156.反乱17
ウエイターに案内されて席に着くとそこには普通の朝食が並んでた。
(良かったわトーストにハムエッグとオレンジジュースね、うちの定番朝食じゃない朝からアイン星人の郷土料理とか食べれないものね)
横目で隣に座った昴くんを見ると別に不満そうな表情をしていないので更に良かったと思う。
「オビス司令官は宇宙港復旧のために現場で陣頭指揮を取ってるのよね」
トーストを噛りながら昴くんに聞く。
「多分そうだと思うよ」
「食べたら直ぐに出発でいいわよね」
「艦長に挨拶とかしなくて大丈夫かなあ、あんなに豪華な客室に宿泊させてもらったんだからお礼を言ってから出発したほうがいいと思うよ」
「この艦はエムで始まるマザーシップじゃないでしょう、不馴れなのよねーと言うよりかこんなビー99なんて艦名は聞いたことすらないわよ」
「客室にあったパンフレットに書いてあったけど、最近竣工したみたいだったよ、ビーシリーズの最新型なんだって、バトルシップに分類されてたね。愛鈴が好きな戦艦だよ」
「別に戦艦が好きって訳じゃないんだけどね、カッコいいじゃない。でもその割には豪華だったわね、比べたら悪いけどさマリンとは親子の差だよね」
「そうだね大きさからしてそうだし、武装装備備品に至るまでマリンと比較したら親子程にも差があるけどさ、それをもっと誇張して表現したい時なんかは普通は雲泥の差があるって言うんだよ」
「そう、食事時にはあまり聞きたくない言葉かも知れないわね一文字間違えると大変なことになるわ」
「愛鈴は日頃からあまり下品なことを考えないようにしないといけないね」
二人はそのあと静かになって食事を進める。
「さあ、そろそろ行きましょうか」
アイリーンがオレンジジュースを飲み干してから言う。
「目玉焼きは食べないの?」
ハムエッグのハムだけを器用に食べている。
「食欲が落ちたのよ」
(自分で落としたんじゃないか)
昴くんは口には出さなかった。
「結局艦長の所には行かないんだね」
「キッドの中から通信でお礼を言うわ、向こうも忙しいでしょうし」
「そうだね、今は反乱の後始末とかどこの部署も多事多端で猫の手も借りたいくらいだと思うからそのほうが良いかもしれないね」
食堂を出ると先程のウエイターが声をかけてきた。
「これからどちらへ向かわれますか」
丁寧なお辞儀もしてくる。
「うち達はキッド……スターキッドへ戻るのよ確かこの先にエッグ乗り場があったわよね」
(そういえばこの艦に到着した時はキッドまで迎えの人が来てたわね、客室に通されてからは帰っちゃったみたいだけど帰りは誰も案内してくれないのかしらって……それもそうよね、うち達がいつ帰るのかなんて誰も知らないわよね)
「その通りです。エッグ乗り場までご案内致します」
ウエイターはそう言うと二人の先頭に立って歩き出す。
「ウエイターさんですよね」
昴くんが不思議がって聞く。
(自分の持ち場から離れられるのだろうか)
「挨拶が遅れました。私は地球出身の石橋と申します。お二人のアテンダントをさせて頂いています」
「アテンダントって何?」
アイリーンが小声でボソボソっと聞いてくる。
「僕たち専属の付き人で良いと思うよ」
昴くんもアイリーンに合わせてボソボソっと小声で返事をする。
「その割にはそばに居なかったわね」
アイリーンが愚痴るように言う。
「あまり目立たない様に致したほうが宜しいかと思いまして控えさせて頂いていました」
「そうなのね有難うと言っておくわ、あっもしかしてあの朝食もそうなの、うちの定番だったやつ良く分かったわね」
アイリーンが尊敬の眼差しを向けた。
(目立たないアテンダントかあ)
昴くんは一瞬ピエロのことが頭をよぎる。
「お褒めの言葉として承ります。ありがとうございます。ではこちらへどうぞ」
石橋さんが四人乗りエッグの扉を開けて恭しく乗車を促す。
「愛鈴、僕は理解したよ」
