149.反乱10
「悲惨でない戦争なんかこの世に存在しませんよ」
アシュラの言葉を受けて環境監視席からレヴィが言う。
ピエロはレヴィとアシュラの二人とは初対面だったけどアイリーンの仲間として最初から認めている。
ただアシュラの姿を初めて見た時には思わず九論を探し出して無事でいられた秘訣を聞き出そうとした。
その九論が唇を噛んで言いだす。
「やつらの中にも相当臆病な人間が居た様だな」
「どう言うことよ」
〈『も』って言ったけどまさか僕のことを指して言ったんじゃないですよね〉
スターキッドAIが非難する口調になっている。
「自分から言い出すとはホント小心者ね」
アイリーンは改めて呆れてしまった。
「コンピューターやセンサーに任せず人が直接判断して爆発のタイミングを合わせたんだ」
「そうなのね、何で爆発したのかなって気になってたのよ、アシュラがポラリスへ爆発解除の指示を出したって言ってたでしょう」
「愛鈴いま九論が言ったように僕たちがドックに入ってくるのを誰かがじっと待ってて見てたんだよ、そしてスターキッドが突然現れたのを見たから爆発させたんだと思うよ」
昴くんが言う。
(多分自爆だと思うな、この爆発で僕たちを始末できなかったら次は基地毎爆発させるつもりだったんじゃないだろうか、やっぱり起爆は人間なんだろうか)
昴くんは自分の考えていることを口にはしない。
「第10ドックに居たのは輸送艦じゃなかったかね」
九論が誰かに聞いている。
(相手が臆病だったからこちらの姿を見た途端起爆スイッチを押したんだろうが、そうじゃなかったら危なかったかも知れない。しかしいくら戦争とは言え自爆させるとは酷すぎるぞ)
九論は自爆による犠牲者は少なかっただろうが爆破に使われた艦船はこちら側のものだろうと考えていた。
〈輸送艦でした〉
スターキッドAIが答える。
「ドロンパ号なの!?」
アイリーンが叫び、今にも泣き出しそうになった。
レヴィとアシュラが慰めようと傍へ行く。
昴くんはただ出遅れただけでなくこれから先、アイリーンの傍に居場所が無くなるのではないかという不安に包まれた。
〈違いますねビーコンは同じで外見も良く似せてましたけどこっちのが一回り図体が大きくておまけにハリボテでしたよ、まあ僕じゃないと見抜けなかったと思いますけどね〉
(ハリボテで中に何かがぎっしり詰まってたのは分かってたけど爆薬だったとは見抜けなかったな。アイリーンに知られないようにしなくてはヤバイかも)
スターキッドAIは見せかけの冷や汗を流す。
「それじゃあさ、本当は僕たちがドロンパ号だって言って近寄ってから一緒に自爆するつもりだったのかも知れないね」
昴くんが身震いする。
「そんな酷いこと絶対許せないわ」
アイリーンも震え出すけど怒りで叫び出したいのを抑えるためだった。
昴くんがレヴィとアシュラをかき分けて近寄り、アイリーンを抱き締めて落ち着かせる。
「私たちにもドックだけが爆発する事は知らされてませんでしたから、後で作戦が変更にでもなったんでしょうかね」
ピエロが言いながら考え込む。
「途中から基地全体を爆発させるのが惜しくなったんだろうな。だったらドックだけ爆発して基地が無事なのを知った奴等はスターキッドを屠ると言う第一の目的が達成されたと思って戻ってくるぞ」
「このままここに居ては袋のネズミになってしまいます。直ぐにでも出た方が良いのではないでしょうか」
レヴィが提案する。
「外の敵がどれだけ居るのか分からないからな下手に出ていくよりここは最初の計画通り、オビス司令官とか他の皆を解放して迎撃体制を取った方が良くないか」
九論は予定変更するには早すぎなんじゃないかと言いたい。
「無理です。基地に残っていた我々の艦船は乗っ取られ別の場所に避難させられてます。それに今ので宇宙港も使い物にならなくなりました。基地の攻撃能力は当初のまままだ何も備わってないです」
ピエロが言う。
「えっ、ピエロはうち達を迎えに来たのよね?」
アイリーンは噛み合わない話を聞いているようで落ち着かない。
「スターキッドが故障しているという事だったので基地まで誘導して爆発させるのが最初の計画でした。だから爆発が起きない間は基地に到着していないことになり時間が稼げると思っていたのです。その間に辺境艦隊が間に合ってくれる予定でした」
(アシュラがポラリスに指示を出した時点で爆発は回避できると思ったんだけどな)
ピエロが難しい顔をして話す。
「あっ、辺境艦隊ってムチ……じゃなくて誰だったかしら、そう、サロメよそれとバッハさんも居たわね、レッドフラックスの人たちが来てるのでしょう。彼等が今どこに居るのかピエロは知ってるの」
