161.コバルトの妖精3
地球防衛基地を出発してから12時間が経過していた。
さっき発見した岩石のサンプルを持ち帰るためアイリーンと昴くんの二人は倉庫に入っている。
「思っていた以上に詰め込まれてるわね」
アイリーンが天井付近まで重ね積みされているあれやこれや、何だかわからない物を見上げながら言う。
「サンプルを入れるコールドスリープカプセルだけ外部ハッチ側へ移動すれば良いんだったよね」
パワードスーツを着た昴くんが確認のために聞く。
「そうよ、まず先にハッチの近くにある物を移動してからよね」
アイリーンがどこに移動したらいいものかしらと見渡す。
「愛鈴、こんな所にカプセルベッドが置いてあるのだけど?」
荷物の隙間に入り込んで行った昴くんから声が掛かる。
「知らないわよ、でも利用できるものは使いたいからそれも手前に移動しましょうね」
「出入口側にある2台の横に並べて置くよ」
「お願いね」
「あ、愛鈴、これ使用中になってるのだけどレヴィさんがテレポートしてきて入ったのかなあ?」
「そんなわけないでしょう。コクピットでアシュラと一緒に掘削ミサイルの調整してたじゃない、覗いて見てごらんなさいよ」
「僕が?」
「そうに決まってるじゃない、しっかりしなさいよね男の子でしょ」
(いつもお姉さんぶってるのにこういう時には押し付けてくるんだから釈然としないなぁ~)
昴くんがそっと覗き窓に顔を近付ける。
「愛鈴! 中でピエロさんが寝てるのだけど何でだろう」
「それこそ知らないわよ、起こせば」
(また僕に押し付けてくるよ)
「ピエロさん起きて……下さい」
カプセルベッドの上からトントンと叩いて声を掛けると直ぐにパッと目を開けた。
「ああ寝込んでしまいましたか、いくら安全が保証されているスターキッドの中だとしても少し気を緩め過ぎました」
ベッドの蓋を押し上げ苦虫を噛み潰したような顔をしながら出てきて身だしなみを整える。
「一体どうしたのよ、まさか荷物を積み込んでてうっかり寝てしまったとか言わないでしょうね」
アイリーンが腰に手を当てて言う。
少しお冠のご様子だ。
「地球に行くのなら一緒に連れていってもらおうかと思いまして私の分のカプセルベッドを積み込んだのです。中に入って休んでいる間に寝込んでしまいました。最近は緊張のしっぱなしでしたから糸が切れたみたいです」
ピエロが悪びれた様子も見せずに返事をする。
「うちはキャプテンなんだけど一言の断りもなしに乗り込んだなら密航者と同じじゃない」
「嫌だなあ~、僕はクルーの一人だと思ってましたけど」
「たとえクルーでも同じことだわ」
「食料の補充とキャプテンにお土産を持ってきました」
「わあ、ピエロって好い人ね歓迎するわよ」
アイリーンが微笑む。
「愛鈴、手のひら返しが大きすぎるよ、それにさ早くしないとそろそろミサイルが回収されるんじゃないかなあ」
「そうね、手っ取り早く終わらせましょうか」
30分程で目的の作業は終了した。
その時は既にコバルト岩石からサンプルを採取したコア抜きドリルミサイルはスターキッドの減圧室に回収され安全確認がされている。
〈減圧室に回収した未知の物質は放射線及び感染症、その他の危険は認められませんので倉庫へ移動しても良いですか〉
スターキッドAIがスピーカーを通して報告と問い合わせをしてきた。
コバルト同位体であると確定してないので未知の物質と表現している。
「いいわよAちゃん、こっちの準備も終わったからね。それとピエロが倉庫に積み込まれていたカプセルベッドの中で寝ていたのだけど弁明できるかしら」
〈嫌だなあ、僕がアイリーンに隠し事をしたことって……なかったと思いますよ。知っていたら報告してますって。だから、知りませんでした。それに以前にもお伝えした通りカプセルベッド内はプライバシー保護により監視対象から外れてますので〉
「言い淀んだところが怪しいんだけど……まあいいわ守秘義務もあるだろうし」
〈今度からプライベートエリアも覗き見できるようにしましょうか〉
「それは絶対にやめて下さい!」
昴くんが珍しく強い口調で言う。
アイリーンの顔が赤らんでゆく。
(これも思春期における病の一種なのだろうか)
スターキッドAIは理解しようとした。
〈それはそうとコア抜きミサイルでサンプリングした中身を減圧室から移動しますね、コールドスリープカプセルには昴くんが入れてくれるのですよね〉
減圧室の扉が開きストレッチャーみたいな自走式作業台に乗せられた薄青色の光を放つ直径50Cm長さ1m程の円筒形をした物体が倉庫へ入ってくる。
パワードスーツを着た昴くんが慎重に摑もうとするけどなかなか摑めない。
「何をしているの?」
アイリーンが不思議そうに聞く。
「滑るんだよ、ほらなんかさウナギを摑めないのと一緒で……」