昴くんが後部シートに沈み込みながら言う。
「何がよ」
「こんなに礼儀正しいセバスチャンが四六時中そばに居たらと思うと気が休まらないよ」
昴くんがボソボソっと小声で話し掛けているのだけど石橋さんには最初から筒抜けになっているみたいでさっきと同じく会話に加わってくる。
「それも、お褒めの言葉として承っておきます。しかし、セバスチャンと言われますよりどちらかと言えばストーンブリッジと言って頂いたほうが宜しいかと存じます」
そう言うとディスプレイで操作を行いエッグを発進させた。
アイリーンと昴くんは石橋さんの近くでジョークを言うのはやめようと思った。
石橋さんは走行中に硬い表情をしたまま誰かと話をしている様子だったけど内容までは聞こえてこない。
程なくしてスターキッドが駐機しているハンガーへ到着する。
アテンダントの石橋さんが先に降りて外側からドアを開け手を差し出してきた。
アイリーンがその手を取りエスコートされる。
(確かに小っ恥ずかしいわね)
「艦長に挨拶されなくて本当に宜しいのですか」
石橋さんは艦長に会ってもらいたいと思っているみたい。
「今は宇宙港の復旧で忙しいと思うのよね。本当に良くしてもらって最高の気分なの。そのことを伝えてもらえるかしら、うちも後でお礼の言葉を伝えるわ」
エッグから降りた二人が艦長への伝言を頼み石橋さんへもお別れの挨拶をして分かれようとした時に呼び止められる。
「私よりささやかなお土産がありますのでお受け取り下さい」
昴くんが握手したその手には小さな小箱が乗せられていた。
「わあ! ありがとう。お土産って大好きだわ開けてもいいのかしら」
アイリーンが昴くんの隣で嬉々として言う。
「どうぞお開け下さい」
昴くんが丁寧に包装をはがし小箱を開けると中には金色のオーソドックスな鍵が収まっていた。
持ち手部分にB99のロゴが刻印されている。
「どこのカギかしら? 」
アイリーンがあの客室の鍵だったら良いなあと思いながら聞く。
「あのジャングル風呂付き部屋の鍵だったらいいね」
昴くんが期待を込めて言う。
「そうよねー、あのジャングル風呂ってうちの為に用意されたものじゃないかと思ってしまうのよね~」
(そんなもの貰っちゃったらうちはこの艦から離れられなくなってしまうわ)
アイリーンがうっとりと妄想の世界に入り込もうとしていると信じられない言葉が耳に入る。
「この戦艦B99の鍵になります」
石橋さんが平静を保ったまま静かに言う。
「・・・」
二人はその場でフリーズした。
「石橋さんはアテンダントの人ですよね」
正気を取り戻した昴くんが最初に会った時の違和感を再び甦らせて聞く。
「はい、お二人のアテンダントをさせて頂きました艦長の石橋と申します」
その後の記憶をなくし、何が何やらの状態でスターキッドに乗り込んで自分達の持ち物になった新造戦艦B99を飛び立った。
地球防衛基地奪還のために行われた戦闘は終結している。
宇宙戦艦B99から離艦したスターキッドの中でアイリーンと昴くんはスターキッドAIから現時点での状況を聞いていた。
司令官を名乗っていたラースという人物は基地に一番近くまで迫っていた戦艦ごとシルバーシップから放たれたエネルギー砲撃で消滅している。
今回の反乱を計画したその他の首謀者達もことごとく破壊された戦艦と命運を共にしていた。
スリットから出て来ようとした所で爆発した艦はいずれも基地に所属する艦船4隻でやはり操作の不慣れによる操船ミスによるものだったらしい。
最終的に太陽系に進撃してきたカシオペア艦隊第二陣25隻の内戦艦4隻が破壊され21隻が生き残り1万5千人近い捕虜が発生している。
地球防衛基地側の損害は宇宙港が爆破された事とスリット出口でほぼ自損事故に近い形で破壊した艦を含め戦艦2、輸送艦1、補給艦1の合計4隻の物損だけで人的被害は発生していない。




