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164.コバルトの妖精6

 坑道内で起きた爆発を幾人かの坑夫たちは悪戯妖精のせいにした。

「この世からコボルトなんか消えてなくなればいいんだ」

 死の間際に幾人かの坑夫達が叫びその声は坑道内に木霊してゆく。

 坑夫が放った断末魔の叫び声を聞いた鉱山に棲むコバルトの精霊たちはその言葉を聞き宇宙へ逃げ出した。

 それからというもの、西欧の国々でコバルトを始めとする金属鉱石の産出が激減したのは言うまでもない。

 どこでもそうなのだろうけど、品薄になるとその物の価値が上がる。

 金属の流通が減り価値が上がると人はそれを奪い合うようになり、そこから更に新しい金属を求めて開発が競って行われるようになっていった。

 その過程で今までコボルトと呼び忌み嫌っていた鉱石が全く新しい知られざる金属であったことが判明してコバルトと命名されることになる。

 古代文明時代から幅広く利用されてきた金属にコバルトの名前が与えられて日の目を見たのは1737年、それこそ近代に入ってからだった。

 中世時代に西欧の鉱山から逃げ出したコバルトはそのあと暗い宇宙を漂い大小様々な隕石が集まっているアステロイドベルトで落ち着いていた。

 そこは人々の罵り声は聞こえず静かで冷たく居心地が良い所だった。

 ほんのつい先程までは……である。

 休憩室にアイリーンと昴くんがドタバタと入ってきた。


挿絵(By みてみん)

「レヴィおはよう、ねえどんな感じもう人型になったかなあ」

 扉を開けるや否やアイリーンが聞いてくる。

「まだ時間は掛かりそうですね、人の生気を浴びたからと言いましてもそんなに早く精霊が妖精に進化しませんですわよ」

 レヴィがイスに座ったまま上目遣いに言う。

 彼女たちは情報端末器を休憩室に持ち込んで近年の歴史なんかを宇宙服に入ったままのコバちゃんに読み聞かせていた。

「レヴィさん、お早うございます」

 昴くんは、レヴィとアシュラに対して少し距離を置くようにしている。

 アイリーンはそんな昴くんを横目で見て室内に他に人が居ないのを確かめた。

「今はアシュラが休んでるのよね、ピエロが言うにはさこの休憩室には生気が満ちているからコバちゃんにとって良いんじゃないかって、だから回復と成長も早いんじゃないかと思ってたんだけどね」

 昴くんも背伸びして、どこかにピエロが隠れているんじゃないかなあと目を細めて隅っこを見ている。

「ピエロさん居ないねえ、コクピットに戻って来ないからここで朝ごはんを食べてるんじゃないかって愛鈴が言うんで見に来たんだけど」

「ここには来てないです、まだ倉庫じゃないでしょうか」

「そうねコバちゃんもまだまだのようだし先にピエロの様子を見に行ったほうがいいかも知れないわね。朝ごはんも食べてないみたいだし……そう、うち達は食べてから行くけどね」

 アイリーンがトーストをかじりオレンジジュースを飲み干してから昴くんのほうに向き直る。

 コバちゃんをチラッと横目で見てから喋りだす。

「ねえ昨日ピエロが話してたコボルトって言ったら白雪姫に出てくる七人の妖精さんのことよね」

 アイリーンが何かを思い出したように問い掛けてきた。

「白雪姫に出てくる小人さんはドワーフで土の妖精だよ、コボルトはゴブリンと同一視されてる精霊じゃなくて邪鬼だと思うよ」

「ゴブリン呼ばわりなんて酷すぎないかしら、うちなら言った奴らを蹴飛ばしてから逃げ出してるわよ」

「ゴブリンにも色々いるだろうけどね、悪口みたいに言われてるのなら酷いよね。でも蹴飛ばさずに逃げ出しているんだからコバちゃんは穏健派なんだよね」

「うちに言わせたら『尻尾を巻いて逃げ出した』だわ」

 アイリーンはコバちゃんに聞こえて機嫌を損ねないように小声で話す。

「地球に残った同胞達を巻き込まないようにしたのです」

 コバちゃんのほうから小さい声が聞こえた。

「今のはコバちゃんが喋ったの?」

 アイリーンが喜びの声を上げる。

「コバちゃんは地獄耳を持ってるのかしら、それともテレパシーを使えるのかも知れないわね」

「そうだね」

(コバちゃんは君の悪口に反応したんだと思うよ)

 昴くんは何とか言葉を飲み込み微笑んでいる。

「もう妖精に成長したのよね」

「かなり早いようですけど、どうでしょうか」

「そんなに生気が濃いのならレヴィさんにも影響があって良さそうなのにね」

「私は……そうですねもうだいぶん俗世に馴染んでしまったものですからこの部屋に漂っている生気くらいでは影響されないのですわ」

 なんだかすまなさそうな表情をしている。

「レヴィはもう大人なんだね」

「昴くんは当たり前のことをもっともらしく言わないのよ」

「悪かったよ」

(僕は君に分かってもらうつもりでわざと言ったんだけどなあ)

