157.反乱18
「それにしてもアイン星人ってどんだけ太っ腹なのよ」
操縦席でアイリーンがぼやく。
「そうだね人工惑星をポンポン造れるくらいには財政が豊かなんだろうけどさ」
(B99を建造した費用に一体どれほど掛かっているのだろう。九論が『猫に小判だ』とか言い出さなければいいけど……まあ、そう言うんだろうなあ)
言われた時にショックを受けない様に心構えをしておこうと昴くんは思った。
B99と別れてから地球防衛基地に向かう途中では戦闘で破壊された小型機その他諸々の部品や破片を補給艦が回収している。
当然スターキッドが航行している所にも色々な瓦礫が散乱していてスターキッドAIはそれ等で傷付かないように慎重に飛行していた。
〈もう直ぐ地球防衛基地の管制宙域に入ります〉
「結構時間が掛かったわね。もうお昼ごはん時じゃないかしら」
〈12時まではまだあと1時間24分あります〉
スターキッドAIは《プンプン》と言いたかったけど次の言葉を有効にするために諦めている。
〈それで管制との連絡は僕がやり取りして良いですよね〉
「宇宙港はまだ復旧作業のまっ最中なんだよねスターキッドAIがしたほうがいいと思うよ」
昴くんが助言した。
「そうよねAちゃんはポラリスとリンクしたままなのよね、だからそのまま任せるわ」
〈補給艦とか他の艦船が順番待ちしている間に割り込みますから苦情がきた時はキャプテンの出番ですよ、いいですか〉
スターキッドAIは人間相手の苦情対応が一番苦手らしい。
「わかってるわよ苦情対応はうちがするから代わってね、相手の心証を悪くしたら後が大変よ」
アイリーンは外部モニターに映し出されている光景に気を取られて上の空で返事をした。
「スターキッドAIは他の人たちと会話をする時に理詰めで話して少し強引な所があるからさ、もう少し気を遣って相手の返事に幾つかの選択肢ができるような話し方をすると良いと思うよ」
〈昴くんはAIにそこまで求めますか〉
「あらAちゃんなら簡単にできるでしょうよ、うち達との付き合いも長いんだしもう何年になるのかしら……あっやっぱりいいわ答えないで、うちは過去を振り返らない女になるんだから」
外の状況を一通り把握したアイリーンが話に加わってくる。
(過去に犯した数々の失敗を思い出したくないんだろうな、それとも自分の歳が明るみに出るのを避けているのだろうか)
昴くんとスターキッドAIはそう思った。
〈ポラリス経由でアシュラからの伝言が届きました。お二人は訓練を兼ねて表層に降り立ってもらいますと九論が言っているそうです〉
「九論が? アシュラもポラリスとリンクしたままだったんだ。みんな一緒に居るのか聞いてよ」
〈聞かなくても皆は一緒ですよ、AI同士ではオープンチャット状態になってますから〉
(アシュラさんはAIじゃないと思うんだけどなあ、でもどうやってポラリスとリンクしているのだろう)
昴くんは疑問に思ったけど今は考えないようにする。
「それで九論は何て言ってきてるの」
アイリーンが聞く。
〈地球防衛基地表層の指定されたポイントへ着陸してB99で積み込まれたコンテナの中身を一つずつ下ろします〉
「一つずつ? そのコンテナって九論さんが積み込んだものなんですか」
昴くんは何か別の人の命令で動いている様な気がして面白くない。
〈そうですイノマンが昔開発した兵器を小型化したものだそうですよ、地球防衛基地には迎撃装置が無かったですからね。今着陸しました。コンテナ下ろしますから指示に従って作業して下さい〉
「作業? 訓練って言ってたのはもしかしたら僕たちが作業する事なの」
(何か意図があるのだろうけど今聞いても正直に教えてくれるかどうかわからないよな)
〈簡単なものですよ、僕が九論の指示を伝えますからその通りに作業してもらえば全部で4時間程で終わると言ってます〉
「アルバイト代を貰わなくっちゃね」
アイリーンは宇宙服を着た状態で大気の無い宇宙に出るのは初めてなのでワクワクしている。
コンテナの中には3m四方の箱が6個あった。
基地表面の赤道上に4個、南北の極地に2個配置するらしい。
指定された場所に基礎が打ってあるのでそこに開梱した大昔の大砲みたいな兵器を設置固定する。
荷卸し開梱、設置、清掃、片付けまで1ヵ所40分程掛かって全部で4時間、最後の場所でアイリーン達は自由時間を貰い宇宙を満喫していた。
アイリーンが昴くんの腕を取り大砲を背にしてしゃがみ込む。
太陽光をまともに浴びているけど暑くも眩しくもない。
「宇宙放射線が怖いよね」
昴くんが言う。
あまり長く宇宙に居たくないみたいだ。
