158.反乱19
今にもつまみ食いを始めそうにウキウキとお重を開けていく姿を見て三人の瞳は微笑んでいる。
お目当てのおにぎりは最下層の三段目に収まっていた。
「俵おにぎりだあ食べていいよね」
これも返事を聞く前に宇宙服の首元から腕を出し素手で詰まみ取って食べる。
「昴くんはそれ程お腹が空いていたの?」
アイリーンが感心しましたと言わんばかりの表情をした。
「あっ、しまったゴメン」
昴くんはレヴィから差し出されたお皿を受け取りながら言う。
「まあ、いいわよ毒味役だと思っておくわ」
「毒なんか入ってませんよ」
レヴィとアシュラが声を合わせて言い返す。
「あら軽いジョークよ洒落よ……ごめんなさい」
アイリーンはしょぼくれて謝った。
「私たちもジョークでお返ししたのだからおあいこですね」
アシュラが本音を明かす。
「それじゃあ最初からやり直しね、頂きます」
「頂きます」
アイリーンが言って皆が唱和した。
それから食事を挟んで情報交換やこれからの予定なんかが話し合われる。
「アンバ隊長とレッド隊長の艦隊がいきなり現れたのって、うちが撃った簡易うずしお発生弾が天王星からこっちに向かって伸びていた正規の〖うずしお〗に引き寄せられて繋がりが延長されたって訳なのね」
アイリーンが両手の人差し指先を会わせながら言う。
「じゃあ、誤射でも防御されたわけでもないんだね」
昴くんは自分達のヘマでない事を強調したいらしい。
「サロメが率いるシルバーシップ艦隊もやはりこちらへ向けて急行していたのだけどいきなり目の前に地球防衛基地が現れたって言ってたのです。彼女はイノマンが急いで助けを呼ぶために何か仕掛けをしたんだと思ったそう。そして基地に照準を合わせていたカシオペア戦艦に気付くと微塵のためらいもなくエネルギー砲を発射したそうです」
「へえ~、それでイノ… …九論が何か仕掛けたのかしら」
アイリーンは中身はイノマンでも名前は九論だからねと改めて言葉で示す。
「いえ、イノマン先生が何かをしたのではなく『2つの『うずしお』が出合った場所で爆発的な空間変位が起きて巻き込まれたのだろう』と言ってました」
レヴィは名前は九論でも体と中身はイノマン先生でしょうと一歩も引かない。
「そう、皆はこっちへ急いでたんだろうけどあのままじゃとても間に合ってたとは思えないわ。偶然の産物とは言え、よくもあんな強運に恵まれたものだと感謝しなくっちゃいけないわね」
アイリーンはイノマンと九論の同一人物論争は後回しにした。
今回の戦いで勝利できたのは運が良かっただけだったんだと言うことを強調したかった。
「『運も実力のうち』って言うよね、最後の瞬間『負けた』と思いながらも何とかなるって笑っていたよね。いつも前向きで明るい愛鈴に天も味方したかったんだと思うよ」
(あんたもね)
アイリーンはそう思ったけれど口にはしない。
「この中ではスターキッドが一番強運の持ち主じゃあないかしら、うち達の誰より長く生きて死の危険にも数多く晒されて来てるのにかすり傷すら負ってないものね。あっレヴィもそうね千年ものコールドスリープに耐えて生きてるし戦闘中に艦外で歌っても流れ弾一つ掠りもしなかったもんね」
「まあ、アイリーンったらひどい言いようです」
「愛鈴の口の悪さは親しさに比例してますので……そう思ってて下さい」
昴くんが苦しいフォローをした。
「アイリーンあと言っておかなくてはいけない報告事項がいくつかありますので聞いて下さい」
今まで笑いをこらえて聞いていたアシュラが一転真面目な顔をして話し出す。
「未来から来たロースさんとフレアホースさんはアイリーンに会わずに元居た場所へ帰るそうです『会えば絶対に帰してくれないだろう。自分たちも心が折れる。だから会わないで帰る。許して欲しい』と伝言を頼まれました。オビス司令官にはリバイアサンとレヴィのことを話しました『リバイアサンの罪が仕組まれた冤罪であった事は理解した。しかしそれは神話の時代の出来事であるばかりか今では昔ばなしとして世界中に広まっている。そのことを正しく広め直すのは並大抵のことではなくまた更なる誤解が生じる恐れもある。私はリバイアサンの冤罪を公文書で告知し確約書を書き保証もしよう。それで和解して欲しい』と直接レヴィに言われ当人も納得しました。最後にアイリーンのことで『前回地球防衛基地を救った功績の報奨として恒星間航行が可能な戦艦B99をスターキッドの母船になるようにと建造したので受け取って欲しい。今回の報奨については決定次第連絡するのでそれまでは太陽系内に留まっていること』だそうです。ただオビス司令官の私的な言葉として『B99の運用は全て石橋艦長に一任してアイリーンはあのジャングル風呂に入りたくなった時だけ立ち寄っても構わないからな』と言うことでした。最後に地球防衛基地は凹んだ部分をそのままにして復旧するそうです。何でもアイリーンが言ったそうじゃないですか『こっちのほうが格好良い』って」
