155.反乱16
東域宇宙和平維持連盟地球防衛基地から見て地球側へ光速で3.5秒地点で開戦した反乱軍とスターキッドの孤独な戦いは突然出現した遊軍の一撃によってあっけなく終結した。
スターキッドは地球防衛基地周辺に集結した味方艦隊の中でアンバ隊長が率いてきた新造戦艦B99のハンガーに着艦している。
アイリーンと昴くんは出迎えの人に特別室へ案内されて寛いでいた。
「九論はかなり上手いこと立ち回ってるみたいじゃない。うちはこんなにいい部屋を今まで一度も見たことないわ」
アイリーンは広くて豪華な部屋に案内されてからずっと浮き足立って一人でくるくる回っている。
「九論さんばかりに働かせてるんだからちゃんとお礼を言って感謝するんだよ」
昴くんは彼女の踊りに巻き込まれないように少し離れた場所から部屋を見渡していた。
「いいのよ中身はうちのパパなんだから、たまにはこういう事もしてもらいたいわ」
「愛鈴も九論さんもそんな言い方言われ方は大嫌いなんじゃなかったかなあ」
「ふん、昴くんはうちのことを呼び捨てにするくせに九論には『さん』を付けるのね」
「君に初めて会った時に『昴くんはうちのことを愛鈴って呼んで』って言ったじゃない。覚えているよね」
昴くんが可愛い素振りを見せながら言う。
「気持ち悪いわよ!」
アイリーンがクスクス笑いを追加した。
「それよりもう遅い時間じゃないかなあ眠いし、そ、そこの大浴場に入りなよ、何処かにガラス張りの透過度調整装置があるはずだから探して見えなくするからさ」
「ヘッヘッへ昴くんも一緒に入りたいんでしょ、うちはいいわよジャングル風呂だしね一緒に野生に戻りましょうよ」
アイリーンの瞳が怪しく光る。
「愛鈴は疲れ過ぎて頭がおかしくなってるんじゃない、ダメだからね」
「ちぇっ、昴くんは最近うちが何かしようとすると何時も『ダメ』としか言わなくなったわね、詰まらないわ」
「君が常識外れなことばかりしようとするからでしょう。僕も好きでダメを連発している訳じゃないですよ」
「ふ~ん常識的だったらいいのね、だったらジャングル温水プールってことで一緒に泳ぎましょうよ」
「だから一緒に裸で居るのがダメだって言ってるの!」
「何を今更言ってるのよ、まあいいわ今着てるガウンね、ベッドの上に一着づつ置いてあるのよバスタオルもね、この豪華な客室はツインのスリーベットルームみたいだから全部で6セットあるわけ、このまま入るわよ、さあ、レッツラゴーなのよ」
アイリーンが昴くんの手を取ってプール……じゃなくてジャングル風呂へ向かう。
昴くんは抵抗することを諦めている。
近づかずそして見たりしなければ一緒に入っても問題ないのではないかと思い始めていた。
お湯に浸かると直ぐに手が離れる。
昴くんは徐々にアイリーンから離れてゆく。
「あれ、 昴くんどこ?」
昴くんの姿は湯気と曲がりくねったジャングルの茂みに隠れて見えなくなっていた。
「昴くんったら隠れんぼする気かしら……お茶目さんね」
アイリーンはここでも浮かれてはしゃいでいる。
だがしかし、のぼせるのも早かった。
ジャングル風呂の水温は当然ジャングルプールのそれよりはかなり高い、プールのようにはしゃいでいたのならのぼせるだけでは済まないだろう。
昴くんはアイリーンの「キャー」とか「わー」とか言う声を聞いて距離を一定に保つようにしていたのだけど『ドボン、ばしゃばしゃ』の音を最後に声が聞こえなくなったので気になり近寄ってみる。
「愛鈴、そこに居るんだよね」
彼女のことだから隠れて驚かそうとしている可能性を考えないといけない。
昴くんは十分警戒しながら岩影から顔を覗かす。
暖かいお風呂のお湯が冷たい冷水に変わった気がした。
「愛鈴! 大丈夫?」
お風呂場のヘリでうつ伏せになってしがみついているアイリーンを抱き寄せる。
頭上の木の枝から垂れ下がっている蔦を見て何が起きたのか大体の想像が付く。
