び出し敵の注意を引く。
そこへピエロが邪眼を使い敵兵の行動を封じ込めた。
この時ピエロが使った邪眼の効果は蛇に睨まれたカエルと同じもので精神力の消費はそれ程大きくないらしい。
レヴィが近くにいた兵士をドルフィンキックで薙ぎ払い艦橋の指揮卓に立って竪琴を奏でながらカシオペア語で歌い出す。
二度続いた失敗の後、短いカシオペア語の子守唄を覚えて今はそれを歌っている。
ピエロはそのまま邪眼を使って近付いてこようとする別の兵士達を金縛りにかけてレヴィを守っていた。
アシュラが通信席とおぼしき場所を見つけるとそこへ走りレヴィのウロコで張り飛ばして席を奪い艦内放送のスイッチを入れ歌声を最大ボリュームで流す。
(あれっ、レヴィの歌声が少し聞こえたけど何ともないみたいです)
アシュラが思いきってレヴィのウロコを耳元から外した。
(やっぱり何ともないです。逆に活気が沸いてきます)
意味がわからないカシオペア語のせいなのかとも思った。
おまけにこの子守唄のことも知らない。
だから作業に専念することができた。
「ここのAIに早くアクセスしないといけないです」
そう独言して自分自信に気合いを入れる。
スターキッドの中ではピエロたち三人を送り出したアイリーンがヤキモキしながら時計を気にしていた。
「もう10秒はかなり過ぎたのだけど、あんなにバラバラで行動されてたんじゃあアポーツで呼び戻すのは無理ね」
「そうだよね敵兵まで一緒に呼び戻したら大変なことになるし、今は切迫した危険に晒されてないからもう少し様子を見てていいと思うよ」
昴くんはかなり楽観的になっている。
「もうあらかた勝利したようです。カシオペア艦のAIとリンクが取れて僕たち地球防衛基地メインコンピューターポラリスの傘下に入りました」
ロボくんも楽観的に言う。
「アシュラやレヴィを褒めてあげなくてはいけないわね、ピエロにしたって最初から30秒は必要だとか言ってたしね、その通りになったじゃない」
「それじゃあ自爆の心配はなくなったんだよね」
「そうだといいんたけど」
「大丈夫ですよアシュラさんが主導権をポラリスに切り換えましたからこれからは基地所属の戦艦と同じ扱いになります」
「中の敵兵は全員人質……じゃなくて捕虜になるのよね、だけどうちは今でも人質じゃないかしらって思ってるのよ」
「戦争のなせる技だと思うよ」
「コンバットの世界ね」
「愛鈴はよく知ってるね」
「テレビで再放送があってたのよね、でもあれは小さい子供に見せていいものではないと思うわ、うちでさえたくさんのトラウマができたわよ」
「残酷な描写が一杯あったよね」
「思い出させないで!」
アイリーンが両手で耳を塞ぐ。
「制圧完了しました。この戦艦の名称はイーター3ということです」
アシュラが二人の会話にタイミングを合わせたように通信してきた。
「もしかしたらカシオペア座のイーター星から取った名前なのかなあ」
「そうです。イーター星で3番目に竣工した戦艦になってますね、先に破壊した戦艦は同じくイーター1と2だそうです」
「もしかしたらイーター1が旗艦だったとかですか」
「そうらしいです。だからこのイーター3には重要なデータがないみたいです」
「もしかしたら最初から自爆なんかしなかったかもだよね」
「昴くんは『もしかしたら』が多すぎなんじゃないかしら、もっと確信を持って話なさいよね」
「もしかしたら愛鈴はかなり元気になったんじゃない、だったら僕は凄く嬉しいんだけど」
「あなた……わざと言ってるでしょう」
アイリーンが少し頬を膨らます。
「わかったー?」
昴くんはにやけている。
「うーっゴホン、オホン……二人だけの世界を作らないで下さいよ」
ロボくんの介入が入った。
「そうそう、ピエロさんたちを呼び戻さなくっちゃね」
言い終わるとアイリーンは敵戦艦艦橋に居る三人をアポーツで引き寄せる。
「こっちで敵戦艦のことは良くわかったけど、あっちのスリットから出てきた味方の戦艦についてはまだ何も分かってないままなんだよね」
昴くんが正面モニターに映し出されている見かけは小破、しかし実質大破の地球防衛基地所属の戦艦を指差して言う。