アシュラの長い話しは終わった。
昴くんは自分達しか知らないはずの『こっちのほうがカッコいい』発言をオビス司令官が知っていると聞いた時『スパイは何処にでも居て本人はそれを自覚してない時もある』と言ったピエロの顔が頭をよぎっている。
「皆に会いたかったなあー、でも今はゆっくり話せる時間なんか誰も持ち合わせてないものね」
アイリーンが詰まらなそうに言う。
「これでやっとレヴィのお父さんを迎えに行けるね」
「九論とピエロはいいとしてもロボちゃんだけは迎えに行かないとダメよね、今だってAちゃんは一人のけ者にされてヤキモキしてるでしょうからね」
「その必要はないよ、う~んもう直ぐ地表に着くね、食後の散歩がてら迎えに行きましょうか」
「そうか、アシュラはポラリスとリンクしてたんだからAちゃんとも繋がっているのね、ナチュラルAIって言ったかしらイノマンも凄い事をしたもんだわ、それでロボちゃんは九論が連れて来てるの?」
「いえ、一人で歩いて来てますよ」
「えっ一人で歩いてって……」
(しまった九論に預けッぱなしにしてたのが不味かったかぁ~、何か改造するんじゃないかって気にはなっていたんだけどこの忙しい中でそんな余裕はないと踏んだのが間違いだったよ)
アイリーン達がピクニック道具を片付けてレヴィとアシュラが出て来た場所へ着くと丁度エレベーターが下からせり上がってきて扉が開きスターキッドAIの外部端末ロボットがおむすび形無限軌道クローラーを動かして近寄ってくる。
(ああ~、こんなに大きくなって姿も変わっちゃってるじゃない、これじゃあ今までみたいに肩に乗せられないし名前だって変えないといけないわ)
アイリーンはがっかりして肩を落とす。
「アイリーン少し勘違いしているようなので説明しますね」
今まで通りのロボちゃんの声でスターキッドAIが言う。
「ううっ、そんな姿になってまでロボちゃんの声で言わないで欲しいわ」
「説明します。頭のヘルメット部分がカパッと開きます。アイリーンと昴くんの生体認証ロックが掛かってますので他の人では開きません」
アイリーンが言われた通り頭部に手を添える。
(後ろにカパッとかしら)
ヘルメットが後ろへ倒れ中が見えると見慣れたロボちゃんの上半身がそこにあった。
「そのまま引き抜いて下さい。ヘルメットは閉じてね」
ロボちゃんがいつもと変わらない様に話す。
「昴くんが以前に『自分で歩けないのにロボットっていうんだ』と言ってたのを九論がずーっと気にしていたみたいだったのです。今回の戦闘で材料がふんだんに入手できたらしくて『合体ロボットにしようか』と言い出して一晩で作ったんですよ」
ロボちゃんが定位置にしているアイリーンの左肩上で言う。
「凄いね合体ロボットだって、これで変形したら完全にアニメの世界になってしまうね」
昴くんが浮かれてきている。
「変形して飛べますよ。そのためにここまで大きくなったんですから」
ロボちゃんが断言した。
「・・・」
二人は言葉を失う。
「やっぱり名前……変えようかしらね」
アイリーンがボソリと言った。
「さあこれでみんな揃いましたね、スターキッドに乗り込んで出発しましょうか」
いつの間にかアシュラが仕切っている。
アイリーンがさあーっと青ざめていく。
「うちのスターキッドなんだし、うちがキャプテンなんだからね」
声高らかに宣言した。
スターキッドに乗り込み基地に居る知り合い全員と通信で挨拶したかったのだけど殆んどの人と連絡が取れない。
それでも2時間掛けて最後の一人と挨拶が終わった。
その間スターキッドはエレベーターピットの真横に移動して物資の補充をアイリーンを除いた他のメンバーで行っている。
お礼とお別れの挨拶はキャプテンの仕事だからと押し付けていた。
アイリーンは別に押し付けられなくても喜んで引き受けたのだけど。
ロボちゃんの名前は今の段階ではそのまま変えないことになった。
「イノマンが作ったのはロボちゃんが外出時に着る多機能ボディなんだよね」
アイリーンの言い種である。
今現在スターキッドに乗っているのはアイリーン、昴くん、レヴィ、アシュラ、ロボちゃんの五人だ。
スターキッドAIはロボちゃんの多機能ボディに大満足で、そのうち一人で出歩こうと企んでいるらしい。
B99は石橋艦長に今まで通りの運行を改めてお願いして当面はオビス司令官の下で働いてもらうことにした。
(今度あのジャングル風呂に入る時は女の子三人一緒ね、そうすると昴くんには気の毒な思いをさせるわね、そうよ次こそは水着を着て入ればいいのよ名前をジャングル温水プールに変えれば問題ないわ。あとB99の運行経費はオビスのおっちゃんが払ってくれるわよね……きっとそうよね、いや絶対にだよね)
アイリーンはそこまで考えると操縦席で背伸びをしてから言う。
「さあ、出かけようか最初の目的地『地球へ』」




