143.反乱4
スターキッドの倉庫の中には冥王星で九論が積み込んだアイリーンのクローンが眠っているらしい。
宇宙人のための地球防衛基地メインコンピューターアシュラが事ある毎にアイリーンを贔屓して何度も暴走しかけたので、その度に初期化されている。
アイリーンが移民星C2へバイオキッドを助け出すために初めて行った時も初期化されるんじゃないかと危惧された。
だからC2からイノマンと一緒に冥王星に帰り着いた時、バイオキッドとアシュラを助けて欲しいと頼み込んでいる。
イノマンは当時の研究所で最後の一体になる自分のクローンに、バイオキッドの記憶と幽体をコピーしたのだけど、その前に寿命が近づいていた自身の記憶と幽体もコピーしていたのだった。
それからコンピューターアシュラのデーターと疑似人格を自分のコンピューターにコピーする作業に着手したのだけど上手くいかない。
アシュラと交渉の上、隠し持っていたアイリーンのクローンにコピーすることになる。
そのクローンを今こそ目覚めさせようとしているのだった。
〈そうなんですけど九論が言ったんです『万が一にでも起こす時には私が行うから呼べ』って〉
「呼べって言ったって九論は冥王星に居るのでしょう、無理なんじゃない」
「愛鈴、九論はイノマンなんだよねややこしいからそれ以上考えないけどさ」
昴くんがこめかみに指を当てて言う。
「そうよねー、ややこしいけどイノマンならテレポートして来るかしら」
(そうよ呼んだらテレポートマシーンで来るんだわきっとそうよ)
「愛鈴が呼んでくれるよね」
「う~、仕方ないわね」
「良ければ私がお呼びしましょうか」
環境管理席からレヴィが声を掛けてくる。
「えっ、レヴィって九論と繋がることができるって言うの? いつの間にそんな間柄になったのかしら」
「冥王星で一緒に過ごしてる間はイノマン先生に色々と教わっていたのです。何しろ千年近くコールドスリープしてたでしょう。私は今の一般世間常識を全く知りませんので色々なことを教わりました。その中でテレポートとテレパシーの特訓も受けましたわ、だからイノマン先生にはコンタクトが取れると思います」
「ねえ愛鈴、テレポートとかテレパシーって言葉だけなら一般常識で知ってるけど特訓したらできるってのは知らなかったなあ、だったら僕も受けてみたいよー、九論に掛け合ってくれないかなあ」
昴くんが駄々をこねる子供みたいにして言う。
「多分無理だと思うわ、レヴィは妖怪族だからできたんじゃないかしら」
「準妖精族です。もうアイリーンさんはわざと言い間違えたでしょう」
「てへへ、良く気付いたわねちょっと言い間違えてしまったわ、ごめんなさい」
「もう白々しいこと。それでは呼びますよ。いいですね」
レヴィが目を閉じて意識を集中してるけど直ぐに目を開ける。
「今は手が離せないので暫く待てと言われましたわ」
「それでは仕方ないわね、だったら先にロースさんの話を聞きましょうか」
「ロースさんとフレアホースさんはかなり疲れてるのではないですか?」
昴くんが心配して聞く。
「そうよねスーちゃんが以前来た時は1年未来から……そうよ、あの時はテレポートでやって来たのよね、スターキッドの通路で雑巾みたいなスライム状になってたのをうちが掃除……いや、助けたのよね」
アイリーンが思い出しながら言う。
「あの時と今とでは状況がまるで違う。一緒にはできない。あと、助けてもらった事には感謝してるのだが『ぼろ雑巾のスライムの様だった』ではなくて『疲れ果てて瀕死の状態だった』に表現を改めて欲しいと言っている」
ロースさんがフレアホースの通訳を行った。
「わかったわそうね表現の仕方が悪かったわね。謝るわごめんなさい、今後改めるわねでもこれまで通り『スーちゃん』って呼ぶのは構わないでしょう」
アイリーンがロースさんの顔色を伺いながら話している。
(うちはぼろ雑巾とまでは言ってなかったと思うんだけどなー)
「フレアホースが言うにはアイリーンのことだから『スーちゃん』と呼ばなくなったら『フーちゃん』と呼ぶに違いないから今まで通りのほうがいいらしい」
(ロースさんは本当にスーちゃんの通訳をしてるのよね、ちょっとだけ通訳のフリをしてるんじゃないかと思ってしまったわ)
「それは良かった。うちとしては何処へでも自由に飛んで行ける寅さんみたいに『フーちゃん』でも良かったんだけどね」
