146.反乱7
スターキッドは地球防衛基地まで残り1億5千万Kmの距離を取ったまま故障のふりをして深海に漂うクリオネの真似をしていた。
地球防衛基地を飛び立ってこちらに向かってきている高速小型艇が到着するまでには、あと7日以上はかかるとAちゃんことスターキッドAIが言っている。
因みにこちらが本気の最高速度を出して光速に近い速度まで加速して行けば15分足らずで地球防衛基地に到着出来るらしい。
おまけに奥の手としてアイリーンはテレポートという必殺技を持っている。
ただアイリーンが行うテレポートの確実性に疑問を持つ人は誰も口にしようとしない。
そういう意味での奥の手なのである。
だからアイリーン達には考える時間がまだ十分あるので急がず慌てずの構えを取っていた。
「ピエロがどうしたってのよ」
九論の脈絡のない発言を意にも介さずアイリーンが聞き返す。
「奴も捕まっているのかと思っただけだ」
「新田さんだったよね、まだ基地に残っていたのかなあ」
昴くんは不思議に思う。
(新田さんはあれだけの能力を持ってるんだから逃げ出しているんじゃないかと思うよ)
「昴くんピエロのことはピエロって呼ぶようにしましょうよ、改めて新田さんなんて言われたら誰 ってなってしまうわ」
アイリーンが指摘した。
「新田さんに悪くないかなあ」
「悪くはないわよ自分のことを自分で『ピエロ』って言ってたじゃない」
「そのピエロさんって私たちのお仲間なんでしょうか」
レヴィがアイリーンと昴くんの話しに割り込むために片手を上げて聞いてくる。
「そうよレヴィは知らなかったわね最初は敵だと思ってたわ。本当に敵だったのかも知れないけどね、でも次に会った時から仲間になったのよ、イノマンのクローンだったしね」
「まあ先生のクローン様ですかそれは是非お会いしたいです」
「お互い生きてれば嫌でも会えるわよ、そんな気がするの」
「新田さん……じゃなくてピエロさんは今の事態を把握してるのかなあ」
昴くんはピエロの安否を心配した。
「既に拘束されていると思うぞ、無事で元気なら何らかの連絡をしてきてるはずだからな」
「無事だと良いけど」
アイリーンも二人のやり取りを聞いて急に不安になる。
表情に出たのだろう。
「死んではいないと思うぞ、まだ微かだが繋がりがある」
九論が安心させるように言う。
「繋がりねぇ……」
アイリーンがボソッと言った。
(もしかしてうちとも繋がってるとかは聞きたくないわよね)
「それでさあ、あの小型艇がここまで来るのをじっと待つわけ……7日間も? うちは嫌だからね」
九論がこれからの戦略を考えているのだろうと思って聞く。
「戦いに於いては忍耐も必要だ、だから日頃から鍛えなければいけなかったのだがお前は、やりたい放題だったからな」
「酷い言われようね、うちも時と場合によっては十分我慢できるわ」
「僕は愛鈴が遊びで『我慢くらべよ』って言ってる時以外は知らないけど」
昴くんがニヤリとする。
「昴くんが裏切った~、プンプン」
アイリーンが不貞腐れていく。
「それで、本当に7日も待つのですか」
実は昴くんもそんなに待ちたくはないと思っている。
「そうだな3日と言いたいところだけどな……アイリーンが保ちそうにないから36時間後には動こうかと思っているところだ、こればかりは私の一存で決めるわけにはいかないけどな、それに情報収集と戦闘シミュレーションをやらないといけないな」
「戦うの?」
「避けては通れないだろうからな、後ろから挟撃されるのにも気を付けないといけないしな、奴らも4年前にここで行われたヘンナ私兵艦隊とスターキッドの戦いを記録しているはずだから同じ手は使えないだろうその辺をこれから話し合うのだよ」
「うち達にとっては1年前のことだけどね」
「浦島効果による時差が発生してるのは理屈では分かっているつもりなんだけど実感が湧かないよ~」
〈ケンタウルス座アルファ星域からの帰りで経過した1年間でほぼ3年発生してますね〉
スターキッドAIが教えてくれた。
「その時って昴くんとうちはコールドスリープカプセルの中だったのよね、わかるわけないわよ」
「たとえ起きていたとしても分からなかったと思うぞ」
「時間の流れが景色みたいに見えるといいのにね」
(子供の頃、新幹線に乗って見た窓の外をすごい速さで流れていく景色みたいにさ)
昴くんはそう思った。
「時の流れねぇ~、うち達には3年の空白期間があるってことよね、それにしても変じゃないかしら、アンバ隊長もレッド隊長にしてもラースって人の話がミジンコ並にもでなかったわよね」
