159.コバルトの妖精1
スターキッドは慌ただしく復旧作業に追われている地球防衛基地を出発して最初の目的地にしていた地球に向け航行していた。
アステロイドベルトを形成している星の欠片はみんな岩石みたいなものだけど、それらは輝きながら太陽の回りを周回している。
その殆んどが欠片と呼んでも問題ない大きさなのだけど中には直径が100Kmを越えるものも少なくない、中でもケレスなんかは直径が約1000Kmもあり小惑星から準惑星へと昇格されていてその内部には水も存在していた。
その輝きに目を奪われながらスターキッドの乗員五人はコクピットの定位置に座りこれからの予定を話し合っている。
「このままの通常航行で目的地の南極大陸まであと1日くらいかしら」
操縦席からアイリーンが言う。
「地球へ向けて出発してからアイリーンはいつもの通り8時間の睡眠をしっかり取りましたからね、残りは20時間です」
ロボくんが答えた。
スターキッドAIはあれからずっと自走ロボットと合体した通信端末から喋っている。
アイリーンは自走ロボットの名前を色々と考えてみたけれど呼び掛ける時はどうしてもAちゃんになってしまう。
だから今まで通りの呼び掛け方をして合体している時は固有名称で『ロボくん』を使うようにした。
ロボくんはゴムクローラを使って自走するのだけどコクピットからは出て行こうとしない。
だからコクピット以外からスターキッドAIと連絡を取り合う時には今まで通り艇内スピーカーを使って話している。
「夜行列車とか夜行バスとか言うでしょう今回は夜行キッドね、寝てる間に目的地に着くってのが一番良いと思うのよ、まず第一に退屈しなくて済むわ」
アイリーンが操縦席から話す。
「僕はいつも孤独で退屈な夜間監視任務をしているのだから感謝して下さいよー」
操縦席と副操縦席の間に入り込んでいるロボくんが会話に参加してくる。
実際に言葉を組み立てて喋っているのはスターキッドAIなのだけど。
「あなたのセンサーに感謝すればいいのよね」
アイリーンが皮肉っぽく言う。
「何でそうなるんですか」
「だってあなた以前に『誰もが寝てしまったら話し相手が居なくなるのであとはセンサーに任せて僕も寝てますから』みたいなことを言ってたじゃない」
「そんな大昔の些細なことをよく思い出してチクチクと針で刺すように言いますね。なんだかサロメさんの気持ちがわかったような気がしてきましたよ」
ロボくんがフレキシブルな手を腰に当てて言う。
「あのね~」
アイリーンが反撃しようとすると。
「はいはいはい、そこまでにしましょうね愛鈴は冷静に戻って、ロボくんはもう少しAIらしい言動をしてもらえますか」
昴くんが仲裁に入る。
「そうですわー、ロボくんはスターキッドAIでコンピューターでいらっしたのよね、私は箱の中に誰か他の人が入って会話をされているのではないかと時々思ってしまいましてよ」
レヴィがもっともらしい感想を言った。
昴くんは次なる話題を考え出さなければいけない立場に追い込まれ頭を抱えている。
「それはそうと、地球までの5億Kmをスターキッドがいつもよりゆっくり飛んで30時間、光のスピードだったら秒速30万Kmだから28分で到着するし高速戦艦が秒速60Kmで航行して行こうとすると3ヶ月も掛かってしまう、速度次第でこんなにも違いが出るもんなんだね」
昴くんがなんとか話の流れを切り替えるのに成功した。
「そうよ、ウサギとカメの童謡があるでしょう、あれをね『向こうの星の南極へどちらが先に駆け着くか~』って歌うとよくわかるわよ、そして『ここらでちょっと一眠り』はコールドスリープしたのよね、だから『これは寝過ぎたしくじった』って続くのよ、置き換えてみると昴くんの話もすんなり理解できると思うわよ」
アイリーンが指をふって時々歌いながら話す。
(話が変な方向へ流れてないかなあ)
昴くんは折角まともな話の流れに誘導したのに元の木阿弥に戻るのかと不安になる。
「言われてみればその通りかも知れないね、早く着き過ぎたウサギさんはゴールしないでカメさんの到着をコールドスリープして待つことにしたのだけど起き損なってカメさんが先にゴールしちゃうでいいのかなあ」
(何か少し変だけど)
昴くんは、皆で意見交換が出きるミーティングの場に戻すために自分からアイリーンの話を受けて早く終わらせようと試みた。
「そうよ、カメさんの到着時刻をどんぶり勘定して読み間違えちゃったのよ、こういう大事な時には緻密な計算が必要だっていう教訓よね」
(『そういう君はいつもどんぶり勘定しかしてないように見えるのだけど、教訓は生かさないとダメだよね』って言いたいのだけど、言えば言ったで怒り出すんだろうなあ)
昴くんは早く大人になりたいと思う。
「それにしても話がだいぶ逸れたね」
