147.反乱8
スターキッドと地球防衛基地から飛んで来ている小型艇はもう少しでお互いの攻撃可能エリアに入るところまで近づいていた。。
「体勢を整えたら攻撃に転じるのよね前回もこの辺だったわね、戦ってる時は気にもしなかったのだけど、あの時うちは何百と言う彷徨えるタマシイを生み出したのよ(あれ? もっと少なかったかしらでも百は居たわよね)別に懐かしいなんて思ってもいないから会いに来てもらわなくてもいいけどさ。今度はたったの16機だけどそれでもまたあの戦い終わった後に味わった嫌な思いをすることになるのかと思うと……憂鬱だわ」
アイリーンのモチベーションが急降下しだす。
「仕方がないよこれは命を奪い合う戦いだから、愛鈴は小さい頃から戦ってたんでしょう。それの延長線上にあるんだって考えられないかなあ」
昴くんが何とか宥めようとする。
「そうね『考えないで働け』がうちの座右の銘だったわね! 考えないで殺し合いましょうか」
アイリーンが悲しそうに言い出す。
「・・・」
昴くんはそれ以上何も言えなくなった。
「敵機が隊列を乱してます」
レヴィがモニターを見ながら言う。
「どう言うことよ」
「こちらの行動が予想外だったのだろうよ」
九論が肩の辺りで両手を広げ上下させている。
「厳しい指揮官の元でマニュアル通りの行動をしますと良く起こすトラブルみたいです」
レヴィが解説してきた。
「あっ、敵機が自爆しています。これは酷い。中央に居た2機がネットを引っ張ったまま停止したみたいです。他の14機はネットに繋がれたまま前進したものだからアメリカンクラッカーみたいにぶつかって爆発していきました」
「アメリカンクラッカーって、レヴィさんは良くそんな言葉を知ってましたね」
昴くんが目を大きく見開きながら言う。
「イノマンの所で目覚めてから色々勉強させてもらったのです。そんな中で目を引いた物の一つです」
「僕も物置き部屋で見つけて知ってるよ、父に言わせると爆発的なブームになったけど、一瞬で消え去った遊びだったって言ってたよ、何でも結んでいた紐が切れたり指を挟んだりして怪我人が続出したので禁止指定遊具になってしまったんだって。ついでに言うとその頃は危険だとか言う理由だけで色々な遊びが禁止になって、今ではそれがどんな遊びだったかも分からなくなってしまったって愚痴ってたよ」
昴くんが自分が知っていることを話す。
「ふ~ん、昴くんは意外と物知りだったのね、うちは知らなかったわそんな遊び誰も教えてくれなかったし」
「愛鈴の所には色々な古いガラクタが無かったんだと思うよ」
「そうよね~うちは狭いアパート住まいだったからね、母親は外国人農業実習生の資格で入国していたベトナム人だったもの、うちにはガラクタだけでなく戸籍も国籍さえもなかったんだよっ……て、そう言えば諸悪の根元を作った父親は誰だったかしらねー」
アイリーンは、九論を横目で睨み付ける。
「すまなかった。だがしかし……」
九論の言い訳はレヴィの報告で遮られた。
「注意! 先程味方を自爆させた敵機2機がこちらに向かって加速してます」
「Aちゃん、接触時間は?」
アイリーンが聞いてくる。
〈僕のほうが速いに決まってるでしょう。追い付けませんって〉
「じゃあスピードダウンして少し待ってあげて。それと極指向性通信で呼び掛けてみるわ、うち達の仲間にならないか聞いてみるのよいいでしょう」
アイリーンが提案を出しながら九論を見た。
「まあ、良いんじゃないか投降しようとしているのかも知れんしな。そんな奴を撃ってしまったらそれこそ後味が悪いだろうな」
九論がさっきのジェスチャーを交えて言う。
「後味の問題ではないと思いますよ、僕には相手が投降しようとしてるなんて思いも寄りませんでした」
昴くんが潔く平伏する。
〈通信受信……敵機Aからです。スピーカー出力しましょうか?〉
スターキッドが言う。
「敵機Aってどっちよ、それにこういう時だけ聞いてくるのね」
〈何の事でしょうかスピーカー出力します……ごめんなさい、ごめんなさい!〉
一度は惚けようとしたスターキッドAIだったが、一転して負け犬のような声を出す。
(ほんとAちゃんは意気地無しなんだからねー)
程なくしてスピーカーから声が聞こえてきた。
〈アイリーン聞こえますか? 久し振りですね私が基地に残った甲斐が実りました。さて私は誰でしょう?〉
「あ~っ、その声ピエロじゃない。いつから……うち達を裏切っていたのかなあー、撃つよ!」
明るく喋りだした声のトーンを途中から低くする。
〈あはは、冗談はさておきそっちへ行きたいのだけど良いかい?〉
「もう一機のほうも味方なの? それにピエロがこっちに来たらその機体は誰が操縦するのさ」
〈心配ないわ私が居るから、猫踏んじゃった以来になるけど覚えてくれてると嬉しいのだけど〉