「そうだねミジンも出なかった。ミジンってどういう漢字なのか知ってるよね」
「あっ、ミジンね、そうよ微塵、微塵っと……それだから変なんじゃないかしらあのラースって人はいつ表舞台に現れたのよ」
アイリーンは上手いこと話を誤魔化せたと思った。
「ロースさんは知らないよね、未来のシュタインさんでもラースがいつから地球防衛基地の司令官を名乗っていたのか知らなかったみたいだしね、記録キューブの中でも『基地がラースの手に落ちて破壊されそれから瞬く間の早さで太陽系全体を支配していった』としか言ってないしなあ」
昴くんが言う。
「ラースが総指揮官なら相当な切れ者だと思うぞ、クーデターを起こすに当たり、大規模な作戦行動を広範囲て短時間に行ったことと、それを長期間全く気付かせなかったことの二点だけでも普通に優秀なだけの人材ではできなかっだろうな」
「野菜炒めを作る時にさ、下ごしらえした材料を全て小皿に盛って用意しておいて、フライパンが適度に熱くなった時に一度に入れてバッバッって混ぜると出来上りみたいなものなのかなあ」
「用意周到アメアラレってやつね」
「それって何なのかなあ日露戦争で日本艦隊が砲撃する様子を表現した『乱射乱撃雨霰』ってのが新聞記事にあったって、それをもじった『感謝感激雨霰』までは知っているのだけど愛鈴が今言った『用意周到雨霰』ってのは今まで全く聞いたことがないなあ、まあ使えないことはないと思うけどね」
「そうよ、あちこちに甘いアメやアラレをばらまいておけば皆が一斉に食いつくこと間違いないわよ」
(まあいいか『用意周到飴霰』でも、ああそう言えば『感謝感激雨嵐』って曲もあったような……いやだから何だって言うんじゃなくてこれ以上話を脱線したままにはできないからなあ)
「それはそれでいいとしてだな今は呑気にそんな話をしていい時ではないだろう」
「そ、そうですよねぇ、ラースって人がそんなに優秀なら地球から脱出した人たちが今も無事かどうかがわからないですね。人質とかにされてるかも知れない。父さんや母さん翔と宣子さん……」
昴くんが最後の方を言い淀む。
「全ては戦いに勝ってからです。だから今は集中しましょう。私も父のことはしばらく考えないようにします」
レヴィが昴くんを宥めすかすように言う。
それから九論の意見について全員で話し合いが行なわれる。
そして7日間じっと待つのではなくこちらからも打って出ることにした。
スターキッドAIが言った『ピューって飛んで叩きのめしましょうか』が採用されたことになる。
地球防衛基地を飛び立った高速小型艇は36時間かけて3千万Km進んで来ている。
一方のスターキッドは光速の半分のスピードで1億2千万Kmを30分足らずで到達しようとしていた。
「Aちゃん速すぎるわよもっとスピード落として!」
アイリーンがコクピットで絶叫する。
〈やはり惑星間を準光速で飛ぶには無理がありましたね。つまりません……です〉
「通りすぎるつもりだったんじゃないでしょうね、直前で急停止なんてのは嫌よ」
アイリーンはスターキッドAIが暴走しなければいいけどと心配になった。
「通り過ぎたら戦わなくて済むのではないでしょうか」
レヴィは戦わずにやり過ごせるならそれに越したことはないと思っている。
「敵、小型艇が包囲網隊形へ展開して行きます」
敵機を監視していたレヴィが報告する。
〈マグネチックネットを何重にも引っ張ってますよ。突っ込まなくて良かったですね〉
スターキッドAIの音声が震えている。
「どの口が言ってるのかしら?」
「前方のマグネチックネット表面に多数の結晶体が発生、拡大していきます」
環境監視席のレヴィが緊張した声で言う。
「Aちゃん、分析できる?」
〈小さなドライアイスの塊です。あれだけの量をまともに受けたら大損害を受けた上に氷漬けになってしまいますよー〉
「この辺の宙域ではその昔、ドライアイスを大量にぶちまけた人物が居たからな、原料には事欠かなかっただろうな」
「そうねその中に確か九論も居たかしらね」
「早く、どっちかに避けようよ」
昴くんがかなり焦ってきている。
〈Uターンします!〉
スターキッドAIはそう言うが早いか行動に移した
「流石のAちゃん、小心者の実力発揮ね」
アイリーンが揶揄する。
〈安全第一、即時判断即時対応、命あっての物種ですよ〉
「スターキッドAIも焦らずに即断即決って言えばいいのに」
昴くんが笑い出しそうに言う。
「まあ一番手っ取り早くて確実な方法だな」
九論も言い添えた。




