167.カシオペアの残敵3
「「お帰りなさい」」
アイリーンと昴くんが倉庫で寝ているピエロの様子を見てコクピットに戻ってくるとレヴィとアシュラが声を掛けてきた。
ロボくんは操縦席の間に立って前方モニターを見ている。
「さあこれからあちらの戦艦3隻を叩き潰しに行くわよ」
アイリーンが操縦席に着きながら言う。
まだ疲れが残っているみたいで声に張りがない。
「キャプテン命令なら従いますけど無謀だと思いますよ、回避しながら地球に向かいましょうよ」
ロボくんは不機嫌になっている。
「接敵までどのくらいの時間かしら」
ロボくんことスターキッドAIの意見は歯牙にも懸けてもらえなかった。
「待てば3時間、行けば10秒です。待ちましょうよ」
ロボくんはめげずに次なる希望を言う。
「さっきケレスの裏でスリットらしき空間の裂け目を見つけたわ」
(この辺だったわよね)
アイリーンが立体ホログラフィーとして宙に浮いているマップにポイントする。
「愛鈴まさかと思うけど、飛び込む気なんじゃないよね」
昴くんは本調子でないアイリーンが慎重になってくれることを期待していた。
「奴らがうちらを追い掛けようとして付いて来てくれるなら思う壺よ」
「どこに出るのかわかりませんのにですか、その……大丈夫なのでしょうか」
レヴィがいま向かっている地球と掛け離れた場所に出たら大変な事になるのではないかとかなり心配をしだす。
「何があってもうちが何とかするわ、だからレヴィは心配しないで」
「僕は愛鈴が無茶をするんじゃないかって心配だよ」
昴くんが操縦席との間に居るロボくんが邪魔だなあと思いながらアイリーンを見ている。
しかし彼女は顔を合わせようとしない。
「大丈夫だって言ってるでしょう」
冷たい言葉で一蹴された。
「アシュラは基地のイノマンに状況報告をしてくれてるかしら」
(ああ、愛鈴はこれからの作戦を一杯一杯で考えているんだね、僕に手伝ってって言ってくれないのかなあ、それとも期待されてないのかなあー)
昴くんは少しだけ自己嫌悪に陥りかける。
「大丈夫ですよポラリスとのリンクは切れてませんからあちら側で逐次把握できていると思います」
アシュラが相互リンクが継続していることを暗に示すように言う。
(Aちゃんポラリスアシュラの三人でオープンチャット状態だっわね、Aちゃんとポラリスは電波信号で繋がっているとしてアシュラはやっぱりテレパシーを使ってるのかしらね)
「そうねわかったわ、たまにでいいから確認取ってよね」
「了解です」
「Aちゃんスリットの位置はわかるわよね」
「分かりませんと言ったら諦めてくれますか」
「あなたを分解して腐った部品を取り替えてあげるわ」
「うへぇ~ナンマイダーナンマイダー」
ロボくんが手を合わせてアイリーンを拝む。
「失礼なAIね、うちはまだ仏様にはなってないわよ」
「とても只のコンピューターAIとスターキッドキャプテンの会話とは思えませんわ」
レヴィが何かに感心している。
「アイリーンが育てたAIだと言っても過言ではないです……」
アシュラはそう言いながら、甦ってこようとしてくる過去の記憶を素早く打ち消す。
(昔の記憶ってどうしてこう悶絶しそうなものばかりなのかしら)
「あーっ、そうなのね」
レヴィは良くわからないまま納得した。
昴くんは今更のことなので構わず計器に集中している。
「敵戦艦の近くでおびき寄せるようにしたほうがいいのかなあ、もう直ぐだよ」
行きは10秒と言ったもののスターキッドは結構ゆっくり敵に近づいていく。
「Zのマークは結構いい目印になりそうね、残りの2隻にも付けちゃいましょうよ」
「もう愛鈴はすぐにそんなことを言って茶化すんだから、でもまあ相手を怒らせるにはいい手かも知れないね」
「決まりね、Aちゃんできるわよね」
「同じZの文字で良ければありますよ、前回3隻分用意してましたので」
「さすがのAちゃんね、わかってるじゃない。あとは任せたわよ」
「敵有効射程内に入ります。あっ、敵が先に攻撃してきました」
スターキッドは敵のエネルギー弾を余裕で避けながらスリットの前で止まる。
「撃ってこなくなりましたね」
「スリットに当たるのを警戒してる様子です」
「Aちゃん何でか分かる?」
「スリットに関する情報がないのですから分からないです。前回の戦いでもスリットの中で何が起きていたのか十分には解明できてませんから……今もなお解析中なんですよ」
「あの戦艦を一隻でもいいから捕虜にできたら分かるんじゃないかしら」
「愛鈴、無理だからね危ないことをしたら絶対ダメだよ」
(あらら、昴くんのダメだよ攻撃が始まっちゃったじゃない)
「わかったわよ、一人で危ないことはしないと約束する。だからレヴィと一緒にあっちの戦艦へテレポートするわ艦橋を制圧すればこっちのものでしょう」
「ダメだよ」
「そう、じゃあこのままスリットへ入りましょうよ何かわかるかも知れないわ」
「ダメだよ」
「あのスリットへ重粒子弾を撃ち込むってのはどうよ、何か変化が起きるかもよ」
