150.反乱11
スターキッドは宇宙港を爆破されていびつにかっこ良くなった地球防衛基地を背にして太陽の方向を監視していた。
『敵が現れるなら挟撃される恐れがない内側から攻撃してくる筈だ。太陽光で見付かりにくいという利点もあるからな』と九論が言った言葉に従っている。
アイリーンがもうこれ以上待てないとしびれを切らした頃になってスターキッドAIが告げてきた。
〈敵出現しました。距離108万Km空間亀裂より連続して現れています。現在数大型3隻、接敵まで5時間、結構遠くに出て来ましたよ〉
いつも言っている通りここでの接敵5時間はあくまでスターキッドは動かず敵の戦艦が秒速60Kmの早さで目の前にやってくる迄の時間だ。
「そうね思ってたより早く出て来たわね、もっとうち達を神経衰弱させて弱らせてから出てくるんじゃないかと考え初めてたのよね、そして出てきたら電光石火の勢いで戦いが始まると思ってたんだけどあっちも用心してたのかしら、これじゃもぐら叩きはできそうもないわね」
アイリーンが正面モニターを見ながら愚痴る
スターキッドAIは敵が現れると同時に照準を合わせ1ステラジアンの範囲は正面モニターに映し出された。
もし敵が複数箇所から現れた場合は一番近い敵が正面モニターに映し出され、他の敵はスターキッドとの相対位相角をもってコクピット内で赤いポイントのホログラフィーとして距離と共に映し出すようになっている。
「Aちゃん正面の敵艦をポイントで表示して、太陽の方向だからグレアが強くて良くわからないわ」
〈太陽をモザイクでボカして見やすくしますね〉
「スターキッドAIが言うと卑猥な感じを受けるのは何でかなあ」
〈これはこれわ昴くんも結構失礼なことをスラリと言うようになりましたね、今の言葉は記念に記録しときますから〉
「あれ記憶って言わないんだ」
〈あとから『記憶違いじゃないですか』とか言われないようにするためですよ。記録は時間と共に薄れていくものではありませんからね〉
「Aちゃん馬鹿なことを言ってないで敵を叩きに行くわよ」
「敵艦に構うと基地に攻め込まれちゃうんじゃなかった?」
昴くんが危惧していることを再認識させた。
「大丈夫よキッドは速いし大型艦は鈍いから後方さえしっかり見張ってれば取られる前に返り討ちにできるわ」
「わかった。それじゃあ後方監視は僕がするからレヴィにはそれ以外の周辺監視をお願いするね、アイリーンはしっかり前を見ていてよ」
「わかりましたわ、お任せ下さい」
レヴィはここにきて逆に緊張している様子を見せてない。
(大人しい子かと思っていたけど意外に肝っ玉姫様なのかも知れないな )
昴くんはそう思いながら副操縦席で外部環境モニターを起動した。
「私は戦況分析に集中していて良いな」
九論がコクピットの後方で立ったまま言う。
「そうねこのスターキッドには指揮卓が無いのよね九論には必要かも」
「戦闘を主な目的とした艦船なら必要だと思うよでもスターキッドは違うよね」
昴くんが宙を仰ぎながら言う。
「そうだ! 戦艦が欲しいわね」
アイリーンがいきなり叫ぶ。
「愛鈴、玩具じゃないんだから欲しいって言っても『はい』ってな感じで誰もくれたりしないからね」
昴くんが苦笑いしながら言う。
「私が取ってきてあげましょうか」
レヴィが恐ろしいことをさらりと言ってくる。
「レヴィさんその冗談はシャレになってないから今は言わないほうがいいと思うよ」
「あら昴くんは私が冗談を言ってると思っていらっしゃるのですね。それではその小さなお目目を大きく見開いて良く見ておいて下さいね、でもハープがあれば本当は……本当に助かるのですけど」
レヴィが最後の方を九論に視線を止めて言う。
「わかったあれを持って来て渡せば良いのだな、私もこんなことになるとは思わなかったからな、もし分かってたら酒のつまみでも話したりしなかったのだが少し待っててくれ」
「ねえレヴィ九論に何をお願いしたの?」
返事は『エヘヘ』だけで終わった。
「接敵まであと3分! スリットから抜け出して来てる艦列の間に割り込むからね」
アイリーンがしっかり自分のモニターを見詰めて告げる。
「相手が撃ってきてくれたらいいんだけどね」
昴くんは希望を言ってみた。
「そうよまず同士討ちしてくれないかを願うのね、あんな大型艦にキッドがいくら撃ち込んだって大した損害は与えられないわ」
アイリーンが両手を肩の辺りで上下させ九論の真似事をしてみる。
「ペイント弾は直ぐ撃てるな、スリットから抜け出そうとしている艦の艦橋に撃ち込めるか」
九論がコクピットへ戻ってくるなり指示を出す。
「それは面白そうね、直ぐにやるわよAちゃん聞いてるよね! カウントダウン開始して」
