153.反乱14
海王族準妖精レヴィの歌声には人心を惑わす魔力が宿り、その片手に持つイノマンの竪琴はコンピューターAIを含めた全ての電子機器をシャットダウンさせる機能を備えている。
戦艦マリンの艦橋内で歌った時には成果を十分に発揮し制圧するのに成功した。
しかし、反乱を起こした北方辺境のカシオペア艦隊には効果が現れていない。
アイリーンの発案によりカシオペア艦との間にアルコールミストの道を作りマリンの艦橋から外に出たレヴィがもう一度歌うことになった。
「レヴィが歌うんだったら、それに合わせて愛鈴も歌うんだよね」
昴くんがこんな状況の中で上手く歌えるのだろうかと心配して聞く。
「歌わないといけないわね。でもポピュラーは無理ね……演歌ならいけそうだけどAちゃん『365歩のマーチ』ってカラオケあるかしら?」
〈『昭和ヒットソング集』ってデータの中に収まっていますけど流しますか〉
「お願いね。こっちのディスプレイに歌詞を出してね、途中で歌えなくなったら大変だからさ」
アイリーンはさっきからマイク代わりにインカムを使っている。
さすがに宴会用のマイクを引っ張り出すのははばかられると思ったみたいだ。
「愛鈴はとても古い曲を知ってるんだね」
「アパートのね……前の住人が残していったカラオケテープが何本も押し入れの中にあったのよ、それで覚えたわ」
今度はアイリーンが歌い出すのを待ってレヴィが歌い出す。
スターキッドはさっきから石礫弾を撃ち続けているけど効果が上がっていない。
前方から突っ込んでくる小型機をギリギリで躱す。
〈強力な物理バリアを展開しているみたいだな〉
九論が戦艦マリンの艦橋からスターキッドAIを通して言ってくる。
「エネルギービームに切り替えるよ」
昴くんは即断して実行に移す。
アイリーンは歌いながら操縦桿を握って敵機を右に左に躱すのに集中しているので返事ができないのだけど、その表情は『勿体無いわね』と言いたそうに見えた。
「撃ちます! 」
副操縦席の昴くんは最初に一言だけ発してその後は連続射撃を行う。
何しろ周囲は敵の小型機だらけで厚みもあるのでいちいち照準を合わせて撃たなくても、どれかに当たっている。
ものの10秒もたたない内に10機は撃墜した。
密集状態にある敵機は同士討ちを避けるために射撃は行っていない。
スターキッド目掛けて体当たり攻撃をしてくる。
理屈はわかる。
100機中1機でも成功すれば勝ちになるわけだから、わざわざ同士討ちをして数を減らす必要はない。
「あの小型機は無人じゃないんだよね、パイロットはどんな気持ちで操縦しているのかなあ、自分も死んでしまうってわかってるんだよね」
昴くんはイライラする気持ちを抑えられなくなってきた。
四方から囲みを狭めて自爆攻撃しようとする敵機の間を悠々すり抜ける。
敵機から見たスターキッドの動きは手抜きのパラパラ漫画の様にしか見えないだろう。
つまりロックオンしたはずのスターキッドが次の瞬間には自分の後ろにいて攻撃を受けているという事態が起きている。
もしアイリーンが敵側のパイロットだったなら『分身の術ね』と叫んだに違いない。
一塊の敵小型機にエネルギービームを命中させながらすり抜けると直ぐに次の集団に取り囲まれる。
まるで磁石に吸い付いてくる砂鉄の様に。
それでもアイリーンは歌に合わせるように前進後退を繰り返してより多くの敵機を引き付ける様にコントロールしている。
〈あまり僕を敵の照準前に引っ張り出さないで下さいよ~〉
スターキッドAIが嘆く。
「仕方ないでしょ、敵に興味を持ってもらえないと相手してもらえないじゃない」
アイリーンが言う。
「敵機がマリンに向かって行かないようにしなくてはいけないよね」
昴くんは少しでも敵機の数を減らして戦艦マリンを守りたいと思っている。
それでも数十機の小型機がマリンに向かって行く。
レヴィは人魚の歌声で人心を惑わし、竪琴から発生する音で電子機器を狂わすつもりで歌っていたが今回も全く効果が出ていない。
アイリーンはマリンへ迫りつつある小型機を見て思わずレヴィにテレパシーを飛ばす。
