148.反乱9
地球防衛基地を乗っ取ったラースはメインコンピューターに指示を出して基地の機能を思い通りに操作してたのだった。
これが人の意思ではなくコンピューターが行っているもの、もっと別の言い方をすればコンピューターに操られた人間が行ったのだとしたらと考えるとピエロはスターキッドAIがやっていることに禁忌を感じる。
「ポラリスでしたよね確かヘンナ副司令官の時に製造計画されたんですよね、でも不思議ですねヘンナ副司令官もポラリスが完成するまで待てばクーデターが成功したかも……いや知らされてなかったのかなあ」
昴くんが青い顔してピエロを現実に引き戻す。
「そうです、気付きましたかそう考えるのが普通ですね、あの時はヘンナ副司令官を捕まえて直ぐに簡易裁判が開かれ死刑が実行されました。あの時北方星域によるクーデターは失敗に終わり完結したのです。誰も二度目がこんなに直ぐ起きるとは考えてもいませんでした」
ピエロが嫌な考えを振り切って説明する。
「ヘンナは人柱だったのか、一連の流れが余りにもとんとん拍子であっけなく完結したとは思ったんだが」
九論が唇を噛んで悔しがる。
「ねえ、それってオビス司令官に近い人の中で裏の指揮を取ってた人が居たってことじゃないかしら」
アイリーンが真面目な顔をして聞く。
「スパイが居たってことなの?」
昴くんが誰もが聞けなかったことをズバッと聞く。
「短絡的思考は良くないなもっと広い視点で見ると隠れているものが見えてくるぞ」
九論が諭す。
「隠れているものって人のことだけでなくてもいいんでしょう」
アイリーンも気になって自分の意見を言っている。
「5W1Hで考えてみなさい」
九論が学校の先生みたいな喋り方をした。
「嫌な言い方ね、でもじゃあまずうち達が冥王星に到着したってどうやって知ったのかしら? それがクーデター開始の合図だったのよね」
アイリーンが最初の疑問を提示した。
「情報を盗む者のことをスパイと呼びますけど、一口にスパイと言ってもいろんなタイプの人間が何処にでも毎日のように存在するのですよ」
「そうよねピエロがいい見本かしら」
ピエロが話を続けようとするのを遮って九論が割り込んできた。
「そもそもスパイの盗む情報についてだな、朝食のメニューから始まって……」
九論がすごく長い話を始めようとするのがわかったのでアイリーンが更に話に割り込む。
「わかったわスパイは何処にでもいて誰にでもなれるってことよね。本人が自覚してなくても他愛ない会話がスパイ行為に繋がるってことでしょう」
「その通りだ、本人が自覚してないのにスパイ行為を行っていることのほうが厄介だな」
「また報酬が目的でその日だけの日雇いスパイってのも居ましたね」
ピエロは挫けてなんかない。
「それでアイリーンの質問だけど私達が冥王星に着いたその日の内にその事を知った人の中にスパイは必ずいる筈だ。ただ厄介なのは本人の自覚がない場合だな」
(そんな人、あそこには居ないわ)
アイリーンは心の中で誓った。
「通信傍受だわ! うち達が冥王星に着いたってのは海王星のレッド隊長の所へも連絡が行ったはずよね」
「正解だ。惑星間の指向性通信を傍受して基地へ送信するだけならかなり小さな装置でもできるからな」
「そう言うことだとポラリスから暗号の処理方法さえ入手しておけばダイレクトに受信できて履歴も残らないよね」
昴くんが解説した。
「じゃあスパイはあそこには居なかったんだね 良かった」
アイリーンはホッとする。
「まだ分からないぞ見つけられないだけかも知れない」
(『人を見たらスパイと思え』っていうのは、確か強い絆で結ばれた仲間達の間に疑心暗鬼の種を植え付けさせる一番手っ取り早くて確実な方法じゃなかったかしら)
アイリーンは昔見たマンガを思い出していた。
「あとは誰が何のためにだけど、今回の首謀者は今の基地司令官リザード星人のラースだから『ラースが』でいいんだよね」
昴くんが答え合わせを待つ。
「『何のために』はスターキッドが基地へと戻って来るのを辛抱強く待ってたわけなのよね、だから身内の『復讐のため』でいいんでしょう」
アイリーンも参加した。
九論は腕組をして頷くだけにする。
「うち達への復讐だけのために100万人も関係ない人を巻き添えにして殺すの? 酷すぎないかしら」
正解を得たアイリーンの表情が青ざめていき肩が小刻みに震えだす。
「イ……九論さんが最初に言った『見せしめ』だと思います。これから先の侵略で自分達に楯突こうとすると同じ目に合わすぞと誇示するためでしょう」
ピエロが他にも考え事をしている風にして言う。
(ピエロもちゃんと『九論』って呼んでくれてうちはちょっと嬉しいかもだわ)
アイリーンの頬が微かに緩んでいく。