(ターザンの真似事をしてしくじったんだ)
額のたんこぶを見て確信した。
ひとまずヘリから引き上げてどうしようかと考えてみるけど、結局、前抱っこして脱衣場まで運ぶ。
途中で『う~ん、むにゃむにゃ』とか訳がわからないことを言っていたので寝言だと判断する。
脱衣場に日焼けカプセルがあるのを覚えていたのでその中に寝かす。
(良かった。乾燥モードがあったよ)
あるんじゃないかと期待していたのでひと安心してガウンを着たままのアイリーンを乾かした。
(もう、このまま寝ててもらおう)
昴くんはそう決断して、干からびてしまわない様にカプセルのフタを開けたままにする。
リビングのソファーがベッドに変形出来るタイプだったので毛布だけ持ってきてアイリーンが入ったカプセルを眺めながら深い眠りに落ちていく。
「昴くん、起きて、起きなさい」
体を揺すられて目を覚ます。
アイリーンの顔が直ぐそこにある。
頬が赤いのは日焼けカプセルのせいだと思う。
「おはよう愛鈴、早いね」
(言わなくても大丈夫だよね)
昴くんは昨夜の出来事について触れないことにした。
「早くはないわよもうブランチの時間よ、それに自分だけ毛布にくるまって寝たのね」
アイリーンの言葉遣いが柔らかいのが逆に気になる。
「僕は寝過ごしてしまったみたいだね。愛鈴は着替えたんだね朝ごはんは食べたの?」
アイリーンが宇宙服に着替えているのを見て言った。
(言葉遣いが優しいのは自分だけ朝ごはんを食べたからに違いない)
昴くんはそこまでしか考えが及ばなかった。
本当は日焼けカプセルの中に寝かされた時にアイリーンは自己防衛本能が働いて目覚めている。
(昴くんがうちをコールドスリープさせようとしてる)
アイリーンは寝ぼけて日焼けカプセルをコールドスリープカプセルと勘違いしてしまう。
(あっ、温風が出てきたわ……良かったー、昴くんに嫌われてしまったのかと思ってしまったじゃない。このまま寝たふりね、じゃないと驚かそうと思って岩に登ったら目の前にぶら下がってる蔦が気になって思わず飛びついてしまった上につかみ損なってすべり落ちたって……とても言えないわ)
そのままタヌキ寝入りを決め込み昴くんが寝込んだのを見計らって隣に潜り込んだのだった。
なぜ狭いソファーベッドの横に潜り込んだのかはアイリーン自身にもわからない。
朝になって目覚めた時に隣で昴くんが寝ていたのでビックリして跳ね起きた。
昨夜の出来事を思い出して赤面し自分がまだ半乾きなのに気付いて慌てて着替える。
そのまま昴くんの寝顔に見入って幸せな気持を満喫していたら、急にこのまま目覚めないのではないかという不安に襲われて思わず揺すり起こしたのだった。
「う、うちもさっき起きたところよ朝ごはんを一緒に食べようと思って起こしたの、だからさっさと着替えなさいね」
アイリーンが少し高い声で言う。
(まだ朝ごはん食べてなかったのか)
昴くんが失礼なことを思ってしまったなと反省しながら起き上がる。
(あれ、背中が湿気ってるしソファーと毛布も少し濡れているような気がする)
アイリーンをじっと見つめた。
彼女はぱっと目をそらし体の向きを変えた。
(まあいいか……実害はないみたいだし)
昴くんは追求しないことにする。
「食堂に行ってみようか」
宇宙服で正装した二人は後ろ髪を引かれる思いをしながら豪華な客室を後にした。
意味もなく? 広い通路を紆余曲折しながら食堂に辿り着くとドアの所でウェイターに呼び止められメモを渡された。
「私はオビス司令官と一緒に居る。あとで訪ねてくるように」
アイリーンが渡されたメモ紙を一通り音読してから頭をひねり昴くんに渡す。
「この訪ねるは尋ねるも兼ねているのだと思うよ。九論が尋ねて来いって言ってるんじゃないかなあ」
昴くんは九論がトンチを利かしたなぞ掛け遊びをしてるのではないかと感じている。




