168.カシオペアの残敵4
大破してたカシオペア戦艦の自爆によって味方の戦艦が被った損傷は艦首一部溶解と艦橋第一エリア破壊に止どまり物理的見地からすれば小破の域なのだけど戦闘能力の意味合いからすれば大破に近いものだった。
何故なら艦首溶解により前方バリア発生装置が破壊され、艦橋第一エリア破壊により索敵、操舵、無線といった戦闘には欠かせないシステムが機能不全に陥っているからだ。
「いいや愛鈴あれは味方の艦隊ではあるだろうけど決して『うちの艦隊』じゃないからね」
昴くんはアイリーンがスリットから出てきたばかりの艦隊を手駒として使おうとするのではないかと危惧を抱く。
「爆発直前に敵艦から発信されたメッセージがあります。カシオペア語なので直訳はできませんけど『我々が神である』みたいなことを言ってます」
通信席からアシュラが言ってくる。
「相当に頭がいかれた奴らかも知れないわね、あまり関わりたくない人種だわ」
「味方艦隊の被害状況がわかりますか」
昴くんがレヴィに聞く。
「自爆した敵艦が元々大破していたのでそれ程被害は出てない様です。巻き込まれた戦艦が盾の役割になって他の艦は無傷です」
「戦艦一隻が軽傷で済んだのですから不幸中の幸いと言ってもいいのですね」
アシュラが言う。
「そうよね、それで何か味方の艦から通信とかが入ってないかしら、さっきの返事でもいいのだけど……でも今はそれどころじゃないわよね」
「こちらへの通信はありませんけどあちらの艦隊間での通信は傍受されてます。どうやら戦艦に追従している中型艦2隻をドッキングさせる様です」
「へえ~、あっちの艦隊って合体ロボになるんだ」
アイリーンが外部カメラを操作して照準を合わす。
「ドッキングだよ、ロボットにはならないと思うよ」
「でもまああちらの心配はしなくて良くなったのよね。うち達は最初の予定通り生き残った最後の一隻になったカシオペア戦艦を追っかけるわよ」
「愛鈴さあカシオペア戦艦って言ってるけど、どうやって判断したわけかなあ」
「別に根拠はないわね、名無しの艦隊って言うよりはカッコいいんじゃないかしら、それにさ……地球防衛基地を占領して爆破しようとしたのは北方星域のカシオペア艦隊だって言ってなかったかしら」
「基地を占拠して司令官を名乗っていたのはとかげ座リザード星人のラースって人物だと聞いたけど、だけどまあスリットから出て来たのは全てカシオペア艦だけだったみたいだから間違ってないのかも知れないね」
「さあ、前を行く戦艦には何としても生け贄になってもらわなくっちゃいけないわね」
「生け捕りだよね、殺してしまっては不味いでしょう」
(愛鈴ったら場を和ませようとわざと言ってるんだよな……多分)
「あまり無謀なことをしたらダメだよ」
「最後の一隻なんだから何とかするわよ」
「投降を促してみてはどうでしょうか」
アシュラが提案する。
「敵戦艦が回頭してます」
レヴィが報告してきた。
「光エネルギー砲を撃つ気なんだわ」
「回頭している間は全くの無防備になるんだよね」
「撃って下さいと言わんばかりですね」
「キャプテン今すぐ何でもいいから撃ちましょう。命令して下さい」
アイリーンの横で今まで機能停止していたかのように静かに立っていたロボくんが言う。
「本当になめられたもんだわ、スターキッドの攻撃では蚊に刺される程度にしか思ってない証拠ね」
アイリーンが珍しく親指を噛み締めている。
「愛鈴がアポーツで岩石をぶつけるってのは無理だよね」
「それが無理そうなのよね、さっきので精一杯もう力が出ない、やっぱりまだ本調子ではないみたいなのよ、ごめんなさい」
(愛鈴がこんなに早く謝るってことは凄くヤバいんじゃないかなあ)
昴くんは心底アイリーンの体調を心配する。
「敵、撃ってきませんね」
「突っ込んで来ます」
「自爆でもする気かしら」
「回避、回避します」
ロボくんが言うより早くスターキッドは回避行動に移っていた。
「後方の味方戦艦から圧縮エネルギー弾が発射されました」
レヴィが報告する。
「味方艦から? 通信は何も入ってません」
アシュラが疑問符を投げてから報告した。
「回避……えっ、あー回避しなくて大丈夫になりました」
ロボくんは大忙しだ。
「もう、緊急だろうと一言くらい連絡してから撃っても良かったんじゃないかしら」
「敵に傍受されたくなかったんだと思うよ」
アイリーンが怒り出す前に昴くんは宥めに入る。
「敵戦艦推進部に命中、推進部だけが機能停止してます」
レヴィが報告してきた。
「中破? 小破どちらかしらね」
「どっちでもいいと思うよ、それより自爆させないようにするにはどうしたらいいのか考えないといけないね」
「さっきの攻撃はスターキッドに影響しないようバナナシュートみたいにカーブして命中させたのですね、おまけに推進部だけ破壊するように威力を加減してます」
アシュラが感心している。