「唐突で済まないがちょっとテレポートの練習をしようか」
九論が本当に突然言い出したのでアイリーンは鳩が豆鉄砲を食らった時の表情をする。
「今この状況の中でどこにテレポートしようってのよ。まさか基地の中とか言わないでしょうね」
「まずは練習だ、そこからここまでテレポートしてみなさい」
「えっ、イ……九論の所までって1mもないわよ」
(ピエロの言い方が移ったじゃない)
「そう、それができたら昴くんと一緒に同じ距離をテレポートしてみなさい」
(ああ、あれを教えようとしているのか)
ピエロは理解した。
アイリーンは訳がわからないまま九論の言葉に従う。
段々と一緒にテレポートする人数が増えていく。
移動距離も少しづつ短くなり今は1mmになっている。
最後はスターキッドも一緒にその場でテレポートするのだったけどこれが一番難しかった。
(大体さぁ、テレポートって目的地があってから行うものでしょう。目的地がないのにどうやってテレポートしろってのよ……まあ何とかできたけど? 何でできたのかはうちにもわからないわ、イメージ的には縄跳びの二重跳び、いやあれは三重跳びかしらね)
「アイリーンはとても素晴らしい生徒ですね言われたことを簡単にこなしてますよ」
ピエロが褒めてくる。
「あまり煽てないでやってくれるか調子に乗って本番でこけたら大変では済ませられないからな」
九論が真剣な表情をした。
「本番って何でしょうか?」
無言で言われるままに従っていた昴くんが痺れを切らして聞く。
「最初に説明したように今回の件はアイリーンとスターキッドを含めたグループへの単純で大規模な復讐を目的としている。この東域辺境銀河でこれだけ大規模な政変をいきなり起こせばどうなるか、いて座の中央政権は黙って見過ごすわけにはいかなくなるだろう。奴等の最終目的地がそこだとすれば今回のクーデターが今後の軍事侵攻的に大きな意義になる。そもそもカシオペア座を中心とした北の辺境惑星連盟・・・」
九論が長い話を始め出したので昴くんが責任を取って自らの手で口を封じた。
「九論もう分かったから(本当は良く分からないけど)結論だけ教えてよ」
昴くんが押さえていた手をズボンのお尻で拭きながら聞く。
横目でアイリーンを牽制しながら。
「このままスターキッドを基地の中へテレポートさせるのでしょう」
ピエロが言う。
「奴等の誘いに乗ってやろう。但しこちらのやり方でな」
九論が答える。
「いつ行くの?」
アイリーンが聞く。
「今から直ぐにだ」
アイリーンが意識を集中させている。
そしてスターキッドを東域宇宙和平維持連盟地球防衛基地の想い出ある第9ドックにテレポートさせた。
(本当はアポーツのほうが得意なんだけどなあ)
テレポートが完全に成功したのを見届けてから心の中で愚痴ってみる。
以前昴くんとテレポートした時に意識の集中を切らして酷い目に遭ったのをまだ覚えていたから。
基地の入港ドック入口でスターキッドの到着を待ち構えていた戦艦だろう、いきなりドックの奥へ現れたのを察知すると慌てた様子で飛び出して行く。
〈敵の方々だと思いますけど挨拶もせずに出ていかれてますよ、アイリーンは余程恐れられているみたいですね。ただ第10ドックに一隻だけ残ってますけど……何か意図するところがあるのでしょうか、こちらから挨拶しときます?〉
スターキッドAIがのんびりとした口調で告げてくる。
「!!」
九論が声なき声で叫んでから支持を出す。
「アイリーン! その場テレポートだ」
アイリーンは条件反射の様にスターキッドを縄跳び三重跳びの要領でテレポートさせた。
数瞬のあとコクピットの正面スクリーンから強い光が溢れ出し大きくバラバラに砕けた壁や扉がスターキッドの中に突き抜けてくる。
但しそれらは立体ホログラフィーの様に通り抜けていき実害をもたらさない。
これがその場テレポートの真価が発揮された結果だ。
スターキッドは時空間を一枚隔てた別次元から現実世界を見ている。
だから物理攻撃の影響は受けることがない。
ただその場テレポートは練習では短時間しか維持することができなかった。
でも今はそれで十分。
スターキッドに危害を加える物体が通り過ぎたあと余裕を持って現実世界に戻ってくる。
バラバラになりながら飛び散っていく大きな破片は真空空間で加速しながら突き進み、基地から逃げ出して行った戦艦に追い付きそのまま突き刺さり爆発を引き起こしていく。
スクリーンに映し出されているだけでも3隻の大型艦が爆発して飛散した。
「敵だけど悲惨な光景です」
培養槽から出てきたばかりのアシュラははしゃぎ過ぎて疲れ休憩室で休んでいたはず。
それなのにいつの間にかコクピットの入口でピエロが定位置にしている場所に並んで立っていた。




