145.反乱6
アシュラがすまなさそうに話し始める。
「ごめんなさい、地球防衛基地の生物化学研究所でバイオロイドを造った時に急速成長させるのを優先して寿命が短くなったのは私のせいなの、許さなくてもいいけど謝らせて下さい」
「そのことならアシュラのせいなんて思ったことはないわ、それにアシュラにそう言った指示を出したのは研究者どもでしょう。アシュラは悪くないわ」
「でも、私は拒否できたのよ、私も早く結果を見たくて後先考えずに進めたの、ごめんなさい、うぁーん」
アシュラがアイリーンの胸に縋って大声を上げ泣き出した。
(アイリーンのクローンだからって泣き虫にならなければいいのだけど)
スターキッドAIと昴くんが要らぬ心配をする。
「アシュラ泣くんじゃない、バイオロイドと石井光一君の魂はまだ完全に消えた訳ではないので将来なんとかしようと思っている最中だ。最近は他にやらなければいけない事が何かと多過ぎる。特に今はこの現状をいかにして覆すかだ」
「九論の言う通りですね、だったらアイリーン通信席に座ってもいいですよね、地球防衛基地のメインコンピューターを入れ換えたって端末迄の全てを入れ換えることは不可能だから取り付く島もないと言う訳ではないはずです」
そう言いながらアシュラは通信席で端末の操作を始めた。
その様子をアイリーン達は固唾を呑んで見守っている。
アシュラがおもむろに微笑みを浮かべ皆を見渡す。
「奴らはヘマをこいてます」
「うちと同じ顔してそんな臭そうな言葉を使うのはやめて欲しいのだけど」
(アイリーンは何時ももっとひどい言葉を平気で使っているじゃない)
昴くんとスターキッドAIは口には出さずに突っ込みを入れた。
「打開策が見つかったのか」
九論が期待を込めて聞く。
「本当はアシュラが一枚上手だって言いたかったのです。だけど基地の乗っ取り犯の方がこの上なく愚かのようです」
「一体何をしたってのよ勿体振らないでさっさと言っちゃいなさいよ」
アイリーンがアシュラの後ろから通信席のディスプレイを覗き込むけど意味が分からない。
「普通コンピューターを初期化した場合はシステムとかは新しく入力し直すでしょう」
アシュラが九論を見ながら言う。
「わかったぞ。奴らは手間暇を惜しんでアシュラのハードディスクをそのままコピーしたのか」
「ハードコピーまでとは言えないけれどそれに近いことをしてるの」
「じゃあメインコンピューター本体が新しくなっても中身はアシュラのままってことだよね」
昴くんの瞳に希望の光が灯される。
「その通りです。ただアシュラの自我はまだ眠ってます。今のままでも私とリンクすることによりリモートコントロールできるけど折角だから自我を目覚めさせましょうか」
今度はアイリーンに視線を移す。
「わかったわ、そのパスワードがうちの声紋って言うんでしょう、この前と一緒ならそうだよね、でもそれだったらアシュラもうちと同じ声紋なんでしょう?」
「その通りです、それでも私はアシュラとして命を頂いたの。だからアイリーンの声紋パスワードはあなたのものよ、さあ言葉を掛けて目覚めさせてあげて」
アシュラがリモートマイクを差し出してきた。
アイリーンは、皆を見渡しその目が同意を促していることを知り言葉を掛ける。
「おはようアシュラ、お目目を覚まして……」
「愛鈴いつもと口調が違うよそれじゃぁ起きないかも知れない……よ」
昴くんが突っ込みを入れたかったけど二人のアイリーンに気圧されてスベってしまう。
「何か改まってだと小っ恥ずかしいのよね。そうだわマルセリーノの歌でも歌っちゃおうかしら」
「愛鈴それはやめようよ歌は綺麗だけどあれは悲しすぎる結末を迎えるでしょう、歌ってる途中から絶対に大泣きしだすよ」
「そうだったわね、目覚めの歌としてはうちは一番好きだけどラストはフランダースの犬みたいに……うっ、うっ」
「ほら、もう泣き出してる」
「うっ、うっ、ぐすっ……」
アイリーンの隣でアシュラも同じ顔して泣き出す。
「あーっ、愛鈴が二人になっちゃってる」
昴くんは、どうしたらいいのか途方に暮れた。
〈あのー、お取り込み中すみません、覚醒させてくれてありがとうございますとお礼を申し上げますわ〉
地球防衛基地メインコンピューターアシュラがスターキッドAIからスピーカーの使用許可をもらって喋ってくる。