「僕には納得できませんね、早く着いたのならゴールしましたって証拠の品を持ってカメさんの鼻面に突き付けてその場で敗けを認めさせるべきだったのですよ。何もバカ正直に3ヶ月も待つ必要はなかったと思います」
ロボくんは如何にも自分が愚か者に例えられている気がして許せなかった。
「ロボくんの言うことにも一理はあると思うわでもこれは小さな子供向けの遊び歌なのだし、何より面白かったでしょう」
そう言うアイリーンの表情は含み笑いをこらえている。
「そうだね、他にも宇宙旅行に置き換えられる寓話とか昔ばなしがありそうだね」
昴くんが副操縦席のディスプレイを電卓代わりに計算しながらウサギさんは一体何年コールドスリープしたのだろうと妄想に耽っていた。
「目の前に流星がいきなり飛び出してきても避けられるスピードで飛びますのでアステロイドベルトを抜けるのに1日掛かります。その後加速して約半日で目的地の南極大陸に到着予定です」
ロボくんが現実的な話をしてきたので昴くんはホッとした。
「他に何も『これ』ってものは見当たらないわね」
アイリーンが自分の使命を思い出した様に振る舞い始めたので昴くんは更に安心する。
「今のところ索敵範囲には反応なしです」
外部環境監視スクリーンを見ていたレヴィが報告してくる。
「通信傍受にも反応なしです」
通信席に座ってヘッドホンをしているアシュラもレヴィに合わせる形で報告した。
「レヴィごめんなさいね、少しでも早くお父さんの所に行きたいでしょう、だけどオビスのおっちゃんからお願いされちゃったからね断れなかったのよ」
聞き捨てならない言葉を聞いたように思う。
昴くんがアイリーンに向き直る。
「愛鈴ダメだよちゃんとオビス司令官って言わないと、壁に耳ありだよ気を付けようね」
昴くんは言いながらしまったしくじったと思った。
(さっきは自制できたのになー)
「え~っ、ホント昴くんはうちが何か言うたびに『ダメ』って言うようになっちゃったわね、つまんないわよ」
アイリーンが唇を尖らす。
「もう少し考えて言葉を選んでから喋ってごらんよー」
昴くんが言う。
「あら、そんなことをしたら言葉の新鮮味に欠けてしまうわ、それにあなたは言論の自由ってものを知らないのかしら」
操縦席から昴くんのほうへ身をのり出して指を振る。
「もうわかったよ、どこかでヘマをやらかしてしょぼくれても僕は知らないからね」
「うちはそんな屁マはこかないわ、それにそうなった時は昴くんの影に隠れるから大丈夫よ、あなたはうちを矢面の最前線に引きずり出したりなんかしないでしょう」
「あのね~……」
「はいはいはい、くさい話はそこまでにしましょうね、レヴィとアシュラが困ってますよ、夫婦喧嘩は犬も食わないってね」
ロボくんが二人の間に割って入ってきて両手を広げ制止してくる。
「誰が夫婦だってのよ」
アイリーンが咆哮を放つ。
「私たちが犬だと仰るのですか」
レヴィもきつい口調で言ってくる。
「ごめんなさいごめんなさいです~、例えが悪かったです謝りますから許して下さい」
「仕方ないわね次からは気を付けるのよ」
アイリーンが大きく息を吐く。
「あら、私たちは冗談で言ったんですけどアイリーンは本気のご様子でしたわね」
アシュラが意地悪そうに言っているけど目が笑っていた。
「違うわうちも冗談よ……って、もう~ばらしちゃったりしたら小突いた意味がなくなっちゃうでしょう」
「まあ、アイリーンったらスターキッドAIさんを突ついて苛めていらっしゃったんですね」
レヴィが言う。
「違うわ、Aちゃんが暴走しないようにブレーキを掛けてるのよ」
アイリーンがもっともらしく弁明する。
「へえ~、そうなんですか」
三人は納得できない様な、でも薄笑いをする時の目付きをした。
「何よその三日月細目横睨みは……うちのことが信じられないってな目付きね」
コクピットの四人は席を回転させて話をしているのでお互いが向き合う形になっている。
「わかりましたわ信じましてよ」
レヴィがもう終わりにしましょうと手を振った。
(危なかったわ、もうちょっとでうちにいじめっ子のレッテルが貼られるところだったわレヴィが居る所では言い方に気を付けないと駄目かもね)
「それでどこから話が逸れたのだったかしら?」
アイリーンが全てを白紙に戻したように話し出す。
「オビス司令官からの頼まれごとだったでしょう」
「あっ、そうそうそうね地球へ行くまでの道すがらでいいの、目に付いたものを何でもいいから報告して欲しいって言われたのよね」
「いつもよりゆっくり航行している理由はそれもあったんだね」
昴くんが改めて確認してくる。
「そうですね『急がば回れ』って諺もありますしね」
アシュラは通信席に座ったままヘッドホンから流れ込んでくる音を拾ってるだけで暇をもて余しているから少しでも会話に参加したいらしい。