「これが、さっき説明していたコバルトの同位体じゃないかって言う物なのかい?」
静かに三人のやり取りを聞いていたピエロが漸く話に加わってくる。
「そうよ、地球防衛基地に居るイノマンに分析を依頼してるところなのだけど、現物はここにしか無いのよね」
「ねえ愛鈴、僕たちこれがコバルトだってのは色だけで判断したよね、もしかしたら間違ってたりしてないかなあ、それこそ誰も知らない未知の鉱物だったりするのかも知れないよ」
悪戦苦闘していた昴くんが手を休めて言う。
「鉱物ではなくてどちらかと言えば生物に近いかも知れませんね」
ピエロが指で表面をすーっと撫でながら言う。
「「生物?!」」
アイリーンと昴くんは疑問符と感嘆符付の声を同時に上げた。
昴くんは後ずさってアイリーンの横に立つ。
「ここにはレヴィさんも乗ってましたよね、彼女なら分かると思いますよ」
「ここに呼べば良いのよね、Aちゃん聞いてるでしょうレヴィを呼んでもらえるかしら」
〈レヴィさんならアシュラさんと一緒にそっちへ向かいましたよ。もう直ぐ着く頃です 〉
スターキッドAIが言い終わらない内に扉が開く音が聞こえた。
「アシュラこっちよ、側に来て大丈夫だからレヴィも一緒よね」
アシュラが先にそしてレヴィもその後ろから近くまでやってきた。
外部ハッチの周りを片付けた通路が狭くなっているので並んでは歩けない。
「まあ、ピエロさんがいらっしゃるじゃないですか、どうやってここに?」
レヴィの頬がピンク色に染まっていく。
「イノマンが造りしクローン、フリープラネット同盟屈指のエージェントであるピエロはあなたの思いもよらないところに現れる」
そう言いながらピエロが仰々しくお辞儀をすると、レヴィはアイドルに出会ったみたいにはしゃぎ出す。
「レヴィ、はしゃがないのよお姫様なんでしょう」
アイリーンがたしなめる。
(一体ピエロのどこが良いのかしら、まあ確かに顔は悪くないわよね)
初見でピエロの化粧姿を見ていて、出会い方も最悪だったのでそれ程カッコいいとは思わない。
「ねえレヴィ、ピエロが言うんだけどさあ、これが何だか分かるかなあ」
昴くんはもう捕まえるのは諦めたらしく指を広げた手の平で指し示す。
「これが先程から仰っていたコバルト……の同位体なんでしょうか。私には違うものの様に感じますのですけど」
レヴィはそう言うと黙り込む。
「レヴィ?」
アイリーンが小声で呼び掛ける。
「精神統一しているみたいだから静かにしましょうね」
ピエロも小声を発し彼女が伸ばしかけていた手を制している。
(レヴィの、いや海王族の精神感応なんてそうそう見られるものじゃない、これだけでも無理を言ってここまで来た価値があるのだがさて、お手並み拝見と致しましょうか)
ピエロも精神感応は使える。
アイリーン達の目の前に最初に現れた時、その力を使って彼女の自由を奪っていた。
さっきも倉庫の中に持ち込まれた薄青色の物質を精神感応を使ってスキャニングしている。
その結果を直ぐに口に出しても良かったのだけど、海王族の力を見てみたいと思う欲望のほうが勝った。
だからピエロはワクワクしながらレヴィの次なる発言を待っている。
「悲しい波動を感じますわ、凄く辛いことがあって地球を飛び出してここのアステロイドベルトで眠りにつかれていたみたいです」
レヴィは精神感応で相手の負のイメージをまともに受け涙を流す。
直ぐ横に立っていたアシュラがそれに気付き肩を抱きしめた。
「鉱物が悲しい波動を放っているっていうの?」
「鉱物が逃げ出して来たって?」
アイリーンと昴くんが異口同音に言う。
「だから先程もお伝えしました通りこの方は鉱物ではありませんの」
「「この方?」」
二人が同時にハモった。
「この方はコバルトに宿ったスピリッツが進化した形態の精霊さんです。それにもう少しで妖精に変化しそうです」
「「妖精さん!!」」
今度は二人同時に手を取って飛び上がる。
「妖精さんっね。それにしてもロースさんもそうだけど、うちが小さい頃から持っていた姿とイメージがだいぶ違うわ」
「愛鈴は手の平サイズで羽を持って空中を飛んでいる水色の姿をした妖精さんをイメージしてたんだよね」
「そうよ、小さい子供はみんなそうなんじゃないかしら」
「そうだろうけどさ、僕たちもう小さな子供じゃないんだからちゃんと現実を見直さないといけないと思うよ」
「アイリーンが言っている妖精の種族はシルフ族です。地球人が風とか空気に感謝の気持ちを込めた時に生まれたスピリッツが成長した姿です」
「今はまだ精霊だって言ってたよね」
昴くんが聞き損なったのではないのかと聞き返している。
「そうです。精霊なのでこの様な姿をしてますけどアイリーンさん達が生気を分け与えることで妖精に成長すると思いますよ」
レヴィがコバルトに宿った精霊が放つ悲しい波動を受けて出てきた涙を指で拭きながら言う。