〈10秒前、9・8・・・3・2・1・発射・・・命中〉
スターキッドAIは正面から敵に向かって行きペイント弾を発射後、回避そして状況報告までをする。
「あっ、ペイント弾を受けた戦艦が爆発したわ! スリットの中でも爆発してるみたいよ」
アイリーンが上擦った声を上げた。
「後続艦が追突した様だな、思った以上の効果が出た。今こっち側に出ている艦は何隻だ?」
九論がレヴィに竪琴を渡しながら聞く。
〈ひぃふぅみぃ……よん5隻です全部戦艦ですね小型機は出てません。あっ! 戦艦マリンが居ましたよあとは知らない戦艦ですね 〉
「マリン! アリオン艦長の船じゃない危なかったわー、まさか乗ってたりしないでしょうね」
〈オビス司令官とアリオン艦長、ホーク艦長やゴートさんジラーフさんその他親交があった人たちは基地の中でさっき解放されましたよ、それでそのまま破壊された宇宙港の復旧に当たってますとアシュラが言ってます〉
スターキッドAIはポラリス経由で基地の近況をアシュラから聞く。
「そう良かったわ、アシュラのほうではちゃんと把握できてるのよね基地が爆発しなかったのはアシュラとポラリスのおかげだし、ポラリスはいまアシュラの支配下にあるので今後の活動はしやすくなってるし、基地の中には敵は居ないとなればうち達の手に戻ったことになるわ、でも宇宙港は使えないし宇宙船も無いとなればスターキッドだけで戦艦5隻の相手はきついわね」
「愛鈴が言い出したことだろう何か策があったんじゃない」
「策? そうねえあいつらの鼻先をウロチョロしてればサロメ達が来るまでの時間くらい稼げるんじゃないかって思ったんだけど、それに上手く行けば同士討ちしてくれるかもって、名付けて『ちょこまか鼻先大作戦』よ」
「それって今考えたんだよね」
昴くんは力が抜けてモニターに頭をぶつけそうになった。
「だから私が戦艦をプレゼントしますって言いましたわ、さっきアイリーンさんが口にしたマリンはどちらの艦になりますの」
〈それが戦艦マリンは5隻目だったんです。肝を冷やしましたよ〉
「まあ素晴らしいこと、このスターキッドは内臓をお持ちなのですね、今度分解して見せて頂きましょうか」
〈ごめんなさい! 冗談でした。ウッウッウッ許して下さい〉
スターキッドAIはレヴィのことを冗談が通じない危ないお姫様に位置付けをした。
「それでレヴィ、冗談ではないのならどうする気なのよ」
アイリーンは九論が手渡した竪琴がただの竪琴であるはずがないと踏んで睨んでいる。
九論の表情からしてもこれからレヴィが何か仕掛けるのではないかと読み取れた。
「スターキッドAIさんがマリンのことを知っているみたいに言ってました。それでしたらアシュラさんがポラリス経由でマリンをコントロールできるのではなくて」
「やってみる価値はあると思うけど、直ぐに手動操作に切り換えられるんじゃないかなあ」
昴くんは少しだけ暗い顔をする。
「乗組員は私が操れますしマリンの制御機器はこの竪琴の……まあぶっつけ本番の実地試験ですわ」
「その竪琴はイノマンのね、あまり気が進まないのだけどどういう物なのか教えてもらえるかしら」
「イノマン先生が試作された超音波攻撃用ハープらしいですわ」
「らしい?」
「これを手にするのは私も初めてなんです。何でも以前トリプルA作戦とかで使用したリストリクションウエーブを改良簡素化してこのハープで発生させられるようにしたそうです。まだ試作品で実証実験も行ってないそうですから今回使うかどうかは私次第です。ただ普通の竪琴としても使えますのでそちらの用途としては使います」
レヴィが竪琴を弾く素振りをしながら話す。
「良くわからないけど分かったわ、竪琴として使うってもしかしてピアノみたいに音楽を奏でて精神支配をしようってのね、ピアノだったらうちも弾けたんだけど竪琴は無理ね、実物を見るのも初めてだし」
アイリーンが物珍しそうに見ている。
「物欲しそうにして見てるけどそれに触ったら危ないと思うよ」
昴くんは危惧した。
「大丈夫よそれで、どうやって使うのよ」
「歌を唄う時に使います。効果を上げるための小道具に使うのです。地球人の中には弾けないギターを肩から下げて歌う歌手の方がいましたけど、私は普通に弾きながら歌います」
レヴィが話をしている間アイリーンの瞳がキラキラと輝き出す。
「ねえ竪琴を弾きながら歌を唄うの、それでローレライの人魚のように船乗りを意のままに操るのよね、そして川だったら柄杓で水を汲み入れて沈めるの、ここは宇宙だから境界の狭間へ沈めていくのね、だめだめマリンを沈めたらダメなんだからね、あーでもそれだったらうちも一緒に歌いたいなあリンメイみたいにさ、だから連れていってよ」