「匠の技ね、きっと凄い手腕の艦長が乗ってるのよ、ついでに自爆させない方法ってのも教えて欲しいものだわ」
アイリーンが腕組をして昴くんとロボくんを交互に見つめている。
「まずは迂闊に近付かないことだね」
ピエロがコクピットに入ってきて言う。
「ピエロあなた大丈夫なの」
アイリーンが心配そうにしている。
「ああ少し休ませてもらったおかげでだいぶ楽になりました。これからあちらの戦艦にテレポートして艦橋を制圧するくらいはできそうですよ」
「本当に行かれますのなら私も同行致しますわ、一番最初の時は艦橋の中で歌って成功してますもの」
「ダメだよ、失敗したら命がなくなってしまうよ」
(そうよ昴くんガツンと言ってやりなさいよね、うちはいつもあんたにダメだよと言われて諦めさせられてるんだから、たまには違う人にも言ってもらわないと不公平だわ)
アイリーンは期待を込めて成り行きを見守っている。
「・・・」
レヴィは何も言わずただ昴くんの瞳をじっと見詰めた。
その表情は今にも泣き出しそう。
「昴くん、私と一緒なのだし危険と判断したら直ぐにテレポートで戻ってくるから、その場に合わせて臨機応変に対応する、だから二人で行くことを許してはもらえないだろうか」
ピエロが頭を下げる。
「まあ、レヴィさんにとっては3度目の正直になるんだろうし、ピエロさんが一緒に居て危なくなる前に戻ってくると約束するなら絶体ダメとも言わないけどピエロさんも相当具合悪いんでしょう」
昴くんが譲歩しだす。
「ちっ!」
となりの席から舌打ちの音がした。
(まあ2対1だしな、しょうがないかもね)
アイリーンも他に打開策が見いだせないので仕方がないかもと思う。
「だからあっちでの滞在時間は一瞬で終わること、いいですね約束を守れそうですか」
「一瞬と言うのは具体的にどれ程の時間なんだろうか、私としては艦橋の人と機能を制圧するのに1分程度は掛かると考えているのだけど」
「10秒です。レヴィさんが最初に行ったアリオン艦長の戦艦マリンは5秒で制圧できたと思ってます」
(ああ、あれかー、竪琴で奏でた最初の『ポロン』でAIを機能停止しに陥れてレヴィが一言『ここに愛があるの~』で艦内全ての人々を眠らせたのよね)
「だから今回は10秒で終わらせて下さい、それ以上掛かったら強制送還します」
「強制ったって私がテレポートで戻ってくればいいのでしょう」
「ピエロさんは能力を使い過ぎると寿命が縮むんですよね、そんなことはさせません。だから今回は愛鈴がアポーツで呼び戻します」
「えっ、うちがピエロとレヴィをアポーツで呼び戻すっていうの、あまり自信がないのだけど」
「緊急時なのであの特製栄養剤を飲んでいいですよ、ロボくんオートレンジに出してもらえますか、アルコール分は1%未満でお願いしますね」
「えーっ! せめて3%にして!」
「ダメだよ」
昴くんが頑固とした口調で言う。
「う~」
アイリーンは抗っても無駄だと知り休憩室へと向かっていく。
「あと、ロボくんも一緒に行って下さい」
「へっ~~!?」
ロボくんがとてもAIとは思えない声を上げる。
「敵戦艦のAIを制御するためにはロボくんの力が必要でしょう」
「ぼ、僕は普通のロボットですよ」
ロボくんがイヤイヤしだす。
「スターキッドAIのロボくんでしょう、この宇宙でも屈指のAIだと日頃から自慢してたし、変形したら僕と愛鈴を乗せて宇宙遊覧飛行してくれるとも言ってましたよね、それに体力も有り余ってるのでしょう」
昴くんがいつもになく厳しい口調で言う。
「昴くんが苛めてくるよ~、僕のことを使い捨て同然の鉄屑としか見てなかったんでしょう」
ロボくんが半泣き状態になっている。
「最後の手段としても二人の緊急脱出を手伝ってもらう重要な役目を追加でお願いしようと思ってたんですけど、それに消耗品だとかゴミだとか微塵も思ったりしてませんって」
「うあ~ん、昴くんが酷い! いつもそんな風に思っていたんだ」
ロボくんが被害妄想になって泣き叫び出す。
ヘッドグローブの継ぎ目からマシンオイルを滲ませ涙を流す様な演技までしている。
昴くんはそれを見てお手上げのポーズをした。
「あ~あ、もう見てられませんです。私がロボくんの代わりに行きます」
アシュラが直接私に言いなさいよねってな目をして昴くんを睨む。
そう、昴くんは最初からロボくんではなくてアシュラに頼むつもりでいた。
だけど悪戯心が沸き出て押さえられずに今回の騒動を引き起こしている。
「それではアシュラさんお願いできますか、ピエロさんもいいですよね」
昴くんが薄笑いを浮かべて聞く。
アシュラはオッケーの意味で手を振った。
ピエロはイノマンのポーズをしている。
ロボくんは事態が急展開し過ぎてフリーズしたみたい。
「も、もしかして昴くんのさっきの言動って『ドッキリ』だったのですか!」
ロボくんの頭から蒸気が漏れ出し始めた。