「えーっまさかバッハさん、え~っと、たしかレッドフライパンの二番隊隊長だったよね」
〈レッドフラックスよ、相手の名前はしっかり覚えなさいって言われていたでしょう〉
「ああ、ごめんなさい悪の組織の名前はあまり覚えたくなかったんだよー」
〈誰が悪の組織だって! ムチ打ちの刑にするよ〉
「わあ、ムチ女も居るの? もしかして敵機Bに乗ってるのかしら」
〈お前って奴はいつまでも根に持つ奴だったのね、そうだ今度から私もお前のことをヘビ女と呼んでやろうか〉
「サロメその例えは蛇使い座アナコンダ星人に失礼だと思うぞ」
「九論はどっちの味方をするのよ」
アイリーンが抗議の声を上げる。
何にせよ彼女の回りに頼り甲斐になる人達が集まって来ている感じがする。
「さあ、行こうか」
スターキッドへテレポートして来たピエロを交えてアイリーンはまた少し元気になった。
地球防衛基地よりスターキッド目掛けて飛んできた小型宇宙艇16機は2機の裏切りによって14機が破壊されている。
その裏切った2機こそが反乱組織に潜り込んでいたピエロとムチ女ことサロメの一味だった。
ピエロがスターキッドにテレポートしてきたことで勢い付いたアイリーンが言う。
「Aちゃんこのまま突っ込むわよ!」
「アイリーン待ちなさい焦りは禁物だ」
九論が諭す。
「そうだよ愛鈴覚えてるよね爆発するんでしょ」
昴くんも言い添える。
「爆発はポラリスが解除したんじゃなかったかしら」
「爆弾は残ってると思うよだから手動でも爆発させられるんじゃあないかなあ」
「どうするのよにらめっこは嫌なんだからね。それにうちらがモタモタしてて目の前で基地を爆破されたりしたらもっと嫌だよ」
アイリーンは昂る感情を自分で何とか抑え込んだ。
「そうだな、見せしめにそうなるかも知れないな」
九論が言う。
「基地には大勢の人達が残ってるんでしょう」
昴くんが青い顔になっている。
ピエロが昴くんの頭を撫でながら話す。
「地球人排斥派に属さない人は第5層の一般人居住区画に閉じ込められてます。表向きはクーデターによる外出禁止令になっていますね」
「みんなは無事なのよね」
「皆と言うのは誰々のことでしょうか」
「うちの知り合い全部よ、オビスのおっちゃん、アリオン姉ちゃん、ゴートさんあと……そういえば基地にドロンパ号は居たのかしら」
「ドロンパ号? とは」
「あっ、輸送艦キャメロットのことね」
「すみませんそこまでは把握できてないのですけど組織的な戦闘は行われてない筈です」
「メインコンピューターが一番最初に乗っ取られたんだよね」
「そうなんですけどよく理解しているというか知っていたんですか?」
ピエロはアイリーンか誰かが未来視を行ったんだろうと考えた。
昴くんが今までの経緯を簡単に話す。
「解けなかった謎が解けましたよ」
ピエロは全てを理解した。
「それでこれからどうします」
昴くんが聞く。
「そうだな、まずこちら側の状況を伝えておこうか、反乱兵士達は外郭でスターキッドが到着するのを待ち構えている」
「わかってるわ、うち達が入港ドックへ着いたとたん有無を言わさず基地を爆破させる予定だったのよね」
アイリーンが言う。
「そうですね補足するならばドックの最深部へと誘導した後で全ての隔壁を閉ざし、新たに基地メインコンピュータとなったポラリスへ自爆命令を出してから、作戦のために最後まで残った兵士達が脱出する予定になっています」
「もしうち達が入港しなかったらどうしたのかしら」
「クーデターに気付いたのならば基地の人達を人質にして、そうでなければ美味しい料理を餌にして誘い込んだでしょうね」
スターキッドの面々は美味しい料理に釣られて入っていくアイリーンの姿を容易に想像できた。
「それだけではなくて恐ろしいことにこの計画が表面化したのはスターキッドが冥王星に現れた時、つまり5日前なのですよ」
「そんな短時間で地球防衛基地が制圧されたのですか、もっと長い月日を掛けて用意周到雨霰(あれっ?)ってな感じだと思ってました」
「昴くんは変わった表現をするんだな」
ピエロが薄く笑っている。
「ラースの部下達は日頃からどんなに突拍子もないことを言われても直ぐに行動できる様に良く訓練されているんですよ」
「それって『何も考えないで働け』って言う、うちのモットーと一緒じゃない凄く嫌だわ」
アイリーンが苦虫を噛み潰したような表情をした。
(未来のシュタインさんから受け取ったメッセージはしっかり聞いていたんだけどなあ、それでもダメージは大きいよ)
昴くんは自分が情けなく思う。
「それに君達も知っている通り基地のメインコンピューターがラースの思い通り操作されていたんだからね」
ピエロはメインコンピューターによる一元管理は問題があるのではと思い始めていた。