「お弁当を持って来れば良かったわお昼ごはん食べ損なっちゃったしね。宇宙放射線? あんなもの迷信よ、うちは2回も……いやなんでもない忘れて」
(そうようちは過去を振り返らないって決めたんだから、2回も宇宙空間を裸で泳いだってのも早く忘れないといけないわ)
「お腹が空いたよね、スターキッドに入って何か食べようよ」
昴くんがアイリーンを気遣って言う。
「そうね、でも確かここに迎えを向かわすからそのまま待つようにとか言ってたわよね」
「スターキッドの中で待ってても良いんじゃないかなあ、直ぐに出来る簡単な物を何か食べてようよ」
「昴くんがそう言うんだったら仕方ないわね戻りましょうか」
(さっきから頭の中で『おにぎり』って単語が反響してるのよね、確かにお腹が空いてるし幻影を見始める前に何か食べたほうがいいかも知れないわね)
「・・・おにぎり持ってきましたよ~」
その声に気付き目を凝らす。
遠くからレヴィが駆けて来るのが見えた。
(幻影……じゃないわよね、ああ『おにぎり』ってレヴィの思念が飛んできてたのね、それにしても……)
「レヴィーあんた何で服を着てないのよ」
(そういえばマリンの外で歌っていた時も確か裸だったわね)
「あなた宇宙放射線が怖くないの」
昴くんから言われたことをレヴィに返す。
(うち達は宇宙服で防護してるってのに何で平気なのかしら)
「宇宙焼けするには丁度良いです」
レヴィが小麦色の肌をしている理由が分かった気がした。
「おやつのピクニックにしましょうよ」
そう言いながら片手に持つ大きめのバスケットから洗いざらしのシャツを取り出して身に纏う。
「ピクニックにしましょうってね、あなたこの真空空間でどうやっておにぎりを食べるのよ」
昴くんがシャツを着て目のやり場に困らなくなったレヴィの荷物を持つために側へ行こうとすると1m程手前で軽い抵抗に合う。
「バリアが張ってあるんだあ」
パントマイムの壁を触るジェスチャーみたいな触り方をしている。
「そうよ、私の体表面にある防護膜の内側に空気を入れて膨らませたものなのです。多少の弾力はあるけど破けるので気を付けないといけないのです」
「あっごめんなさい、レヴィの側に行けば空気があるのかなと思ってしまったんだ。大変な事になる所だったね」
『荷物を持ってあげようと思って』とは言わなかった。
「私がピクニックにしましょうと言ったからでしょう説明不足ですね、みませんでした。大砲の側にもっと寄ってもらって宜しいですか、それとあと一人もう直ぐ着きますので少しだけ待ってあげて下さい」
自分が来た方向を指差しながら言う。
宇宙服が走って来ているのが見える。
「ごめんなさい遅くなってしまいました」
「アシュラだったのね、あっちのほうはもういいの」
アイリーンの伸ばした手が途中で止まった。
年上の妹に対してどう接して良いか戸惑っている。
(あ、頭を撫でるわけにはいかないわね、でも握手ってのは有りよね)
アシュラが握手の手を差し出したのでホットしながら応じた。
「いろいろと準備やらが大変だったの、それで九論の所には行かなくて良くなったのよ」
そう言いながらアシュラは大砲の操作パネルをいじり始める。
「これって本当に大砲で良かったんだ」
昴くんが不思議そうに聞く。
「そうですよ、今のところ単純な物理攻撃が一番効果があるみたいだと言ってました。これだけ大きいと戦艦クラスの物理バリアも撃ち抜けるだろうって」
「石礫弾って何にだったら効果が出たんだろうか」
昴くんがこの前の戦闘時から持っていた疑問を思わず口に出す。
「あの時のことでしたら敵機がバリアを張ってなかったら十分効果を発揮してましたよ」
アシュラが操作しながら言う。
そして作業を終えたらしくパネルから離れるとシューッと音がしたように思えた。
「少しだけもやっとするわね」
「大砲を中心にして半径10m範囲に防御バリアを形成させて空気を充填させたんですよ。だからそのぶん透明感は薄れますね。でもこれでヘルメットを外しても大丈夫だからレヴィが用意してくれたおにぎりを食べましょう」
ピクニック用重力シートを広げ水筒からお茶を注ぎ、おにぎりが詰まったお重をシートの真ん中に置いたレヴィが横座りして待っている。
「わあ、本格的じゃない」
「イノマン地下研究所で一人待っている間に知識を蓄えていた中で日本の伝統料理ってデータにあったのを私風にアレンジしたんですよ」
レヴィが得意そうに言う。
「三段重ねだね開けていいよね、あっ最初はサラダだね二段目はっと」
レヴィの返事を聞く前から昴くんが開けていく。




