144.反乱5
暗い宇宙の中でスターキッドは木星とアステロイドベルトにある地球防衛基地のほぼ中間地点で機関を停止し『故障が発生』と嘘の情報を発信して漂っていた。
天王星レッド隊長の〖うずしお〗から出た所で未来からやって来たロースさんがもたらした情報を聞いて、アイリーン達はこの暗い宇宙より心を暗くしている。
冥王星の研究所を今こそ爆破させようとしていたイノマンの手元へも同じ情報が届き、あたふたと爆破を中止してアイリーンの元へ急ぐべくスターキッドへテレポートマシーンで来ていた。
「それじゃあ取り急ぎアイリーンのクローンを目覚めさせて来るかな」
イノマンがそう言って休憩室を出て行く。
アイリーン、昴くん、レヴィ、スターキッドAIそれぞれが無秩序に自分が言いたいことをイノマンへ伝え終わったところ。
「名前はアシュラだからね、絶対だよ」
アイリーンが心配そうに残った三人の顔色を伺いながら言う。
スターキッドAIの顔色を伺えるのはアイリーンだけの特技だと思うけど。
休憩室での開口一番、アイリーンは本人の承諾を得ることなくクローンを造ったイノマンに対して鬼の形相を持って詰め寄り説明を求める。
それでもイノマンは少しの動揺を見せることなくさらりとした表情で弁明を始めるのだけど……それがあまりにも聞くにおぞましい内容だったのでアイリーンが即座に中断させ一応許すことにした。
『8年程前、冥王星研究所地下にある私の隠蔽施設で寿命が尽きて死んでいくバイオロイドの記憶と魂を私が育成していたクローンにコピーした時お前も居ただろう。もしお前が私の目の前で死にかける様な事になった時私は躊躇わずに手元にあるクローンに記憶と魂をコピーするだろう。それが私のクローンだったとして……お前は許せるかな』
アイリーンはその言葉を思い出すだけで今でも背筋に悪寒が走る。
そしてその時の会話を一刻も早く忘れ去りたいと願った。
(あの時はバイオキッドを助けてって泣いてすがったものね、イノマンも自分のクローンを快く提供してくれたわ、あの時はバイオキッドの魂が消えていってその体をイノマンの精神が支配していくなんて微塵の欠片も思ってなかったわねー。今にして思えばあの時うちは何で九論なんて名前を付けてしまったのか後悔してるのよ、キッドのままで良かったんじゃないかしらってね。そうよねーそれでたしかその時だったと思うのだけど、初期化されそうになったアシュラも助けてあげてって言ったのよ、うちはてっきりイノマンが持ってるコンピューターか何かにデータをコピーするんだと思ってたわ。でもそのあと何も言わないので半分くらいは失敗したのかも知れないと思ったの、だからそのことには触れなかったのよ。イノマンのプライドを傷付けたらまずいんじゃないかって思ってね。そうなのよねーまさかうちのクローンにアシュラのデータをコピーしましたって言える訳ないものね~)
アイリーンはスターキッドのコクピットで自分の専用席に深く沈んで感傷に耽っているのだけど、その表情には薄笑いを含んでいる。
「絶対、妹なんだからね」
思わず小声で独り言を吐き出す。
(ずうーっと一人っ子だったから姉妹が居る子が羨ましかったのよねー、クローンだってうちの遺伝子を持ってるんだから『いもうと』でいい筈だわ)
「誰が妹だって」
昴くんが隣の席から聞く。
「あっ、聞こえちゃったのね、アシュラよ記録が何千年分あろうと後から出てくるんだから絶対にうちの妹なんだからね」
「アイリーンさんは余程私が妹あつかいしたことにこだわりを持っているのでしょうか」
レヴィが薄く笑いながら言う。
「うちはねぇ~」
〈緊急警報、緊急警報です〉
アイリーンの言葉はスターキッドAIの緊張した音声によって遮断された。
〈地球防衛基地よりこちらに向かって来る艦影確認、数16機で全て高速小型艇みたいです。まだ加速中ですので到着時間は分かりませんがかなり速いです、それでも7日以上は掛かりますけどね。僕がちょっと本気だしてピューって飛んだら30分以内には叩きのめせますけど、どうしますやりますか?〉
「Aちゃんのほうが叩きのめされなければいいけどね、それにまだ敵って決まったわけではないし相手の戦力も分析しなくちゃだめよ。九論が戻って来るのを待ったほうがいいんじゃないかしら」
アイリーンは一週間も待つわけがないけどねと思いながら言う。
「九論遅いね様子を見て来ようか」
昴くんが心配そうに言う。
「そうねでもそろそろじゃないかしら、コールドスリープから目覚めさせるのって思ってたよりは早かったけど、それでも電子レンジで『チン』するよりは時間がかかったはずよ」