「あの二人はそろそろ本隊と合流してこちらへ向って来ている筈です。シルバーシップとR1だけなら24時間以内に着くと思いますけど間に合うと良いですね」
ピエロの難しい顔は終わらない。
「出るわよ!」
アイリーンが決断を下す。
「味方が来るって分かってるならそれまで戦い続けてればいいんじゃない!」
如何にもアイリーンらしい判断ではある。
東域宇宙和平維持連盟地球防衛基地はその宇宙港を破壊され歪な球形に形を変えているのだけど、アイリーンは『何かこっちのほうがカッコイイんじゃないかしら』と心の中だけで思っていた。
「何かさこっちのほうが格好いいと思わない」
思いのほか昴くんが耳元でコソコソと囁くように話す。
「うちもこのままのほうが格好良いと思ってたわ、でも口に出してはダメよとても不謹慎なことよ」
〈アイリーンが突然まともなことを言うと敵機襲来より恐ろしいです〉
スターキッドAIが茶化してくる。
「バカなことを言ってないで敵がまだ現れてないのか報告しなさいよ」
〈まだ索敵センサーには何も反応しません〉
「高性能ステルス機能を持たせているのかも知れない。皆は敵が突然目の前に現れても冷静に対処できるよう心の準備を整えてくれ」
九論が指示を出して不安になりつつある皆の気持ちを一つにまとめようとした。
〈基地のサブコンに居るアシュラから通信が入りましたのでスピーカーに出力しますね〉
スターキッドAIが告げる。
『アイリーンは元気にしてますかモチベーション下げたらダメですからね。ラース元司令官は自分達が独自で開発したスリット航法装置を更に改良した装置で今は別空間で待機しているようです。そしてこちら側に出て来るベストなタイミングを待っているのじゃないかと考えて
たのですけど出て来ませんね。こっちは助かりますけどアイリーンは気が張りっぱなしで疲れるでしょう。たまには昴くんに一任して休んだらどうですか……あっ、ごめんなさい急用が入ったので通信切りますね』
〈通信切れました〉
スターキッドAIが言う。
アシュラは基地のメインコンピューターポラリスと直接コンタクトを結ぶからと言って、破壊された基地宇宙港に一番近いサブコントロールルームへ、基地中をスパイしまくって熟知しているフリープラネット同盟のエージェントと自分で言っているピエロと一緒にテレポートで送ってもらっていた。
そしてポラリス経由でスターキッドAIとリアルタイムオープン回路を開いて、お互いの情報が瞬時で伝わるようにしている。
ピエロは基地で拘束されている仲間の解放と情報収集の最中。
アイリーンは横目で隣の昴くんを見た。
昴くんもこっちを見ていて目が合うと首を横に振って『ダメだよ』の意思表示をする。
(まだ何も言ってないのに……何よ)
アイリーンはそのまま目を細めて睨む。
「アシュラもラース元司令官なんて言わなくていいと思うのに、今じゃ立派な重罪人だと思うし、もう死刑囚でもいいと思うよ」
昴くんが意外な程いきどおっていた。
基地から太陽側の宇宙域で警戒に当たっているスターキッドの周辺は破壊された戦艦の細かな破片が光の反射で輝き静かな夜の浜辺の様子を見せている。
「直ぐに出てこない所を見るとかなり疑っているのかもな。どちらかと言えば良い傾向だと思うぞスターキッドは破壊されたと思って戻ってこられるより、スターキッドはまだ健在だと知られて警戒されるほうが時間稼ぎにはなるかも知れないからな」
(でもまあ戦いが始まる前に味方の艦が到着することはないだろうがな)
九論が今の状況をなるべく楽観視できるように伝えるため不安にさせる言葉は言わず皆の緊張を和らげようとした。
「いつまでも現れないで神経をすり減らさせておいてから出て来るつもりかも知れないですね」
「昴くん嫌なことを言わないでよそれってうちが一番嫌いな手口よ、だったらこっちから迎えに行きましょうよ」
「そして後ろを取られて再び基地を人質に取られることになるな」
「一度に全艦隊が出て来ることはないと思うのよ、だから別空間から出て来た所をもぐら叩きみたいに撃てば良いんじゃないかしら」
〈アイリーンがさっきからまともなことしか言わなくなってる。この戦いは負けるかもしれないよ~〉
スターキッドAIが泣き言を言ってくる。
「Aちゃんはさっきからうちの揚げ足ばかりを取ってるのだけど寂しいのかしら、もう少し待てば十分過ぎるほど構って上げられると思うわ、それにうちはただ常套手段を取ろうって言ってるのよ『奇抜な作戦で勝とうとするのはそれはもう戦略とは言えない』ってあのミラクルヤンも言ってたじゃない、だからまともなことをしてたら勝つし、うちもそろそろ馬鹿のふりをしてバカなことばかり言うのはやめようと思うのよ」
「〈ふり!?〉」
昴くんとスターキッドAIは疑念を抱く。