〈アイリーン、キャプテンちょっとコクピットへ至急戻ってもらえますか〉

「どうしたのよ」

〈ケレスの裏で、え~っと座標9、3、13e5でつまり右斜め前方130万Km先で熱源反応が発生したんですよー〉

「ケレスって言ったらアステロイドベルトで一番大きい隕石……準惑星? だったよね、確か直径が1000Kmで月の75%程の大きさだったんじゃないかなあ。ここにあったんだ」

 昴くんが目を丸くする。

「何よ火山でも爆発したんじゃないの」

 アイリーンが言う。

〈ケレスに火山は無い筈なんですけど、それにシルエットの大きさからして戦艦みたいなんです、それがいきなり3隻も現れたんですよ〉

「何よスリットから出てきたとでも言いたい訳?」

〈撃っていいですよね〉

「待ちなさいよ、味方かも知れないでしょう」

〈スリットから出てきたんですから敵に決まってますって、まず撃ってから様子を見ても遅くはないでしょう〉

「味方だった時はどうするのよ」

〈その時はキャプテンアイリーンが謝れば良いんじゃないですか『ごめんなさい。間違えて撃ってしまいましたわ、うふふ』って〉

 スターキッドAIがアイリーンの声真似をして話す。

「あんたその調子でいつも喋ってる訳じゃないでしょうね」

〈・・・〉

「本当にビビリザキッドね、うち達がコクピットに着くまで待機。監視だけ強めてて」

(愛鈴はビリーザキッドに引っ掛けたんだと思うよ、でも彼は確かに早撃ちだったらしいけど先に撃ったりびびったりはしてなかった筈だよなあー、確かアメリカ西部開拓時代のアウトローで賞金首だったはず)

 昴くんは家に籠っていたころ彼が主人公の洋画を見ていてファンになっていた。

「ビビリじゃないですぅ~。日本の古典にも先手必勝の理を表すって言うじゃないですか……」

 三人がコクピットに入ると正面にある大型モニターパネルの前で待機していたロボくんが話し掛けてくる。

「盛者必衰の理を表すだからね。スターキッドAIは冗談で言っているのだろうけど間違えて覚えてしまう人が居るかも知れないのでやめようね」

 昴くんが困ったAIだなあと言いたげな表情で言う。

「早打ちマックにしてもギターを投げつけてから詰問していたでしょう」

(ロボくんになってから今まで以上に饒舌になったんじゃないかしら)

 アイリーンはそんな気がした。

「そうだったかしら、まあいいわ、それで結局何をどうすれば良いのかしら」

 アイリーンが昴くんに意見を求める視線を送る。

「アステロイドべルトの中だったらこっちが有利だと思うよ、だからまず敵かどうか確かめようよ、この前九論が言ってたよね『投降しようとする者を撃ったりしたら後味が悪いだろう』ってね」

「そうねわかったわ、危なくなったら直ぐに隕石の陰に隠れられる場所を見つけて、呼び掛けに応じなければ威かく射撃ね」

(天王星でレッド隊長の部下達もスターキッドに対してこのやり方を取っていたから順当なのよね)

 アイリーンが決断した。

「あっ、あちらの戦艦は敵で確定しましたですわ」

 外部環境監視席に座っていたレヴィが言う。

「一体どうしたって言うのよ」

 アイリーンと昴くんは自分達の席に着いてセッティングを始めている。

「モタモタしているからあっちが先に撃って来たじゃないですか! 応戦します」

 操縦席と副操縦席の間に滑り込んできたロボくんが言った。

「待って!」

 アイリーンが指示を飛ばす。

「そうだよまだかなり距離が離れてるよ、130万Kmだったよね着弾まで何分掛かるのかなあ」

「着弾まで3分、高密度エネルギーと思われる軌道が6本こちらに向かって広がってます」

「厄介な事になっていますね」

 ピエロがコクピット後方の扉から入ってきて言う。

(流石はピエロさん、いつも神出鬼没に現れていかにもエージェントらしくてカッコいいですぅ~)

 レヴィが恋する乙女の眼差しになっている。

「そろそろ回避行動をとったほうがいいと思いますけど」

 ピエロがズボンの後ろポケットから小瓶を取り出し飲み始めた。

(昨日の残りかなあ、いつも飲んでる割にはなかなか減らないみたいなんですけど……)

 昴くんは何となく思う。

「うちは回避せずに向かってきてる軌道の隙間を抜けようと思ってるのだけど、ピエロの考えていることを教えてちょうだい」

「スターキッドAIも痩せ我慢なんかせずにさっさとキャプテンに助言すれば良かったでしょうに、余程腰抜け呼ばわりされたのがショックだったみたいですね」

(あら、ピエロったらいつから聞いていたのかしら、でも腰抜けとまでは言ってなかったわよ、まあ小心者ねってところよね)

 アイリーンが口には出さずに励ましてあげた。

「回避します」

 ロボくんがそう言うと同時にスターキッドは上昇に転じる。

 宇宙には上下左右があるわけないのでこの場合はキャプテンの頭上の方向に機首を向けていく。

「ロックオンが解除されないです。自動追尾機構が備わっているみたいなんですけど、このままスピードを上げます」

 ロボくんが悲鳴にも似た声を上げる。

「だったらそのまま戦艦目掛けて飛んでよ」

 アイリーンが言う。

「戦艦に突っ込ませるつもりなんだね」

 昴くんもそれを指示した。

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