「イノマン先生のことを九論さんておっしゃる……いえ、私が見に行きましょうか?」
レヴィがイノマンの呼び方について異議を言い出したかったけど諦めて別のことを言った。
〈もうこっちに来てますよ、二人一緒です〉
スターキッドAIが九論の現状を伝えてくる。
「もうすぐ対面ね、なんか緊張してきたわ」
アイリーンが席を立ってそわそわしだす。
「愛鈴、最初が肝心なんて言ってきついことを言ったりしたらダメだよ。自分のことをお姉さんと認めてもらいたかったらそれなりに優しく接するんだよ、わかってるよね」
「う~、わかってるって大丈夫よ心配しないで」
(ヤバかったわ昴くんは良くわかってるのね、もう少しで最初が肝心ってな感じで『ガツン』って言うところだったわ~、冷や汗をかいちゃったじゃない)
アイリーンが額の汗を拭っているといきなり後ろから抱き締められる。
九論と一緒に入って来た女の子が飛び付いてきたのだった。
(うちが後ろを取られるなんて不覚だわ)
「キャ~、アイリーン、アイリーン、本物のアイリーンに触れられる日が来るなんて1億分の1の確率もなかったはず、もうイノマンさまさまよ~」
女の子がアイリーンの首に腕を絡め抱き付き、ピョンピョン跳ね回わっている。
「ちょっと何よ、離しーてって……離れなさいって」
アイリーンが引き剥がそうともがきながら昴くんに助けての合図を送った。
しかし、昴くんは青い顔をして固まったまま動かない。
「何やってるのよ! うちのクローンだからうちと瓜二つなのは当たり前でしょう」
アイリーンは昴くんが固まった理由を誤解した。
その様子を見てた九論が女の子を引き剥がしながら言う。
「アイリーン済まないがお前の服を一着くれないか、用意するのを忘れててな」
今度はアイリーンが青ざめていく。
「い、今……なんて言ったの?」
「だから、何か着せたかったのだが、何も用意してなかったんだ、お前の服を一着譲って貰えないか聞いているのだが」
(あーっ、だめだめもう少しで意識を手放すところだったわ、今ここにはアシュラと九論、レヴィとす、昴くんが居たわね)
「昴くん! わかってるわよね、ほら直ぐに出て行ってバスローブを持ってきて頂戴、そして戻ってきたら扉の外でうちに声を掛けるのよ」
とりあえず九論のことも睨んでおくけど何も言わない。
(どうせ科学者ってのは人のことを遺伝子レベルでしか見てないでしょうよ、それに九論=イノマンなんだし、うちのことは中も外も知り尽くしてるわ、これ以上関わらないに越したことはないわね)
「アイリーン、人型として会うのは初めてよねこれから宜しくお願いします。興奮して取り乱しちゃった。ごめんなさい」
「まあ、いいわ裸での挨拶もなんだけどとりあえずだわね、まずあなたの名前はアシュラよ、そしてうちがお姉さんなのそれから今イノマンって呼んだ人は……ここでは九論と呼ぶの九論の中にイノマンが同居してるんだからね。わかりましたか」
「オッケーよ、さっき目覚めてドクターイノマン……いいえここでは九論でしたね。九論からだいたい聞いたのですけど私のデータをあなたのクローンにコピーしてから8年が経ったのですね、その間空白になっていた分の記録はスターキッドAIとリンクすればほぼ補完できると思います。ただあなたがお姉さんと言う設定は納得できないのだけど譲る気はないみたいですね、だったら是非もないわ」
コクピットへ戻ってきた昴くんが入口の扉を少しだけ開けてアイリーンを呼ぶ。
「愛鈴、バスローブはなんだから予備の宇宙服を持ってきたよ」
(愛鈴のクローンのはずなのに胸が大きいのは何故だ、バスローブだと目のやり場に困ると言うのか何なのか強力磁石の様に引き付けられてしまうよ。だから……お願いだから宇宙服を着てもらって下さい)
昴くんはポーカーフェイスをすることに全力を傾けている。
宇宙服にその身を包んだアシュラが昴くんに挨拶しようと手を伸ばしてきた。
「初めまして僕は豊福昴って言います。これから宜しくお願いします」
「あなたがあの子ね、アイリーンお姉さまはどこまで話をしているのでしょうか」
アシュラはそう言いながらアイリーンにも手を差し伸べる。
「アイリーンとだけ呼んでくれたら良いからね昴くんにはほぼ全てを話してるわ、だけどあまり触れられたくない話題だからできるだけ避けてね」
「わかりました」
「あとは海王族のレヴィさんと妖精族のロースさん、そして精霊獣のフレアホースよ九論のことは改めて紹介する必要はないわよね。それじゃあ皆と仲良くしてね」
「私のほうこそ宜しくお願いします。それで私はアイリーンに謝らないといけなかった事がずーっとあったのですけど、やっと叶うのですね」




