154.反乱15
アイリーンは九論が疲れてきて判断力が低下しているのではないかと心配になる。
「愛鈴あれを見て最後尾にいた4隻目の戦艦はさっきの攻撃で航行不能になったみたいだよ」
「あっ、本当だ噴射口から煙が出てるじゃない。止めを刺しましょうよ」
アイリーンが言う。
『やめておこう、まだこちらが不利だから見逃してやったんだと恩を着せるほうがいいと思うぞ』
「そうだよね、ここで殺してしまったら恨みを買うし捕虜にしようとすれば数で負けるから逆に危ないよね、だから知らん振りを決め込むほうが良いんだよね」
昴くんは見て見ぬ振りして通り過ぎるのが一番いいのだと理解した。
中破した戦艦を通り過ぎる時には主砲で照準を合わせ攻撃されないように気を付けて進んでいく。
何とか無事に横を通り過ぎることができて皆が吐息する。
〈前方の敵戦艦2隻がこっちに照準合わせています。Uターン……できません〉
スターキッドAIが震える声で言う。
「いつものAちゃんらしくないわね一体どうしたって言うのよ」
アイリーンも不安な気持ちに包まれた。
「愛鈴ダメだったよ、後ろの戦艦にもロックオンされてる」
(見逃してやったのに恩を仇で返されたわね)
そう言うアイリーンの表情は明るい。
「天晴れな程に悪人ね、うちはそういうの好きよ、だけどだいぶ距離が離れてるのに挟み撃ちにされているって言うの? キッドなら逃げ切れるんじゃない 」
『超長距離追尾ミサイルだろうな、こっちのマリンは機関停止して交戦の意思がないことを伝えるぞ』
九論が伝えてくるけどその声はいつもにも増して落ち着いて聞こえた。
「あと一隻居たわよね今どこにいるのよ」
「だいぶ先で基地を射程に収めてるよ」
昴くんが淡々と言う。
「これじゃ基地を人質に取られたのと同じじゃない」
アイリーンは操縦席で長く伸びて諦めモードに入る。
『アイリーン一度降伏しよう、捕虜になるのも戦略の一つになると思えばいい』
(戦略? そうか!)
九論は最初からこうなる事を想定し計画してたんじゃないかと昴くんは思った。
「九論さんは『捕虜になった後で脱走しようと言ってる』と思っていいのですよね」
昴くんが中々に危険な綱渡りじゃないかなあと思っている。
「いいわね大脱走やりましょうよ、トンネルは掘れそうにないけどダイハードみたいな通気ダクトならあるかもしれないわ」
アイリーンが元気になって言う。
昴くんは再び頭を抱えた。
「愛鈴、映画みたいに上手くいかないからね脱走なんてそう簡単にはできないと思うよ」
「あら、やってみなくちゃわからないでしょ平伏して投降すれば奴らだって気を許すはずよ、そうすれば付け込む隙ができるわ、それに奴らはスーちゃんとロースさんのことを知らない筈よ」
アイリーンが言い返す。
「あっそうだった。今からでも……いや駄目だ、シュー・ウォッシュは切り札として最後まで取っておかないといけないよね」
「そうよ、スーちゃんは昴くんの体内に隠れてもらってロースさんは宇宙服の中から出て来ないようにしてもらいましょう」
『いまレヴィの承諾も取ったからな全員一致で投降の道を選ぶぞ、いいな』
スターキッドは交戦の意思がないことを表すために戦艦マリンにドッキングした。
「何と言って降伏するのよカシオペア語って誰か話せたかしら、間違えて挑発なんかしたら一発で天国行きなんだからね」
アイリーンは薄ら笑いを見せる。
その様子を見ていて昴くんは思う。
(愛鈴って自分が死ぬことを全く恐れてないのか理解してないんじゃないかなあ。スーパーコンピューターのスターキッドAIはその真逆だし何だか笑っちゃいそうだよ)
昴くんは知らず知らずのうちに微笑む。
〈地球防衛基地方面に高エネルギー反応発生〉
スターキッドAIに昴くんの心の声が届いた訳ではないだろうけどその声は生気が満ちている様に思えた。
「奴等が撃ったの!」
アイリーンが怒声を上げる。
〈識別コードは味方です……シルバーシップは味方で良いんですよね〉
スターキッドAIが報告している間にも基地の裏側から巨大な渦を描いて突き進んでくるエネルギー弾が大きなバナナシュートのように基地を迂回してその正面に居座っている敵戦艦のど真ん中に命中した。