『歌うのやめて! 』
歌声がやんだのでアイリーンも歌うのやめて意識を集中させスターキッドを戦艦マリンの側へとテレポートさせ、レヴィをアポーツで引き寄せる。
そして直ぐにマリンの後方へ移動した。
その様子の一部始終を見ていた九論は前方目掛けて三連主砲と副砲及び高射砲による一斉射撃を行う。
(この前、サロメが所有するRIを10人で操船した時に懲りたのだがな、ポラリスの遠隔操作があるとはいえ戦艦を一人で動かすとは夢にも思わなかったぞ)
九論は心の中で愚痴る。
それでも今はマリンより放たれたエネルギー弾に一縷の希望を持つ。
如何に小型機が防御バリアを展開していようと戦艦主砲による攻撃を受けては一溜りもない。
前方に大きく開いた敵機が居ない宙域の奥へ、防御バリアを展開しつつも更に高射砲を連射しながら戦艦マリンは進んでいく。
スターキッドはレヴィをマリンの中へ降ろすつもりで艦橋上部へドッキングしていた。
「ねえ、本当に下りないの?」
アイリーンが心配する。
「こっちの方が小回りが利くでしょう、今度は敵戦艦の艦橋に直接入って歌おうと思うの」
レヴィがまだ諦め切れていない感じで厳しい表情をして言う。
「無茶だよ! 危険のほうが大きいよー、愛鈴絶対許可したら駄目だからね」
昴くんが珍しく大声を出す。
「マリンは制圧できたのに、他の艦が影響されないのはおかしいです。だから同じ方法を取って艦橋で歌えばできる筈です」
レヴィは意固地になってきている。
〈奴らは既にレヴィの歌声に対する対策を取っているのかも知れないからやめたほうが良いな)
九論の声がスターキッドのスピーカーから聞こえてくる。
「そうだよ、あっちのカシオペア艦指揮官は勉強熱心で思い上がったりせず確実な現状分析と対応を素早くやれる人なんじゃないかなあ、だからマリンが陥落した原因を考えてレヴィの歌に対する対策を取ってると思うよ、どうやってるのかは僕には想像も付かないけどね」
〈一つ考えられるのは歌は聞こえないようにすればそれでいい。それこそ耳栓でもいいし何かに集中していても聞こえなくなるぞ。電子機器が狂わないのは竪琴が発生するウェーブの影響を受けない造りになっているのかも知れないな。太陽系外から遠路遙々やって来てる訳だから、道中にあるだろう暗黒星雲とか超新星から発生する強力な電磁波なんかの外部影響を受けないようにしなければいけないからな〉
「その通りね、うちなら『お腹が空いた』を連呼すれば歌は聞こえなくなるわ、それに大昔の海賊船は羅針盤と大砲で大海原を渡っていたわね、電子機器なんか最初から使ってなかったよ」
(何でそこで海賊が出てくるんだろう)
昴くんは深く考えないようにした。
「愛鈴の例えは考えなくてもいいけど、敵の艦橋で歌っても同じことにしかならないと思うよ、それより、もしレヴィが人質にでもなったら僕たちお手上げになってしまうからやめようよ」
「人質なんかにはならない……でも皆が反対するなら諦める」
レヴィはしょんぼりして言う。
〈レヴィ、こっちに来て手伝ってくれないかポラリスによる遠隔操作だけでは限界があるのでな〉
「わかりました」
彼女は立ち直るのが早かった。
「テレポートで行くの? 」
「イノマン先生の元へ跳ぶくらいなら、てくてく歩いて行くより疲れませんし何より早いですからね」
「そうね気を付けて、短気を起こしちゃダメなんだからね、九論もレヴィのことしっかり頼んだわよ」
レヴィが軽く手を振ってテレポートする。
〈ああわかっている、それよりこれからどうするかね〉
「離脱する」
アイリーンが言うとスターキッドはマリンから離れ前方で密集体型を取りつつある小型機へ向かって行く。
「小型機にエネルギー砲が有効なのが分かったからそれでしばらく撃ち続けるわ、全部は無理だとしてもできるだけ小型機を引き付けるからね、あっちの戦艦はマリンの主砲で何とかしてよ」
〈ああ、分かってはいるがあと3隻ともなると少し厳しいな〉
「あれ? 4隻じゃなかったかしら」
アイリーンは小首を傾げた。