「目覚めてたのね、直ぐに教えてくれたら良かったのに」
アイリーンは少しお冠になった。
〈前回がはしゃぎ過ぎて初期化される羽目になったので、同じ轍は踏みたくなかったのです〉
「そうね、そっちの悪人達も同じてつは二度と踏まないでしょうからね」
〈今、デバッグ始めましたけどとりあえずは自爆装置の完全解除と障壁の立ち上げを行いました。これからの予定を教えて下さい〉
「スターキッドAIとリンクしたままになっているこっちのアシュラとリンクしてくれないか」
九論が言う。
「あっちのアシュラとかこっちのアシュラとかややこしくなるから、こっちのアシュラの名前を変えちゃいましょうよ」
アイリーンが提案する。
(愛鈴がアシュラだって最初に言い出したんじゃないかぁ)
昴くんは少しだけお冠になった。
「ごめんねアシュラ、愛鈴は言い出したら聞かないからね、変な名前を付けられる前に何か希望する名前を先に言うと良いよ」
「あっ、昴くんは本当に失礼なことを言うのね。うちが付ける名前が変だとか言うの」
「だったらなんて付けようとしてるか聞かせてよ、但しアーちゃんとか言ったら怒るからね」
(Aちゃんクーちゃんスーちゃんだったからね今回は間違いなくアーちゃんだよ)
昴くんは確信を持つ。
(う~、その通りだわどうしよう)
アイリーンは開き直ることにした。
「そ、その通りよだけど名前ってのは可愛ければそれに越したことはないんじゃないかしら、アーちゃんってとても可愛いと思うのよね」
〈あのー、いいでしょうか。実は本体が新調された時に新しい名前も付けられているのですが、そちらで呼んで頂くってのはどうでしょうか〉
「なんて名前なの? 」
昴くんが聞く。
〈ポラリス〉
「北極星か、確か指標だな良い名前だ」
九論が言う。
「良い名前だと思うけど……誰が付けたのよ」
〈設計段階でヘンナ副司令官が命名してオビス司令官が承認しています〉
「ヘンナってあのヘンナよね、ヘンナが付けた名前って何か嫌だわー」
「でも良い名前です。オビス司令官も承認されているのでしょう」
「レヴィも賛成なのね、じゃあポラリスで決定ね。そういえばオビス司令官たちは無事なのよね、ねえポラリスうちの知り合いがそっちで拘束とかされてないよね」
〈悪い知らせがあります。地球人排斥派と対立していた重臣たちは拘束されそれぞれの自宅で軟禁状態に置かれています。その名簿の中にオビス司令官とかアリオン艦長の名前も入っています〉
「酷い! でも無事なのよね、だったら助け出すまでよ、でも何で誰も抵抗しなかったのかなあアリオン艦長なんて戦艦マリンを自由に扱えたのに大人しく拘束されるのって考えにくいわ」
アイリーンがイラつく。
「基地のメインコンピューターを支配下に置いていれば何でもできたのではないかな」
九論が言う。
「そうだったわね、今でこそアシュラは目覚めてくれたけど、ついさっきまではリザードマン達のポラリスとして働いてたんですものね。あっ、ゴメン悪い意味で言ったんじゃないからねだから謝ったりしないでよ」
〈ありがとう、では謝らない代わりに償わさせて下さい。リザードマン達の居る所へ神経ガスでも流しましょうか〉
「本当に何でも出来るのね、そら、恐ろしいわ」
「愛鈴、区切らないで空恐ろしいだからね」
「いや、ガスを流すのは待ってもらおうか」
〈一番手っ取り早い方法ですが〉
「奴等は狡猾だからなポラリスにも知らせてない罠がないとは限らない」
「何か良い方法があるのですか」
昴くんが九論に答えを求める。
「そんな聞き方しちゃダメよ、少しは考えて自分の意見と一緒に言うのよ」
アイリーンが『チッチッチッ』と指を振りながら口で言う。
「アイリーンさんは軽いことしか言わないお方だとばかり思ってました。ごめんなさい認識を改めさせて頂きます」
レヴィは感心し尊敬の眼差しを向ける。
「それでね、うち達が入港したら惑星ごと自爆するってのは解除したんでしょう、だったらこのまま突っ込んで敵の出方を見ながら対応するってのはどうよ、九論が他に良い案を持ってるってんなら聞かせてもらうわよ」
(それ、絶対に考えての発言じゃないよね)
昴くんとレヴィはそう思った。
「ピエロはどうしてるかなあ」
九論がいきなり何の脈絡もないことを口にして皆の注意を引き付ける。
既に反乱者の手中にある地球防衛基地だがその輝きは以前と全く変わることはない。