「えっ! サロメ達が来てくれたの到着はまだだいぶ先の筈だったわよね、何で?」
アイリーンは嬉しさで思考が停止する。
『まだ気を緩めるんじゃない正面の敵がこっちに撃ってくるぞ!』
九論が激を飛ばす。
その時、今こそスターキッドを攻撃しようとしていた敵戦艦2隻がアイリーンの後方に突然現れたかと思うと直ぐ様前方へ稲妻のように走り抜けていく大きな口を開けた白蛇に襲われ呑み込まれていくのが見えた。
「今のは何?」
アイリーンが呆ける。
〈右後方に辺境艦隊出現!?〉
スターキッドAIも感嘆符に疑問符までを付けて言ってきた。
「後方から狙ってきてた敵戦艦も居なくなってるよ?」
昴くんも二人に倣う。
〈間に合って良かった。二人とも無事だな〉
冥王星守備隊アンバ隊長の声がスピーカーから聞こえてくる。
「ありがとう。まずお礼ね、聞きたいことが沢山ありすぎてこんがらがってるの、だから何から聞いていいのか分からないのだけど、今はどうやってお話しできているのかしら、通信回線開いてないよね」
〈それは僕から説明しますね。今はポラリスとリンクしているからですよ。ヘンナ達が開発したポラリスの良いところ? と言って良いのかわからないけど太陽系内で連盟に属している艦船の通信は全てポラリスが管理しているのです。目的は通信障害の改善とアイリーンが良く使う居留守防止です。通信中継機をまんべんなく配置してカシオペアで独自開発した亜空間相互接続しているのです〉
スターキッドAIが説明する。
「余計な一言があったような気がするのだけどそうなのね、だからポラリスと繋がってるアンバ隊長とも直接話ができるのね」
〈一般回線で話をしたら全て筒抜けになるのだな。これでは私たちが冥王星に着く前から情報が渡っていたと考えを変えないといかんな〉
九論が口を挟む。
「今さらそんなことを言っても仕方ないでしょ、それより敵は全部やっつけちゃったで良いのよね」
「小型機があと50機ほど残ってるけど……」
昴くんが報告する。
〈敵機から降伏の通信がポラリスへありました〉
スターキッドAIが伝えてきた。
「ああ、ポラリスはカシオペアの人達が全面協力して作ったのだったわね」
アイリーンは操縦席で長く伸びをして今度はリラックスモードに入る。
(ポラリス経由なら言葉の障害もなかったのね……レヴィの歌声をポラリス経由で奴等に聞かせたら良かったのかしら)
「愛鈴、まだ終わってないからね」
昴くんが苦虫を噛み潰したような表情を見せた。
〈残敵の武装解除をするのだが、この艦には収容できないな〉
九論が早く次の行動に移らないかと言いたげに通信してくる。
「わかったわ、あっちの小型機に武装解除したら密集隊形を取ってから待ってもらっててね、今アンバ隊長に相談して……って九論、あんたさあイノマン連絡網が使えたわよねうちの代理ってことにするからさあー、ビックボス三人と話をして今後の対応まで決めちゃってよ」
アイリーンが指示を出す。
(ビックボス三人って地球防衛基地オビス司令官、冥王星駐屯隊アンバ隊長、天王星守備隊レッド隊長で良いんだよな、あとの知り合いは全部オビス司令官の部下だものね、あれえっ? サロメさんってレッドフラックス代表だって聞いてたけど……いいのかなあ外しちゃって)
昴くんは色々と考えてしまう。
その間も九論とアイリーンの会話は続いていた。
〈あとになってから『これは違う、あれは嫌だ』とか言わないと約束するなら代理を勤めるがそれでいいな〉
「無理難題を押し付けなければオッケーよ」
アイリーンは即答した。
(上手いこと言うなあ~、愛鈴が言うところの無理難題ってリンボーダンスの世界記録並みにハードルが低くなければ良いのだけど)
昴くんは思うだけにして口には出さない。
〈時間節約で決まった事から直ちに実行に移すが良いんだな。それでもお前がキャプテンであることは忘れるな〉
九論との通信が切れる。
アイリーンが一度佇まいを直した操縦席で再び伸びた。
「うちはまだキャプテンだから~・・・」
昴くんは小声で歌い出す彼女を微笑ましく見詰めている。