「ダメ……じゃないかもしれない。確かレッド隊長が言ってたよね〖うずしお〗は重粒子弾で作るって」
「緻密な計算の元で行うのですよ、それこそ星星の潮汐力も考慮しなければいけませんから、それに重粒子弾は1発しか積んでいませんからここぞと言う時にしか使えません。それでも使いますか」
ロボくんがあまりお勧めできません的な感じで言ってくる。
「1発かあ~、2発なら文句なく使うんだけどなあ」
「使うことに賛成です。本当にうずしお効果が表れたなら向こう側が見える筈ですからその情報は大きいです」
アシュラが強い口調で言う。
おそらくポラリスとも協議していると思われた。
「決まりね。Aちゃん重粒子設定値を最大にして撃ち込んで」
「発射完了しました。スリット突入まで10秒です」
「敵戦艦から高密度エネルギー弾が発射されました」
「こっちの意図に気付いたのかなあ、だったら正解かも知れないね」
「防御バリアを着弾部に集束最大にして」
「着弾範囲が広すぎます。こっちが全部飲み込まれますよー」
ロボくんが泣き叫ぶ。
「泣き言は負けてから言って、機首回頭してエネルギー弾の方向を向くのよ、防御バリアを前方に集中して、こっちもエネルギー弾を撃って少しでも威力を削ぎましょう」
「エネルギー弾発射」
「敵エネルギー弾バリアに着弾します。衝撃に備えて下さい」
前方は光で白濁して見えない。
ディスプレイは電磁波の悪影響で砂の嵐になっている。
「前方敵戦艦1隻大破、2隻め3隻目射程外へ後退していきます」
「何が起きたの」
「スターキッド全面に、コ、コバルト岩石が半円弧状に展開してます」
「えっ、どういうことよ」
「コバルト岩石が凹面鏡の役割をして敵のエネルギー弾を跳ね返したのですね」
「それがちょうど先頭にいた戦艦に命中したのね良かったじゃない奴らも出鼻をくじかれてざまあみろだわ」
「変だよロボくん、敵の引き方が大袈裟すぎるよコバルト岩石の凹面鏡を警戒してるだけじゃなくてさ何か他にも理由があるんじゃないかなあ……あっ、もしかしてスリットからカシオペアの大怪獣が出てきたりしてさ」
「ギヤー!」
「うわー!」
ロボくんが悲鳴を上げたのに引きつられて昴くんも悲鳴を上げた。
「一体どうしたってのよ、小心者のお二人さん」
アイリーンが冷やかす。
「今、スリットから新たな艦隊が出てきました。戦艦1隻、中型艦2隻、小型艦3隻です。あっ、このビーコンは味方のものですわ」
環境監視ディスプレイを見ながらレヴィが報告してくる。
「Aちゃんも敵味方識別信号を出してるよね」
「諸々の理由で出してません、今から発信しますけど……あれはカシオペアの艦ですよ大丈夫でしょうかね」
(さすがのスターキッドAI用心深いと褒めてあげたいけど……これは絶対にびびりの心境からくる発言なんだよなぁ~)
昴くんはそう思った。
「以前に基地が襲われた時に鹵獲したものだと思うよ」
「キャプテンが通信して確かめて下さいよ~」
「そ、そうね通信回線を借りるわうちが割り込み使用するね」
「はい切り替え完了、どうぞお話下さい」
アシュラは割り込み使用ではなくて操縦席の専用回線へ切り換えた。
「こちらはスターキッドキャプテンアイリーン、カシオペア艦隊との交戦により敵方戦艦1隻大破、戦艦2隻逃走中、これから追跡に移るので追従されたし以上」
アイリーンにしては珍しく端的な通信で終わった。
「あとの詳細な報告と連絡はアシュラに任せるわ」
その後の事をアシュラに一任する。
後方に位置していれば推進エネルギー波の影響で攻撃が当たりにくくなるし敵はエネルギー弾を撃てない。
敵の攻撃は物理弾に限られてくるからスターキッドは楽々と避けて近づくことができる。
「ヘッヘッ、やっとうちの出番ね」
「愛鈴、無茶だけはしないでよ」
「大丈夫よアポーツはうちの十八番なんだから朝飯前ってなもんだわよ」
そう言うが早いか敵戦艦の推進エネルギー噴射口が巨大な岩石で塞がれた。
スターキッドが素早くその場を離れるとその戦艦は内部爆発を起こしバラバラと飛散していく。
「しまった。人質にするんだったわね」
「いや、捕虜だからね人質だ何て言ったら僕たちが悪人になってしまうよ」
「悪人呼ばわりだけは嫌かも知れないわね」
「それに最初の1隻目が大破してるけどまだ生き残っているからさ捕虜にするのはその人達でいいんじゃないかなあ」
昴くんはこれから先の行動でアイリーンが1隻だけになった無傷の戦艦を捕獲するために無謀な作戦を立てるのではないかと心配した。
「あっ、今その大破していた戦艦が自爆しました」
外部監視を行っていたレヴィが慌てた様子で報告する。
「「えっ!」」
コクピットの中に緊張が走った。
アイリーンと昴くんは自分のディスプレイを切り換えてその状況を見て青ざめていく。
「うわっ、何ってことしてくれるのよ、うちの艦隊を巻き込んじゃってるじゃない」
味方の戦艦が大破した敵戦艦に船舷した時を見計らったように爆発している。