「そうよね、時間もできたことだしもう一度連絡を取って話しをしなければいけないわね」
「あのイーター3のことを任せられないか聞いてもらえないでしょうか、こちらは人手不足ですしレヴィの父親を探しに南極大陸へ一刻も早く行きたいです」
アシュラがレヴィの内心を察して自分の考えを伝えてくる。
「そうね、艦長が好い人っぽかったら聞いてみるわ」
そう言うとインカムを取り出し通信を始めた。
拿捕した敵戦艦を地球防衛基地まで移送して欲しいと頼み込む。
少し待たされてからの返事は通信で終わらせられるレベルの話ではないし、他のこともお話ししたいのでヘラクレス艦長と直接会って欲しいと言われる。
アイリーンは先を急ぐ旅の途中で時間があまり取れないとやんわりお断りする方向に持っていく。
しかし結果的には立食パーティへの招待とエグゼクティブルームでの休憩を提案されそれに釣られて乗ってしまう。
それ程までにスターキッドとキャプテンアイリーンは有名人に成り上がっていて挨拶もせずに通りすぎるのを許してくれない存在になっていた。
スターキッド乗組員全員との会食を約束されたのだけど体調不良を理由にピエロだけが拒んだ。
まあ誰かを居残りさせないといけないかなあと考えていた最中だったので渡りに船とばかりに了承している。
その後、中型艦2隻をドッキングさせた戦艦を何と呼べばいいのかわからないけどその後部甲板にスターキッドは着艦していた。
アイリーン、昴くん、レヴィ、アシュラ、それとロボくんのヘッドカプセルから取り出したロボちゃんの五人は艦橋が破壊されていない後方側に位置するミーティングルームへと案内されていた。
そこの窓から後部甲板に鎮座しているスターキッドが眼下に見下ろせる。
「なかなかに気が回る艦長じゃない」
「そうだね、ここだとスターキッドが見えて安心だし、艦長はそこまで考えてないと思うけど何かあったら一瞬でテレポートで戻れるしね」
昴くんも窓辺から外を眺めて言う。
「そうね、そんな事が起きないように願いたいわね」
「この広い部屋で私たちに対する取調べがあるのですか」
レヴィが少し不安げな表情をしている。
「違うわよ、挨拶と段取りの打ち合わせなんじゃないかしら、いくら立食パーティーに招待されたからっても会場にいきなり出向いて乾杯とごちそうさまだけ言って帰っちゃったりしたら後々何て言われるか知れたもんじゃないわ」
「愛鈴も節度をわきまえられる様になったんだね、僕はすごく嬉しいよ」
「あら、うちはいつものうちよ昴くんこそうちに対する認識が変わったんじゃなくて、まあやっと気付いたのねって感じかしら」
「愛鈴がそう言うならそれでもいいよ別に悪いことではないからね、それよりそろそろ席に着いておこうよ」
昴くんは『子供の遠足じゃないんだからさ』を付け加えたかったのだけどアイリーンの機嫌を悪くしないために言わないでおく。
四人(ロボちゃんはアイリーンの左肩に乗っているので)が4つの席に座り落ち着いた頃、扉が開き艦長と偉そうな人達が入室してきた。
「お呼び立てしておきながら皆さんをお待たせ致しまして申し訳なく思います。私は戦艦母船、ラス・アゲルティ艦長のヘラクレスです」
(戦艦母船って初めて聞くかも知れない、戦艦じゃないのですかって聞きたい)
昴くんはモジッとする。
(ヘラクレスさんって確かドロンパ号にも乗っていたわよねまあ別人だろうけどさ、あとレヴィの……)
アイリーンはレヴィを気に掛けるようにして見た。
「ヘラクレス艦長、私は父のリバイヤサンを救った後でヘラクレスという人の痕跡を探そうと思っていました。ぜひお名前のルーツをお聞かせ願えないでしょうか」
レヴィがスクット立ち上がり優雅な姿勢で礼節正しく話し出す。
その姿を見たヘラクレス艦長の顔が青ざめていく。
「そのお姿、あなたはもしかしたら海王族の人でしょうか」
「私は海王族族長リバイヤサンの一人娘レヴィと申します」
相手に名前の由来を教えて欲しいと言った手前自分も丁寧に言う。
「えっ! レヴィって海王族のお姫様だったんですか」
(そう言えばアシュラには説明してなかったわね)
アイリーンは他人事のように思った。




