152.反乱13
スターキッドは先頭を行く戦艦の鼻先でグルグルと回り進行を阻止しようとしているのだけど全くと言っていいほど効果が上がってない。
〈戦艦に小型機は付き物ですから、間違いなく積載されている筈だと九論が言ってます……あっ、直接話せるんでしたね、じゃあ僕は外れます。『・・・それでも出せばスターキッドの餌食になるのがわかっているからだろうしこのまま突き進んでも誰にも止めることができないと高を括っているのだな。マリンで攻撃することもできるが1対4になってしまうので新たな作戦を行う。アイリーンは歌えるな、これからやめと言うまで歌い続けて欲しい、レヴィの竪琴に合わせた歌でカシオペアの連中を麻痺させるのだがこちら側へ影響が出ないようにアイリーンの歌声をマリンへ流して防御するそれから・・』〉
「九論もういいからわかったからお話を止めて、これ以上聞くと頭が痛くなっちゃうわ、それで歌えばいいのよね歌は何でも……童謡でも良いのよね」
〈ああ、何でも良いが皆を守る心を込めて歌うようにする事が必要だ。できるな〉
九論が不安な気持ちを押さえ込むようにして言う。
「わかったわじゃあ歌うからね」
アイリーンが歌い出すとレヴィの竪琴に合わせた歌声もスピーカーから聞こえてくる。
「愛鈴の歌とハモって微妙な歌になってるね、でもこれって敵艦にも流れていたら効果がなくなるんじゃないですか」
〈カシオペア艦にはアイリーンの歌が流れてない筈だから効果が直ぐに現れてもいいのだが……〉
〈敵艦から多数の小型機が出現、その数は100機、まだ増えてます〉
「愛鈴小型機がこっちに向かって来てるよ、まるで雲霞の如くだよ」
昴くんが外部環境モニターを見ながら言う。
レヴィの歌声が聞こえなくなったのでアイリーンは歌うのをやめている。
「九論レヴィの歌が聞こえなくなったよ、だからもう歌わなくていいのよね」
〈ああすまなかった。レヴィが外へ出て行こうとするものだから制止するのに手間取ってな〉
「レヴィがどうしたって?!」
〈あっちの艦に効果が出ないのだ、マリンの様子を見て直ぐに対策を取ったのかも知れない。何せこの銀河を牛耳ろうとしている連中だからな、私以上の切れ者がいたとしても不思議ではなかろう。その話をレヴィにしたら直接撃って出ると言い出してな、代替案を言って思い止まらせたところだ〉
「代替案なんか用意してたのね流石のイ……九論ねそれでそれって何なのよ教えてもらえるのよね」
〈いや事前には用意してなくてな、急遽考え抜いたんだがお前がアンバ隊長から無理矢理貰ったあれを使おうと思うのだがいいか〉
「あれ? のことねどうして知ってるのよって……そうね例のあれね、イノマン連絡網だったかしら、それに誤解があるようだけど無理矢理に貰ったわけではないわよ、余り見せびらかすものだから少し強めのおねだりをしただけなんだからね」
(愛鈴のその言い方だと無理矢理以上の強引さがあったと思うよ)
昴くんは口には出さなかったけれどその場面を想像して身震いを起こした。
〈そうか、それでも取り扱いがとても危険なので私からも注意して欲しいとアンバ隊長から直接頼まれたのだよ〉
「愛鈴、一体何を貰ったの僕にも内緒にしてたんだね」
昴くんが副操縦席から横目で睨む。
「ちえっ後で驚かそうと思ったのになあ、簡易うずしお発生装置よアンバ隊長がレッド隊長から貰ったって自慢したのが悪いんだからね」
(あれはレッド隊長から貰ったんだって自慢したかっただけだと思うのよね、レッド隊長はアンバ隊長がうちに見せびらかすと思ったはずよ、だったらうちがそれを貰っても問題ないわよね)
アイリーンは自分勝手な思い込みをしている。
「使ってもいいけど、それこそ後でオビス司令官に渡すお土産の代わりになるものを何かくれるのでしょうね」
〈考えておくがカシオペア艦隊を撃退した手柄話のほうが良い手土産になるんじゃないか〉