アイリーンは期待に沿うことにした。
「・・・」
ロースさんは返事をしない。
「愛鈴、それはひどいよロースさんが固まっちゃったよ」
〈あのー、そろそろ本題に戻りたいのですけど良いでしょうか〉
スターキッドAIが痺れを切らして言ってくる。
「ああ、ごめんなさい。それで今の外の状況はどうなってるの」
〈基地からの呼び掛けは一定時間毎に続いてます。こちらは殆んど停止状態にした上で応答せず故障が発生した様にカムフラージュしました〉
「良くやったわこれで時間が稼げるかしら、それでロースさんうち達が直ぐに死ぬってどういうことなのかしら」
「このまま奴の指示通りに動くとあの人工惑星……地球防衛基地に入港した途端、爆発する」
ロースさんは淡々と話す。
「基地が爆発って只事では済まないわよ、どうやったらあんなものが爆発するのよ」
「私には説明ができない。だからメッセージを預かっている」
そう言いながらロースさんは何もない手のひらの上に記録キューブを出す。
(凄い! 手品みたいだよ)
昴くんは思った。
「ロースさんはマジシャンになれるわね」
アイリーンが言う。
「取調室で再生したい」
あくまでマイペースを貫き通す。
「取調室?」
レヴィが怪訝な顔をして聞き直す。
「違うわロースさん、あの部屋は休憩室なの、あの時は冗談みたいにそう言ったのよ……ごめんなさいね」
「わかった。呼び方はどうでも良かった。ただ早く再生したい」
ロースさんがそわそわしだす。
「じゃあ皆で行きましょう。そういうことだからいつも通りAちゃん後はお願いね」
〈ラジャー〉
(なんだかAちゃん元気がないわねどうかしたのかしら)
アイリーンはAIがバグったりしなければいいのだけどと思いながらコクピットを出て行く。
(ロースさんたちが来た未来の世界では僕とアイリーン昴くんにレヴィさんは死んでしまってるんだよな……お葬式をあげないとダメだよ、ナム~)
スターキッドAIは一人(?)しんみりと心の中で(?)お祈りを上げた。
ロースさんと休憩室へ入りテーブルの上に記録キューブを置いてスイッチを入れる。
スーッとホログラフィーが立ち上がりミニチュアのシュタインが現れた。
「今は元気なアイリーンに会えていることだと思って話をします・・・」
シュタインの話しは1時間にも及んだけど皆はその間一言も発せず真剣に聞き入っていた。
アイリーンでさえ椅子に座ったまま何も言わず微動だにしていない。
昴くんは彼女が静かに大粒の涙を流してるのを話が終わる頃になって気付く。
「愛鈴大丈夫だから、あっちの世界では北方星域の勢力が宇宙を無茶苦茶に支配してしまったみたいだけど、僕たちはまだ生きてるんだからこの世界はそんなことにならないようにしようよ」
昴くんが優しく肩を抱く。
アイリーンが涙を拭きながら喋り出す。
「そうねその通りだわ、さっきの話が正しいのなら今こっちの世界でさえ太陽系の何もかもが、既にあのラースとか言うとかげ座のリザードマンに乗っ取られてしまってるのよね、取り返し甲斐があるってもんだわ」
苦笑いをして見せる。
「違うよ愛鈴、太陽系全部じゃないと思うよ土星は分からないけどさ、まだ天王星、海王星、冥王星が残っているよ、なんとかしてアンバ隊長かレッド隊長に連絡が取れないかなあ」
〈ダメ元で通信してみましょうか〉
スターキッドAIが聞いてきた。
「それならこっちの世界へ跳んだ時、イノマン宛の記録キューブを彼の手元に届くようにシューウォッシュさせた。研究所を爆破させる前だったと思うからたぶん大丈夫」
「ああ、だからさっきは今手が離せないって言ったんだ。相当焦ってたんだろうな」
「イノマン先生が焦っている姿なんて想像も付きません」
レヴィが言う。
「あら、うちは簡単に想像できるわよ九論ったらちょっと突っつくと直ぐにあたふたしてたもの」
「愛鈴それはレヴィさんの前であまり言わないであげたほうがいいと思うよ」
昴くんが人差し指を唇に当てて言う。
〈あっ、今倉庫に来たみたいですよ〉
スターキッドAIが報告してきた。
「テレポートマシーンで来たのよね。研究所を爆破してから来たのかしら」
「それは本人に直接聞いたらいいと思うよ、だから今は迎えに行こうよ」
嵐に突入する前の準備がアイリーンの回りで着々と進んでいる。