「それもそうね、じゃあ手早く優雅に終わらせましょう。それで簡易うずしお発生装置をどう使うってのよ」
〈そこからだと少し距離が近過ぎるので離れて欲しいのだ、がそのまま後退するとマリンと基地まで巻き込まれかねないので、スターキッドを座標−3,-3,-15,に移動してから敵に向かって展開させるのだ。できるな〉
九論はアイリーンなら大丈夫だと自信を持って言う。
「わかったわ、左斜め後ろのこっち側へ移動して……撃てばいいのよね」
九論は少し不安になった。
〈AIが上手くやってくれるだろう、わかっているだろうな〉
〈わかってますって、アイリーンの補佐を昨日今日始めた訳ではないですからね〉
九論は段々と不安が募っていく。
それでも運を天に任せることにして『天に代わって……お仕置きよ』と言い出すんじゃないかと思われるアイリーンとスターキッドAIに全てを委ねることにする。
「発射ポイント到着、簡易うずしお発生装置発射準備完了」
昴くんが端的に言う。
「発射」
アイリーンが指示を出す。
〈発射完了目標到達まで5秒……4、3、2、1……?〉
簡易うずしお発生装置は射出口から打ち出すことにより進行方向へうずしおを発生させ、その中へ突入することで空間移動するのだけど色々な周囲環境条件等によってその距離がまちまちになってしまう一回限りの使い捨て装置だった。
今回は〖うずしお〗を敵艦に向かって撃ちそのまま別の宇宙域へ跳ばそうと考えている。
〈目標に到達せず! 直前でそれました〉
スターキッドAIが悲鳴を上げた。
〈軌道が反れたのか? 事前に察知して高重力磁場を展開したのではなかろうな、予知能力者? こちらの手の内を先読みしてるのか〉
九論がぶつぶつと言う。
(少しはできる奴が乗っているのではないかとは思ったがこれ程とは、脱帽して敬意を表す方がいいのか)
九論は自分が抱いていた不安の原因を今にして悟った。
〈アイリーン、降伏も戦略の一つだと肝に銘じておくようにそれと分水嶺を見誤っては駄目だぞ〉
「ふん、うちは謝ったりしないわよ!」
アイリーンが吠える。
「レヴィ聞こえてるもう一度竪琴使って歌って、それを外部スピーカーで流すのうちが何とかするから信じて」
(何とかするからですって、真空中でどうやって音声を届かせるのですか……でも信じます)
レヴィはアイリーンを信じることにしてスターキッドから目を離さない様にした。
「Aちゃん、マリンの側まで行って何だったら少しくらい擦ってもいいわよ」
〈キズは付けたくないからギリギリで掠めますね、スピードはこのままで行きますよ〉
スターキッドがマリンの艦橋ギリギリまで近寄って躱す。
「うん、いいわね、この調子でもう一回ねその時倉庫の後方ハッチを少し開いて積み荷を少しづつ……うっ、うちのお酒をばらまいて……割って!」
〈アイリーン凄いことを考えたなマリンと敵艦の間をアルコールミストで繋いで音を通すのか〉
「敵艦と小型機が直ぐ目の前に迫ってるわ、これならうちが積んだお酒を全部犠牲にすれば何とかなると思うのよ、うっうっうっ、他の方法が思い付かないのが悔しいわ」
「愛鈴は断腸の思いの決断をしたんだね偉いよ」
昴くんが慰める様に言う。
〈宇宙に出て直接聞かせてあげましょう〉
レヴィが言ってくる。
「空気が無い場所でそんなことしたら死んじゃうよ、やめようよ」
昴くんが心配して引き止めようとするのだけど。
〈大丈夫アルコールミストを分解して空気を作るの、そのくらいは私でも出来るから〉
マリンと敵艦の距離がかなり狭まっていた。
その間をスターキッドがアルコールミストの橋で繋ぐ。
太陽光の反射を受けてマリンと敵艦の間に虹色の橋が掛かる。
けれどそれを『綺麗だなあ』と見とれる時間はアイリーン達には既にない。
しかし戦艦マリンの艦橋から竪琴片手に外に出て歌い出すレヴィにとってその虹は最後の希望に見えた。




